暗闇の中での峠越え
翌朝、ウタカタとセツナは早くに起床し、雷の精霊の封印の地を目指すため、旅の準備をしていた。
その最中、激しい雷鳴を轟かせ、何度も雷が落ちていた。
「もうここまで雷が落ち始めているねぇ。昨日までは大したことなかったのに」
ウタカタはその音を聞き、被害がさらに広がっていることを感じていた。
「急いで出発しましょう、ウタカタさん。三日で到着が目標です!」
「最低でも三日かかる距離なんだよねぇ?無茶言うねぇ、セツナ」
身支度を整えて、二人は宿を後にした。
外へ出ると早朝とは思えない景色が広がっていた。
「おやぁ?今って、朝の6時頃のはずだよねぇ?真夜中にしか見えないよー、この景色」
空は真っ暗な雲に覆われて、少しの光も差し込む隙間がなかった。
あるとすればそれは、雷鳴が轟く際に生じる稲光だけだった。
セツナは呆然と立ち尽くしていた。
先ほどまで三日で到着を目標に掲げていた強気な発言が嘘のように、今は言葉を失い、ただ、暗闇に覆われた空を見上げていた。
「こいつは急いだ方が良さそうだねぇ……」
ウタカタの声にやっと我に帰るセツナ。
「急ぎましょう……」
しかし、言葉には力がなかった。
それでも、雷の精霊の封印をするべく、封印の地へと向かう。
街を出て峠へと向かう道中、昨日とは比べ物にならないほど、雷の魔物が数多く暴れていた。
「街道に出た途端魔物がうじゃうじゃいるねぇ。お日様の見えない真っ暗な中だから、いい明かりにはなるけど、ちょっと目障りかなぁ」
ウタカタは刀の柄に手を伸ばして抜刀する。
雷の魔物は肉体が帯電しており、暗闇を照らす明かりとなっていた。
暗闇の中でわかりやすい目印となり、ウタカタの居合斬りが雷の魔物を一撃で退治する。
次々に斬り捨て、街道にいた雷の魔物を一掃した。
「道のりの確認だけど、このまま峠を目指して、峠を越えたら近くの街に寄って宿を取るんだよねぇ?セツナ」
「はい、その予定です。峠越えは半日くらいかかりますが、そこから街までそこまで遠くないので一日で行ける距離かと」
ウタカタは距離よりも別のことを懸念していた。
「この真っ暗な世界で峠を越えるとなると、予定より相当時間がかかるんじゃない?」
空は真っ暗な雲で覆われており、陽の光が差し込まない。
そんな真っ暗な中で峠を越えるとなると普段以上に時間がかかる。
ウタカタは、暗闇の中での峠越えによって、一日で次の街に辿り着けないのではないかと懸念していたのだ。
「そうですね、暗闇で足場の悪い峠越えは時間がかかりそうです。道なりにまっすぐ続く街道を早く進んでいきましょう」
前日に立てていた予定通りに進めるため、二人は足場の整った街道を早めに進み、峠越えに時間を割けるように計画を変更した。
そして、しばらく街道を進むとようやく峠が見えてきた。
「やりました!峠が見えましたよウタカタさん」
「そうだねぇ。ただ、ずっと暗いから今が何時頃かわからないってのが、意外と辛いねぇ。時間配分がうまくできないこの感じ、うーんモヤモヤするねぇ」
「峠で休憩は取りずらいので、ここで一旦休憩しておきましょう」
「そうだねぇ、取れるときに取っておかないと、休憩取れなくなっちゃうからねぇ。ふむ、この感じ、俺の腹時計から察するに、もう11時くらいかねぇ」
「てきとうなこと言わないでください!予定では9時頃峠に着いて昼過ぎに峠越え、休憩を挟んでも15時には峠越えを終えて、18時頃街に着く予定です」
「だとしたら、街道ですでに2時間も出遅れてるねぇ。峠超えはもっと遅れると見た方がいい」
ウタカタの声色から、普段のおちゃらけた雰囲気が消えていた。
それだけ今の状況がまずいと判断したのだろう。
セツナもそれを感じとり、先ほどまでの威勢を失う。
1時間ほどの休憩をとり、二人は食事を済ませた。
「よし、行こうか。街道は安全だったけど、峠も安全とは限らない、足元に気をつけながら進もうか」
ウタカタからは、普段の軽口が消えていた。
ウタカタが前を歩き安全を確保する。
その後ろをセツナが付いていき、進む道を指示する。
足元に気をつけながらゆっくり進んでいく。
その道中、暗闇を照らすように雷の魔物が二人を襲う。
「この暗闇の中だと魔物がどこから襲ってくるのか普通ならわからないけど、体が光ってるおかげでよく見えるねぇ」
普段の調子を取り戻すウタカタ。
峠を実際に進む中で、少し余裕を取り戻したようだ。
しかし、峠を進むにつれて魔物の数が増えていく。
「おいおいおいおいおい、こいつはぁマズイんじゃないの!?」
気づくと、周囲一体を無数の明かりが包んでいた。
暗闇を照らす明かり、それが何を意味するのか、この道中嫌というほど味わってきた。
「セツナ、結界を張るんだ」
「はい!……ウタカタさんは?」
「誰かが退治しなきゃこの状況は変わらないからねぇ。やるしかないよねぇ、どーも」
明かりの数を数えるのが困難な程、無数の明かりが二人を取り囲む。
帯電した肉体がバチバチッと鋭い音を立てながら、闇の中で明かりが揺らめく。
「ははっ、多すぎて笑っちゃうねぇ。こりゃ無傷じゃ済まないねぇ。力、借りますかー!」
すると、岩の鎧がウタカタの身を包む。
「金剛鎧装!」
その言葉を合図に、無数の光がウタカタへと向かう。
鋭い稲妻がウタカタを襲う。
ウタカタはまさに四面楚歌。
四方八方から稲妻が飛んでくる。
その稲妻を金剛鎧装が防ぎ、ウタカタの身体を守っていた。
ウタカタは、一体一体魔物を斬り伏せていく。
金剛鎧装により、その動きは普段よりも重く、鈍い動きをしていた。
十数分の死闘の末、辺りからは光が消え失せた。
「はぁはぁはぁ、ホントに重いねぇ、この鎧は。はぁーーー、ふぅーーはぁはぁ、こんなもの身につけて戦うとなると、長いこと戦ってられないねぇ。はぁー、鎧装解除」
ウタカタの体は無傷だった。
しかし、その代わりに相当の体力を奪われていた。
「大丈夫ですか!?ウタカタさん」
「あぁ、なんとかねぇ。もうあんな目はこりごりだよぉ」
峠超えは思っていた以上に時間を取られた。
暗闇による足元の悪さ、加えて魔物の大量発生。
しかし、落ちる雷の音が、二人の心を急かす。
早くしなければこの暗雲が広がり、被害を今以上に広げてしまう。
二人は、休むことなく峠を越えた。
「やっと、街道に出ました……」
セツナの声にはもはや生気がなかった。
疲労困憊、その言葉が今以上に当てはまる瞬間があっただろうかと思わせる程、この峠越えはセツナを苦しめた。
同様に、いや、それ以上に、ウタカタは疲弊していた。
「ここから街まで、普通に歩けばおよそ3時間で到着します。ですが、もう到着しても……宿は空いていないかもしれません」
今が何時なのか全くわからない。
暗闇に支配された世界で、外の明るさや太陽の高さ、そういった情報が一切なくなったことで、時間感覚を完全に無くしてしまったのだ。
「ここから無理して街に向かっても、宿を取れないのでは、街に向かう意味があまりありません。街には向かわずに、このまま野宿して、二日目に宿を取る予定の街に真っ直ぐ向かった方がいいかもしれません」
セツナは、雷の精霊による災害で、予定通りには進んでいないことを考慮し、予定とは別の進路を提案した。
「そうだねぇ、臨機応変にいかないとねぇ。おそらく、街に着くのは夜中になりそうだ。まぁ、元から真っ暗だけどね」
へとへとにくたびれた様子のウタカタだが、相変わらず冗談を言う。
「では、峠も越えたし、ここで野宿しましょう。街道沿いですし、比較的安全なはずです」
「峠で野宿より、千倍はマシかな。まぁ、峠で野宿なんて、したことないんだけどねぇ」
二人は何とか峠越えを果たした。
しかし、予定していた街への到着を諦め、野宿することにする。
明日はこのまま真っ直ぐに、次の宿を取る予定の街へと向かうことに決めた。




