日常を突如襲う大地震
都会の喧騒から遠く離れた、海の上の孤島。
どこまでも広がる青空の下、一人の男が緩やかな丘の野原に寝そべり、体いっぱいに陽光を浴びていた。
男の名は、ウタカタ。
衣服は長年の旅で適度に色褪せ、どこか、くたびれた大人の男の余裕を漂わせている。
顎のまわりに薄く生え揃った無精髭を片手でさすりながら、気怠げに細めた目で空を見上げていた。
その精悍な顔立ちの左頬には、かつての死線を潜り抜けてきたことを物語る、斜めに走る一本の刀傷。
そして彼がのんきに寝返りを打つたび、右耳にあしらわれた涼しげな水玉模様の耳飾りが、静かに揺れてきらめいた。
腰には、彼の唯一の相棒である一振りの刀が、年季の入った鞘に収められて帯刀されている。
「いやあ……長閑でいいねぇ。都会と違って、刀をぶら下げて歩いてても誰も文句を言ってこない。空気はうまいし、飯は安くて美味い。まさに俺にぴったりの楽園だ」
草を一本咥え、両腕を枕にしてゴロゴロと寝返りを打つ。
気ままな流浪の旅の果て、ようやく見つけた最高の昼寝スポット。
そう満足げに目を閉じた、その瞬間だった。
——ズウゥゥゥゥン!!
突如、鼓膜を突き刺すような猛烈な地鳴りが響いた。
地面が揺れた、などという生易しいものではない。
ウタカタが寝そべっていたこの大地そのものが、底から爆発して崩れ落ちたかのような、凄まじい衝撃がウタカタの体を突き上げる。
「うおっ!? 一体なんだ、何が起きたっていうんだ!?」
ウタカタは慌てふためき起き上がろうとするが、視界が激しく上下にブレ、立つことすらできない。
世界そのものが悲鳴を上げているかのような激しい揺れがしばらく続いた後……それは、何事もなかったかのようにピタリと収まった。
ただの地震ではない、ウタカタの本能がそう告げていた。
「おいおい、只事じゃないねぇ、これは……。ひとまず、島の事情通に聞くのが一番か」
ウタカタは身軽に跳ね起きると、島で最も由緒ある神を祀った神社へと向かった。
鳥居をくぐり、静まり返った境内に駆け込む。
「おい! 誰かいないか! 誰か返事しろ、おい!」
叫ぶように声をかけた直後、社務所の扉が勢いよく弾け飛んだ。
中から現れたのは、息を荒くした一人の巫女だった。
「やばいやばいやばいやばいやばい! 封印が、封印が解けちゃった――!?」
頭を抱えて髪を振り乱しながら、大パニックで飛び出してきた巫女。
ウタカタはその肩を掴んで落ち着かせようとする。
「落ち着け嬢ちゃん! 封印ってなんのことだい!? 詳しく聞かせてくれ!」
巫女は涙目で事情を説明しようと口を開きかけた——が、その言葉は、背後の山から響いた轟音にかき消された。
バリバリと音を立てて山肌が崩落し、麓の家々が土砂に飲み込まれていく。
「なっ……!?」
思わず声を漏らすウタカタ。
明らかに何か異変が起きている。
未知の異常事態に、ウタカタの中で警報が鳴り響いていた。
さらに現実は、ウタカタに災いをもたらす。
崩れた赤土の足場から、ゴツゴツとした岩石を繋ぎ合わせたような、異形の化け物が蠢きながら姿を現した。
「ひっ……あれは、土の精霊様の……!」
「嬢ちゃん、話は後だ!」
ウタカタは鋭い眼差しを岩石の化け物に向け、腰の刀の柄に手をかけた。
「あの化け物を退治したら、ゆっくり話を聞かせてもらうぜ」
地を蹴り、一瞬で距離を詰める。
動きの遅い岩石の化け物が腕を振り上げるよりも早く、ウタカタの鋭い太刀筋が閃いた。
一閃。
硬質な不協和音と共に、巨体が真っぷたつに両断され、砂となって崩れ落ちる。
刀を鞘に収めながら、ウタカタは眉をひそめて呟いた。
「一体何が起きてるんだ、この島で。それに、この化け物はなんなんだい……?」
斬り伏せた化け物の体は岩石でできていた。
岩石同士の繋ぎ目のような箇所は土で出来ており、まるで生き物のように動いていた。
それを見たウタカタは、改めてこの異変がただの自然現象ではないことを思い知らされた。
「やはり、さっきの地震もただの地震じゃねぇなぁ。嬢ちゃん、さっき土の精霊とかなんとか言ってたな。詳しく聞かせてもらおうか」
ウタカタは巫女に何が起きているのか問いかけた。
巫女は頷き、今起きていることをウタカタへと伝えるのだった。




