風の精霊の加護
ウタカタが一望した島の景色は相変わらずだった。
風の精霊を鎮めたことで竜巻は収まっていた。
しかし、天候は荒れたままで、暗雲が立ち込める中、大雨が降り続いていた。
「おかしいねぇ。風の精霊さんの暴走は鎮めたのに、何でこんなに天気が悪いんだい?」
ウタカタが疑問を投げかけるもセツナは答えられなかった。
「わかりません、何か別の災いでしょうか。私の知る知識では、特定できません」
「そうかい。まぁ、セツナが悪いわけじゃないさ。悪いのは精霊さんの封印を解いて回ってる黒幕だ。一体何を企んでいるのやら」
セツナも心当たりがなく、お手上げの状態だったが、風の精霊がこの天候を見て呟いた。
『うーん、この感じ、もしかしたら雷の精霊じゃないかなー?』
「雷の精霊?」
『うん。ほら、よく見てみなよ。雲がやたら暗い所。あそこ雷雲じゃないかな?」
「おいおいおい、今度は雷の精霊さんの封印が解かれたのかよ。黒幕の奴は、暇なのかねぇ?二つも山を登って今度は雷の精霊って、信じられない体力だよ」
「確かに、おかしいですね。まだ、土の精霊様の封印の地から風の精霊様の封印の地までは比較的近いですけど、雷の精霊様の封印の地はここからだいぶ離れたところにあります」
それを聞いてウタカタは、具体的にどれくらい離れているのか気になり、セツナに聞いた。
「ここから急いで向かったとして、何日くらいかかるんだい?」
「かなり急いだとしても、最低三日はかかると思います。寝ずに向かったのなら、二日くらいでしょうか」
「確実に日にちを跨ぐ距離ってことだねぇ。だとしたら、封印を解いて回っている黒幕は、一人ではないってことになるねぇ」
「確かにそうですね!物理的に一日で回ることができないわけですし、複数人の仕業ですかね」
しかし、ウタカタがここで考えを改める。
「まぁ、相手が乗り物になっていたら別だがねぇ」
「あっ……そうですね。それなら確かに一人でも可能になりますね」
黒幕が複数犯の組織単位だとわかったと思ったところ、結局何もわからないという振り出しに戻ってしまった。
「そもそも、どうして黒幕は精霊さんが封印されている場所を知ってるのかねぇ?」
このウタカタの素朴な疑問が、重要な要素になっていた。
「精霊様の封印の地は、代々巫女が受け継いでいます。つまり、この島では私の一族しか知るはずがありません」
「すると、セツナの一族の人間が封印を解いて回ってる可能性が高いってことになるねぇ。もちろん、そんなこと信じたくはないよ、仮の話さ、仮の!」
セツナは分かりやすく落ち込んだ。
「そう……ですね。場所を知っている人間が怪しいのは当然です」
「まぁ、そう気を落としなさんな。精霊さん曰く、黒幕は刀を持っていて耳飾りをしているわけだろ?それは当てはまるのかい?」
ウタカタは、セツナに気を遣って黒幕の特徴と一致するのか聞いてみた。
「いえ、普段そのようなものは身につけません。ただ、誰でもやろうと思えばできることでもあります。刀を持って耳飾りをつけるだけなら、誰でも」
「確かにそうだな。つまりは、まだ誰にでも可能性があるってことだ。早合点しなさんな、セツナ」
「そうですね!こんなところで弱気になっていても事態は変わりませんし、気を取り直していきましょう!」
セツナは笑って見せたが、まだどこか引きずっている、そんな表情をしていた。
「とりあえず、今日のところはどこか宿で休もう。土の精霊さんに風の精霊さんまで戦ったんだ。おじさん、もうへとへとだよ」
この辺が潮時だと判断し、すぐに事態を収束したい気持ちはあるが、一度休むことにした。
「そうですね、ウタカタさんお疲れ様です。風の精霊様の封印を施したら、宿をとりましょう」
『そうじゃ。此奴の力も受け取っておけ、ウタカタよ。今後必要になるかもしれぬ』
『えっ?それってボクの力?やだよー、だってマナを分け与えなきゃいけないじゃん!現世からマナを取り込むのにどれだけの年月がかかると思ってるのさー!バカバカバカ!』
子供のように駄々をこねる風の精霊。
土の精霊が親のように風の精霊を叱りつける。
『ええい、お主は暴走して災害を起こしたのだぞ!?お主に悪気はなくとも、現世に影響を与えたのじゃ!その責任は取るのが筋じゃろう!なーにを文句を言っておるのじゃ!バカはお主じゃ!それに、精霊ならもっと品のある言葉を使わんかい、この戯け者め!』
風の精霊は返す言葉もなかった。
『ごめんよぉ、ボクが悪かったよ。ボクの力、君に預けるね』
「いやぁ、そこまで言う必要なかったんじゃない?さすがにちょっとかわいそうかなーって、思っちゃったけど」
土の精霊の激しい叱責に、恐る恐る進言するウタカタ。
『分霊も付けてやれ、此奴は物を知らぬ無知で不届な人間じゃからのっ!』
土の精霊の矛先がウタカタにも向かう。
「あははー、こりゃ余計なこと言ったかな、俺?どうやら、地雷を踏むのが得意みたいだねぇ。こんな特技、欲しくなかったよ」
そんなことを言っている間に、風の精霊のマナがウタカタへと流れてくる。
そして、セツナも封印の儀を始めた。
「おやおや、ものすごいマナだねぇ。精霊さん二人——じゃなかった、ニ柱分のマナって凄い量だねぇ」
『そりゃそうさっ!何てったって精霊だからね!』
風の精霊が答える。
そして、セツナによる精霊の封印が完了した。
「終わりました。では、急いで宿へ行きましょうか。雨に濡れて体が冷えてしまいますからね」
二人は戦いの疲れを癒すため、宿へと向かった。




