核は何処か
「——来るぞ、セツナ嬢ちゃん!」
巨岩の陰から飛び出し、ウタカタは迫り来るゴーレムの鉄拳を鋭く横へ転がってかわした。
凄まじい風圧が頬の刀傷を打つ。
その衝撃で、岩石の破片が辺りに撒き散らされる。
セツナの張った結界は、その破片を全て無に帰していた。
ウタカタはセツナの様子を心配そうに伺ったが、杞憂に終わった。
そして、セツナの言葉が脳裏を巡る。
外側の岩ではなく、中に隠された『核』を叩く——。
「理屈は分かったが、あんなデカブツだ。闇雲に探してちゃ、こっちの体力が先に尽きるな」
低く構え、ウタカタは鋭い眼差しでゴーレムの挙動を観察した。
再び振り下ろされる巨腕。
ウタカタはそれを引き付け、完璧なタイミングで刀を突き出した。
大気を裂く一閃が、再びゴーレムの肘から先を綺麗に切り落とす。
地面に落ちた岩石の腕は、またしても即座に浮かび上がり、胴体へと吸い寄せられるようにして元通りに再生した。
「……なるほどな。腕が胴体に戻るってことは、核は『腕の方』にゃねえな」
ウタカタは不敵に笑うと、地を蹴った。
狙うはさらに上。
地割れを飛び越え、隆起する岩柱を足場に、ゴーレムの巨躯の凹凸へとしがみつく。
まるで、体に止まった虫を触らずに振り落とそうとするかのように、不快そうにその巨体を激しく揺さぶり、ウタカタを振り落とそうと暴れ狂う。
凄まじい揺れに耐えながら、ウタカタは岩肌を這い上がり、ついにその最上部——ゴーレムの頭部へと肉薄した。
「じゃあ、コイツはどうだ!?」
雄叫びと共に、渾身の力で刀を真横に薙ぐ。
岩の頭部が宙を舞い、首から上が完全に消失した。
だが——。
切り離された頭部は、やはり引力に導かれるようにして下方の胴体へと戻り、瞬時に同化していった。
「首が胴体に戻るか!?——ってことは、頭にもねえ。戻っていった場所から考えて……核があるなら、胴体の中だなぁ!」
確信を得たウタカタは、落下する最中、ゴーレムの胸部の凹凸に再びしがみついた。
片手で岩の突起を掴み、宙吊りになりながら、もう片方の手で刀を逆手に握り直す。
「そこだろ、おい……っ!」
ウタカタは神速の連続突きを繰り出し、胸の岩肌を必死に削ぎ落とし始めた。
火花が散り、砕けた石片がウタカタの顔を叩く。
激しい抵抗をするようにゴーレムの全身から凄まじいマナが吹き出す。
「ウタカタさん!その位置からものすごいマナを感じます!きっとそこに、核があります!」
「なんだって!?そりゃ本当か!?俺には何にも感じねぇぞ!」
ウタカタにはマナを感じ取ることはできなかった。
しかし、巫女であるセツナは違った。
セツナ曰く、ウタカタが今まさに削っている箇所に、核があるようだ。
ウタカタは歯を食いしばってしがみつき、さらに深く刃を突きたて、強引に岩の装甲を剥ぎ取っていく。
そして——厚い岩石の奥深く、ドクドクと不気味に脈打つ、真っ赤に輝く球体の『結晶』が姿を現した。
それを見たウタカタは勝利を確信した。
「見つけたぜ、精霊さん……!あんたの核をよぉ!!」
ゴーレムがウタカタを握り潰そうと、両腕を胸へと引き戻してくる。
挟み込まれるまで、あと数秒。
ウタカタは刀を両手で握り直すと、全ての体重を乗せて、その真っ赤な核へと刃を真っ直ぐに突き刺した。
——パリィィィィィン……ッ!!!
山頂に、ガラスが派手に砕け散るような澄んだ音が響き渡る。
次の瞬間、数十メートルに及ぶ岩石の肉体から完全に光が失われた。
——ズウゥゥゥゥン……ボロボロ、ボロボロロ……ッ!
巨大な質量が、支えを失ったかのように一気に瓦解していく。
岩石の肉体はただの岩や石ころと砂へと崩れ落ち、周囲に激しい砂煙を巻き上げながら、見る影もなく散らばっていった。
静寂が戻った荒地。
ウタカタは砂煙の中から、肩を上下に揺らしながらゆっくりと歩み出る。
そして、刀を静かに鞘へと収めた。




