先の先
金剛鎧装で精霊の攻撃を耐えながらウタカタは攻略手段を模索していた。
(精霊さんはフェイントを多用して攻撃してくる。こちらから攻撃すれば、その分反撃を受けるリスクになる。やはり精霊さんの攻撃に合わせてカウンターを——)
ウタカタが反撃してこないのを見てか、精霊の攻撃が激化していく。
(何を考えてるんだ俺は!?そもそも後の先じゃ攻撃が間に合ってないんだ!ミットにボールが収まってからバットを振っても当たらないのと同じだ。攻撃を受けてから反撃しても、もう精霊さんは回避行動に移っている。やはり、やるなら——)
ウタカタは金剛鎧装を解いた。
すると、精霊の攻撃がピタリと止んだ。
「警戒してるねぇ。暴走しているとは思えないほど賢いねぇ」
ウタカタは腰を落とした。
今までと同じ居合の構えを取る。
闇の精霊は直線的な攻撃は仕掛けてこずに、フェイントを織り交ぜて攻撃を仕掛ける。
(音だ、音を聞け。視覚情報が一切ない以上、音で位置を特定するしかない。あとは、精霊さんが露骨なフェイントを仕掛けてくるのを待つ)
闇の精霊はウタカタの周囲を素早く移動し始めた。
——バッ!バッ!バッ!
ウタカタは動かない。
(まだだ。まだ、我慢だ。俺を釣ろうと大袈裟に仕掛けてきたところを、喰らいつく!!)
——ダンッ!
——ダンッ!
——バッ!バッ!バッ!
——ダンッ!
——バッ!バッ!バッ!
(慎重だねぇ。暴走状態でこれだけ考えて戦うってことは、普段からこういう闘いを当たり前にやってきたってことか)
—バッ!バッ!バッ!
——ダンッ!
精霊の攻撃がウタカタに直撃した。
「ぐっ!」
(まだだ。まだ捉えきれない。まだ反応してはいけない)
——バッ!バッ!バッ!
——バッ!バッ!バッ!
——ダンッ!
——ダンッ!
——ダンッ!
激しい音を立てて周囲を飛び回る。
そして、その音は次第に大きくなる。
——ダンッ!!
——ダンッ!!!
(ここだ!!)
「沖つ白波——」
地上から水が噴き上がる。
しかし、その水はウタカタを囲っていなかった。
囲っていたのは、闇の精霊だった。
噴き上げる水が精霊の周囲を囲い、動きを止めさせた。
そして、ウタカタは精霊の動きが止まったことを、音がしなくなったことから判断した。
「蛟ノ舞!」
ウタカタの抜刀斬りが、水の牢獄ごと精霊の肉体を両断した。
(必ずここで仕留めきる!)
「奥義・泡沫連閃!」
高速の斬撃が連続で繰り出される。
見えない以上、目の前にいる精霊の肉体を細切れにせんと刃が襲う。
そして、ウタカタは核を斬った手応えを感じとり、刀を納刀した。
——パリィィィィィン……ッ!!!
核が砕け散る音が響き渡る。
すると、洞窟を支配していた闇が晴れていく。
「明るくなっていく。やりましたね、ウタカタさん!」
「はぁー、しんどかったー。セツナ、すまないけど、あとよろしくねぇ」
ウタカタは仰向けになって倒れ、大の字になる。
しかし、ウタカタに追い打ちをかける存在が現れる。
『君、なぜ僕の封印を解いた?』
冷たく突き刺さるような声で話す。
「ん?なんだ、なんだ?」
『精霊がどうして封印されているのか知らないのか? 』
「え?俺かい? 」
『君以外に誰がいる?奥の彼女に話しかけているとでも思ったのかい?』
「あぁ、いや、はは、急だったもんだからねぇ」
『精霊の封印を解けば、世界にあらゆる災厄が降り注ぐ事になりかねない。それを知っててやったのなら、君は万死に値する』
闇の精霊の声は、冷たさの中に熱い怒りを含んでいた。
『おいなんだよ、その言い方!?ウタカタはお前の暴走を止めてやったんだぞー!?むしろ感謝しろよなー!?』
『まぁまぁ、神凪もそんなきつい言い方しないの、ね?』
『ふーんだ、ボクはこいつが嫌いだっ!』
『好き嫌いはあまり良くないぞ。まぁ、誰とでも仲良くしろ、とまでは言わんが』
『まったく、自分から此奴を助けるために力を貸してくれと白波に頼んでおいて、素直じゃないわい』
『はははっ!喧嘩するほど仲がいいってことさね!いいことじゃないかー!熱いねぇ!青春だねぇ!』
『僕の封印を解いたのは間違いなくこの男だ。それは、直接見た僕が一番よく知っている』
「でも、ウタカタさんは私とずっと旅をしていましたし、精霊様の封印の地をどうやって知ることができるんですか?」
『旅をする前に封印を解いて回ったんだろう?封印の地をどうやって知ったかまでは知らないけど、知るきっかけはいくらでもあるんじゃないか?』
『何だよそれ!?それって結局何も分かってないけど、ウタカタそっくりな奴が封印を解いたから、ウタカタが犯人だって決めつけてるってことだろ!?』
『もうおよしなさい!まったく、いつまでそんな醜態を晒し続けるつもりですか、ニ柱とも!』
水の精霊が爆発した。
『こ、これが蛟か。恐ろしいな。気をつけよう』
『も、もしかして、アタシよりも熱いんじゃないかねぇ?』
『これはお主らが悪い』
『わ、悪かったよ。でも、証拠もないのに犯人扱いするなよなっ!』
『すまない、僕も少し意地悪だったね。本当に彼が犯人ではないのかこの目で確かめる事にするよ。だから、犯人が見つかるまで分霊を付ける』
「できれば、精霊様のお力も授かりたいのですが——」
『——すまないがそれはできない。僕は彼を信用していない。いや、疑っている。容疑者に力を授けるなんてあり得ないよ。彼の疑いが晴れるまでは』
セツナの言葉を遮るように返す闇の精霊。
「そうですよね、すみません。それでは、精霊様の封印の儀を行いますね」
闇の精霊の封印は滞りなく終えることができた。
しかし、闇の精霊からはウタカタが封印を解いた者と疑われてしまい、その力を授かることはできなかった。
「でもまぁ、これで全ての災害が治ったのなら、精霊さんの封印旅は終わりなんじゃないかい?あとはその犯人を取っ捕まえるだけだ」
「そうですね。もう精霊様と戦う必要がないなら、精霊様の力も必要ないかもしれませんね」
「それに、俺自身が俺は犯人じゃないって分かってるからねぇ。闇の精霊さんに監視されても何もやましいことはしてないからねぇ、問題ないよぉ」
闇の精霊の封印を終えて、二人は地下洞窟から地上へと上がった。




