祭
祭当日。
「お祭りですよ、ウタカタさん!見てください、凄い賑わってますよー!」
「今までの旅で見てきた光景が嘘のように平和で明るいねぇ。まずは腹ごしらえでもするかぃ?」
「もう、すぐ食べ物ですねウタカタさんは!でも賛成です!たこ焼きなんてどうですか?」
「あははっ、なんだセツナも食い意地張ってるねぇ。昨日決めた予定だと、まずは金魚すくいだったのにねぇ」
「予定はあくまで予定ですから!順番は多少前後してもいいんですよーっ!さっ、行きましょう」
『この雰囲気いいねー!賑やかでいるだけで楽しいよっ!』
『本当に賑やかだねえ!人間たちの熱気を感じるよ!』
『うむ、ここまで平和になって何よりだ。もう心配事はなさそうだな』
『な、何言ってるのさ。心配事なら……一つ残っているだろ?まだ封印を解いた黒幕が、確定していないんだ。そいつが悪さしないようにしないと……』
『常闇ったら、そんなに人が多い所が苦手なら宿で待機していればいいのに。ウタカタなら、私たちが一緒なんだから大丈夫よ』
『み、みんなを信じていない訳じゃないんだ。ただ、僕の目で確認しておきたいんだ。本当に……黒幕じゃないのかどうかを……』
『まったくもう、だからボクはこいつが嫌なんだ。せっかく楽しい雰囲気なのに、何でそんなに嫌がってるんだよー』
『まぁ、落ち着けよお前ら。今日は特別な日だぞ。祝祭なんだから喧嘩はよせ。昨日ウタカタにも言われただろう』
「あはは、そんな精霊さんに引き合いに出されると照れちゃうねぇ」
「バカなこと言ってないで早く並びますよ、ウタカタさん」
「おっと、いけねぇ。はいはい、今行きますよー」
『しかし、本当に平和になったのぅ。最初の頃は暗雲立ち込める中、黒い竜巻が暴れて嵐のように大雨に雷に強風と、まさに大災害状態じゃった』
『そんなに凄かったんだー。ボクが見た時は真っ暗で辺りはボロボロだったから、何が起きたのかと思ったよ』
『そうか、俺の時も似たようなものだったな。だが、赤峰で起きていた噴火は凄まじかったぞ』
『あー、アタシも気づいたら周りマグマだらけで溶岩転がっててビックリしたさねー!いつからこの世界はこんなに熱いとこに変わったのかと驚いたよ』
「精霊さんたちが軽い感じで凄いこと言ってるねぇ」
「今となっては何だか懐かしいですね」
「そこまで過去の出来事として片付けられるセツナも凄いねぇ」
『なんだー、みんなそんなに重く受け止めてなかったのねえ。よかったわー、私凄いやらかしちゃったかと思ってたもの。大したことなかったのねえ』
「いやぁ、大したことはあったんだよぉ。だからこんな祭まであるわけで」
「ウタカタさん、やっと順番来ましたよ!いくつにしましょう、六個入り?どうせなら八個入りの方がいいですよね!?」
「あぁ、セツナに任せるよぉ」
「おじさん!八個入り、二つください!」
「はい、毎度ありー!たこ焼き八個入り二つ、おまちー!」
「うわー、おいしそうですよー!あそこの木の下の椅子に座って食べましょう!」
「セツナ無双状態だねぇ、こりゃあ」
セツナに言われるがまま、ウタカタはついて行った。
「うーん、美味しいですね!熱々です。せっかくなら飲み物も欲しいですよね!そうだ、あそこのラムネ買いましょう!」
セツナは、ラムネ購入の列に並び、待つ間にもたこ焼きを頬張る。
「ラムネって瓶の栓がビー玉でおしゃれですよねー!」
ビー玉を押し込みラムネの栓を開ける。
その瞬間、ポンっと音を立てた。
ビー玉が瓶の内部でぶつかり、カランカランと高い音を立てながら、炭酸のシュワッと弾ける音がする。
「うーん、おいしい!やっぱりお祭りはいいですね!」
「堪能してるねぇ。やっぱり祭はこうじゃないとねぇ」
ウタカタもラムネを頂く。
「あー、いいねぇ。ビールも飲みたい気分だけど、祭だからこそラムネが光るってもんだよねぇ」
『よく分からないけど楽しそうだねー!ボクたちは飲み食いしないからわからないやー』
「精霊さんたちにはない娯楽かぁ。そもそも娯楽じゃなくて生きるために必要なことな訳だけど、食を楽しむことができないってのは、楽しさを知ってる身からすると切ないねぇ」
『私は見ているだけで十分だわ』
『僕は遊びに来た訳じゃないから別に……』
『なんだいなんだい、アンタたち。せっかくの熱い祭なんだからもっと楽しみなさいよ、勿体ない!』
「違いないねぇ。よし、じゃあそろそろ遊ぼうかねぇ。まずは金魚すくいでもするか!」
「せっかくなら勝負しませんか?ウタカタさん。負けた方は指定のお面をお祭りの間被ること、です!」
『おっ!いいねぇ!熱い展開じゃないかい!指定のお面ってのは誰が決めるんだい?』
『その面によっては、負けられない戦いとなる訳だな。ふふ、面白そうだ』
『ボクが決めていいー?』
『どうせなら普段こういうことしないような、磐座なんてどうかしら』
『なっ、ワシか!?何でワシがそんなこと』
『だからよー。そんなことしないからちょっと変わったことが起きるんじゃない?』
『いいねー、面白そう!ほら磐座、ボクの代わりにつけるお面決めてよっ!』
『何でワシがこんなー!ええい、ならあのお面はどうじゃ!?』
磐座が指したお面はひょっとこだった。
「王道の一つのお面だねぇ。でもまぁ、俺的には怪人みたいなお面や女の子のお面じゃなくてよかったよ」
「あれ?ウタカタさん、もしかして負けることを想定してるんですか?甘いですねー、ウタカタさん!戦う時は、常に勝つことを前提に戦わないとっ!!」
「セツナに火がついてるねぇ。不知火がセツナの闘志に火をつけちゃったのかい?」
『はっはっはっ!いくらアタシでも、人の心にまでは火をつけられやしないさねっ!』
『何やら、戦う前からウタカタが劣勢のようだな。俺はセツナの勝ちに賭けよう』
『ボクもボクもー!セツナが勝つと思う!』
『何を勝手に賭けておるんじゃ』
『じゃあ、アタシはウタカタに賭けようかねえ!分の悪い賭けほど、熱くなるってもんさねー!』
『あらあら、これはセツナちゃんが勝っちゃうんじゃなーいー?』
「まずは私からいきますよ!おじさん、ポイください」
「はいよー、嬢ちゃん!完全に破れたらそこでおしまいだよー」
「よーし、いきますよー!」
セツナは、金魚があまり集まっていないところを見ていた。
数匹の金魚がいるところに狙いを定めて、ポイを水面に対して斜めに挿入する。
自分から金魚を無理に追ってすくおうとはせずに、ゆっくり金魚の方へ寄せて金魚がポイの上に向かってくるのを待った。
「よし、ここだー!」
一匹の金魚が思惑通りにポイの上に来た。
「おぉ!やるねぇ、セツナ」
「一発で取れましたー!よーし、次!」
再び同じ戦法ですくうセツナ。
「きた!」
さらに二匹目の金魚をすくった。
「これはなかなか手強いねぇ」
順調にすくって、金魚はすでに六匹。
しかし、不意にその時は訪れた。
「よーし、きたきた。ここだー!」
セツナがすくおうとしたその時、金魚が激しく暴れた。
「あっ!」
セツナの手にするポイの紙が破けてしまった。
戦法が仇となり、空いた位置はど真ん中。
残っている紙は枠の周囲のみ。
「あぁー、惜しかったねぇ嬢ちゃん。結果は六匹だ、いや凄い上手だねー!」
「ありがとうございます!さあ、今度はウタカタさんですよ!」
「こいつは本気でやる必要があるようだねぇ。まぁ、負けないよ、セツナ」
「兄ちゃん、金魚すくい得意なのかい?」
「まぁ、これでも遊びは一通りやってきたからねぇ。得意だよぉ」
「なら、兄ちゃんにはハンデが必要だな。ほれ!このポイを使いな!」
店主から渡されたのは、すでに紙が半分ないポイだった。
「えっ、これを使うのかい?」
『面白い展開になってきたねぇ!こいつは先が読めないよお!?』
『何で自分が賭けたウタカタが不利になってるのに、喜んでるんだお前は』
『あの哀れなお面をつける覚悟をしとく必要がありそうじゃな、ウタカタ』
『やっぱりボクの予想通り、セツナが勝ちそうだねー!』
『まだ分からないわよー。水はどちらの味方をするのかしら』
「やるしかないようだねぇ」
ウタカタは、半分が空洞となっているポイを手に金魚をすくう。
なるべく水につけることはせずに、金魚をすくう瞬間だけポイを水面に突っ込む。
水面に入れた後はすぐに金魚をすくう。
水から持ち上げる際も急激に引き上げることはせず、水の抵抗を逃がすようにポイを傾け、金魚をお椀へ移す。
「兄ちゃん……お見事」
ウタカタは真剣な眼差しで金魚を観察していた。
「やばいねぇ。たった三匹なのにもう紙が破けそうな手応えだよ」
そう言いながらも、四匹目をすくうウタカタ。
『やるわねえ、ウタカタ。これは勝負が見えなくなってきたわよー』
『白波、お前意外と不知火みたいなところあるんだな』
「あと一匹、一匹はいける。問題はその後、紙がもつか?」
小さい金魚をすくい上げ、ついに五匹まで迫った。
『わわっ!もしかして本当にウタカタ勝っちゃう?』
『できればここもすくい上げて、勝つか引き分けかまで引っ張って欲しいねぇ!』
『不知火、お主は楽しめれば勝ち負け関係ないんじゃな』
『大事なのは結果じゃなくて、それまでをどう楽しむかさね!結果だけを求めてたら、つまらなくなっちまうからねぇ!』
「俺もそれには賛成だけど、勝負するならやっぱり勝ちたいよねぇ」
ウタカタはセツナと並ぶ六匹目の金魚をすくい上げる。
しかし、手首を返してお椀に移す瞬間、ポイの紙が破けてしまった。
「紙がもたなかったか……」
「いや、兄ちゃんやるねぇ。まさか半分だけでここまでやるとは思わなかったよ。ちょうどいいハンデだったね」
結果はセツナ六匹、ウタカタ五匹でセツナの勝利。
「それじゃあ、ひょっとこのお面つけましょうか」
「……はい」
ウタカタはひょっとこのお面を被る。
『あはは、面白ーい。敗者に相応しい風貌だね』
「金魚すくいはかなり自信あったんだけどねぇ。まさか、ハンデをつけられるなんて」
「次は射的行きますよ、ウタカタさん!」
「欲しいものあったら取ってあげるよセツナ」
「射的もうまいんですか?」
「言ったろう?遊びは一通りやってきたって」
二人は射的屋へ向かった。
「じゃあ、ウタカタさん。あのぬいぐるみ取ってください」
「よーし、任せな!」
セツナは、射的屋に向かう間に買った焼きそばを頬張りながら、観戦していた。
パンッと弾がぬいぐるみに命中したが、一発では倒れなかった。
そして、二発三発と撃ち、見事にぬいぐるみを手に入れた。
「三発撃ち尽くしちゃったねぇ。ぬいぐるみは人気ありそうだから、一発じゃ倒れないようにされてたかな」
「うわぁ、凄いですウタカタさん!ありがとうございます」
「このくらいお安いご用さぁ」
「ふふっ、何だか発言と見た目が合ってないですね」
「えっ?」
ひょっとこのお面を被ったまま、得意げに胸を張るウタカタに、セツナは思わず笑ってしまった。
ウタカタからぬいぐるみをわたされ、セツナは焼きそばを食べ終えて、ぬいぐるみを抱えて歩いた。
その後、リンゴ飴やわたあめを食べて一通り食べ歩き、遊び尽くした二人。
「ウタカタさん、そろそろ始まる時間ですよ!」
「そうだったねぇ。昨日街の人に聞けてよかったねぇ。よく見えるところに移動しようか」
二人は少し高い丘を登っていった。
そして、丘の上にあるベンチに座りその時を待った。
「空が開けていていい眺めですね。これなら綺麗に見れそうです」
「この場所も街の人に聞いたからねぇ。もうすでに何人か先客もいるようだ」
すでにいくつかのベンチには、ちらほら人が座っていた。
そして、その時はやってきた。
空にさまざまな色を放つ光が、大きな音を立てて弾ける。
赤や緑や青など、暗い空を照らすように綺麗に輝いた。
「きれいな花火ですねー」
「あぁ、きれいだねぇ。このままここで、ずっと見ていたいねぇ」
空に打ち上がる花火が、災害が収まり街に平和が戻ったことを告げる。
「お祭りもこれで、終わっちゃいますね」
「今はまだ考えなくてもいいけど、明日からどうする?やりたいこと、やってくかい?」
「………………明日、白刃野に戻りましょう。封印を解いた黒幕が、まだわかっていません。私の神社で今後のことを考えましょう」
「そうか……えらいねぇ、君は」
花火の音だけが響き渡り、祭は幕を閉じた。




