番外編
ゴロン…。
敷布団の中にすっぽり入り、一日の疲れと共に布団に包まれる。綺麗な部屋で、リモコンで電気を消して、静寂に包まれる。彼はゆっくりと目を閉じた。睡眠という至福のひと時である。
が、すぐに脳内に一人の女性が浮かんだ。探偵帽子を被った、長髪の女性。
「…怪盗ノクターンが貴方なんて…!」
信じられない驚きの顔をする。彼は目を閉じつつ、少しだけ嬉しそうに口角を上げた。
「私の推理が間違ってるとは思えない…そんな…!」
今度は少しだけ顔を赤らめて、恥ずかしそうに戸惑う彼女。彼は思わず寝返りを打った。少しだけ嬉しそうに微笑む。
「例え貴方でも、怪盗は怪盗!誠意を持って警察に突き出すわ!」
次は頬は全く染めず、彼女がまっすぐな目で、彼の方を見る。彼は少し寂しそうな顔を浮かべ、小さく微笑みつつ枕に顔を擦り付けた。足をモゾモゾさせる。
「…貴方が怪盗だったなんて…。でも…それはそれでカッコよくて…私……。」
顔を赤らめ、視線を少し逸らしながら、恥ずかしそうにもじもじとする彼女。流石に脳内とはいえ、なかなかに心にくるもんがある。彼は枕に完璧に顔を埋めた。ぎゅっと枕を手で掴む。そして幸せそうに微笑みながら、再び仰向けになる。
「怪盗だったなんて…!貴方なんか嫌いよ!2度と現れないで!」
吐き捨て、明らかに嫌悪感を示す彼女が浮かんだ。その瞬間彼は、っ……と小さく呻き声を上げると、ものすごく心苦しそうに自身の胸を掴んだ。膝を曲げ、布団に縮こまる。
「…全部、私のため?!理解できないわっ。私は探偵だもの!貴方とはもう終わりよ。さよなら。」
追い打ちをかけるように、脳内で冷たく言い放つ彼女。彼はものすごく悲痛な顔をすると、流石に布団から這い出た。ゆっくりと立ち上がり、コップを手に取る。キッチンで水を汲んで飲むと、ふぅ…と一息ついた。その目は覚悟が決まっていた。薄暗い闇の中で、強い意志が瞳に輝く。そして再び布団に籠った。
そして、いざ仮面が割れてしまった時である。
(……っ…。)
呆然とする彼女の視線を受け止める。彼女の反応のいろんな想定が脳内を駆け巡る。拒絶もよぎり、静かに心が抉られたが、彼は意を決した。静かに覚悟して、眉間から出た血を袖で拭おうとした。
が、即座にカヌレがその腕を掴んだ。流石の彼もこれは想定していない。思わぬ展開に不思議そうな目で彼女を見る彼に、カヌレが慌てた様子でポケットをガサゴソする。すぐに一枚の絆創膏を取り出した。
「ちょっと待って、ちょっと待って。流石に袖は良くないよ、私絆創膏持ってる。これ使って良いよ。」
そう言って絆創膏を差し出すと、彼はじーっとそれを見つめた。
(…怪我の方が優先か。)
そして、再びカヌレの方を見た。正体などどうでもいいかのように、心配そうな顔をしている。彼は静かに心が暖かくなるのを感じた。そっと優しい目を向ける。
カヌレも何かあんのか?と同じような表情をして見つめ返す。彼は思わず口走った。
「貼ってくれないのか?」
思わぬ言葉にカヌレが静かに察した。眉を顰めつつ、困ったように口角を上げる。
「自分で貼れ。というか、逆に…私に貼られたいのか?自分で貼る方が圧倒的に楽だろ?」
その言葉を聞くと、怪盗ノクターンはすぐにニコニコと微笑んだ。間違いなく、いつもの彼女だった。なんら変わりない。すぐにいつものカフェロイヤルの店員になる。
「貼ってください!カヌレさん!」
「お、おぅ…いやまぁ…そこまで言わんでも良いけどさ…分かったよ、貼るよ…。なんかごめんね…そこまで言わせて…。」
絆創膏をぺちっと眉間に貼られる。少し近づいて、剥がれないか確認する彼女。じーっと眉間を見つつ、彼に恐る恐る言う。
「…とりあえず貼ったけど、剥がれないかな?大丈夫?」
心配な顔をしている彼女に、彼は返事をせずニコ…としていた。何考えてんだかわからない表情に彼女が視線を合わせた途端、スッと顔を近づけてキスをした。
「……!」
彼女が驚きに固まってるのを見て、彼は不敵に微笑むとバッとマントを翻した。すると次の瞬間、元々そこにいなかった様に、綺麗に消えてしまった。口を手で押さえつつ、怪盗がいた場所を呆然と見つめるカヌレ。
「……。」
不満気に床を見た。そんな彼女を、実は、隠れ家の影に隠れながら怪盗は見ていた。見つからないように気配を消しながら盗み見る。即座に去ったとはいえ…流石に気になった。脳内に未だに昨夜の拒絶が過ぎる。覚悟して静かに見守る。
彼女はほんの…めちゃくちゃ…ほんーのッ少しだけ、頬を赤らめた。何気ないそぶりをしつつ、ついーっと視線を斜め下に向ける。その様を見て、彼は驚きと共に確信した。これは…拒絶されてない。小さく頷くと、彼女を愛おしそうに見つめた。
…が、流石カヌレ探偵。ぽやーっとしてたのが急に脳裏に蘇る、結局正体アイツじゃねぇかという記憶。すぐにむかつき始めた。頭に両手を当てながら、膝を折り曲げ体を震わせる。見守る彼が静かに驚く中、彼女が叫び始めた。
「…クッソォ…人に勝手にキスしやがって…!ムカつく!いつもカフェロイヤルで、飲食提供してるからって、許されると思うなよ…ッ。」
そして正体がホワイトショコラということから繋がる遊園地での記憶(※シーズン1、第11話参照)。頭を掻きむしりながら、悔しそうにうめき出した。彼女の様子に、彼は何かを察した。思わず不敵に微笑む。
彼女は怒りと共に消えた床に向かって叫んだ。
「なんだよあれ!別人のフリしながら、結局遊園地の最初から最後まで全部本人じゃねーか!!なにが俺が日中堂々と出てきただよ!お前、元からカフェにいるじゃねぇかッ。」
くっそームカつくと叫びながら、足をドタバタさせ、背中をのけぞらせる。思いっきり腹の底から叫ぶ。彼はニヤニヤしながらその様を見ていた。
「絶対負けねぇからなぁ!私は探偵なんだよぉっ。怪盗なんぞに落ちる探偵じゃねぇんだよっ。女だからって舐めんじゃねー!サバランを追い詰めるのは私だァ!!」
バリィィィィィィィッ!
そして窓からの、五十代男性の乱入が始まった。怪盗ノクターンは即座に真面目な顔になると、ロケットランチャーを準備しにその場を去った。
読んでいただきありがとうございます!
本日は番外編です、時系列的にはシーズン2の第一話の舞台裏みたいなもんですかね
最近忙しいので、投稿時間遅れがちですまねぇ!そんな作者のエックスならこちら→https://x.com/Ameme_H_Novel




