火の精霊の加護
セツナは、戦闘が終わったことを遠目で確認すると、ウタカタの元へと駆け寄った。
「ウタカタさん、大丈夫ですか!?」
心配そうな顔で、こちらへと走りながら問いかけるセツナ。
ウタカタは全力を出し切り、その場に座り込んだまま答えた。
「無事だよ、セツナ。今回はかなり手強かったねぇ」
セツナを見上げるようにして答える。
「いつになくウタカタさんが大声を出していたので、心配したんですよ」
ウタカタの無事を確認できホッとしたようで、肩の力が抜けたように腕をだらんと垂らした。
火の精霊が我へと帰り問いかけた。
『……まさか、これをやったのはアタシかい?』
快活な口調で問いかける精霊。
『あぁ、そうだ。まさかこれほどまで暴れているとはな。甚大な被害だ』
『暴れてた、か……じゃあ、そこのアンタがアタシを止めたのかい?』
火の精霊は辺りを見渡し、帯刀しているウタカタを見て尋ねた。
「あぁ、そだよぉ」
脱力し切った返事を返すウタカタ。
『はぁ、アタシはこんなやる気のなさそうな奴に負けたってのかい!なんだか悲しいねぇ』
『戦いの様子を見ていたなら、そんな言葉は出なかっただろうな』
雷の精霊がウタカタをフォローする。
『そうかい。ならこいつがどれほどの実力の男だったのか、アタシ自身が付いていってこの目で確かめるとするかね!』
そう言うと、火の精霊は分霊をウタカタへとつけた。
『とはいえ、アタシも封印する必要があるからね。分霊で我慢しとくよ』
『お前の力をウタカタへ授けてやってくれるか?お前だけでなく、闇の精霊もどうやら正気を失って暴れているようでな』
『アイツが!?へぇー、珍しいこともあるもんだね。もしかしたら、九柱全員暴れてるんじゃないかい?』
火の精霊が不穏な発言をする。
『信じたくないだけで、アンタらも薄々気づいてるんじゃない?アイツが正気を失ってるなら、全柱抗えないんじゃないかって』
三柱の精霊たちは黙り込んでしまった。
「そんなに凄いのかい?その、闇の精霊さんは」
『それぞれ得意分野が違うってだけさね。アイツは正面から戦うのは得意な奴じゃない。その分、搦手が得意で頭が回る。そんな奴が暴走するくらいだ、アタシらじゃどうしようもないってことさね』
「まるで、誰かに何かされたみたいな口ぶりだね。心当たりあるのかい?」
ウタカタは火の精霊の口ぶりから、黒幕について問う。
『アイツが自然に暴走なんて、するわけないからね。確実に何者かが関与してるはずだよ』
「凄い信頼だねぇ。闇の精霊さんがそんなにキレ者なら、是非力を借りたいねぇ」
『そういや、なんか思い出してきたよっ。封印が解かれた後、すぐのことを。人間の顔なんて区別できないからわかんないけどさ、アタシの封印を解いた男の顔には、一本の線みたいに傷があったよ』
『お主は相変わらず大雑把というか、どこか他人事のように捉えとる癖があるからのう』
呆れたように磐座が話す。
『アタシは自分の使命を全うする。それ以外のことには興味ないさね。あっ、でも今はもう一つ興味ができたよ。この男の実力を知ることだ』
そういうと、火の精霊はウタカタへマナを送り込んだ。
『まぁ、アタシが力を貸すんだから、もう強くて当然か。どれくらい強かったのか、興味あったんだけどなー。しゃーないね、これからに期待させてもらうよ。アタシを幻滅させたら、タダじゃおかないからね』
「これはまた、大変な精霊さんに目をつけられたもんだねぇ。期待に応えられるかわからないけど、頑張るよ」
ウタカタは手をだらんとさせたまま上へと上げて、弱々しく振った。
『ねえ!もういいかな?みんな』
いつもと違い、強い口調で話す神凪。
『どうしたんじゃ?何かあったか』
磐座が心配そうに訳を聞こうとした、その時だった——。
『最後のあの突き技の名前!なんで磐座が主役みたいになってるのさ!ボクと鳴神の力が合わさって、あの大剣を強化したんだよ!?ボクと鳴神を主に据えるべきなんじゃないの!?』
ウタカタの付けた技名に、納得がいっていなかったようだ。
『風雷で片付けられるなんておかしいよ!おかしい、おかしいー!』
『人間のつけた呼称をいちいち気にするなと言っとろうに』
磐座は呆れ果てていた。
『いや、確かにその通りだ。何故磐座が主役なのだ?納得いかんな』
『お主まで言うか』
『お主ではないっ、鳴神だ』
「あれは磐座破斬の大剣に属性を付与して、斬り払いじゃなくて突きにしたから、風雷の属性を付与された磐座刺突で、風雷・磐座刺突に命名したんだ。別に主役どうこうは関係ないよ、みんな一旦落ち着こうや、ね?」
ウタカタが精霊たちをまとめきれずにあたふたしている。
そんな様子を見てセツナはふふっと微笑んで眺めていた。
『なんだあんたら、人間に付けられた名前なんて名乗って、どうしたってんだい?』
『え?もしかしてボクらに名前が付けられてること知ってたの?』
『そりゃあ、現世にいりゃ知ることにもなるだろう、普通。ふっ、アンタはいっつも高いとこばっかいるから、人間たちとの接触が少なくて知らなかったんだね、きっと』
『あー!今確実にボクのことバカにしたろー!許さないぞー!』
『ちなみに、アタシは人間からは不知火って呼ばれてるよ。どうだい?結構強そうな響きだろ?』
『ふんっ!どうでもいいよーだ』
『不知火か、悪くはないな』
『名前なんぞに一喜一憂するでないわ』
「なんだか、一気に賑やかになりましたね」
「そうだねぇ。これでもまだ半分なんだから、この先もっと騒がしくなるよぉ、きっと」
ウタカタが肩をすくめてセツナに困り顔を見せつつも、そこには笑顔があった。
火の精霊——不知火との死闘を制し、二人は下山した。
街で傷と疲れを癒すため、二人は宿を探す。
「知ってますか?ウタカタさん。赤峰地方は温泉で大の有名なんですよ?せっかくですから、どうせ宿を取るなら、今回は旅館に泊まって温泉で体を癒しましょう」
「へぇー、いいねぇ。やっぱり旅ってのは、こうでなくっちゃねぇ!」
赤峰地方は、昔から温泉で有名だった。
赤峰に封印されている火の精霊の加護により、様々な効能のある自然の温泉がいくつもあったのだ。
温泉旅行に行くなら赤峰一択。
この島では常識のようなものだった。
「この島では、赤峰の温泉のことを精工温泉って呼ぶんですよ。火の精霊様の加護によって作られた温泉なので、精工と呼んでるんです」
「なるほど、人工ならぬ精工ねぇ。こりゃ今日の風呂が楽しみだ」
二人は一日の疲れを癒すべく、旅館へと向かった。




