土の精霊の封印の地へ
土の化け物を退治した後、巫女から詳しい話を聞くウタカタ。
「——あの大地震は、土の精霊様の封印が解かれた影響なんです!」
呼吸を整えた巫女は、神妙な面持ちで語り出した。
「精霊様の封印が解けたことで大地の加護が失われ、マナが激しく乱れている……その乱れが地震や地割れ、土砂崩れを引き起こし、あんな大地の魔物を生み出して暴れさせているんです。」
「おいおいマジかよ!?オジサンにそれを信じろと?」
ウタカタは訝しげに巫女に言った。
しかし、巫女の真剣な表情を見て本当なのだろうと判断した。
「……おまえさん一体…どうしてそんなことを知ってる?」
「私の名前はセツナ。代々、この島の精霊様の封印や祭り事を司ってきた一族の者です。」
流浪のウタカタは知らなかったが、巫女セツナは由緒ある家柄の末裔で、精霊のことにも通じていたのだ。
「そうか、俺はウタカタだ。流浪の剣士をしてる。それで、この異常事態はどうしたら収まるんだい?」
「ウタカタさん、精霊様がこのまま暴れ続ければ、取り返しのつかない災いが世界を襲います。一刻も早く精霊様を封印してください!」
あの大爆発のような地鳴り、そして先ほど両断した岩石の化け物。
只事ではないのは一目瞭然だった。
何より、ウタカタにとってはお気に入りの昼寝スポットを奪われるのは御免だった。
「……なるほどねぇ。事情は分かった、嬢ちゃん——いや、セツナ。俺も手を貸すよ。ただ、俺は精霊がどこにいるかなんてさっぱり知らないもんでねぇ。案内を頼みたい」
それを聞き巫女は安堵した様子。
「本当ですか!? ありがとうございます……っ! すぐに土の精霊様が眠る、裏の聖山へ向かいましょう!」
二人はすぐさま山道へと駆け出した。
しかし、山を登る彼らを阻むように、土の魔物が次から次へと姿を現す。
ウタカタが容赦なくそれらを斬り伏せていく中、セツナは険しい顔で周囲の気配を読んだ。
「やっぱり……これほど魔物が湧き出すなんて、大地から土の精霊様の加護が失われている。この上へ向かえば本尊が——あ、あれ?まさか…」
山の中腹まで差し掛かった時、セツナが突然足を止め、息を呑んだ。
「んー?どうした、嬢ちゃん?」
セツナは体を震わせながら立ち尽くしていた。
「まずいです、ウタカタさん……土の精霊様だけじゃない。風の精霊様の封印まで解けています!」
「は!? なんだって!?いや、ちょっと待て。なんでそんなことが分かるんだい!?」
ウタカタは、土の精霊の封印が解けたことによる災いに続き、風の精霊の封印が解かれたことでさらに別の災いが降り注ぐことを懸念した。
風の精霊の封印が解けたことを信じたくないウタカタは、セツナに強めに問いかける。
すると、セツナが無言で山頂から西の方角を指差した。
ウタカタが目を凝らすと、その先には、天を衝くほどの巨大な『黒い竜巻』が渦巻いていた。
「あれを見てください。この島は本来、一年を通して長閑で気候の良い、本当に暮らしやすい場所です。あんな禍々しい竜巻、これまで一度も見たことがありません!」
「言われてみればそうだねぇ……。しかも、あんな不気味な黒い竜巻だなんて、縁起でもないねぇ…」
「先を急ぎましょう、ウタカタさん! 完全に手遅れになる前に!」
緊迫した表情で、セツナがウタカタを促す。
「ああ。このままじゃ、俺の楽園が地獄に変わっちまう!」
眉間にしわを寄せて、ウタカタは刀を握り直す。
そして、セツナの案内に従い、さらに険しい山道を突き進んで行く。
道中ウタカタは妙なことを口にした。
「この場所、すでに俺以外の別の奴の刀傷がある……。なぁ、この場所ってのは修行かなんで使われたりするのかい?」
「いえ、普段人の出入りはありません。土の精霊様を祀っている神聖な封印の地ですから、島の人間は来たりしませんよ。どうかしたんですか?」
「そうか。しかし見たところこの傷は、最近できた真新しい傷だ。俺以外の誰かがここへ来て刃を振るったのは確実。一体誰が何のために……」
ウタカタはこの刀傷が気になっていた。
最近できた傷、しかし島の人間は出入りしない。
ウタカタは、自分と同じような流浪の剣士がいるのだろうかと疑問に感じていた。
しかし、ウタカタが気になっていたのはそれだけではなかった。
しばらく山を登り続け、ついに、山頂の開けた場所に出た。
そこにいたのは——五十メートルはあろうかという、岩石を幾重にも積み上げた巨大なゴーレムのようなバケモノだった。
見た目は今まで倒してきた土の魔物と同じ岩石の体、しかし、そのサイズはあまりにも違いすぎた。
咆哮を上げながら、周囲の木々を薙ぎ倒している。
周囲を見ると無数のクレーターができており、地割れが走り、地面が隆起したりと、地形そのものが変形しているのが見てとれた。
「おいおい、あれかい? 『土の精霊』ってのは。精霊って名前の響きの割には、随分と無骨で可愛げのない見た目してんだなぁ」
ウタカタは想像していた精霊とのギャップに少し身構える。
「精霊様は本来、実体のない『概念としての存在』なんです。現世に顕現するために、周囲の岩石を仮の肉体——器としてそこに精神を宿らせているんですよ」
「へぇ、そういうもんなのかねぇ。俺にはさっぱりわかんねーや。……で、ところでなんだがー。あの暴れてる土の精霊さんは、具体的にどうすりゃいいんだい?」
ウタカタの問いに、セツナはきっぱりと言い放った。
「はい、やっつけちゃってください! 動きが止まるまで!」
ウタカタは予想の斜め上をいく回答に、驚きをあらわにした。
「おいおいおい!? そんなことしちゃって良いのかい! ?仮にも相手は神様みたいな、『精霊』なんだろ!?」
するとセツナは余裕そうな表情で不敵な笑みを少し見せた後、ウタカタの質問に応えた。
「大丈夫ですよ! 先ほども言いましたが、肉体はただの借り物です。壊れたら、また別の肉体に宿れば良いんですから!」
肉体の消滅はすなわち死であるという認識のウタカタには、肉体はただの入れ物という考えは理解のできないことだった。
「そういうもんなのかねぇ!?」
「肉体が完全に破壊されれば、精霊様の精神は一度現世から解放されます。そうすれば、精霊様も正気に戻るはずです!」
「なるほど、話が早くて助かる!」
するとウタカタは不敵な笑みを浮かべ、腰を深く落とした。
視線の先には、こちらに気づいて地響きを立てて威嚇するような行動を取る巨大なゴーレムの姿をした土の精霊。
「よし——いっちょ、やってみるか!」
ドン、と凄まじい脚力で地面を蹴る。
ウタカタは恐るべき速度で一瞬にして間合いを詰めると、土の精霊の懐へと滑り込んだ。




