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偽物令嬢?確かに私は偽物の様です。ですがそちらの聖女も偽物です。因みに本物の聖女で令嬢なのはあちらです。  作者: ウナ


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第2話:思いがけない逆転劇とご先祖様の秘密

水を打ったように静まり返るホールの中、カティアの処遇について国王も公爵夫妻も頭を抱えていた。


重苦しい沈黙を破り、再び教皇が静かな足取りで進み出る。


「国王陛下、皆様、まだ終わっておりませんぞ」


「教皇よ、まだ何かあるというのか」


国王が訝しげに眉をひそめると、教皇は手にした錫杖を軽く握り直した。


「はい。そもそもこの『血の神判』を行うための魔道具は、マリウス王太子殿下からの強い要望により、私が特別に王城へと持ち込んだものなのです」


その言葉に、ホールを囲む貴族たちの間に微かなざわめきが広がった。


「マリウス、どういうことだ」


国王の厳しい視線に晒されながらも、マリウスは勝ち誇ったように胸を張る。


「ふん、カティアが平民の血を引く卑しき娘であることを、誰の目にも明らかにするためです!」


(わざわざ自分の首を絞めるために国宝級の魔道具を借り出していたのね……本当にご苦労様なことですわ)


カティアは伏せた顔のまま、内心で深く溜息をついた。


教皇はマリウスの言葉を聞き流し、静かに首を横に振る。


「私は以前より、リンド公爵ご夫妻とカティア嬢にお会いする機会が幾度かございました。その度に、銀の髪と紫水晶の瞳というリンド家の特徴を色濃く受け継ぐカティア嬢を拝見し、どう見ても疑う余地のないご家族であると感じておりました」


「ではなぜ、殿下の無茶な要求を飲んだのだ」


「王太子殿下の誤解を解き、行き過ぎた横暴を止めるためには、神の御前で明白な証拠を示すしかないと考えたからです。さあ、カティア嬢、あなたもこの水盆へ」


教皇の穏やかな促しに、カティアは静かに頷いてルナティナの横へと並んだ。


(平民だという確たる証拠を突きつけられて、公爵家から追い出される流れですわね。まあ、それもよろしいでしょう)


カティアは渡された銀の針で躊躇いなく指先を軽く刺し、聖水へと一滴の血を落とす。


促されるまま、公爵夫妻の血も再び水盆へと注がれた。


三つの赤い雫が澄んだ水面を漂い、周囲の視線が一点に集中する。


やがて血の雫は淡い光を放ちながら、まるで互いを認識するかのようにゆっくりと近づき、混ざり合った。


先ほどのルナティナと公爵夫妻の鑑定で見せた、目も眩むような力強い黄金の光ではない。


しかし、確かな輝きを持つ穏やかで優しい黄金色の光が、水盆の底からじんわりと温かみを帯びて放たれたのである。


「なっ……!?ば、馬鹿な!平民の血のはずだろう!」


マリウスが目を丸くして叫び声を上げた。


教皇は満足げに深く頷き、ホール中に響き渡る声で高らかに宣言する。


「光は融合しました。これは間違いなく、カティア嬢がリンド公爵家の血脈に連なる者である証拠!」


「なんだと……!?」


「信じられない……!」


ホールが今日一番のどよめきに包まれ、貴族たちの驚きの声が波のように広がっていく。


「ただし、親子ほどの強い光ではございません。これは……五親等以上離れた、遠縁の血縁関係を示しております」


(……はい?私が、リンド公爵家の遠縁ですって?)


カティアは予想外の展開に、思わず目を瞬かせて水盆を見つめた。


平民の娘が、悪意ある何者かによって赤ん坊の頃に本物の公爵令嬢とすり替えられた。


それが事実だと思っていたが、実はカティア自身も平民などではなく、リンド公爵家の血を引いていたのだ。


だからこそ、公爵夫妻に瓜二つと言われるほど容姿が似通っており、長年誰もその関係を疑わなかったのである。


「おお、カティア……!お前もまた、我がリンドの血を引く一族の者であったか!」


リンド公爵が感極まった震える声を上げ、夫人は安堵の涙をこぼしてカティアの手を強く握りしめた。


「どういうことだ!カティアは平民の娘とすり替えられたのではなかったのか!」


混乱してわめき散らすマリウスを、国王が氷のように冷ややかな目で見据える。


「マリウス、もう黙らぬか。お前が持ち込んだ魔道具が、カティアの身の潔白を、そして貴族の血筋であることを証明したのだ」


(まさか、殿下が私を貶めるために用意した舞台装置で、私の正体が明らかになるとは思いませんでしたわね。ある意味、ファインプレーと言えるのかしら?)


カティアは内心で呆れ返りながらも、表情には出さず、静かに伏し目がちにして令嬢らしい完璧な態度を崩さなかった。


血縁があると証明されたことで、事態は新たな局面を迎えることとなる。


完全な平民であれば追放もやむなしであったが、大貴族リンド公爵家の血族となれば話は全く別である。


しかも、公爵夫妻は依然として彼女を実の娘のように愛し、手放したくないと願っているのだ。


「さて、これでカティアの処遇も考え直さねばなるまいな」


国王の重々しい言葉に、カティアの運命の歯車が、予想外の方向へと再び回り始めた。


マリウス王太子が引き起こした波乱の断罪劇は、教皇の思いがけないファインプレーによって、予想外の逆転劇を以て幕を下ろした。


カティアが平民の血を引く偽物の公爵令嬢であるという事実は変わらないものの、魔道具が示した黄金の光は、彼女が間違いなくリンド公爵家の血族であることを証明したのである。


事態を重く見た国王陛下は、大貴族の血脈が不当に市井へ追放されることを良しとせず、また公爵夫妻の強い懇願もあって、カティアを引き続きリンド公爵令嬢として扱うことを宣言した。


本物の公爵令嬢であるルナティナも無事に迎え入れられ、カティアは彼女の義理の姉として、国王の庇護のもとで平穏な生活を取り戻すこととなったのである。


夜会から数日後、落ち着きを取り戻したリンド公爵邸の書庫には、カティアと公爵夫妻の姿があった。


「五親等以上離れた遠縁となると、一体どの代で枝分かれしたのか見当もつかないな」


公爵は埃を払いながら、歴代当主が残した手記の束や分厚い家系図を大きな机に積み上げた。


カティアもまた、平民の夫婦から生まれたはずの自分が、なぜ公爵家の血を引いていたのか、そのルーツに強い関心を抱いていた。


(私の生みの両親は確かに平民だと聞いておりましたけれど、遡ればどこかでリンド家の血脈と交わっていたということになりますわね)


三人で手分けして古い記録を丁寧に読み解いていくうちに、ある奇妙な事実に突き当たった。


「……お父様、この五代前の当主様の手記、少し内容が変わっておりますわ」


カティアが差し出した色褪せた手記を覗き込み、公爵と夫人は不思議そうに目を瞬かせた。


そこには、歴代のリンド公爵家において、子宝に恵まれた代に頻発したという「ある法則」について記されていた。


なんと、公爵家の子息たちが、こぞって平民の娘と恋に落ち、情熱的な駆け落ちを繰り返していたというのだ。


「我が家系に、これほどまでに奔放な血が流れていたとは……」


公爵が冷や汗を拭いながら、手記の続きを声に出して読み上げる。


「『全く、我が息子もまた平民の小娘と出奔しおった。しかし、裏で調べさせてみて驚いた。その駆け落ち相手の小娘、三代前に駆け落ちした叔父の曾孫ではないか』」


手記には、さらに驚くべき事実が綴られていた。


「『つまり、完全な平民だと思っていた相手は、我がリンドの血を引く遠縁であったのだ。どうやら我が一族は、身分が離れても血の匂いを嗅ぎつけ、無意識に惹かれ合う運命にあるらしい』」


公爵夫人が扇で口元を隠しながら、驚きのあまり小さく息を呑んだ。


「『数代ごとに駆け落ちを繰り返し、市井で密かにリンドの血を濃くしている者がいるやもしれん。これはそのうち、ひょっこりと実家に戻ってくる子孫がいるかもしれんな』」


手記の筆者であるご先祖様は、呆れ半分、面白さ半分といったユーモア溢れる筆致で記録を締めくくっていた。


その文章を聞き終えた瞬間、書庫にいた三人は思わず顔を見合わせた。


「まさか、その『ひょっこり戻ってきた子孫』というのが……」


公爵夫人がついに堪えきれなくなったように、くすくすと上品な笑い声を漏らす。


「どうやら、私だったようですわね」


カティアもまた、呆れを通り越して笑うしかなかった。


悪意ある何者かによって赤ん坊の頃にすり替えられたことは、悲しい事実である。


しかし、長い年月を経て市井で濃縮されたリンド公爵家の血脈が、運命の悪戯によって、本来あるべき場所へと見事に帰還を果たしたのだ。


カティアが本物の娘であるルナティナと見分けがつかないほどに公爵夫妻と似ていたのも、この先祖たちの奔放な恋愛事情が理由だったのである。


(事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものですわね)


カティアはご先祖様たちの破天荒な恋物語に思いを馳せながら、温かい家族の輪の中でそっと微笑んだ。


波乱に満ちた断罪劇から一転、カティアの新しい生活は、奇想天外な自身のルーツの発見とともに穏やかに始まろうとしていた。


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