暗闇に包まれた街——黒太刀
港で船に乗り黒太刀地方へと向かう。
ウタカタは、今回は釣りはせずに船室で休むことにした。
「青薙へ向かう時は海が少し荒れていましたが、今は穏やかですね」
セツナは甲板に出て海を眺める。
海の生物たちも、海に平穏が戻ってきたことを祝福するように、姿を現して軽やかに泳ぐ。
「わぁ、すごい!イルカの親子ですかね?あっちには鯨がいますよ!」
『よかったわ。何ともなさそうで。街が浸水していたから、私大暴れして大変なことしちゃったかと心配してたのよ』
黒太刀までは距離があるため、セツナも船室で休むことにした。
半日程かけて進むと、船員が二人を呼んだ。
「お客さん、ちょっと雲行きが怪しいどころじゃなくなっちまったぜ」
一体何が起きているのか、船員に言われるがまま甲板に出る。
すると黒太刀の方の遠い空が、途中から墨汁でもこぼしたかのように、突然闇に覆われて真っ暗になっていた。
「こいつはぁ、闇の精霊さんの仕業だねぇ」
白刃野を覆っていた闇と同じ、暗雲などではなく、真っ暗な闇そのものだった。
「この暗さじゃ海は危険すぎる。ほとんど周りが見えないから何かに衝突する可能性が高くなるし、座礁する可能性もある。別の港になるが、ここからその港までの安全なルートは把握してるから、そこに進路を変更すべきだ」
「プロがそう言うなら、仕方ないねぇ」
ウタカタたちは、安全なルートを通る別の港へと進路を変更した。
途中から闇の海を進む。
船のわずかな灯りだけを頼りに、見えぬ海路を進んでいく。
「ほとんど周りが見えないのに、すごいねぇ。安全な道をしっかり頭に叩き込んでるんだねぇ」
「見えなくても頭の中の地図が見えていて、その道通りに進んでいるって感じなんですかね?」
「なんだかかっこいいねぇ」
「危険だから真似しないでくださいよ。私や精霊様たちが斬られたら大事です」
「巫女の結界があるから平気じゃない。それに精霊さんたちは、いわゆる不死身だろ?なら問題なさそうだねぇ」
『まったく此奴は、精霊を何だと思っておるのか』
そして、ついに船は港に到着した。
港には、ここだと言わんばかりに目印のように灯台にものすごい明かりが灯っていた。
「すごい灯りだねぇ。普段からこんなに明るいのかい?」
「いえ、普段は普通です。おそらくこの異常な暗闇のせいで船が迷わないように、灯りを灯しているのでしょう」
「ってことはもう、黒太刀の人たちはこの異常な暗闇を、日常として生活しているわけだ」
「こんな闇の中でずっと生活してたら、時間感覚がなくなって体がおかしくなっちゃいます」
「もう夕方なはずだから、とりあえず街に向かおうか。もうすでに暗いけど、暗くなる前に宿をとりたいからねぇ。」
「それを言うなら遅くなる前にです!だってもう暗いんですから」
「ありゃりゃ、こりゃセツナに一本取られたねぇ」
港で街への道を教えてもらい、街灯を頼りに街へと進む。
道は真っ暗で、街灯がなければ一寸先すら見えない暗闇に覆われていた。
「暗すぎるねぇ。蛍なんかが生息してたら、綺麗によく見えたんだろうねぇ」
「あっ!ウタカタさん!闇の精霊様の封印の地は、地下道につながる隠し通路がある森ですよ!蛍見れます見れますー!」
「おや、半分冗談で言ったんだけどねぇ。まさか本当に見れる展開になるとはねぇ。ちょっと楽しみだねぇ」
「そうですね。幻想的な風景を期待してしまいます」
「それよりも、こんな暗闇の中森に入って地下への隠し通路を探すって正気かい?見つけられるかい、こんな暗くて?」
「松明、持って行きますか」
「森で誤って木に燃え移ったら大変なことになるねぇ」
街まで街灯の灯りを頼りに進んだ二人。
しかし、森の中を進むことになるのを考慮して、宿を取る前に街で松明を購入した。
「まさか本当に売ってるとは思わなかったけどねぇ」
「そうですね。火をつけるための材料を買って松明を作ることになると思っていたんですが、松明そのものが売られていましたね」
「つまり、この闇の中を生きる上で生活必需品くらいまで松明が必要になったってことだねぇ」
「この闇が、生活に大きく影響を与え始めている……そういうことですね」
「森で迷う可能性が高いから、森での隠し通路探索は朝から始めて、一日がかりでやろうか。森の近くの宿に着いたら街道旅は終わりだ」
「そうですね、ただでさえ森は迷いやすいですもんね」
森での探索に松明を温存して、街道は街灯を頼りに進む方針を決めた。




