風を纏う突き
ウタカタは障壁から姿を現しては、神凪破斬を精霊に叩き込み、電撃波が飛んでくる前に別の磐境障壁へと駆ける。
このヒットアンドアウェイ戦法で、雷の精霊の核を炙り出そうとしている。
「あとは時間の問題だねぇ。これで、いずれ核の位置は暴ける。問題は、神凪破斬の威力で破壊できるかどうか」
ウタカタの放つ神凪破斬は雷の精霊の身体を切り裂いてはいたが、切り落とすまでの威力はなかった。
「ダメだったら、また間合いを詰めないとなんだよねぇ」
『初めに使った手でやれば問題はなかろう。何をそんなに心配する?』
「精霊さん、追従してくる電撃波なんて最初使ってかなかった。てことは、俺の戦い方を見てあの技を使ってきた。正気を失ってても、無意識に頭使って戦ってる証拠さぁ」
『そういうことか。まだ奥の手があるかもしれんな』
「そういうこと」
ウタカタは神凪破斬を何度も叩き込む。
その度に迫りくる電撃波から逃れるように、次の障壁へと走る。
そして、ついにウタカタは雷の精霊の核を見つけた。
「んっ!?あれは……みーつけたっ!」
すかさず、露出した核に神凪破斬を集中して叩き込む。
肉体の再生よりも早く、ウタカタの放つ神凪破斬が核を襲う。
しかし、核の表面を傷つける程度で、破壊までは至らなかった。
そして、連撃を浴びせるウタカタを電撃波が襲ってくる。
「くっ、ダメか!」
ウタカタは斬撃をやめて次の障壁へと向かった。
雷の精霊は逃すまいと、声にならない雄叫びをあげる。
『オオオオオオオーーーッッッッ!!!』
雄叫びが渓谷で反響する。
その音で空気が震える。
すると、雷が渓谷に落ちた。
ズドオオォォォォォォォーーーーーンッッッ!!!
今まで聴いたことないほどの爆音。
その音がさらに反響し鳴り止まない。
雷が落ちた後、僅かに遅れて雷の精霊の球体の体が回転した。
ウタカタが障壁へと走る僅かな時間、その間に雷の精霊から電撃波が放たれた。
そして、電撃波は見事にウタカタを捉えた。
「うぉあぁぁーー!!」
だが、その電撃波は今までと違い、ウタカタを狙ったものではなかった。
それは、周囲全てを襲う全方位電撃波だった。
「金剛鎧装!」
凄まじい威力で放たれた電撃に、まともに動くことができないウタカタは、金剛鎧装で凌いだ。
『凄まじい威力じゃ。彼奴まさか、現世のマナを取り込んでおるな!?』
「なんだいそれ?わかるように教えてくれるかい?」
ウタカタは金剛鎧装で電撃波を防いでいるが、さっき受けたダメージから動かずにいた。
『精霊の力の源はマナじゃ。これがなければ、いくら聖霊と言えど何もできん。そのマナを取り込む訳じゃが、封印が解かれてからこの数日、現世でずっとマナを取り込んでおったな』
「じゃあ、封印が解かれてから時間が経てば経つほど、強くなるってことかい?」
『そういうことじゃ。能力にマナを割けるため、強力な攻撃ができる上、器とする肉体の強化もできる。彼奴、危険じゃぞ』
「合点がいったねぇ。道理で、硬かった訳だ」
ウタカタはゆっくりと立ち上がる。
「なら、決着をつけにいきますかねぇ」
金剛鎧装にヒビが入っていた。
長くは持たないと判断して、深手を負っても立ち上がるウタカタ。
すると、雷の精霊の全方位電撃波が止む。
「ん?攻撃が……止んだ?」
雷の精霊の球体の体が震える。
そして、再度凄まじい咆哮をあげた。
『オオオオオオオーーーッッッッッ!!!』
その音を聞きウタカタは、次にくる攻撃が何か予測がつき青ざめる。
「まずいっ!またあれを食らったら、もう鎧装が保たない!」
ウタカタは、考える余裕もなく精霊へと駆け出した。
攻撃が来る前に決着をつけるため、重い金剛鎧装を解く。
そして、土の精霊の力で渓谷の足場から中央に座す雷の精霊の元へと道を作る。
その道を、ウタカタは迷うことなく真っ直ぐに突き進む。
雷の精霊まで後少しのところで、それは落ちた。
ズドオオォォォォォォォーーーーーンッッッ!!!
ウタカタは刀を水平に高く構え、刀の切先を雷の精霊へと向けて飛びかかった。
その構えは、間違いなく対象を貫くためのものだった。
「食らえ!我流・無影刺突!!」
鋭い突きが繰り出される。
しかし、雷の精霊の球体の体が回転した。
その回転により、刺突の軌道は逸らされて、弾かれてしまった。
「時間がない。全力の一撃で賭けに出るか!」
ウタカタはもう一度突きの構えを取る。
先程と違い、その刀は風を帯びていた。
『風を纏わせてる!ボクの風だあー!』
風の精霊が興奮をあらわにする。
そして、纏わせた風を切先の一点に集中させていく。
「これで貫けえーー!!無影刺突・神凪!!」
風を纏い、さらには一点集中させて威力を増した無影刺突を放つ。
その突きは、雷の精霊の格子に直撃した。
ウタカタの放った無影刺突・神凪の威力と精霊の格子の硬度が拮抗する。
しかし、すぐに格子にヒビが入った。
もう一押し、あと一押しで格子を破壊できる。
「まだ終わりじゃねえ!!」
ウタカタの刀の切先に集中している風が、鋭い突きと同様鋭く尖る。
先ほどまでの神凪破斬とは違い、風の斬撃ならぬ風の刺突となって放たれた。
ピキピキ、バキッ!
鋭い風が格子を貫く
そして、その風の刺突は、雷の精霊の核へと届いた。
スパァッ!ピキピキ、パリイィィィーーーンッッ!!
雷の精霊の核が真っ二つに裂かれ、甲高い音を渓谷に鳴り響かせて砕けた。
雷の精霊の肉体が、滝に飲まれていく。
「なんとか……間に合ったねぇ」
ウタカタは疾風の陣を解いた。
膝をついて冷や汗をかき、肩で呼吸をしていた。
渓谷の入り口、森との境界線から巫女が姿を現した。
渓谷の中央、ウタカタの元へと駆け寄る。
「ウタカタさん、お疲れ様でした。御無事ですか?」
セツナは腰を落として膝をつき、ウタカタの背へと手をやる。
覗き込むようにしてウタカタの顔色を伺った。
「あまり顔色が良くありませんね。精霊様の封印をしたら、すぐに街まで降りましょう」
「はぁはぁ……すまないねぇ」
その一言だけ発して、ウタカタは荒い呼吸を整える。
『これはなんだ?何が起きた?』
それは、雷の精霊の声だった。




