マグマに包まれる岩山
二人は目的の岩山の麓に立っていた。
火山灰が大雪のように降りしきる中、二人は火の精霊の封印のため鋭い眼差しで頂上へと目を向けている。
岩山からは噴煙が立ち上っており、明るかったはずの空は灰色の煙で覆われていた。
そしてその悪環境の中、山を登り出す。
「灰がすごい積もってるねぇ」
灰を踏みつけて歩いている感触が足から伝わってくるほどに、灰はすでに大量に積もっていた。
そして、岩山を登る道中に火の魔物が現れた。
「おやおや、火を纏った身体かい?刀が溶けちゃ嫌だねぇ。」
すると、ウタカタは刀に風を纏わせた。
「かかる火の粉は風をもって振り払わせてもらおうかね」
ウタカタが喋っている間に、火の魔物は火の玉を飛ばしてきた。
「うぉっ!そんなことができるのかい、卑怯だねぇ。」
一発でも当たれば燃えてしまう。
ウタカタは囲まれたら危険と判断し、対策を講じる。
「この一週間、俺はただ赤峰に向かって移動してたわけじゃないんだよぉ?雷の精霊さんにできることできないこと、色々聞いたんだからねぇ」
すると、ウタカタの体を風が纏い、身体からは鋭い電磁波を発していた。
「普段よりも反応速度、行動速度、どちらも飛躍的に上昇させた状態、名付けて疾風迅雷の陣!」
ウタカタはバチッと鋭い音を立てて風を巻き起こし、その場から消えた。
すると、すでに火の魔物の背後へと移動していた。
ウタカタが前傾姿勢から身を起こし真っ直ぐに立つと、火の魔物は真っ二つに切り裂かれて崩れた。
すでに居合を終えていたのだ。
「すごい早いです、ウタカタさん!一体何をしたんですか!?」
セツナがその速さに驚嘆し、能力の秘密を聞く。
「雷の精霊さんの電気で、体の電気信号みたいなのをちょいといじってね。俺が意識して動こうとした時でも、反射と同じ速度で反応するようにしたのさ」
「なるほど、そこに風の精霊様の移動速度の上昇が合わさって、ものすごく早かったんですね」
「そういうこと。燃えたらかなり厄介だけど、当たらなければいいのさ」
ウタカタは、疾風迅雷の陣を敷いて山を登る。
道中の火の魔物はいくら束になって襲ってきても、ウタカタに触れることすらできなかった。
しかし、岩山を進むにつれて山の様子がみるみるうちに変わっていった。
山の中腹まで来るとそれは、岩山と呼ぶには相応しくない状況だった。
マグマが上から流れ落ち、岩は高音で熱され溶岩と化していた。
足場はマグマでドロドロに溶ける程で、とても人が踏み歩けるような道ではなかった。
「こいつは、いくら速く動けても避けようがないねぇ」
ウタカタは疾風迅雷の陣を解いた。
そして代わりに、ウタカタはマグマに耐えるだけの防御を固めた。
「金剛鎧装!」
その重さから、道中では使うことを避けていた金剛鎧装をウタカタは使った。
「マグマの道を進むには、これしかないねぇ」
『ボクのように風を操れば飛んで移動できるのにー!何でそんな鎧を選ぶのさー!』
風の精霊がウタカタにいちゃもんをつける。
「それがうまくできないからこうしてるのさ。風を操るって感覚が掴めなくてねぇ」
ウタカタは残念そうな表情を浮かべて答える。
『ワシの能力を何じゃと思っておる!足場を作るだけでなく壁にもなり身を守る、万能な能力じゃぞ!』
土の精霊が激しく突っ込む。
「あぁー、風の精霊さんが余計なことを言うから」
ウタカタはたじたじな様子で、二柱の精霊の言い争いに巻き込まれていた。
『おい、お前ら。少しは緊張感を持て!精霊のくせに何だ、情けない』
雷の精霊が争いに終止符を打つ。
『む、ワシとしたことが……』
『ごめんよー……』
『わかればいいんだ、わかれば』
「口調は少し乱暴だけど、雷の精霊さんは意外としっかりした性格のまとめ役だねぇ」
少し茶化すように言った。
『お前、俺を馬鹿にしているのか』
「まさかまさかー。感謝してるよぉ、ほんと」
苦笑いで宥めるように伝えるウタカタ。
そんなやりとりをしつつ、金剛鎧装で歩みが遅くなるものの、着実に步を進めていく一行。
流れ落ちてくるマグマをものともしない金剛鎧装だったが、熱された岩の鎧にウタカタは悲鳴を上げていた。
「あつい……もうむりだ。死んじゃう、暑くて死んじゃうよぉ」
熱された鎧を身に纏い、ウタカタはまるでサウナにでも入っているような気分だった。
さらにその状態で登山をする。
ウタカタは、いつになく弱音を吐き、へばっていた。
『熱を逃すなら換気だよ、換気ー!』
風の精霊がいつものように軽い口調で案を出す。
ウタカタは荒い呼吸をしながら、風の精霊の案で何かを閃く。
「はぁはぁ…………それだっ!
金剛鎧装・神凪改!」
岩の鎧の背中、肩の辺りに渦巻き状の二つの穴が開いた。
そこから風が鎧の内部を通り抜け、溜まっていた熱気を外へと押し出していく。
「これで鎧の中の熱は、多少外に流せる。空気の循環、換気は大事だねぇ」
ウタカタにいつもの軽口が戻ったようだ。
『ははっ!やっぱりボクって優秀だね! 磐座の欠陥能力を補うことだってできちゃうんだから!』
『おい!ワシの能力のどこが欠陥じゃ!それは人間にとってじゃろ!あと、お主がワシを磐座などと呼ぶでないわ!何故人間のつけた名を精霊が口にしとるか!』
『えー、いーじゃん。名前あった方が呼びやすいじゃん。ボクは気に入ってるよ、神凪って名前!』
『何だ、俺らに名などあるのか?』
『人間のつけた名じゃ、くだらんわい』
『ふむ、ちなみに……俺の名は何と言うのだ?』
恐る恐る聞く雷の精霊。
それに対し、セツナが答えた。
「鳴神様です」
『ほう、鳴神……か。精霊が神を冠するとは畏れ多いな。しかし、まぁ、せっかく人間から貰った名だ、無下にするのも忍びない。よし、俺のことは鳴神と呼ぶがいい』
…………。
全員が沈黙した。
そんな中、口火を切ったのは——。
『お主……その名が気に入ったな』
『お主ではない。鳴神と呼べ、磐座よ』
土の精霊——磐座だった。
気を取り直して、一行は噴火中の火山へと変貌を遂げた岩山を登る。




