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第3話(後編) だからここにいるんだイー

「世の中、嫌なことばっかでも、見てくれる奴は見てくれるイー。レッテルなんて気にすんなイー。お前より俺のが貼られまくってるイー。」

マドレーヌこと、敵役の言葉に、ノエルが少しだけどこか救われたような目をする。歪んだ音符をつけた黒タイツの男は、敵役に似合わないほど優しく微笑んでいた。

「…そして、建てたばかりの、僕の新しい事務所を破壊し(※シーズン1、第10話参照)、医者をぶん投げ(※シーズン1、第13話参照)、キャバクラに通ってばかりいるという…。レッテルを剥がすどころかつけまくってるなんて…あなたを雇う僕の身にもなってほしいよ。」

突然部屋の入り口から聞こえてきた声に、二人がぴくりと体を震わす。そこには、ため息をついて腕を組むミュージンジャーブルーと、その隣で様子を見ているミュージンジャーグリーンがいた。マドレーヌが流石に床に座り、深々と頭を下げる。

「まじですみませんした。」

「…事務所…破壊…医者……ぶん投げ…?」

困惑した顔でノエルが言うと、ミュージンジャーグリーンが言いづらそうに言った。

「本当だ。俺も聞いた時は信じられなかったが、医者に聞いたら本当だった。あと決壊した事務所も、半信半疑で現場に行ったら本当に半壊してた。ブルーが金持ちじゃなかったら本当に、今は家なき大人になってたぞコイツら。」

グリーンことガレット刑事がびっと二人を指差す。マドレーヌは深々と頭を下げ、ブルーことフィナンシェは腕を組んで仕方ないなとばかりにため息をついていた。未だに状況が飲み込めないノエルだったが、グリーンことガレット刑事が静かに微笑んだ。刑事の時とは違う少しだけ優しい声を出す。

「…世の中には、敵視する人間もいるが、公平な視線を送る人間もいる。それを生業とする人間もな。全てが自分の敵だとは思わないことだ。」

彼の言葉に、ノエルは少し体を震わせつつも、どこか安堵したような目をした。三人に軽く頭を下げながら、小さな声で言った。

「…ありがとう…ございます……。」

それで、とフィナンシェが言った。

「学内の噂では、君は他人の作品を盗んだと言われている。それは本当なのか?」

その言葉にビクッとノエルが怯えた。が、すぐにマドレーヌが、お前のこと責めてるわけじゃないぜ、言い方怖いかもだが、アイツは優しい奴だ、話してみろよと笑った。それを見て、フィナンシェが深々とため息を吐く。

「君には少しくらいは怯えてほしいけどね。」

「やめろよ、節足持ってくんなよ。」

マドレーヌが即座に自己防衛に走る。その様を見て、ノエルは怖がりつつも恐る恐る口にした。

「僕は確かに…成績2位のガムの才能は羨ましかった。彼はとても鋭いかっこいい旋律を書くから…。…僕の守護者は、盗めって言うんです。ヤングケアラーで苦しんでるんだから盗めって…だから僕……彼の楽譜を一度手に取りました…。でも、やっぱり盗むのは良くないと思って、手から離したんです…。すぐに元に戻したのに…盗んだと言われてて……。確かに僕も一度は手に取ったから…。」

泣きそうな声が響き渡る。静かにブルーとグリーンが顔を見合わせた。

「…ひとまず、戻したんだな?自分の曲として発表はしてないのか?」

「はい…。してないですが…。」

「ならお前は冤罪だ。」

ノエルが驚く。でも…と口走る彼に、グリーンはここだけの話だが…と言った。

「俺は法律関係に精通していてな。それだけじゃ窃盗罪にならん。いいか、本当の窃盗罪はそんな甘くないぞ。まるで自分のもののように発表するからな、大抵は。」

ポカンとするノエルに、ブルーがその通りだと頷く。

「ところで一点気になるのが、その守護者というのは?」

「…僕の両親は、ドリップ教で…。僕は一応参加してますが、今回のその盗めと言われたのもなんかその…嫌で…。」

わかってもらえないだろうけども…といった感じでボソボソ言うノエルの予想に反して、目の前の二人は顔を見合わせると納得したように話し始めた。

「結構有名な奴だよね。僕の身近にもいたよ。でかい組織らしいよね。」

「俺も仕事でよく聞く奴だ。一応追っているが、なかなか尻尾を掴めなくてな…。だからコイツの言い分もわかるぞ。逆によく反抗できたな、呑まれるのが大半だぞ。」

あまりの反応にノエルがえ…?と驚く。マドレーヌはイ?と言って首を傾げた。そんな彼らのことはさておき、フィナンシェがノエルの方を向いた。

「とにかく、そしたら…。」

バタン!

次の途端、部屋の別のドアが開いた。ポムが息を切らしながら言う。

「校内を事情聴取したんだけど…!」

ゼェハァと息を吐きながら、四人に聞いたことを話す。ポムの話にノエルが少し寂しそうな顔を浮かべると、マドレーヌが方に腕を回した。ニッと笑う。

「お前も俺と同じ悪役だイー!胸を張れイー!」

「そのクレープ先生というのも気になりますね。あと盗まれた側のガムという生徒も…。少し校内を探りますか。」

フィナンシェが考えこむように言った。その時だった。


「探す必要はないね。ここにいるからさぁ。」

その言葉に全員が思わずポムの方を見る。ポムがへ?という暇もなく、後ろから一人の男と、女性の先生が出てきた。ノエルが小さく震えるのを静かに見て、フィナンシェが冷静に呟く。

「…生徒のガムと、クレープ先生だね。やはりグルだったか。」

ガムは不敵に微笑んだ。ノエルを指差しながら言う。

「勘違いしないでよね。そいつは俺の楽譜を盗もうとした、それは紛れもなく本当のことさ。」

「それだけでは窃盗罪にならないが。」

ガレット刑事が冷静に切り返す。だからこそさとガムは言った。

「盗もうとした事実は埋もれてしまう。例え、一瞬でも盗もうとしたのは事実だ。そんなの許せるか。ただでさえ、俺より上なのに盗もうとするなんて…。だからこそ俺はそいつに地獄を味わえと思ったんだ。退学なんてさせるか、その代わり作曲家として2度と活動できなくしてやる。俺の高貴な作品を盗もうとした罰だ。」

そう言ってびっとノエルを指差した。瞳は怒りに満ちていた。ポムがちょっと!と腹立たしげに言う。

「盗もうとしたけど戻したのよ?!そこまで怒る必要ないじゃない。確かに盗もうとしたかもだけど、彼は踏みとどまったのよ。誰だって盗みたくなる時はあるわ。」

「馬鹿を言うな!甘いんだよ。俺の作品がそのまま盗まれて、俺の作品を自分のものとして発表されてたらどうなる?!俺は搾取され続けるだけだっ。ただでさえ、こいつは1番なんだぞ。許せるかよ!俺の作品は世界に一つだけ。それを少しでも奪うなんて許せないんだよ!」

イラついたように足をダンッと鳴らした。どいつもこいつも…と頭を掻きむしる。クレープ先生はそんなガムの肩に手を置き、心配そうに寄り添っていた。

「俺の作品は無償じゃない…。もっと価値のあるものなんだ。誰かに奪わせて良いもんじゃねぇんだよ。…俺と似たような音楽さえも許せない。俺がトップなんだ。誰にも真似できないほどの才能を持ってるんだ。」

彼はあはは…と乾いた笑い声を上げた。

「盗もうとしたのは事実だろ?!だからこそ、盗んだ瞬間の画像を、取っておいてやったんだよ!机の中に日頃から、監視カメラくらい入れてるからなぁ!動画の一部を切り取った、そして周囲に広めた。お前が退学にならないように、先生さえも俺の手のひらにした。退学なんてせず、作曲家にもなれずに、落ちぶれたゾンビになれ!そうすれば俺はお前よりいつまでも1番でいられる!」

ケタケタと狂ったように笑い始める彼。ノエルは静かに震えていた。フィナンシェが冷静に言う。

「その動画を取り返せば良いだけですよ。」

即座にガムが切り返した。

「残念だったなぁ。ここに来る前に、メモリは壊してきたぜ。証拠は最初からノエルの近くにあったんだよ。お前が弾いてた呪いのピアノの中によぉ!馬鹿だよなぁ、気付かないよなぁ。」

ははは!と笑い声を上げるガム。クレープ先生が彼を優しい目で見守る中、ポムが静かに引いた顔をする。ブルブルと体を震わす。

「何よコイツら…。一人の生徒を…!」

グッと拳を握りしめた。その少し後ろの方で、敵役の横で一人青ざめる生徒。ブルブルと体を震わせた。

「そんな…僕はもう……!」

ノエルが絶望に満ちた目を浮かべる。心のどこかで、冤罪がひっくり返るんじゃないかと期待していた。が、もう光は見えなかった。作曲家として、歩むことはできない…。打ちのめされた彼の前で、ガムの笑い声が響き渡る。

「当たり前だろ。証拠なんて取っとく方が馬鹿だろ。」

ケタケタと笑うガムを愛おしそうに見つめるクレープ先生。その歪な二人に、フィナンシェが静かに嫌悪感を示した。

「…少し胸焼けしたみたいだ、お昼ご飯のせいかな。」

ガレット刑事も厳しい目つきで相手を見る。ノエルは静かに俯いた。

(もう終わりだ…。作曲家になって、たくさん稼いで…家族を…救うはずだったんだ。それなのに…こんなことになるなら、作曲家なんて目指さずに…普通の人間として生きてれば…!でも普通の収入じゃ、家族は支えきれなかったろう…。取り柄は作曲だけ…僕には作曲しかなかったんだ。それが奪われた今、もう僕は……。居場所なんて…。)

頭の中が真っ暗になった。


そんな彼の視界の隅に、歪な音符が一つ見えた。ゆっくりと顔を上げる。

ノエルは怖がりつつも、静かにマドレーヌの方をじっと見つめた。歪んだ音符をつけた敵役も、流石に驚いた顔で固まっている。

「レッテルなんて気にすんなイー。お前より俺のが貼られまくってるイー。」

ふざけた語尾だが、真剣な声を思い出した。ノエルは、静かに一度目を閉じた。一呼吸すると、ゆっくりと目を開き、ガムの方を見た。震える口をこじ開ける。声は思ったよりもまっすぐ飛んだ。

「…ごめん、ガム。僕、君の楽譜を盗もうとしちゃって。」

深々と頭を下げて謝罪する彼に、フィナンシェたちが驚く。ガムは笑い声を上げながら、本当だよ!と言った。


「…でも、僕………作曲家を続けるよ。」


思わぬ言葉に全員が固まる。ノエルは、そばにいる歪んだ音符をつけた敵役に優しい視線を向けた。

「レッテルまみれでも、世間は認めてくれないかもだけど…それでも良いんだ。認めてもらいたいから、たくさんの人に目を向けてほしいから…なんて、最初は考えてなかった。」

どんどん曲を書くうちに忘れてしまっていたんだけど、ようやく思い出したよと彼は笑った。

「僕はただ、曲を作るのが好きだったんだ。誰かのためじゃない。つまらない現実を生きる僕のために、曲を作っていたんだよ。」

だからレッテルなんて関係ないと彼は言った。その瞳はもう、真っ直ぐだった。

「僕のために曲を作る。ただそれだけで良かったんだ。」

「ふざけるなぁっ!」

ガムの怒号が飛ぶ。口をワナワナと震わせているが、ノエルは静かに微笑んでいた。マドレーヌの肩に手をそっと置く。声は震えてはいたが、しっかりとした決意を帯びていた。

「ありがとう、敵役さん。…いつか…君の曲を作曲させてくれるかな…?……一曲作らせてよ。歪んだ音符まみれの君に…綺麗な曲を。」

彼の少し不安げな目を敵役はじっと見つめた。ニコッと笑うとヘラっと言った。

「最高だイー!お前に(Ni)、お礼に(Ni)、キャバク……未成年だったイー!!」

「連れて行こうものなら、俺が逮捕するぞ。」

一瞬で慌て始めたマドレーヌに、ミュージンジャーグリーンが静かに言った。余計に怯える敵役を見て、ノエルは少しだけ嬉しそうに笑った。その様子にガムが奇声を上げる。

「ふざけるなふざけるなぁ!お前は俺より下なんだ…ッ。俺が1番優秀なんだ。大体ヨォ…盗もうとしたのは事実なんだろう?なぁ認めちゃえよ…俺より上手い曲なんて作れるわけねーじゃねぇか!!」


「…それじゃあ、作曲家にはなれないよ。」

優しくも鋭い声が飛んだ。全員が驚くと、ピンクレンジャーが、ガムたちの後ろにいた。彼女はガムとクレープ先生の二人を見つめながら、静かに言った。

「誰かを下に見ないと気が済まないなら、それでも良い。だけど、自分をまず下に見ることができなければ、君は一生そのままだ。」

そう言って片手を上げた。その手の中には黒く光るメモリがあった。一瞬で絶望する二人に、カヌレは厳しい目を向ける。

「……王手だよ、二人とも。」


読んでいただきありがとうございます!

投稿遅れてすみません!つい筆がのっちゃって…。

そんな作者のエックスは今回は割愛します。

次回もよろしく!

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