迫り来る雷鳴
二人は宿を求めて街の方へと向かったが、凄まじい嵐の影響からか、街はすっかり閑散としていた。
「うーん、家も竜巻で吹き飛ばされているし、木材や瓦なんかも飛散してるから、この辺はもう人はいないかもしれないねぇ」
期待できそうもないといった口調で話すウタカタ。
「でも、寝泊まりするだけでは力が出ません、何か口にしないと。やはり、ちゃんとした宿を見つけましょう」
被害の大きい周辺の街は、どこももぬけの空で人と出会うことさえなかった。
二人は少し町外れの方へと向かい、被害が比較的少ない街を目指して歩く。
「まさかこんな大事になるとはねぇ。ちょっと事件解決するかーって気持ちだったんだけど、とんだ災難だよ、こいつは」
「そうですね、土の精霊様の封印さえすれば済むと思っていましたが、ここまで事が大きくなるなんて……」
二人は、今起きている問題の大きさに悩まされていた。
「さぁーて、とっとと宿見つけて休もう。もう体が限界だぜぇ」
二人は隣町に到着した。
街には明かりが灯っており、ある程度の賑わいを見せていた。
ここまでは、精霊の暴走による被害が出ていなかったようだ。
「さっ!宿に向かいましょう!私ももう限界です!」
消えゆくろうそくが如く、セツナは最後の力を振り絞りズンズンと街並みを闊歩して行く。
「おぉー、頼りになるねぇ」
その様子を見て、宿はセツナ任せにすることに決めたウタカタ。
そして二人は、ついに念願の宿を確保したのだった。
「いやー、一時はどうなることかと思ったよ!やっと街に着いたと思ったらだーれもいやしないし、宿がなくて絶望したねぇ、ありゃぁ」
宿の布団に仰向けになって倒れるウタカタ。
もう宿のことを心配せずに済むという開放感から、苦労話に花が咲く。
「あぁぁぁぁーー、ウタカタさん、ちょっともう、うるさいです、黙っててくださーい」
それに引き換え、声に全く元気がないセツナ。
「そんなに同じ部屋に泊まるのが嫌だったのかい?おじさん、悲しいねぇ」
どうやら残りの部屋は一部屋だけだったらしく、ウタカタとセツナは同じ部屋で一晩過ごさねばならない。
「あぁーーーもう!何でウタカタさんと同じ部屋で過ごさなきゃならないんですか!まったく!男女が同じ部屋で過ごすなんて不潔です!不潔!!」
「まぁまぁ、そう言わんでもー。セツナに何かしようなんて考えてないよー、ほんと」
「大丈夫です!!巫女の祈りで結界張っておくので!!」
「えぇーー!?そこまでするかぃ?ひどいねぇセツナ。おじさんここまで頑張ってきたのにー。……ていうか、寝てても結界張れるのかい?便利すぎやしないかい、それ」
「冗談に決まってます!!寝ながら祈りなんてできるわけありませんよ!!」
セツナがウタカタに怒り散らす中、ウタカタは飄々とした態度で話す。
「でも、疲れた後の風呂と飯は格別だねぇ。久々に頑張ったご褒美だね、こりゃ」
布団の上でごろりと横になったウタカタは、片肘をついて頭を手のひらに預け、足を組んだ。
無精髭を擦りながら、気の抜けた顔でセツナの方を向いて話している。
その顔はどこか満足げで、これまでの旅の苦労が今の幸せに繋がっているとでも言いたげな表情だった。
「それにしてもウタカタさん、強いですねー。どこでそんなに腕を磨いてきたんですか?」
突如セツナから質問が飛んでくる。
「まぁ、初めはごっこ遊びからだよー。チャンバラごっこ、男の子だからねぇ。それから、どうせなら強くなりたい、一番になりたいって、男の子なら誰しもそう思うものさぁ」
「え?ごっこ遊びで強くなったんですか?」
「まぁ、半分はねぇ。それから流浪の旅に出ていろんな強い人と戦ってきたよ。その人たちの技術を盗んで、学んできたのさぁ」
「盗むって、目で見てですか?」
「そだよぉー。教えてくださいって頭下げて頼むのは、なんか違うからねぇ。剣士なら、技術は見て盗め、盗み学んで実戦に活かせってね」
「へぇー、それで我流なんですねぇ」
「まぁねぇ。人の真似っこだけじゃあ、本当の意味で強くはなれないからねぇ」
ウタカタがどのようにしてその剣の腕を磨いてきたのか、セツナは初めて知った。
そして、次はウタカタがセツナに質問をする番となった。
「俺も聞きたい事があるんだけどさぁ、精霊さんって他にはどんなのがいるんだい?」
「9柱は土・風・雷・火・水・光・闇・空間・時間を司る精霊様がいます」
「へぇー、空間と時間ねぇ。面白い精霊さんがいたもんだ。ところで、精霊さんには名前はないのかい?このまま9柱の精霊さんの分霊が付いたら、精霊さんって呼びにくいし、いちいち土の精霊さん風の精霊さんって呼ぶのも面倒だからねぇ」
『ワシらにそのような呼称はない。過去に人間がワシらに名前をつけたことはあるがな』
「伝承によると、土の精霊様は『磐座』という名で呼ばれています。風の精霊様は『神凪』と呼ばれています」
『へぇー、そうなんだ!初めて知ったよ、ボク。なんかかっこいい響きだね』
『人間の付けた呼称など、どうでも良いわい』
それぞれに違った反応を見せる精霊達。
「へぇー、じゃあ他の精霊さんにも名前が付いてるのかー。何か、逆に名前覚える方が大変かもしれないねぇ。自分で言っといてアレだけど」
そう言うとウタカタは徐に立ち上がり、窓から外の様子を伺う。
「遠くで雷が……落ちてるねぇ……」
ウタカタ達のいる宿まで、その音は轟いてはいなかった。
だが確かに、遠くで立ち込める暗雲からは雷が落ちている様子が見てとれた。
「休まないといけない時は、ちゃんと休まないとだねぇ、セツナ」
自分にも言い聞かせるかのように、そうセツナに呟いた。
「今は、堪えるのが戦いです。休息も、戦いには必要なことですから」
「セツナ……君ホントに巫女かい?まるで戦士だねぇ」
「私には、やらねばならぬ使命がありますから」
どこか寂しげな表情で俯いたまま答えるセツナ。
ウタカタはそれ以上は何も言わなかった。
二人は明日のために、早めに床に着く。
しばらくすると、雷の落ちる音が聞こえてきた。
雷の精霊の暴走による被害が、次第に拡大していることを、雷の音が知らせてくる。
二人の焦燥感を逆撫でするように、雷は頻繁に落ちる。




