敵を一掃する一太刀
街道で野宿をした翌日、ウタカタの身体は酷く凝っていた。
身体は重く、目の焦点もどこか定まらない。
普段の軽口すら出てこないほど、疲労が残っていた。
セツナも同じだったが、ウタカタよりはかなりマシな状態だった。
「やっぱり街道で睡眠を取ったのが効いてるねぇ。疲れが全然取れやしない。それどころか、身体バッキバキだよぉ。おかげで目は覚めたけどねぇ」
なんとか叩き出した軽口を、ウタカタは眠そうな顔で言った。
「寝るような場所ではありませんからねー。まさか、野宿することになるなんて……今日こそは必ず宿に泊まりますよ!別室で!!」
セツナは宿で一泊するために、重い体を奮い立たせて張り切っていた。
「はいはい、そうだねぇ」
そんなセツナを横目にウタカタは軽く受け流す。
「元気がないですねー、そんなんで大丈夫ですか!?」
「逆に君は元気だねぇ、セツナ」
「まぁ、戦ってませんからねー」
真っ直ぐにウタカタを見つめて言う。
軽口を叩けないウタカタさんに変わって、私が軽口を叩いてあげましょう、といった表情をしていた。
「くぅーー、こっちの気も知らないでぇー!」
「あはははっ、冗談ですよ!感謝してます。大変だと思いますが、頑張って下さい、ウタカタさん!」
「あぁ、そう言ってもらえると、おじさんやる気出てきたなぁ、いっちょ頑張りますかぁ!」
ウタカタのやる気が出てきたところで、次の街へと続く街道をひたすら歩く。
そして、歩みを進めていくにつれて、魔物が現れる頻度が増してきた。
「金剛鎧装を使えば攻撃は防げるんだけど、めちゃくちゃ重くてねぇ、あれつけて長いこと戦うのは身が持たんのよねぇ」
ウタカタは昨日ほどではないが、多くの雷の魔物に包囲された。
「だからちょっと考えたんだぁ、一掃できる技が何かないかって。そして思いついた!ちょっと重たいのは仕方ないけど、一瞬だけだからねぇ」
ウタカタの持つ刀を岩や鉱石が覆う。
次第に膨れ上がりその刀は大剣のような大きさになった。
その姿は、まるで斬馬刀だった。
「精霊さんのマナを貰ってるおかげで、こんな大きな剣でも楽々扱えちゃうよっ!」
そう言うと、斬馬刀のような姿に変貌した刀で水平斬りを繰り出す。
「喰らいなぁ、磐座破斬!」
雷の魔物たちは一撃で一掃された。
「まっ、扱える力はあるけど、疲れはするから使うのは一瞬だけだけどねぇ」
ウタカタが水平斬りで一掃したことを確認すると、刀を覆っていた岩や鉱物が崩れ落ちていき、元の刀のサイズへと戻った。
「ウタカタさん!新しい技ですか!?」
「土の精霊さんの力を借りたんだぁ。名付けて、磐座破斬。土の精霊さんの名前から取っただけだけどねぇ」
『ワシの力を攻撃にも活かすか、やるではないか』
「まぁ、それほどでもー、あるかもねぇ」
刀を納刀し、頭をポリポリと掻いて照れるウタカタ。
『えぇー!ずるいなぁ、ボクの力もカッコよくて使って見せてよー!』
風の精霊が、土の精霊の能力ばかり活かしていることにちょっと嫉妬する。
「そうだねぇ、風の精霊さんの能力も活かせるように何か考えないとねぇ」
ウタカタは無精髭をさすりながら考える。
しばらく街道を進んでいくと、雨が降り出した。
しかし、悪いことばかりではなかった。
街までの距離を記した看板が見つかったのだ。
「見てください、ウタカタさん!あと一、二時間程で街に到着しますよ!」
「本当だねぇ、この調子なら、夕方頃には到着かなぁ?」
予期せぬ朗報が手に入り、二人はご機嫌な様子。
昨日のような峠越えはなく、今日はひたすら街道を進む旅。
開けた場所ということもあり、魔物との戦闘もそれほど大変なものではなかった。
「明日が最終日です、ウタカタさん。なんとしても明日、雷の精霊様の封印の地へ到着しますよ!」
それを聞きウタカタは、封印の地がどこかセツナに尋ねる。
「そうだ、今日までの道のりの予定は聞かされてたけど、肝心要の雷の精霊さんの封印の地がどこか聞いてなかったよ。一体どこなんだい?」
雨が激しくなっていく中、雷が落ちた音が鳴り止んだことを合図に、セツナは答えた。
「谷です」
セツナは雷の精霊の封印の地をウタカタへと伝えた。
「森を進んだ先に大きな渓谷に出ます。その渓谷が
雷の精霊様の封印の地です」
「へぇー、渓谷かぁ。山じゃなくなってよかったよ。毎回山登りはしんどいからねぇ」
セツナは心配そうな面持ちで話す。
「精霊様との戦いとなると、山のようにまだ足場が地続きになっている方が良かったかもしれません」
「おゃおゃ、心配してくれてるのかい?大丈夫、それなら土の精霊さんの力を借りて足場を作ればいいさ」
「なら……いいのですが」
「いつもと違って心配性だねぇ、そんなに雷の精霊さんはやばいのかい?」
「いえ、私もほとんど精霊様のことは知りません、伝承だけですので。でも、渓谷となると山よりも戦いにくいかと」
足場のない渓谷の中央に、風の精霊のように宙に浮く戦いをされたらいきなり難易度が上がる。
ウタカタも、その辺はすでに予測済みだった。
「戦いのことは俺にまかしときな、セツナ」
自信満々に胸張って言った。
その様子を見てセツナは、晴れた顔つきへと戻った。
「そうですね!私は信じて戦闘を見守っておきます」
街道を進むにつれてやはり魔物の数が増えてきた。
ウタカタは磐座破斬で一掃し、昨日よりも旅の歩みは順調だった。
「昨日とはうって変わって、今日はなんだか順調だねぇ。順調すぎて、なんだか少し気味が悪いよぉ」
ウタカタが昨日と比べて旅が順調であることを、気味悪がる。
「ウタカタさん!余計なこと言わないでなさいよ!何か大変なことが起きたらどうするんですか!」
「まぁ、そうだねぇ。でも、雷の精霊さんとこに近づいてるわけだし、何もないことはないと思うんだよねぇ」
すでに空は暗闇に覆われていた。
黒い雲からは一筋の雷が落ちる。
けたたましい音を立てて、何度も落ち続ける。
「……そうですね。目の前に広がるこの景色、雷の落ちる音。すでに大変な惨事です。これ以上がないことを願います」
そして二人は街道を進み直した。
看板にあった通り、しばらく進み続けると街の明かりが見えてきた。
「こうもお日さんの光がないと、街の明かりが遠くまで届くんだねぇ。いやぁ、街に着けてよかったよぉ」
ウタカタは胸を撫で下ろしてそう言った。
「まだ安心はできませんよ、街までまだ少しあります」
セツナは気を引き締めて言った。
「お堅いねぇ、セツナ。もう着いたも同然じゃないの、気楽に行こうよ」
ウタカタが戯けた様子で話す。
すると、希望を見せてから絶望に叩き落とそうとするかのように、一筋の落雷が街へと落ちた。
ドーーンッ!!
ゴロゴロゴロゴロッ!!
凄まじい音を立てて落ちた雷。
二人を一気に緊張状態へと誘う。
「落ちたねぇ……」
体が固まって呆然と立ち尽くすウタカタ。
「急いで向かいましょう、ウタカタさん!」
ウタカタには見向きもせずに一直線に街へと駆け出すセツナ。
走り出したセツナの後ろ姿を見て、ハッと我に帰り後を追うウタカタ。
街へと落ちた雷が、街に被害を与えていないか。
無事であって欲しい、無事を早く確認したい。
そんな心配が、二人を支配した。




