邂逅——光の精霊
崩れた神社本殿の隙間から、セツナが中へと入っていく。
ウタカタもその後を追い神社本殿の中へと進む。
見るも無惨に崩れ落ちた本殿。
しかし、内部では数本の柱がかろうじて屋根や梁を支え、建物の崩壊を食い止めていた。
そして奥に、セツナの姿が見えた。
「セツナ、危険だ!いつ崩れるか分かったもんじゃないぞ!」
しかし、セツナは足を止めることはなかった。
「結構頑固だねぇ。一体この先に何があるんだ?」
ウタカタはセツナの背を追いかけた。
すると、セツナの姿が地面に飲まれていくように消えていく。
「ん?階段か?」
やがて、ウタカタもその場所へと辿り着いた。
「地下通路、か。わざわざ隠すってことは……」
そこまで口にすると、ウタカタも地下へと降りていった。
地下通路を進んだ先には、広い空間があった。
そこでセツナが立ち止まっているのが見えた。
「セツナ!」
ウタカタもセツナと共に、その光景を目の当たりにした。
光り輝く存在。
黄色い光を放つ五角形の盾のような物が複数宙に浮き、腰の周囲でゆっくりと時計回りに回転していた。
その盾のすぐ上空に、天へと細長く伸びたいくつもの剣が反時計回りに回転している。
「なんだい…… こりゃあ」
「光の……精霊様です」
「終わっていなかったのか……」
『ウタカタ構えろ、相当なマナを感じる』
鳴神に言われて、ウタカタは刀に手をやった。
「疾風迅雷の陣」
『じゃが、おかしいぞ。ここはお主らが初めて出会った場所。そして、その時からずっと行動を共にしておる。ワシも分霊をつけていたからわかる。ウタカタに此奴の封印を解く暇などどこにもなかった』
『やっぱりウタカタは白だー。黒幕は別にいるってことだねー!』
『みんな!今はそんなことより、光の精霊の暴走をどうにかするのが先よ』
『違いないねぇ!でもこのマナ量、一撃でもくらったらお終いなんじゃないかい!?危険すぎて火傷どころじゃ済まないよっ!』
『…………僕が、力を貸す』
「えっ、常闇?」
『僕の力について君は何も知らない。だから、僕が君に指示を出す。僕と共闘するよ、ウタカタ』
「どうしたんだい急に」
『神社の倒壊を時系列で考えると、最初巫女と共に行動し、後に君には磐座の分霊がついた。君が神社本殿に侵入して封印を解くことができない以上、君は黒幕じゃない…………すまなかった、君を疑って』
「なぁに、やましいことなんてないから大丈夫って言ったろう?それじゃあ、仲良く共闘しようじゃないか」
光の精霊は空中に浮き、鎮座したまま一切動かない。
「セツナ、ここを離れるんだ。いつ完全に倒壊するかわからないからねぇ」
「わ、わかりました。ウタカタさん、ご無事を祈ります」
セツナは急いで元来た道を戻っていく。
「そんで、闇の精霊さん。君の能力ってのは何だい?」
『僕の能力は概念に関係する。それだけに説明が難しいから、今回は僕が必要と判断した能力を君に説明する。頑張ってついてきてくれ』
「承知。そんじゃあ律儀に待ってくれてる光の精霊さんに悪いから、そろそろ始めますか」
ウタカタが戦闘体勢に入る。
それを察知したのか、光の精霊が初めて動く。
体がウタカタの方を向いた。
「存在感がすごいねぇ」
『……来るよ』
光の精霊の口元が眩く光り始める。
光が集まり球体のような形を成した後、光線を放った。
「遠距離攻撃かい!」
素早く駆け出して光線をかわすウタカタ。
光線が通った跡は、削り取られたかのように消失していた。
『あの威力、当たったら塵も残らず消えると思った方がいい』
「随分物騒だねぇ」
『だけど弱点も明確だ。あの攻撃には溜めの時間が必要だ。溜め動作を見たら走って避ければいい。ただ、範囲が広すぎて無理な場合を考慮して、緊急回避手段を作ろうか』
「作る?どういうことだい?」
『君の影を回避先にしよう。これなら常に君の側にあるからね』
「……とりあえず、続きを聞こうか」
『いいかい?精霊の力を扱うにはまず想像することが大事だ。今から僕が言うことをよく聞いて想像してくれ…………君の影は真っ暗な沼だ。その沼の中は暗闇で何もない世界。君はいつでも自由にその沼の中に入ることができる。出ることも自由だ』
ウタカタは黙って話を聞きながら、辺りを走り回り光線をかわしていた。
光線の威力は凄まじく、地下の壁を破壊し跡形も残さなかった。
崩れた神社が、さらに音を立てて崩れていく。
「よし、いっちょやってみるかねぇ」
ウタカタは自分の影を沼になる想像をした。
すると、ウタカタの体が影に飲まれるように沈む。
「説明が具体的だからすぐにできたよぉ。本当に真っ暗な空間だねぇ」
『ここは僕の能力で作った空間だから、誰も干渉できない。つまり、ここにいる間は絶対安全というわけだよ』
「緊急回避手段としては最適だねぇ。それじゃあ、今度はこっちから仕掛けますか」
自分の影から出ようとするウタカタを、制止するように呼び止める常闇。
『待って!その前に。相手の攻撃手段の予想と事前対策、作戦を練ろう』
「おやおや。しっかり者だねぇ、常闇は」
『まずさっきの見た目からして、光の盾で攻撃を防ぎ光の剣で攻撃してくるのは予想がつく。問題は近接なのかどうか。近接戦ならウタカタとの実力勝負に持ち込める。回避手段があるぶんこっちが有利だ。だけど、もしあの光の剣を飛ばしてきたり、攻防一体に使ってきたら厳しい戦いになるよ』
「斬り合いなら、回避ができる俺が有利ってのはよく分かったよ。攻防一体ってのは、どういうことだい?」
『あの剣を水平に展開して、素早く回転させるだけで近づけなくなる。その状態で君を追いかけながら光線でも吐かれたらどうする』
「なるほどねぇ。そうなっても良いように、事前に考えようってことねぇ」
『僕の提案はヒットアンドアウェイだ』
「ヒット……何だって?」
『つまり、攻撃即離脱を素早く行って、攻撃を受けないよう戦うんだ。あのマナの量は尋常じゃない、一撃も喰らってはいけないよ』
「核が見つかるまではそれが良いかもねぇ。ただ、核の場所を見つけるにも、それなりの攻撃が必要そうだ。上手くいくかねぇ」
『僕の能力は概念を司っているから、その問題は君が解決するしかないね。ただ、サポートはできる。この回避手段を攻撃にも応用しよう』
「一体どうやって?」
『想像するんだ。いいかい?この空間はあらゆる影に繋がっている。それは君の影だけでなく、あの光の精霊の影にも繋がっている。君は、自分の影からこの暗闇に入った。出る時は自分の影から出てもいいし、他の影から出てもいい。あの光の精霊の影から出ることだってできる。なぜならこの空間は、あの精霊の影にも繋がっているから』
「なるほど。自分の影からこの暗闇に入れて、この暗闇はいろんな影と繋がっていて、どこからでも好きに出られると。回避から即背後を取れるわけだねぇ」
『やれそうかい?』
「任せなよぉ。重たい一撃を喰らわせてやろうかねぇ」
ウタカタは抜刀の構えを取る。
次の瞬間、光の精霊の影からウタカタが姿を現した。
「抜刀浮雲!」




