釣り勝負
「ウタカタさん!釣りをする前に一つだけ……私に釣り方を教えてください!」
セツナは釣りは初めてだった。
釣りのコツや方法を何も知らない。
「すごいやる気だったけど、釣りは初めてなのか!よし、やり方を教えてあげるよセツナ」
セツナは勝負の前にウタカタから釣りの基本を教わった。
「基本的にやることは、釣り針に餌をつけて垂らすだけだから簡単だよ。あとは、魚が引いているかどうかを見極める」
釣り針がどこかに引っかかってしまわないように気をつけながら、セツナは餌を付けた釣り糸を垂らした。
「船で移動してるから、川釣りと違って魚が引いているかどうか見極めるのは難しいよぉ」
ウタカタも海へと竿を振り糸を垂らした。
二人の釣り勝負が始まった。
しばらく様子を見る二人。
すると、ウタカタがセツナにアドバイスする。
「魚が引いたらどのくらい竿に伝わるか、まずは感覚を覚えるといい。そのためには、糸を緩め過ぎないこと。魚の動きが竿まで伝わってなくなっちゃうからねぇ。でも、張りすぎてると糸が切れやすくなっちゃうから、このバランスが大事だよ」
「わかりました!まずは少し糸を張って様子を見ます」
そして、最初に獲物が食いついたのは、ウタカタの方だった。
「きたねぇ!」
ウタカタが握る竿に魚の動きが伝わってくる。
糸が小さく小刻みに引っ張られる。
そして、糸は強く引かれ竿が少ししなった。
「かかった!」
ウタカタは魚が完全にかかるのを待っていた。
それを確認したウタカタはリールを巻く。
「えっ!?もうですか?」
「どれくらいの獲物かねぇ」
ウタカタは魚を釣り上げた。
「海はこんなに広いのに、釣れたのは結構小さい魚ですね」
それは片手で持てるほどの、手のひらサイズだった。
「10cmもなさそうだねぇ。まぁ、ぼちぼちだねぇ。まずは1匹」
ウタカタは針にかかった魚を海へと逃がす。
「魚、逃しちゃうんですね」
「今回は食用として釣ってるわけじゃないからねぇ。でも、うまい魚が釣れたら昼飯用にでもしようか」
「新鮮なまま味わえますねー。楽しみです」
「そんなことより、せっかくの釣り勝負なんだ。負けた方に罰ゲームでも用意しようや」
「え!?いきなりずるいですよ、ウタカタさん!」
「こっちの方が盛り上がるだろー?」
「罰ゲーム、何にするんですか?あんまり無茶なのはダメですよ!?」
「そうだねぇ、精霊さんにでも考えてもらおうか」
ウタカタは特に何も思いつかなかったため、すぐに精霊に丸投げした。
『なら、得意技の披露とかどうかなー?』
神凪がすぐさま提案をした。
「神凪は案を出すのが早くていいねぇ。よし、決まりだな」
「えぇー、私得意技なんてないですよー!」
「どんな人にだって一つや二つあるもんさ」
ウタカタは釣り針に餌を付けて、再び海へと糸を垂らす。
『アンタら、どっちが勝つか賭けないかい?』
『精霊が賭け事か。全く、不知火おま——
『いいねー!やろやろー!ボクはセツナに賭けようかな』
『おい!まだ俺が話して——』
『ならアタシは、ウタカタに賭けるかねぇ。磐座、アンタはどうするんだい?賭けないのかい?』
『いや、だから俺が——』
『ワシは構わんぞ。そうじゃのう、やはりここは、経験者のウタカタ……といきたいところじゃが、セツナに賭けてみようかのう』
『…………俺は、ウタカタに賭けよう』
『決まりだねぇ。負けた奴は勝った奴の言うことをなんでも聞く、だ!!』
『えぇ!?それはいくらなんでもやりすぎだよー!』
『後出しでそれかよ、おい!』
『全く、加減を知らぬ奴よ』
「何だかあっちはあっちで、だいぶ盛り上がってるねぇ」
「負けませんよーウタカタさん!」
「まぁ、俺は負けても得意技を披露するだけだからいいけどねぇ」
すると、今度はセツナが当たりを引いた。
しかし、セツナは魚が引いていることに気づいていなかった。
「セツナ、それ多分引いてるよぉ」
「えぇ!?本当ですか?」
セツナが竿を引きながらリールを回す。
すると竿がしなった。
「ほんとだー!船で移動してるからそのせいかと思ってました」
「どのくらい糸が引かれたか、竿に伝わる衝撃がどのくらいか。この辺の感覚を身につけないといけないねぇ」
「ウタカタさんはどのくらい釣りをやってるんですか?」
「旅を始めてから、川を見つけた時はいつもやってるよ。だから、もう10年は経ってるかねぇ。流石にこの旅では一回も釣りなんてしてないけど」
そして、ついにセツナが魚を釣り上げた。
「やったー、釣れましたー!見てください、小さくて可愛らしいですよ」
「可愛らしいかねぇ?」
針を取り手に持つセツナ。
「さっきから口もパクパクさせてます。こうして見ると意外と可愛いですよ」
セツナもウタカタに倣って魚を海へと逃す。
「私も1匹釣れました!次です!」
セツナは餌を針に取り付け、次の獲物を狙う。
「負けないよぉ」
釣りをしていると、空が明るくなってきた。
「おっ!7時になる頃かい?明るくなってきたねぇ」
そして、セツナに大きな当たりがやってきた。
「またきました!逃しませんよー!」
竿が激しくしなり、セツナはリールを力強く巻く。
「くぅ、強い。今回の魚、結構大きそうです」
すると、ウタカタは自分の竿を置いてセツナの方へ向かい、セツナの竿を握った。
「こりゃあ結構大物だねぇ。大物の時は魚が強く引っ張ってる時に、無理にリールを巻かないことだ。糸が切れちゃうからねぇ」
「じゃあ、ここは引っ張られるまま、しばらく待った方がいいですか?」
「そうだねぇ。魚に体力を使わせて、力が弱くなったところを少しずつ引くといいよ」
ウタカタがセツナを手助けする姿を見て、精霊たちが騒ぐ。
『おい、ウタカタ。お前何対戦相手のセツナを手助けしてるんだ。勝負しているのだぞ?』
『うるさいなー鳴神は!黙って見守ることもできないの!?』
『お主がそれを言うか!?』
『ハッハッハッ!アンタら相当賭けに負けるのが怖いんだねぇ!面白くなってきたよー!』
「勝負とはいえ、コツも何も教えてあげないのはフェアじゃないよねぇ」
『お主の言う通りじゃな』
『そうだよ。心が狭いぞー鳴神』
『言われてるねぇ、アンタ』
『勝てばいいのだ、勝てば!』
セツナは、ウタカタに言われた通り魚が強く引いた時には無理にリールを巻かなかった。
そして、引く力が弱くなった時を見計らってリールを素早く巻いた。
「だんだん魚が強く引いてこなくなりました!」
「もしかしたら、魚の方は疲れてきちゃったのかもねぇ」
ウタカタは自分の竿を握り直した。
「おや?海面に影が見えてきたねぇ」
「えっ?すぐそこまで来てるってことですか?なら、もう少し!」
セツナは力強く竿を引いてリールを巻く。
水面に映った影は次第に大きく濃くなり、やがてその姿を現した。
「えいっ!」
そして、その獲物をついに釣り上げた。
「見て見てウタカタさん!大きいですよ!!今まで小ぶりな魚ばっかりだったけど、私の顔より大きいです!!何センチくらいですかね!?」
「うーん、こいつは30センチ、いや、40センチ近くあるなぁ。大きい方だよ」
「やったー!こんなおっきいの釣れました。魚ってこんなに強い力で引くんですね、驚きました」
「でも、大事なのはどっちが多く魚を釣ったかだよ」
「わかってますよ、どっちも負けません!」
そして、昼時となった。
「私が23匹で、ウタカタさんが16匹。結構差が出ましたね。私勝ってます!」
「数でも大きさでも負けてるねぇ。経験者としていいところ見せたいんだけどねぇ」
『ワシの予想通りじゃのう』
『やっぱり、ボクって見る目あるんだなー』
『おいウタカタ、勝てるんだろうなっ!』
『前半戦が終わったねぇ。こっからどうなるのか後半戦が楽しみだねぇ!』
二人は釣った魚を並べた。
「食事用に取っておいた魚さん、捌いていきますかぁ」
包丁を手に取り、ウタカタは魚を捌いた。
それを刺身にして頂く二人。
「んー、美味しいです」
「新鮮だから美味いねぇ」
昼食は刺身と作ってきたおにぎりを食べた。
「やっぱり、おにぎりはいいねぇ。これぞ旅って感じだねぇ」
「ウタカタさんはおにぎりが好きなんですね」
「元気も出たし、後半は巻き返すよぉ」
二人の釣り勝負は後半戦へと突入した。




