風の刃
『……見つけた!』
風の精霊は渓谷に続く道、もとい、風を見つけた。
『方向はボクが指示する!』
風の精霊は、暗闇の森に進むべき風の道を二人へと伝える。
その指示に従い、二人は森を進んだ。
しばらく進むと森を抜けて、二人の前には広大な渓谷が広がった。
「案外、すんなり出れたねぇ」
「やりました、着きましたよウタカタさん」
その渓谷に流れる一つの滝の前に、紫色に輝く大きな球体が浮かんでいた。
その球体はバチバチと鋭い音を立てて、電気を纏っていた。
常に形状を変えるその身に帯びた電気が、雷の精霊から放たれ続けている。
「あれは近づきたくないねぇ」
『そもそも、どうやって近づく?あいつ浮いてるよ?』
「実は風の精霊さんの時も浮いてたんだよぉ」
『そっか、ボク暴れてたから覚えてないんだ。それで、どう倒したの?』
「そん時は、土の精霊さんの力借りて足場を作ったのさ」
『なるほどね!じゃあ、今回も同じだ』
「そうだといいねぇ」
ウタカタは居合斬りの構えを取る。
精霊は渓谷の窪みで宙に浮いている。
斬りつけるにしても足場が必要だった。
ウタカタは風の精霊を倒した時と同じく、石柱を発生させ、それを雷の精霊の元まで伸ばして近づく。
「磐境障壁!」
前回同様、障壁を作り精霊からの攻撃を防ぐ。
『おぉー!これなら攻撃防げて近づけるね!ボクの時もこうやって倒したんだ!?』
「まぁねぇ。ただ、まずは核を探さないとねぇ」
ウタカタが十分に間合いを詰めると、目の前の障壁を解除し、居合斬りができる状態を作る。
加えて。
「疾風の陣!」
肉体の加速効果を得る。
抜刀の速度を今まで以上に速くする。
そして——。
「抜刀浮雲!」
ウタカタの居合斬りが決まった。
しかし——。
ガキィィィンッッッ!!
ウタカタの刀が弾かれる。
刀は確かに雷の精霊を捉えた。
しかし、ウタカタ十八番の居合斬りは、通じなかった。
「ウソでしょっ……!?」
ウタカタは驚きをあらわにした。
自分の得意技が通用しなかった事実が、ウタカタの精神を追い詰める。
そして、刀が弾かれたことで大きな隙を晒す。
その隙を、精霊は見逃さなかった。
「ぐわぁっ!」
鋭い電撃波がウタカタを襲う。
堪らず片膝を付いて崩れるウタカタ。
しかし、暴走する精霊は待ってはくれない。
次の攻撃を仕掛けようとしている。
『まずい!』
土の精霊が咄嗟に口にする。
しかし、現世に顕現できていない精霊では、現世に干渉することはできない。
何もできぬまま、ただ見ることしかできなかった。
「磐境障壁!」
間一髪、次の一撃を防ぐ。
「いやぁ、今のは痺れる一撃だったねぇ。効いたよぉ」
強がりか、それとも軽口なのか、ウタカタ以外にわかるものはいなかった。
しかし、ウタカタの目には闘志が残っていた。
『やれるか!?』
「もちろんさぁ。というより、やらないと、なんだけどねぇ」
ウタカタは間近で雷の精霊を見た。
精霊の肉体は、金属のような硬い格子で覆われて守られていた。
その肉体に帯電して、格子をまるでレーザーのように変えていた。
「ありゃ硬すぎてダメだねぇ。何か別の方法を考えないと」
ウタカタは磐境障壁の後ろで身を守りながら、自身の居合斬りが通用しなかったことを認めた。
そして一度、石柱を引っ込めて雷の精霊から間合いを取る。
『打つ手はあるのか、ウタカタ!?』
「ないから、今考えてるよぉー」
打つ手なしの状況で近距離に居続けるのは危険と判断したウタカタは、磐境障壁だけを残して身を守りながら、遠くで浮いている雷の精霊を見つめる。
「何か、遠くからあの格子の隙間を通して攻撃する手段がないものかねぇ」
ウタカタが一人必死に考える。
「何だかこうやって隠れて、お互い遠くから攻撃し合うのって、雪合戦みたいだねぇ」
遠くから攻撃という言葉を聞き、風の精霊が提案をする。
『ねぇねぇ、ボクのように風を刃のように鋭くして飛ばすのはどう?』
「あのカマイタチみたいなやつか!?アリだねぇ」
ウタカタはどうやればできるのか風の精霊に聞く。
『風を一箇所に圧縮して薄く鋭い刃に研いでいくイメージだよ。そしたら後はその風の刃を目標目掛けて飛ばすだけさっ!』
風の精霊がどのように想像するのが良いか教えてくれた。
ウタカタはその教えに従って実践してみる。
「風を一箇所に圧縮、薄く伸ばして鋭くする。そいつを飛ばす」
ウタカタは、言葉を反復しながら想像してみた。
しかし、一向にそれらしい現象は起きなかった。
「うぁーー、ダメだ!刃を飛ばす想像がうまくできない!どうしたら……」
ウタカタがカマイタチを繰り出す練習の最中、雷の精霊の電撃波が飛んでくる。
障壁で正面からの攻撃は防げるが、電撃波がウタカタの周囲を取り囲むように迫ってきた。
「電気の牢獄だねぇ、こりゃ。捉えられたら脱出不可能だねぇ」
ウタカタは素早く走り抜けて場所を移し、電気の牢獄から逃げる。
ウタカタを狙い撃つように、雷の精霊から電撃波が飛ばされる。
「あの雷の牢獄、俺の後を追ってきやがるなぁ。面倒な技を仕掛けてきたねぇ」
ウタカタの後を追いかける電気の牢獄、そして精霊からは狙い澄ました電撃波がウタカタを襲う。
雷の精霊から繰り出される電撃波は、ウタカタよりも早かった。
「まずいっ!磐境障壁!」
さらに磐境障壁を作り出し、電撃波を防ぐ。
「一箇所に止まらせないための牢獄に、移動時を狙う電撃波か、性格悪いねぇ。だったら——」
ウタカタは複数の逃げ場所を確保するため、磐境障壁を複数散りばめて発生させた。
「これでいくつか身を隠せる場所ができた。あとは、遠くから攻撃できる技があれば完璧なんだが、うまいこといかないねぇ」
ウタカタは障壁に身を隠しながら、電気の牢獄が迫ると次の障壁へと移る。
「風の刃を飛ばす感覚、これさえ掴めれば……」
ウタカタは獲物の刀を見つめる。
刀を使って遠くまで攻撃できたらと考えていた。
そして、ウタカタは閃いた。
「これなら想像しやすいや、もしかしたら、できるかもしれないねぇ!」
風の精霊はキョトンとしていた。
ウタカタは居合斬りの構えを取る。
しかし、今は間合いをとっており、この距離では刀は届かない。
居合斬りの構えを取ったまま、磐境障壁から身体を出した。
「神凪破斬!」
ウタカタは素早く抜刀した。
刀は空を斬った。
しかし、その斬撃から風の刃が放たれた。
「想像しにくかったら、実際に刃を使って再現すればいい」
風の刃は刀の刃から、それを飛ばすのは斬撃を届かせようとする動きから想像した。
そして、放たれた風の刃——神凪破斬は、雷の精霊の肉体に届いた。
ズバァッ!
刃は、球体の精霊の身体を取り囲むようにして守る雷の格子の隙間を掻い潜り、肉体を切り裂いた。
「手に入れたよぉ、風の刃を!」




