精霊の顕現
『鳴神と不知火も草笛を吹いてみてよ』
神凪が出した命令は、二柱が草笛を吹くことだった。
『おいおい神凪。俺たちは現世に顕現していないんだ。そんなことできるわけないだろう?』
『肉体がないんだからできないじゃないか。別の命令にしなっ!』
二柱はそう言うと、神凪が反論した。
『だったら現世に顕現すればいいじゃないか』
それを聞き精霊たちは三者三様——いや、三柱三様の反応を示した。
『おいおい、現世に顕現するのに一体どれほどのマナが必要かわかってるのか!?』
『今のアタシらにそんなマナはないよ』
『まったく、何無茶なことを言っておるのだ』
すると、神凪はあっけらかんとした態度でさらに反論する。
『そっちこそ何を言ってるのさ?現世に顕現するだけなら、大してマナを消費しないだろう?精霊としての力を持って顕現するには、確かに相当のマナを消費するけど、精霊の力なんて必要としない顕現だけならできるじゃん!』
『……確かに、ただ顕現するだけなら少量で抑えられるな』
『ワシらが顕現するのは災厄を現世で直接抑え込み、封印する時のみ。その固定観念に縛られておったわ』
『その手があったかぁ!やるねぇ、神凪!』
『そう!適当に肉体を見繕って顕現するだけでいいのさっ!』
すると、鳴神と不知火は現世に顕現した。
「へぇ、結構可愛らしい見た目だねぇ。暴れてた時の姿と比べると、まったくの別物だよぉ」
『暴れていた時の自分の顕現していた姿など、覚えているわけないだろう』
『今回の顕現に戦闘能力は必要ないから、気楽でいいねぇ』
『それじゃあ、鳴神と不知火の草笛を聴かせてよ!』
鳴神と不知火は、神凪に言われると草笛に挑戦した。
『…………。全く音が鳴らないぞ』
『アタシも、まるで手応えがないねぇ』
『えぇー!?二人とも下手っちょだなー!』
「まぁ、草笛は少しコツがいるからねぇ。意外と難しいんだよ?」
『神凪!下手だと言うならお前もやってみろ!まぁ、大方俺たち同様、音を鳴らすことなどできんだろうがな』
『言ったなぁー!それくらいボクなら簡単にできるよーっだ!』
すると、今度は神凪が顕現する。
『いくよー!』
神凪が草笛を吹いた。
すると、ウタカタと同じように綺麗な音色を響かせた。
『な、なにいぃぃーー!?吹けたというのか!?一発で!』
『アンタやるねぇー!神凪!』
『ボクにかかればこれくらい簡単なことさー!えっへーん!』
「おやおや。こうもあっさりと吹かれちゃうと、特技として披露した俺の立場がなくなっちゃうねぇ」
すると、神凪の要求はさらにエスカレートした。
『ねぇねぇ!磐座も草笛吹いてみてよ』
『なっ!?なぜ賭けに勝ったワシまでそんなことをっ!』
『えぇー?もしかして磐座、草笛吹く自信ないのー?吹けないのがバレちゃうのが恥ずかしいのかなー?』
『そんな訳なかろう!どれ、ワシも試しにやってみるとするかのう!』
磐座はムキになり、神凪に続いて顕現した。
『…………。ダメじゃ、吹けん』
『あははははっ!磐座吹けないんだー!だっさーい』
『ふんっ!どうとでも言っとれ』
「いやぁ、よかったよ。みんなに簡単に吹かれちゃあ、敵わないからねぇ」
「ウタカタさん!草笛吹くコツ、教えてください!」
「おやおや、草笛吹けても何の得にもならないよぉ」
そう言いながら、ウタカタはセツナに草笛の吹き方を教えた。
しばらくの練習の末、セツナは草笛を吹くことができるようになった。
「できた!ウタカタさん、音鳴りましたよ!」
「そうだねぇ。あとはメロディを奏でられたら完璧だね」
「まだ音を鳴らすことで精一杯で、そこまでは難しそうです」
「はははっ。なぁに、焦る必要はないさっ。地道にやっていけばいい」
一行は、暗くなりつつある港で草笛を吹き終え、宿探しへと移った。
青薙は港が栄えているため、近くですぐに宿が見つかった。
「では、ウタカタさん。明日からは足で、水の精霊様の封印の地へと向かいましょう」
「そだねぇ。明日からはまた、厳しい旅の再開だねぇ」
二人は、明日の旅に備えて休む。
セツナは、今日の船旅のことを振り返り、旅の思い出を一つずつ噛み締めるようにして眠った。




