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宝神の勇者 I  作者: 三竦 慎太郎
第一章  
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13/23

第13話  深夜の密談

 深夜だった。

 地下に部屋があった。

 壁一面に魔道具が並んでいた。それぞれが異なる区画を映していた。居住区の廊下。各部屋の内側。食堂。訓練施設の入口。施設の外周。

 映像の中で、人が眠っていた。

 泣いている者がいた。壁に向かって膝を抱えていた。隣の部屋では二人が小声で話していた。声は聞こえなかったが、口の動きで分かった。帰りたい、と言っていた。一人は天井を見つめたまま動かなかった。疲れが顔に出ていた。眠れていなかった。


 シグナルドは立っていた。

 映像を見ていた。一点ではなく、全体を見ていた。部屋を動かず、腕を組まず、ただそこにいた。

 扉を開け何かが入ってきた。

 頭が大きいアヒルのような姿だった。


 シグナルドは振り返らなかった。


「来たか」

「……監視、多いですね」


 その言葉は異世界語でも日本語でもなかった。その言葉が神の公用語だと知る人はいないだろう。

 ツルは部屋を見渡した。壁の魔道具を順番に見た。


「必要だ」

「これで、全員分ですか?」

「そうだ。すでに何人かは自分の意志で世界に散った。忠告はした。放置で問題ないだろう。」

「私もその人達を観察してましたが、同じ意見です。」


 シグナルドは返事をしなかった。少しの間があった。ツルは映像を見ながら言った。


「眠れない子が多いですね」

「初日だ」

「そうですね」


 ツルの声に、軽い棘があった。呆れと、それを抑えようとしている何かが混じっていた。

 シグナルドは映像から目を離さなかった。

 ツルは話を変えた。


「他の人支援の神は? 二柱いたでしょう?」

「二柱とも“あっち“で監視している。幸いにも混乱はないようだ」


 ツルはほっと息をついた。シグナルドは続けた。


「明日には一柱だけ戻す。魔王討伐が止まれば、全てが表に出る。まだ油断は出来ない……」

「そうですね。」


 ツルは答えた。少しの間の後、静かに言った。


「やはり宝玉神(ほうぎょくしん)ハーパーが来ています」


 シグナルドはわずかに止まった。


「そうか……あの背程長い黒髪の神で間違いないか」

「はい。また、大異魂導神(だいいこんどうしん)パトラも同行しています」


 シグナルドは映像を見たままだった。しかし目の動きが変わった。


「パトラがあなたに会いに来たと話していました」とツルは言った。「理由に心当たりがありますか」

「ない」

「本当に?」

「本当に知らない。大魔神王(だいましんおう)の名を出してもいい。」

「……わかりました」


 嘘の気配がなかった。

 シグナルドは一度だけ、目を閉じた。


「……最悪だな」


 呟きだった。声量がなかった。しかし部屋に届いた。


「まだ、クラス転移が起こった事に気付いてはいません」とツルは続けた。「“勇者“がここにいることは、今のところ把握していないはずです」

「しかし、本当に5、6人の転移から“勇者“を中心とした40人前後のクラス転移に変わるとは……」

「当然でしょう。私も久しぶりに見ました。」

「そうか……」シグナルドは続けた。「この時の為に準備はしていたが、タイミングが悪すぎる。」


 シグナルドはツルに鋭い視線を向ける


「……お前が仕組んだのか」

「違う。断じて違います。捨てた二つ名を名乗ってもいい。本当にこんな事が重なるなんて予測してなかったです」

「……」


 長い沈黙があった。

 シグナルドは映像に視線を戻した。


「ハーパーがこの星に来ている間に知られれば……星ごと『封印』あるいは『剪定』の可能性があります」とツルは言った。「それは私も避けたいです」

「一致点はそこだけだ」

「そうかもしれませんね」

「……それが起きたら、覚悟を決める。」

「……」


 彼らの利害が一致しているのはこの世界を消滅から守るという1点のみだ。


 ♢


 少し間があった。


「絞り込みはどこまで進んでいる」


 シグナルドは言った。


「私の方では一人、妙に気になるのがいます」とツルは言った。「ただ、まだ確信が持てていません」

「名前は」

「今はまだ」


 シグナルドは少し目を動かした。


「こちらは十人程度まで候補を絞った」

「十人」

「早い方だと思うか」

「……判断は控えます」


 ツルはシグナルドを見た。


「あなたの方の情報を、全部は教えてもらっていませんよね」

「お互い様だ」

「そうですね」


 ツルは視線を映像に向けた。

 シグナルドも映像を見ていた。

 互いに、相手の見えていない部分を認識したまま、同じ方向を向いていた。


「勇雄について」


 ツルは言った。

 シグナルドは黙って聞いていた。


宝神石(ほうじんせき)を持っています」

「知っている。契約で私がもらう予定だが」

「バグで外せなくなっています」

「……それは」

「予想外でした。私にも」


 シグナルドは少し考えた。


「外せない理由は」

「彼固有の条件が重なった結果です。詳細は話せません」

「固有の条件」

「はい」


 シグナルドの視線が、壁の映像の一つに向いた。

 勇雄が映っていた。

 眠っていた。静かだった。小柄な体が、ベッドに収まっていた。


「彼は私を信用していません」


 ツルは続けた。シグナルドは口角が少し上がった。


「当然だな」

「ええ。でも観察はさせてもらっています」

「他に起こった事はあるか。」


 ツルは下を向きながら答えた。


「いえ、他にはないです」

「……何か隠しているな。まぁいい」

「……」


 シグナルドは勇雄の映像を見た。しばらく、動かなかった。


「監視を増やす。戻ってくる右断神(ゆだんしん)に彼を見張るよう指示する。……最悪の場合は処理する」


 声が低かった。感情がなかった。事実の確認のような言い方だった。

 ツルの目が、細くなった。

 シグナルドを見た。直接見た。

 シグナルドは映像から目を離さなかった。


「……それは、私には同意できないです。」


 ツルは言った。声は柔らかかったが、中に何かがあった。


「権限の話ではない。必要性の話だ」

「私には、まだ必要だとは思えないです」

「今は、まだ」とシグナルドは言った。「お互いに」


 ツルは黙った。

 反論の言葉が出てこなかったのではなかった。出す言葉を選んでいた。そして選ばなかった。

 沈黙が続いた。

 映像の中で転移者たちが眠り続けていた。

 泣いていた者が、いつの間にか眠っていた。天井を見ていた者も、目が閉じていた。まだ、寝ていない者が1人いた。

 勇雄の映像が一つの画面に映ったままだった。

 静かだった。規則正しく呼吸していた。

 シグナルドはその映像を見ていた。

 小さく、言った。


「宝玉神に知られる前に終わらせる」


 部屋に音がなかった。

 ツルは何も言わなかった。

 答えを持っていないのか、答えを選ばなかったのか、分からなかった。

 魔力灯だけが、薄く灯っていた。

第13話を読んで頂きありがとうございます。

深夜の監視室の雰囲気は伝わりましたか。転移者たちが眠れない夜を過ごしている裏の会話です。

シグナルドとツルは大部分の目的は同じですが、お互い信用はしていないです。

一言:大魔神王と右断神の二つ名は、このままの二つ名だと物語が成立しません。ただ、わかりやすい名称や役割の名称にしたいと思っています。和訳した結果こういう二つ名になったと解釈をお願い致します。

次は2日目の内容です。よろしくお願い致します。お楽しみ下さい。

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