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宝神の勇者 I  作者: 三竦 慎太郎
第一章  
4/9

第4話  今度こそ異世界転移

 最初に来たのは、音だった。

 足音が複数。硬い床を踏む音と、柔らかい布の擦れる音が混じっていた。遠くからではなかった。近くだ。同じ空間にいる。

 次に、声が来た。誰かと誰かが喋っている。

 その言葉は言語だったが、日本語ではなかった。音の並びが違う。リズムが違う。聞いたことのない言語だ。

 なのに。


 意味が、分かった。


 音を言葉として認識して、言葉として処理した後すぐに、内容が頭に入ってきた。翻訳しているのではなかった。変換する処理が早すぎる。まるで、最初からこの言葉を知っているようだ。


 “おかしい“


 勇雄は思った。

 しかし今はそれを考える前に、状況の確認が先だった。


 目を開けた。

 天井があった。白かった。石造りだったが、表面が丁寧に均されていた。梁が走っていた。木材だ。加工が粗くなく、職人の仕事だと分かる。窓から光が入っていた。自然光だ。時間帯は午前、おそらく昼前。

 体があった。

 自分の体だ。手を動かした。動く。指を確認した。五本ある。左も確認した。ある。胸に空気が入ってくる。心臓が動いている。どうやら魂から戻ったようだ。

 横になっていた。ベッドだった。シーツが白く、清潔だった。枕が硬めだった。

 勇雄は状況を整理した。

 異世界にいる。城の一室だ。ベッドで目覚めた。体は機能している。

 最低限の確認は取れた。


 気配が動いた。


『目を覚ましたみたいだぞ』


 声がした。男の声だった。日本語ではなかった。それでも意味が分かった。


 勇雄は声のした方向を見た。

 扉の近くに兵士が一人立っていた。鎧を着ていた。金属製だが装飾は少ない。実用的な造りだ。こちらを見ていた。


 もう一人、女性がいた。侍女だろう。落ち着いた色の服を着ていた。彼女がこちらに近づいてきた。

 その侍女が口を開いた。今度は、日本語だった。


「あ……目、覚め、ました、か」


 たどたどしかった。発音が不自然で、単語と単語の間に間があった。しかし日本語だった。


「起きました」


 と日本語で勇雄は答えた。


 侍女が安堵した顔をした。


 勇雄は上体を起こした。

 眩暈があった。

 軽いものだったが、一瞬、自分の輪郭が定まらないような感覚があった。体の中に、わずかなズレがある。体と何かが、完全には一致していない感触。

 すぐに落ち着いた。

 内側で声がした。


 ━━おはようございます。体の調子はどうですか━━


 ツルだ、と勇雄は認識した。


 ━━言語については、あなたが目覚める前に少し調整しました。異世界の言葉が分かるようになっています。自然に使えるはずです━━


 勇雄は内側で、そうか、と思った。礼を言う必要はないと判断した。

 調整が何かはわからないが、日本語を解釈するのと同じ感覚で異世界語が使えるようだ。翻訳というよりは言語の習得に近いと感じた。


「体に、異常は、あり、ますか?」


 侍女が言った。日本語だった。丁寧に一語ずつ選んでいるのが分かった。


「ないです」

「良かった……です」


 侍女は短く息を吐いた。それから、部屋の中を一度見回して、勇雄に向き直った。


「説明、します。少し、難しい日本語、できません。すみません」

『構わないです。この言葉で合っていますか? 通じます?』


 勇雄は異世界語で侍女に話しかけた。

 侍女は目を見開き、そして首を縦に何度か振った。


『合ってます。合ってますよ。すごい!』侍女は興奮して異世界の言語で続けて言った。『ここは、王城です。あなた達は魔王を倒す為に神が召喚したそうです。詳しくは王子からの説明があるので今は最低限しか話せません。』


 勇雄は黙って聞いた。


『ここに来た人達の多くは、まだ眠っています。王子からは皆さんが起きてからになります。おやちょっと失礼します』


 兵士が侍女を手招きしたようだ。彼女は扉の方を向かって行った。そして、兵士と小声で話をした。


『他の部屋が忙しくなっている。五、六人と聞いていたのに、三十人以上になっているらしい』

『神から言語の加護を授かった転移者がいると聞いたことがありますが、本当にいるんですね』

『説明する手間が省けていいが、丁重におもてなしを』


 侍女が頷いた。


『この人は大丈夫だと思います。私たちも行った方がいいかもしれません』

『そうだな』


 侍女が勇雄を見た。


『すみません。他の部屋を、手伝いに行きます。必要なことはありますか?』

『ないです』

『水はここにあります。』と侍女は言った。それから丁寧に頭を下げた。『ゆっくり、休んでください』

『ありがとう』


 兵士と侍女が部屋を出た。扉が閉まった。


 勇雄は部屋を確認した。

 清潔だった。装飾は少ない。机が一つ、椅子が一つ、水差しと杯が置いてあった。窓は一つ、外に石造りの廊下が見えた。扉は一つ。

 自分の服を確認した。見知らぬ服だった。白い布地の、簡素な作りのものだった。


 言語のことを整理した。

 ツルは調整と言っていた。勿論勇雄は異世界語を習得した記憶は無い。しかし、日本語と同じ感覚で理解でき使用できる。ツルが言っている調整とは何かわからない。頭を弄られた感覚はない。ただ、証明しようがないが、この言語を最初から使えていたような気がする……。


 何をされたかわからないが、これ以上のツルの介入は自分が自分ではなくなるような気がする……ツルには落ち着いたら出て行ってもらおう。


 勇雄はベッドの端に座った。

 静かだった。廊下の遠くから声が聞こえた。慌ただしい気配があった。三十人以上、という兵士の言葉を思い出した。予定より多い。現場が混乱している。自分には今のところ関係がない。

 窓の外を見た。

 空が見えた。色が違った。地球の空より、少し彩度が高い。雲の形も違う気がした。

 異世界だ、と勇雄は改めて認識した。

 感慨はなかった。


 気持ちの整理がつきツルを呼ぼうとしたその時、感覚があった。

 引かれる、という感覚だった。

 方向があった。扉の方向ではなかった。廊下の奥、そちらに意識が向いた。理由がなかった。根拠がなかった。何かがある、という情報もなかった。

 ただ、そっちに何かがいる気がした。

 勇雄はその感覚を分析しようとした。できなかった。感情とも本能とも違う。もっと直接的な、構造的な引力に近かった。


 勇雄は窓の外を見るのをやめた。

 立ち上がった。眩暈は収まっていた。扉を見た。


 まだ動くべき状況か判断した。情報が少ない。体の状態も完全には確認できていない。急ぐ理由はない。

 それでも、意識はその方向に向いていた。廊下の奥。


 引力は、消えなかった。

第4話を読んで頂きありがとうございます。

この話でやっと異世界に踏み込みました。異世界の人との交流を通して勇雄の現状や言語等に触れています。

ツルの憑依はもうしばらく続きます。

次の話は廊下の奥に何があるのか、明かします。引き続きよろしくお願い致します。

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