釣り勝負——後半戦
昼食をとり終え、二人の釣り勝負は後半戦に突入した。
釣りを再開する二人。
しかし、魚の食いつきは午前のようにはいかなかった。
「あまり食いつかないねぇ……潮の流れが変わったか」
ウタカタは海を見渡すように船をウロウロと歩き回った。
そして——。
「ここにしようかねぇ」
ウタカタは釣り位置を変えた。
しばらく経ち、セツナには当たりが来なかった。
しかし、ウタカタが当たりを引き当てた。
「おっ、ついに来たねぇ」
後半戦、先に釣ったのはまたもウタカタ。
「場所でそんなに変わるんですか?」
「そだよぉ。川の方がわかりやすいんだけどねぇ。海の場合は、海面に一本の細い帯状の筋が見えるんだよぉ。ここが潮の境目で、魚が集まりやすいのさぁ」
「へぇ、初めて知りました。でも、それ私に教えちゃってよかったんですか?」
『そうだぞ。お前勝負の最中にそんな大事なことを教えるなんて、何を考えているんだー!』
『この勝負、頂きじゃな』
『何言ってんだいアンタら。勝負ってのは、最後の決着の時までわからないもんだよぉ』
「釣りのコツを教えるって言っただろう?黙ってるのはフェアじゃない」
『さすがにここから巻き返すなんて無理だよ。賭けはボク達の勝ちさっ!』
「……私も釣り位置を変えます!」
セツナも釣り位置を変えた。
しかし、セツナはウタカタとは違うポジションに構えた。
「おゃ、いいのかい?セツナ」
「なんだか、こっちの方が魚が釣れそうな気がするんです」
「巫女の勘ってやつかぃ?怖いねぇ」
ウタカタは順調に釣果を上げていた。
セツナはというと、ウタカタには劣るものの、肩を並べる程度の釣果を出していた。
しかし、徐々にウタカタに数を詰められていた。
セツナ36匹に対してウタカタ34匹。
前半のリードを失ったセツナ。
そして、そんな緊迫した中、両者に大きな当たりが来た。
「くっ、重い。あの魚より強いです!」
「こっちも、相当大物が食いついたみたいだねぇ」
「まずは、魚が疲れるまでは持久戦。じわじわ引きつつ、強く引っ張られたら待つ。引きが弱くなったら勝負を仕掛ける!」
ウタカタから教わったことを反芻するセツナ。
一方ウタカタは——。
「……っ!とんでもない大物だねぇ、こりゃ」
竿が激しくしなり、糸がグイグイと海に引き込まれて飲まれていく。
ウタカタが対抗してリールを回すも、びくともしない。
「こいつはやばいねぇ。諦めて次の獲物を探す方が賢い手なんだろうけど……。かかった獲物がどれほど大きいのか、釣って確かめたくなるのが、釣りの醍醐味だよねぇ!」
ウタカタの目に闘志が宿った。
今までにない力強い引きに、ウタカタが対抗する。
セツナも大物と格闘していた。
「よし、引く力が弱くなってきた。ここから反撃!」
少しずつリールを回して引き上げていく。
大物の影が水面に映りはじめた。
そして、先に吊り上げたのは、セツナだった。
「やりましたー!大物釣りましたよ!」
それは、午前に吊り上げた大物を超える大きさだった。
そして、依然ウタカタは大物と格闘していた。
糸が切れないように、竿が壊れないように注意を払いながら、ウタカタは獲物を引き上げていく。
「こいつ、全然力が衰えない。タフだねぇ」
そして、ようやく水面に影が映った。
その影は、大きく長くうねっていた。
激しく暴れる影が次第に色濃くなり、海面へと姿を現す。
ついにウタカタは大物を釣り上げた。
「釣ったぞー!」
釣り上げた獲物はウツボだった。
「ウツボかー!そりゃあ、強いわけだ。」
どんな大物か期待していた分、ウタカタは少しがっかりした様子だった。
しかし、ウタカタはウツボが釣れたことで釣り方を変えた。
「ウツボが釣れたってことは、海底が浅くなったってことだねぇ。仕掛ける高さを変えようかねぇ」
釣り上げたウツボが船上で大暴れをする。
ウツボがのたうち回り、ウタカタの釣り糸がウツボに絡まる。
ウタカタはウツボを押さえ込んで釣り針を外し、絡まった糸を解く。
「やばいやばいやばい!大人しくするんだ、まったく!」
しかし、ウツボの体はヌルヌルしておりうまく抑え込めない。
力も強く絡んだ糸を解けずに苦戦していた。
「仕方ない、糸を切るしかない」
ウタカタは糸を切り、ウツボを海へ帰す。
「ふぅ、飛んだ災難だったよ。これも、水の精霊の暴走によるものかねぇ」
「そんなわけないでしょ、ウタカタさん!」
二人は釣りバトルへと戻る。
セツナはその間にも何匹か釣っていた。
そして、空が暗くなり始め——。
「青薙の港が見えてきましたよー!」
船員の声が、二人の勝負に幕を下ろした。
「おや、もうそんなに経つんだねぇ。勝負はこれでお開きか」
「そうですね。では、釣果発表しましょうか」
セツナ47匹、ウタカタ45匹。
釣り勝負はセツナが勝利を納めた。
「いやぁ、負けちゃったねぇ。残念」
「でも、ウツボを釣った後のハプニングがなければ、ウタカタさんが勝ってたかもしれませんね」
『勝負に勝って試合に負けたって感じだねぇ!熱い戦いだったよ!』
『うむ、見事だった。これなら負けても悔いはない』
『ワシの目に狂いはなかったようじゃのう』
『ボクってやっぱり見る目もあるねー!』
「それにしても、ここは魚がよく釣れるねぇ」
「青薙周辺の海は水の精霊様の加護のおかげでかなり豊かなんです。生き物達は綺麗な水で過ごせているんですよ」
「水の精霊さんが暴走しているから、津波でもくるんじゃないかと思ってたけど。セツナの予想通り、まだ被害は青薙全域にまでは及んでないみたいだねぇ」
「はい、おかげで一日で到着できました。海が荒れていれば二日三日かかったかもしれませんね」
「でも、ここからは青薙だ。津波の災害が出ているようだから、必ずその場面に出くわす。用心していこうか」
「そうですね。それじゃあ、早めに罰ゲームを終わらせておきましょう!ウタカタさん」
セツナは釣り勝負に負けた罰をウタカタに要求した。
「あはは、忘れてなかったのね」
『罰ゲームは得意技の披露だよ。といっても、アンタの得意技が剣技じゃあ披露してもらっても仕方がないからねぇ。この旅で自然と見ることになるわけだし。剣技以外の得意技を見せてもらおうかねぇ』
「剣技以外の……ねぇ。それなら、港に着いてからになるかなぁ」
どうやら、ウタカタの特技には何か制約や条件があるようだ。
『じゃあ今度はボクらの賭けの方を精算しようかー!何がいいかなー?なんでもってなると自由度が高くて迷っちゃうねっ!』
『あまり負担となることは要求するでないぞ、神凪よ』
『わかってるよー、そんなこと』
『本当にわかってるのかお前?』
『アタシはなんだっていいよ。さぁ、さっさと決めなっ!』
珍しく決めあぐねる神凪。
そうこうする間に船は青薙港に到着した。
「お客さん!青薙に到着しましたよー!」
「はーい、ありがとうございます!ウタカタさん、青薙に到着しました。行きましょう!」
「はいよー」
二人は船を降り青薙の地を踏む。
これから、水の精霊の封印の地へと向かう。
「今日はもう遅いので、ウタカタさんの得意技を披露してもらったら、宿をとりましょうか」
「それじゃあ、ちょっと待ってておくれよぉ」
ウタカタは港の近くに生えている木の側に駆け寄った。
そして、戻ってくる。
「じゃあ、俺の得意技を見せてあげるよ」
ウタカタは手で口元を覆い隠した。
すると、ピーっという口笛のような音が聞こえる。
そして、ウタカタはその音でメロディを奏でた。
その音は口笛とは違う音だった。
「もしかして、草笛ですか!?」
セツナが尋ねると、ウタカタは手で覆い隠していた葉っぱを見せた。
「正解」
今度は葉が見えるようにして、草笛で音色を奏でてみせた。
「すごいですウタカタさん!さすが、流浪の剣士ですね!」
「まぁ、大した得意技じゃないけど、一芸として披露できる貴重な得意技の一つだね」
『今度はアタシらの番だね。さぁ、内容はもう決まったかい?』
不知火が神凪を急かす。
『よし、決めた!これならいいんじゃないかな』
どうやら、神凪が内容を決めたようだ。




