表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/51

エピローグ「空気読めないやつ」

 光のゲートが閉じたあと、広場には静寂が落ちた。戦いが終わった街の空気は、勝利の余韻よりも別れの痛みに満たされていた。

 

 ジャンヌは膝をつき、泣いていた。ぐしゃぐしゃの表情のまま、声も出せずに肩を震わせて。


 その肩にそっと手を置いたのはカリスだった。戦場での鋭い眼光は消え、優しく穏やかな目になっている。

 

 「泣くなとは言わない。だが、顔を上げろ。たとえ世界が違っても、生きている限り、想いは繋がっている。別れは終わりじゃない。」

 

 ジャンヌの震えが少しだけ収まる。二人の会話を、少し離れた場所でガリベンが見つめていた。眼鏡の奥の瞳は強い光を宿している。

 

 「シンジさんは……もう戻ってこない。だからこそ、僕たちがエルフェンウッドを守る番です。それが、シンジさんへの恩返しになります。」

 

 抑えた声だが、意志は揺らがない。

 

 そこへ、息を切らしながら駆け寄ってきたのは修道服の裾を押さえて走ってくるマリナだった。広場に視線を走らせ、シンジとアテナがもういないことを悟る。

 

 「……そう、ですか。行ってしまわれたのですね。」

 目を閉じ、胸元のロザリオを握りしめた。

 

 「私があの部屋を貸したのは、あの子たちが、いつかここを出てゆく日がくると思ったからです。旅立ちのための帰る場所が欲しい人は、皆そうです。」

 

 声は震えているのに、微笑みは柔らかかった。

 「寂しいものですね。でも……誇らしいものでもあります。」

 

 ジャンヌは振り向き、涙を流しながら小さく頭を下げた。

 「……マリナさん……今まで……ありがとうございました……」

 

 マリナはそっとジャンヌの背中に手を添えた。

 「さよならは祈りの言葉です。また会えるようにという願いのかたち。あなたが恥じないよう生き続ければ、必ず届きます。」

 

 風が通り抜け、焦げた戦場の匂いが消えていく。ヴィヴィアナは空を見上げたまま、銀髪を揺らしていた。寂しげなのに、どこか凛として。

 

 「さよならだけが人生よ。でも、別れがあるから世界は美しいの」

 

 その言葉に、ジャンヌが顔を上げる。涙はもう乾いていた。

 

 「ご主人様に恥じないよう生きます。それが……わたくしのメイド道です」

 

 ほんの数秒、広場に温かな空気が満ちた。その瞬間、空気を裂く音とともに、光のゲートが突然再出現した。一同が息を呑む。

 

 マリナは胸元のロザリオを握ったまま、祈るようにゲートを見つめた。光のゲートが弾けるように開き、そこから二つの影が転がり出るように落ちてきた。シンジとアテナだった。

 

 

 数秒間、誰も声を発せなかった。風の音すら止んだように感じる静寂。

 

 「ご主人様、奥様……」

 

 最初に動いたのはジャンヌだった。喜びでも怒りでもなく、理解が追いつかない声。俺もアテナも、出てきた先の空気を察して固まった。

 

 (あ、なんか……やばい雰囲気だ、これ)

 

 全員の視線が俺たちに突き刺さる。だが誰も何も言わない。言うべき言葉が見つからないのだ。長い沈黙が続いた。。ワルツが何か言おうとして、言えずに口を閉じた。ガリベンはメガネの位置を直そうとして、手が途中で止まった。カリスは剣の柄に添えた手を離すでも握るでもなく、指先が震えている。マリナさんはロザリオを握ったまま、祈ればいいのか祝えばいいのか判断できない。

 

 膠着状態を破るかのようにジャンヌは一歩前に出て、困惑気味に尋ねた。

 

 「お二人とも、元の世界に戻られたのでは……?」

 

 俺は慌てて両手をぶんぶん振った。

 「ち、違う! なんかその、帰るつもりだったんだけど、戻されたっていうか。予定外のトラブルがあったんだよ。だから、もうちょっとだけこの街のお世話になろうかなって考えてたりして……」

 

 アテナも慌てて補足する。

 「そうなのよ! 美容ローンの支払いも残ってるし! 私たちが消えたらサロン側が困るでしょ!?  社会的責任というか!?  とにかく、そういうのよ!」

 

 ワルツは思わず叫ぶ。

 「なんだよそれ、別れの涙を返せよ! さっきまでめっちゃ良い雰囲気だったんだぞ!」

 

 ガリベンは珍しく冷静さを失って眼鏡を握りしめた。

 「い、いや……帰還は喜ぶべきことですが、ええと、論理的整合性が崩壊していますね」

 

 イザークは、誇り高き戦士の顔のまま固まり、震える声でつぶやいた。

 「……こ、これほど嬉しいことがあるだろうか……? 違うか……? 喜んでいいのか……? しかし……生きて……? いや……? どう受け止めれば……」

 

 カリスは口元を手で隠しながら、肩を震わせて笑っていた。。

 マリナはロザリオを握ったまま、祈ればいいのか祝えばいいのか判断できない。

 

 感動の空気は粉々に砕け散っていた。ヴィヴィアナが肩をすくめ、わざと大きなため息をついた。

 

 「二人とも、空気読みなさいよ」

 

 俺とアテナは同時にしゅんと肩を落とし、お互いの顔を見合わせて、諦めたように笑った。

 

 そして、みんなの力の抜けた笑い声が、風に混じって広場いっぱいに広がっていった。感動も、混乱も、涙も、全部まとめて飲み込んで、エルフェンウッドの空はどこまでも澄みわたっていた。

これにて一つの区切りとなります。

ここまで、お付き合い頂きありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ