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第3話(前編) だからここにいるんだイー

ノエルは授業を受けていた。真面目にノートを取り、真面目に黒板を見て、先生の話を聞き…。ふと、先ほど出会ったピンクレンジャーを思い出し、シャーペンを握りしめた。

(…音楽って、なんだろうな…。)

彼は授業を受けながら、静かに目を細めた。ノートに必死に板書するが、内容は全く入ってこないどころか…頭の中をいろんな考えが支配していく。

(褒められたのはいつぶりだろうな。…大したことじゃない。誇れるほどのものでもない。ただの音楽、才能のある人間はもっとすごい曲を作っている。それでも戦えると?いいや、戦えない…。もう、僕は戦うのに疲れたんだ…。いくらスポットライトを望んでも、光に照らされることが…そんな未来が見えないんだ。いっそ音楽さえ、僕に無かったら…もっと生きやすかったのかもしれない…神様はどうして自分にこんな、音楽なんてものを授けたのだろう…。苦しいだけなのに。)

ノエルは小さくため息を吐いた。シャーペンの芯がポキンと折れた。


その頃、フィナンシェことブルーは、グリーンのガレット刑事と共に、いろんな教室を見て回っていた。

「至る所から音楽が聞こえてくるな。流石音楽大学というところか。」

「ええ…。けど、音楽だけというわけでもなさそうだよ。」

フィナンシェの言葉に彼が首を傾げると、フィナンシェがこっそり耳打ちした。

「…先ほど、校内を見回っている最中に資料室に入っていく学生を見たんだ。通りすがりに聞こえた話だが、なんでも作った曲を盗まれたことがあったとか…。」

なに…?と驚くガレット刑事。

「作品を盗んだということか?」

「ええ。校内に以前そういう事件があったらしく…ノエルとかいう生徒が盗んだらしい。退学は免れたみたいだが、周囲からの評価は地に落ちたみたいだね。完全に孤立していて、早く退学すれば良いのにとか騒がれていたよ。…呪いのピアノの標的になるとしたら、その生徒がぴったりだろうね。」

冷静な分析に、ガレット刑事が静かに息を飲む。意を決した瞳で、グリーンのマスク越しに声を響かす。

「そいつを探すぞ。」

決心した彼にフィナンシェが小さく微笑む。

「おや、捕まえるのかい?」

どこか少し楽しそうな口調。彼は、馬鹿言うなと鼻で笑った。

「俺は刑事だ。証拠も無いのに捕まえるわけないだろう。…公平性を持って事情聴取をするだけだ。それに、悪人であれば捕まえるが…とにかく死ぬのは許さない。サバランから意地でも守るぞ。」

「刑事として、たくましい限りだね。」

フィナンシェは微笑むと、軽く拍手をした。


一方、イエローことポムは一人の女学生に捕まっていた。

「イエローさん。その…声、可愛くて綺麗すぎませんか?ちょっともしよろしければ、私の作った歌を歌ってくれませんか?!」

「え?!」

あたしは…と困った声を出すポムに、女性はお願いしますと必死に頼み込んだ。

「私…八ツ橋と言います。イエローさんの声にぴったり当てはまると思うんです!絶対この曲なら…ハマると思うんです。歌詞と旋律は出来てても、どうしても伴奏がうまくいかなくて困ってて…イエローさんに歌っていただけたら、素敵な伴奏が浮かぶと思うんです。お願いします!」

そう懇願する彼女の気迫に押され、流石のポムも渋々了承した。楽譜を見ながら、思わず歌詞を見て言う。

「素敵な歌詞じゃない?思ったより尖った感じなのね?」

しげしげと手元の歌詞を見る。


ーー迷い込んだ子猫の前にあるワンダーランド 彼も彼女もみんなアリス

  大丈夫だよとチシャ猫が囁いた 他の人と大した差は無いから

  同じ人間であればそれだけで良しなんだよ なのになんで君は泣いてるの

  楽しい楽園が嫌ならば 一緒に脱出ゲームでもしようか


  手を取って息をひそめて 誰にも見つからないように ほら

  怖がらないで 出口まできっとたどり着けるよ

  助けたいから助けるんだ それ以上も以下もないよ ねえ

  ここだけの話 こんな楽園抜け出しかったんだ


  夏の終わりに駆けだして 今こそ自由を掴むんだ

  背後に響く花火の音 祝福してくれる間に

  一度諦めた世界なら 何度夢見ても良いじゃない

  ただの戯言それでも 吐かないよりはマシだーーーーー


ポムがサラッと歌うと、八ツ橋は嬉しそうに目を輝かせた。ぺこりと90度のお辞儀をする。

「ありがとうございます!これで課題もどうにかなりそうです。」

「いえいえ、大丈夫よ。…あなた作曲家なの?」

首をかじけるポムに、彼女は照れくさそうに頷いた。

「ええ、私は作曲家コースです。いろんな曲を作りたいので、このコースを選んだのですが…成績がイマイチで…。もっといろんな曲を作れたら良かったんですけどね。日々作曲の課題に追われて、一個一個こなすので精一杯ですよ。」

「へぇ…結構課題が多いのね。」

頷くポムに、八ツ橋は頷いた。

「主任の、クレープ先生は優しいんですけど厳しい先生で…毎日一曲は自作の曲を出すように言われてるんです。そこにさらに課題も増えるので…私たち学生は大変で。優秀な生徒は難なくこなすのでしょうが、私のような出来ない生徒は精一杯ですよ…。だから、過去にあった曲が盗まれた騒ぎも、私はそこまで非難できないですね。」

サラッと言われた情報に、思わずポムが目を見開く。八ツ橋の肩をガシッと掴むと、ちょっとその話詳しく聞かせて?と言った。彼女は驚きつつも説明してくれた。

「つい先日のことですよ。うちのコースで、作った楽譜が盗まれていたという事案が発生したんです。えーと…確か、成績二位のガムの作品を成績一位のノエルが盗んだとかで…。流石に全員驚いて、それからみんなノエルを嫌厭するようになったんです。監視カメラにもバッチリ映ってたので、ノエルは違うと言ったんですが、証拠もあるし…みんなそれで彼を避けてるんです。私も避けてはいますが、まぁ盗む気持ちもわからなくないですからなんとも…。」

八ツ橋は困った顔で俯いた。ポムはそっと手を離すと、言われた内容を心の中で反芻した。時間の匂いがぷんぷんする気がする。彼女は八ツ橋にありがとうとお礼を言った。すぐにその場から離れて、校内を歩き回りながらさらに情報収集を試みる。

(人の作品が盗まれたなんて…きっと只事じゃなさそうね。いろんな話を聞かないと、真実が見えてこないわ。)

通りすがりの学生に声をかける。ちょうどバイオリンケースを持った男学生だった。

「ああ、作品盗難事件ですね。ありましたねつい先日。…でも、ノエルってやつ、盗んでもおかしくないらしいですよ。なんでも、母が入院していて、父も持病持ちで自宅介護が必要みたいで。いわゆるヤングケアラーみたいな感じらしいすよ。」

「ヤングケアラーなの…大変ね。」

ポムが言うと、男子学生がこくりと頷いた。

「そんな感じだから、お金が無いんじゃないすかね。バイトとかも結構入れてるみたいですし、まぁ作品盗難してたってのも、分かる気がしますよ。」

男子学生はそこまで言うと、じゃあそろそろリハーサルあるんで失礼しますと言ってどこかへ行ってしまった。ポムが背中を見送りながら、今度は広場の隅にいた女学生に声をかける。

「え?ああ…ノエルさんですね。私の先輩ですね。彼は学年で主席を取ってましたが…それも盗難関係だと分かると、ちょっと軽蔑しますね。」

「先生とかは何も言わないの?」

女性はあー…と眉を顰めた。少し納得のいかない表情を浮かべる。

「退学になっても良いと思うんですけどね、他の先生もそれを支持してたみたいですが…コース担任のクレープ先生だけが、庇ったらしいんですよ。それで退学を免れたんですけど…ちょっとクレープ先生も優しすぎるんじゃないかと思いますね。裏で繋がってるんじゃないかって噂もありますよ。この学校…どうなっちゃうんでしょうね。」

そういう時女学生は深々とため息を吐いた。ポムが情報を反芻しながら、ありがとう!とお礼を言ってその場を離れた。


授業のチャイムが鳴り響く。

ノエルは一人、ピアノの練習室にいた。鍵盤を沈んだ目で眺めていると、そこに全身歪んだ音符をつけた黒タイツの男が侵入してきた。

「…え?」

「イーー!」

思わぬ会合に思わず困惑する。そう、部屋に入ってきたのは、紛れもなく敵の格好をしたマドレーヌだった。いきなりマイクを構えるフリをしてぶちかます。

「お前に(Ni)、聞きたい(i)、戦隊(i)、一体(I)、どこだイー(I)!!」

「…ずいぶんと下手くそな…。それは…ラップ…?」

さらに困惑するノエル。さすがに学生相手とはいえ、大人気ないマドレーヌはムカついた。

「あ゛?」

成人男性の恐ろしい低い声。その上中身は実は暴漢。ノエルは震え上がった。即座に謝る。

「ごめんなさい…。」

「別に気にしない(i)俺は歪んだ音符の敵だイー(i)!んなことで凹むなイー(i)!」

もはやラップにする気などない言葉が飛ぶ。あまりの酷さに流石のノエルも少し笑った。マドレーヌの視線にあわてて、手を横に振る。

「いやいや違うよ!僕はそんなつもりじゃなくて…。君のような才能が少し羨ましかっただけだよ。人を笑顔にできる才能なんて、なかなか無いよ。」

「お前音楽家だろイー!俺よりすごいだろイー!」

ムカつくように腹を掻きむしるマドレーヌ。もはや敵役の可愛さはどこかへ消えた。ノエルはその様を見て、いやいやと顔を横に振った。ピアノに向かって頭を垂れつつ、ボソボソと言う。

「僕は…もうレッテルを貼られたようなもんだよ。才能は無いに等しい。人の楽譜を盗んだレッテルを貼られたからには、もう作曲家としては生きていけないよ。…家族を支えることもできない…。」

マドレーヌが静かに手を止めると、ノエルは悲しそうに笑った。

「僕も君みたいな悪役になら、採用されるかな。…本当は作曲家としてデビューして、家族を養う夢を持ってたが…夢破れた作曲家としてさ。」

彼の悲しそうな目に、マドレーヌは深々とため息をつくと、近くの椅子にどかりと座った。両手を組み、その上に顎を乗せる。

「ここだけの話だがイー。俺も昔は金持ちが嫌いだったイー。レッテルどころじゃ無いイー。最初からレッテルまみれだったイー。」

ノエルが静かに驚いて、マドレーヌの方へ顔を向ける。

「それは…君の設定なの?」

「設定じゃ無いイー。ここだけの話だイー。舞台裏の話だイー。」

マドレーヌは淡々と話を続けた。

「…俺は、親が…ラスボスだったイー。元はただの人間だったイー。けど親がラスボス化して、ヒーローにはっ倒されて、子供の俺は血縁として普通の暮らしはできず、悪になるしかなかったイー。」

ノエルが情報を整理しつつ、うーんと…と困った顔をした。なんとなく言いたいことはわかるが…と思っていると、マドレーヌが説明した。

「俺の親は、殺人犯だったイー。だから子供の俺なんて最初からレッテルまみれで、居場所なんてどこにもなかったイー。親なんて嫌いだったイー。貧乏だったし、金持ちなんてクソ喰らえだったイー。」

あまりの話にノエルがゴクリと唾を飲み込んだ。マドレーヌは小さく笑った。

「才能なんて無かったイー。喧嘩ばっかしてたんだイー。学校もまともにいけなかったイー。悪になるしか無かったから、不良生徒だったと思うイー。」

でもイー?とマドレーヌは、手を擦り合わせた。どこか遠くを見つめる目をしていた。

「そんな楽しく無い日々に、どうやっても下のままな日に…あいつが来たんだイー、ミュージンジャーブルーが下の学年に来たんだイー。」

あいつおぼっちゃまの金持ちでマジで嫌いだったイーと彼は笑った。ブンブンと腕を振りながら得意げに言う。

「マジで嫌いだったイー。お金巻き上げようとして暴力振るったイー。でも途中で先生にバレてクソほど叱られたイー。で後から巻き上げようと様子見てたら、アイツ他のやつにもカツアゲされてたイー。お金払わなくて痛い目見てたイー。馬鹿だと思ってたイー。」

けど…とマドレーヌは続けた。

「俺の残ってる方の片親が、ヤクザに金借りてどこかへ行っちまったせいで、俺危うく死ぬところだったイー。ヤクザもろとも殺してやろうと思ったけど、流石に大人数には敵わなかったイー。何もかも奪われて、明日から住むところも何も無い上に、家に火をつけられちまって、もう俺死ぬつもりだったイー。」

ノエルが静かに聴いていると、マドレーヌは小さく微笑んだ。

「けどそれでも悔しくて、ヤクザの一人だけでも殺そうとしたら、ミュージンジャーブルーに止められたイー。横からいきなり出てきて突き飛ばされたイー。そしてアイツは俺を庇って、ヤクザにボコボコにされてたイー。なんで俺のことなんか…と思ってたら、アイツボコボコにされつつ笑ったんだイー。自分は金持ちだが、金を安易には渡さない、親なんか呼ぶわけない、助けない選択肢が嫌だったからこうしただけ、自分はただ一つの好きを貫き通すために生きる、探偵になるんだと声高らかに宣言したんだイー。本当に馬鹿だイー。でも、俺にはあまりに眩しくて…ブルーならちゃんと俺を見てくれてるんだと、分かったんだイー。」

マドレーヌはそう言うと、へへっと笑った。


読んでいただきありがとうございます!

え?前話との落差…?よくわからないイー!

みんなもイーラップ(?)やってみるイー!楽しいイー!ミュージンジャーブルーのフィナンシェには、多分冷静な目で見られるイー!でもこのイーラップ気をつけるイー!イーだけだと良いの意味に誤解されるイー!

そんな作者のエックスはこちらイー!→https://x.com/Ameme_H_Novel

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