旅の最終日
全力で街へと走る二人。
そしてついに、二人は息を切らして街へと着いた。
冷や汗をかきながら、街の様子を確認するウタカタ。
広場には、焼けこげた地面の跡があった。
「無事か!?被害はないか!?おい!みんな大丈夫なのか!!」
ウタカタは声を枯らして叫んだ。
街の人が続々とウタカタの元へと集まってきた。
「ものすごい音だったな、みんな大丈夫か?」
「雷が落ちたのはここ?」
「すげぇ音がしたけど、平気か!?」
「最近すごい雷落ちてたけど、まさかここに落ちるなんて」
「空は真っ暗だし、最近何かおかしいよ!」
「一体何が起きてるんだ!?」
街の人々がそれぞれの反応を見せる。
集まった人たちから最近の様子を聞き、同時に雷の精霊が暴走していることでこんなことが起きていると、ウタカタとセツナは街の人たちに伝えた。
その話の中で宿の場所を聞き、二人は宿を確保した。
何事もなかったのは不幸中の幸いだった。
しかし、雷の精霊の暴走による被害が、すでに街にまで訪れているという危機感を、二人は感じたのだった。
「いやぁ、雷が街に落ちた時は肝を冷やしたねぇ。一時はどうなることかと思ったよ」
布団に仰向けに寝転がりながら、街に落ちた落雷のことを思い返す。
『お主は独り言が多いな、ウタカタよ』
「えっ?そうかい?これが普通なんじゃないかい?」
ウタカタはセツナとは別室で、一人部屋でくつろいでいる。
土の精霊はそんなウタカタを見て、少し呆れた口調で話す。
『お主はもっとこう、緊張感を持たんか。いつも冗談なのか本気なのかわからんわい』
そう言われて、ウタカタは精霊に反論した。
「嫌だねぇ、俺はいつだって本気だよ」
ウタカタは、ここまでの旅を振り返った。
数の増えた魔物に包囲され、金剛鎧装を使って危機を乗り越えたこと。
しかし、金剛鎧装は重く、戦いには使えるが、精霊の封印の地へと進む旅では、足を引っ張る要因だった。
「今の所、なんでも防げるかなり便利な鎧なんだけど、金剛鎧装を使っての旅は、長くは続けられない。何か考えないとねぇ」
『だったらボクの力を使うといいよ!結構ボクの能力、役に立つと思うよー!?』
風の精霊が口を挟む。
ウタカタは、無精髭をこすりながら案を考える。
「そいつはありがたいねぇ。せっかくだし何か、能力考えますかー!」
ウタカタは体を休めながら、一晩じっくりと考えた。
翌日、二人は宿を出る。
「今日が到着予定日です、気合い入れていきましょう!」
セツナの気合いは十分だった。
「おぉ。ホント、気合い入ってるねぇ」
ウタカタの顔色は良く、十分に休息を取れたようだ。
「俺も、気合い入れて頑張りますか!」
二人は街を後にし、森を抜けた先にある渓谷を目指す。
「森の中を進んでいく訳だけど、迷ったりしないよねぇ?」
「大丈夫です、渓谷は広いので進んでいけばどこかに出ます!」
それを聞きウタカタの表情は引き攣った。
「まさか、そんな楽観的に考えてないよねぇ?ちゃんと根拠のある自信なんだよねぇ、セツナ?」
セツナはニコニコしたまま、何も言葉にしなかった。
「わかった、付き合うよ」
もうどうすることもできないと悟り、ウタカタは諦めて受け入れた。
暗闇の森の中を進んでいく。ところどころ落雷により焦げている木があった。
焦げ臭いニオイもまだ残っており、最近この辺りにも雷が落ちたことが伺える。
「今も相当雷落ちてるけど、この辺はかなり雷が落ちたみたいだねぇ。焦げてる木ばっかりだよ」
「そうですね。焦げ臭さも残っていて、雷が何度も落ちたのでしょう……見てくださいウタカタさん。あの大木、途中で折れて倒れてます」
「どうやら、どでかい雷に打たれたようだねぇ」
雷の精霊のいる渓谷が近い森は、街とは比較にならないほど被害が出ていた。
しばらく森を進むと雷の音が反響して響き渡っている音が聞こえてきた。
「これってもしかして、渓谷で雷の音が反響してるのか?」
ウタカタは絶えず聞こえてくる音に、渓谷が近いことを予感した。
「なら大人する方は向かえば渓谷に出られますね!」
目的地に近づいてきた実感を得たセツナは、足取りが軽やかだった。
しかし、その期待を裏切るように、森は二人を閉じ込める。
「さっきからおかしいねぇ、同じようなところをぐるぐる回っている気がするよ?」
ウタカタが目を細めて言った。
「そんな、まっすぐ進んでいれば絶対渓谷に出られるはずです。もう音も聞こえてすぐそこですよ?」
セツナは何が起きているのか理解できず、困惑していた。
するとウタカタは暗闇の森の中で、一本の木を見つめた。
「ここ見てご覧よ、刀傷だ。もちろん、土の精霊さんの時みたいに、犯人が付けたものかもしれないけど、俺が付けたものかもしれない」
「え?ということは、この辺を私たちはぐるぐる回っているかもしれないってことですか?」
「そういうこった!」
セツナはすっかり意気消沈し、その場にうずくまってしまった。
「私もう疲れました。足が痛いです。もう歩けません」
いつになく弱気のセツナ。
ウタカタがそんなセツナを奮い立たせようと言葉をかけようとしたその時——。
「……っ!まずいっ……!」
ウタカタは咄嗟に柄に手を伸ばす。
「ちっ、遅かった。囲まれちまったねぇ」
周囲には無数の雷の魔物が集まっていた。
「体が光ってたから、それを目印に判断していたのが仇になったねぇ。まさか、その明かり、抑えられるなんてねぇ」
雷の魔物特有の帯電した肉体による明かりを目印として、暗闇の中魔物がいるかどうかウタカタは判断していた。
「え!?嘘?こんなにたくさん……」
突如無数の明かりに囲まれたことで、セツナもその悍ましいほどの数に驚愕した。
「セツナ、結界を張るんだ!あとは俺がなんとかする」
セツナは言われるがまま祈りによって結界を張った。
「こんな時のためにねぇ、実は昨日風の精霊さんに相談したんだよ。大勢の魔物を相手するのに使える技がないかって」
まるでウタカタの身体が竜巻かのように、ウタカタの体から風が巻き起こる。
ウタカタの周囲の小枝や枯葉が巻き上がり、周囲へと散る。
『ボクが得意な能力は風を起こすこと。だけど、物質を早く動かす力も持ってるんだよ!』
「それを聞いてピンッときてねぇ。俺の動きを早めてくれれば、そもそも攻撃が当たらないから金剛鎧装を使わなくて済むんじゃないかって」
ウタカタは身体に風を纏って言った。
「名付けて、疾風の陣!」
言い放つと同時に、ウタカタは魔物を素早く斬った。
「泡沫一閃!」
目にも留まらぬ速さで、次々に魔物を倒していく。
昨日と同様、あるいはそれ以上の魔物の数を相手に、ウタカタは難なく倒し切ってしまった。
「こいつはいいねぇ。守りだけじゃなくて攻めにも活用できる、良い能力だねぇ風の精霊さん」
ウタカタが風の精霊を褒める。
それを受けて、風の精霊はご機嫌な様子で誇る。
『でしょ、でしょー!ボクって優秀だからね!相当役に立ったでしょ!?』
『まったく、お主は調子のいい奴じゃのう』
少し呆れて土の精霊が口を挟む。
『ボクほど優秀じゃないからって、そんなに妬まないでよー』
風の精霊は土の精霊の発言には意にも返さず、浮かれている。
「問題は魔物の方じゃなくて、どうやって渓谷に出るかだねぇ。どうなってるんだい、こりゃ」
『もしかしたら雷の精霊が暴れているせいで、この辺の磁場が狂ってるのかもしれないね。真っ暗な森の中で方向感覚もなくなるし、音だって渓谷で反響しているから、本当はどこから音がしているのかだってわからないんじゃないかな?』
ウタカタに褒められたことを機に、風の精霊はやたらと口数が増えた。
「あるかもねぇ。何か渓谷に出る方法はないかい?」
すると、口数の増えた風の精霊が思いついたように言った。
『渓谷に吹き抜ける風がどのくらいかわからないけど、ボクならその風の通り道を感じ取れるかもしれない。やってみようか?』
風の精霊が風を読み、渓谷へと続く道を見つけられるかもしれない。
それを聞き二人はこの森の迷宮から出られると期待した。
「本当ですか、精霊様!お願いします、渓谷に続く道をなんとか見つけ出してください!」
セツナが必死に風の精霊にお願いする。
『いいよー!優秀なこのボクに任せてー!!』
風の精霊が周囲の風を読む。、
しばらくの沈黙が続き、二人の期待が膨らんでいく。
そしてついに、風の精霊が口を開いた。




