三位一体
ウタカタは、岩の大剣で火の精霊へと斬りかかる。
この剣に切れ味はない。
あるのは、圧倒的な質量と硬度。
それを力で強引に叩きつけ、対象を破壊する。
そしてその大剣が、火の精霊を襲う。
火の精霊は腕で防ぐ。
そして、間合いを詰めてウタカタへ殴りかかる。
「ぐふっ」
重い鎧に加えて重い剣。
ウタカタに回避する術はなかった。
しかし、ウタカタにはこれしかなかった。
いくら速く動こうとも、流れてくるマグマや転がっている溶岩を避けながら、火の精霊との戦闘は無謀だった。
「どっちが頑丈か、見せつけてやるぜえー!」
ウタカタは巨大な剣を何度も激しく振った。
火の精霊はそれを腕で受けては反撃を繰り返す。
互いに一歩も譲らず攻撃の手を緩めない。
その戦いはまるで、防御を捨てたインファイトの殴り合いだった。
「ホントは、君の核を探したいところだけど、そんなことできる余裕なさそうだからねぇ。全力で君を壊させてもらうよお!」
ウタカタはどっしりと両手で剣を構えて腰を落とす。
そして、大きく振りかぶって勢いよく叩きつけた。
火の精霊は上から叩きつけてくる大剣を片腕で防いだが——。
バキバキッ!
ズドンッ!
火の精霊の溶岩の腕は砕け落ちた。
砕けたところからマグマが垂れ流れてくる。
そして、そのまま砕けた腕で殴りかかってきた。
その砕けた部位からマグマが飛び散る。
「ふんっ!」
ウタカタは丹田に力を入れ、振り下ろした剣を素早く持ち上げて切り上げる。
その切り上げによって、火の精霊の拳を払う。
しかし、火の精霊は止まらない。
もう片方の腕でも殴りかかってくる。
ウタカタは、素早く大剣の側面で拳を弾く。
大きくて取り回しが悪くても、基本的な扱いは刀と同じ。
刀身が大きい分受けやすいため、間に合いさえすれば比較的防御はしやすかった。
しかし、一度防御に回ると火の精霊の激しい連続攻撃で、なかなか手が出せなくなってしまった。
その間に、砕けた腕は再生した。
「本当に厄介だねぇ、再生能力ってのは」
ウタカタは戦闘の主導権を取り返すため、攻撃を捌きながら反撃に出た。
「磐境障壁!」
殴りかかってきた拳を、下から突き上げる石柱の勢いで上へと弾いた。
火の精霊は一瞬よろめきバランスを崩す。
そして、繰り出した腕が上へと弾かれて脇が開いた。
「そこだっ!磐座破斬!」
大きく踏み込み、水平に大剣を振り抜く。
しかし——。
ガギィンッ!!
「なっ!?」
胴体は異様に硬く、直撃したはずの磐座破斬は火の精霊の脇腹で勢いを失い、止まってしまった。
そして、火の精霊はこの隙を逃すことなくウタカタを捉えた。
ドズンッ!
「うっぐぅ……!」
もろに攻撃をもらい、一瞬両足が地面を離れる。
しかし、すぐに大地の感触を確かめるように、静かに優しく地に足がつく。
ウタカタは膝をついて倒れまいと、構えを解かずに火の精霊へと剣を向けたまま立つ。
しかし、その体はプルプルと震えていた。
「もう一度隙を突いた直撃パンチもらったら、立っていられないかもしれないねぇ……」
ウタカタの呼吸はまだ荒くはなかった。
しかし、深いダメージを負ってしまい立っているのがやっとだった。
火の精霊の激しい追撃が襲う。
ウタカタは捌くことだけに集中した。
『長期戦はまずいぞ。彼奴は雷……いや、鳴神よりも長く現世におる。確実に相当マナを溜めて強くなっておるぞ』
土の精霊——磐座が、思わず声をかける。
「わかってるよぅ、そんなこと。だけどねぇ、硬くてダメなんだよ。文字通り歯が立たない。叩き壊すにしても容易じゃないよぅ」
『みんなの力を合わせればきっと勝てるよー!!特に、ボクの能力は優秀だからね!』
「そうだねぇ。みんなの力で……突破、しようかねぇ……」
ウタカタの声には力がなかった。
『そもそもこの環境自体、人間が戦うにはあまりにも不利すぎる。どうするウタカタ?何か策はないのか?』
ウタカタは、三柱全員の力を一つにまとめて、短期決戦を決意する。
「……やるしかなければ、やるしかないよねぇ」
しかし、その声は次第に低く鋭くなっていった。
力がないのではない。
嵐の前の静けさ、力を抑えているのだ。
そして、ウタカタの目には覚悟が映っていた。
ウタカタの空気が変わった。
『やれるか!?ウタカタ』
「あぁ、任せておくれよぉ。俺は君たち三柱の暴走を鎮めた男だよ?」
するとウタカタは、腰を深く落として両手で大剣を構える。
しかし、その構えは今までと違っていた。
岩の大剣を肩より上へと高く水平に構えた。
そして、その切先は火の精霊へと向けられていた。
「いくら硬かろうと、一点突破の超重量による一突きは、ただじゃ済まないよぅ」
軽口を叩くウタカタの表情は、至って真剣そのものだった。
そして、大剣を螺旋状に風が纏い始めた。
それは、大剣の先端を中心にした竜巻が起きているかの如く、鋭く激しい風が纏っていた。
『やったー!!ついに風を起こせたじゃないかウタカタ!まるで巨大な槍だね』
風の精霊——神凪は嬉しそうにはしゃぐ。
「これも、切先を台風の目として竜巻を想像したんだよぉ。やっぱり、何か実物に頼らないと風を起こすのは難しいや」
すると、風だけではなかった。
鋭く空気を割く風から、バチバチッという音を立てて稲光が発生した。
大剣から放電しているかのように、絶えず剣から電撃波が放たれる。
『これは、俺の……!』
思わず声を漏らす雷の精霊——鳴神。
自分の能力を、ウタカタが自身の技に応用していることに驚き、言葉にならなかった。
「この旅の間、たくさん聞いたからねぇ。どういうことができて、何が得意な性質なのか。威力を増すなら、やっぱこれでしょっ」
ウタカタの構える岩の大剣からは、風と電撃が入り混じり凄まじい音を立てていた。
「技名、考えたんだけどさ。みんなの力をまとめたから、みんなの名前を技名に入れようと思ったけど、技名が長くなりすぎちゃってね。名前の順番とか、命名した自分でも忘れちゃうと思ったから、覚えやすい技名にしたよ。たぶん……文句が出てくると思うけど」
そう言われ、三柱はどんな技名なのかと、きょとんとしている。
「これが、今の俺の、全力の一点突破最大火力だ。受けられるものなら受けてみな!風雷・磐座刺突!!」
言い終わると同時に、ウタカタは勢いよく地面を蹴り、前へと出る。
そして、勢いそのままに火の精霊へと構えた大剣を突き出す。
岩の大剣を覆う風が螺旋状に渦巻き、刀身からは無数の稲妻が迸る。
それはもはや、剣というより巨大な槍そのものだった。




