追跡劇
ただでさえ色々と予想外で俺の頭は正直混乱している。当初の予定ではここでジュリエッタの身柄を確保し、ロイドと距離をとりながら次の地点へ移動するはずだった。
元々今回の計画の登場人物は、ジュリエッタとロイド、そして俺の三人という前提で考えられている。
しかし今俺達の目の前に四人目が現れた。
草むらから現れ、俺に向かって弓を構えた青髪のバードマンが、俺の動き一つ一つに神経を尖らせているのが伝わってくる。
今はジュリエッタに矢を当てないように射ってこないだけだ。少しでも隙を見つければ先程の宣言通り遠慮なく俺の体に穴を穿ちにくるだろう。
「ボルスレイ! なぜお前がっ!」
ロイドが乱入者を一瞥して叫ぶ。意識をそちらに向けたのは一瞬で、すぐに俺に視線を戻して再び睨み合う。
ボルスレイと呼ばれた男の登場はロイドにとっても予想外であったらしい。
けれど理由を追求するよりも、攫われそうになっている恋人の方が優先度が高くて当然だ。
さて、このまま計画を続行して次の地点へ移動していいものか……。
二人がかりで俺の動きを警戒している状況から上手く逃げるのも手間だけどな。
打ち合わせした訳でもないだろうに、俺を挟み撃ちにするようにバードマン達が少しずつ位置を変えている。
俺の注意を分散させて、ジュリエッタを救い出す隙を作り出すつもりなのだろう。
あまり時間をかけてもいられないようだな。
「一人増えたようだが関係ない。この娘は俺がもらっていくぞ!」
ジュリエッタを抱え、遥か後方へ跳躍する。
木々の位置は既に確認済だ。大きな枝に当たる事もなく二人に対して距離をとった。
そしてすぐに背を向けて逃走を開始する。何とか振り切るしかない。
二人のバードマンの方をちらりと見てみると、互いに目で合図を送り、俺に対して背後から左右に分かれて向かってくる。
ロイドも常に持っている弓矢を、背後から取り出していた。ボルスレイと呼ばれていたバードマンは、俺に当てるつもりのない牽制の矢を放ってくる。
やはりこの二人知り合いか……声を掛け合わずに連携ができている。
木々に自分の体を隠しながら移動し、俺に動きを悟られないようにしているだけではない。
片方に注意を払うと、もう一方が牽制の矢を放ってくるのだ。
おかげで俺は捕まらないよう逃げながら後ろを振り返って追手の動きを見ながらも、ジュリエッタに攻撃が当たらないようにと、常に気を張っていないといけない。
これは中々辛い。最初の計画だとロイド一人から逃げるだけで、もう少し余裕のある逃走劇ができたはずだった。
「全てあのボルスレイとかいうバードマンが現れたせいだな。ジュリエッタ、知ってる奴なのか?」
背後から迫る攻撃をかわしながら俺は次の計画の地点に向かって走り続ける。
その間にジュリエッタにあの乱入者の素性を尋ねてみた。
「はい、あの人はロイドの親友でボルスレイという方です。実力はロイドと同じぐらいと聞いています。わたくしもあまり話をした事がないのでそれ以上は……」
そこそこの実力者と考えて間違いなさそうだな。全く、この後の計画も微調整が必要か……、面倒になってきたものだ。
できればボルスレイだけを先に排除しておきたい。目的のためには邪魔者だというだけではなく、俺を狙う弓の精度は少なくともロイドより上なのだ。
俺の動きを止めるか、遅くするために足を狙ってきているのがわかる。だが逃げながらでは無理だ。次の第二地点でどうにかできないか試してみるか。
「次の地点で邪魔者を排除できないか試してみる。このまま引き連れていっても面倒なだけだしな」
俺の申し出に対して、ジュリエッタは黙って頷いた。そしてそのまま瞳を閉じた。
これは気を失っている演技のためもあるが、彼女も気づいたのだろう。後ろから迫る追跡者二人との距離がどんどん縮まっている事を。
攫った側と攫われた側が仲良く話をしていたらおかしいからな。
速度を上げるが、離される事無くついてくる。俺が最初ここに来た時と比べ物にならない殺気を撒き散らせ、森全体までが張り詰めた空気に変わったように感じる。
「魔王様、そろそろ目的の場所を通過します」
小声で俺の腕の中のジュリエッタが瞳を閉じたまま伝えてくれた。追っ手に注意がいっていたから助かる。
さぁ、まずは第一の試練だ……。
俺は木々の間を走り抜けていく。それを追う二人も左右に分かれてついてくる。
「うわっ!」
ロイドが突然大きな音を立てて地面を転がりながら声をあげる。
最初にかかったのがお前の方か……何かを引き寄せる天性の素質というか、俺はロイドに対して流石だという感想を抱いた。
そう、さっきジュリエッタが合図をくれた地点の先に広がる森は一見今まで通ってきた所と変わらないように見える。
しかし、ここは侵入者の通行を妨害する様々な罠が仕掛けられていた。
ここで上手くボルスレイだけを排除して、計画の軌道修正をしたい。そんな願望を抱く俺にとってロイドがいきなり罠を引き当てたのは、ここから先の円滑な進行の困難さを予感させるのに十分であった。




