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第2話(前編) ラップ(?)

ポムとフィナンシェ、マドレーヌの三人がカヌレ探偵の事務所に辿り着いた。タタンが挨拶をして紅茶を入れる。

「…彼女は帰ってきてないみたいだね。」

フィナンシェがそう呟いた時、入り口に疲れ切った顔のカヌレが姿を現した。かなりぼーっとした目をしている。ポムが即座にカヌレ!心配したのよというと、彼女はハッとしたように、慌てた。三人がようやく視界に入った様子でごめんごめんと謝る。

「怪盗ノクターンに助けてもらったはいいものの…チャリに乗ったサバランに囲まれるわ…はとこのビスコッティとかいうやつにも挨拶されるわ、碌なことがなくてね…。」

深いため息をつく彼女に、流石のマドレーヌも同情した。

「ちょっとゆっくりしろよ、流石にサバランに囲まれるとか地獄絵図すぎるだろ。」

「ありがとうマドレーヌ…いや本当悪夢かと思った…。」

よろよろと近くのソファに腰掛けるカヌレ。だが、ずっと黙っていたフィナンシェがすっと彼女に近づいた。グイッと頬を片手で挟み込み、ぐっと顔を近づける。

「…?」

ぽやっとしたまま彼女が呆けて見つめ返す。ポムやマドレーヌも突然の事態に静かに驚く。フィナンシェはじーっと顔を近づけて彼女をまっすぐ見た。何も言わないので、カヌレが流石に目を逸らせずに困る。少し瞳が揺れた。その一瞬でフィナンシェは静かに何かを判断したように頷いた。軽くため息を吐きながら、カヌレの顔からそっと手を離す。

「…怪盗ノクターンに、またキスでもされたのかい?」

「…っ…。」

ポムとマドレーヌが静かに息を呑む中、カヌレが気まずそうに視線を逸らす。その様子を見て、フィナンシェはバレバレだよと呟いた。カヌレの方に少し真面目な視線を飛ばす。

「君は探偵だ。もちろん、怪盗ノクターンに狙われるほど、優秀な探偵であることも、僕は認めている。…だからこそ、女性として怪盗に弄ばれるのは良くない。いくら命を助けてくれる奴とはいえ、君はもっと警戒するべきだ。本来、探偵と怪盗は慣れ合う職業ではないのだから。」

カヌレは気まずそうに少し視線を逸らしていたが、でも…と悔しそうに反論した。

「私だってされたくてされてるわけじゃないのよ?いや…だって…あっちが勝手にしてくるんだもん…。命助けてもらっちゃったし…なんか悪い気もするからさぁ…とやかく言えないけど…流石にセクハラだし、ムカついてはいるんだけどさぁ…。」

困ったようにモゴモゴ言っていると、フィナンシェが腕を組みながらそれですよと言った。

「君は優しすぎる。大体セクハラ以外の何物でも無いのだから、もっと怪盗ノクターンを非難して良いんだ。奴は命の恩人とは言え、それで相手の口を盗んで良い理由にはならない。考えても見てくれ、ストーカー男に命を助けられたからって、好きでも無いしかもかなり年上の男性にキスされて、君は渋々飲み込めるかい?」

「いや無理。」

即答したカヌレに彼はそれだよと頷いた。

「怪盗ノクターンだからと言って、何遠慮することは無い。彼は、年齢不詳な上に解答だ。見ず知らずの赤の他人に等しいんだ。そこらへんの線引きはするべきだよ。」

フィナンシェの言葉にうん…と静かに頷くカヌレ。ポムとマドレーヌもそれぞれ考えるような顔をしながら頷いてるのを傍目に…流石に心の中で呟く。

(いや確かに本来なら赤の他人に等しいんだけど…。正体がホワイトショコラで、あの後ロケットランチャーを戻しつつ、事務所まで送ってくれたとは口が裂けても言えないよなぁ…!赤の他人どころか近くのカフェの従業員とか言えないよなぁ…!なんかあえて隠してそうだもんなぁ奴は…。いくら命救ってくれてキス強奪して行ったとは言え…流石に正体言えないよね…あんまりな仕打ちになっちまうよな…。)

胃がキリキリしそうな気配がした。流石に探偵。本来なら秘密を暴く方だが、隠し通すとなるとこれまた厄介である上に専門外。カヌレが一人静かにとりあえずしばらく隠す覚悟を決めていると、事務所のドアがバンバンとノックされた。即座にポムが返事をして対応すると、ガレット刑事だった。

「なんだ、探偵と助手が二人ずつか。相変わらず共同捜査でもしてるのか?…まぁいい。お前たちに、ちょっとした事件を持ってきてやったぞ。」

事務所にズカズカと入り込んだ。カヌレ探偵の机の上に新聞を広げると、彼は記事を指差しながら言った。

「これだ。呪いのピアノというのを聴いたことはあるか?」

四人が顔を見合わせると、ガレット刑事は言った。

「巷で有名な噂話でな。いわゆる都市伝説系だ。その昔音楽学校に通っていた生徒で、作曲家を目指していた生徒がいた。が、彼が作った作品は親友に盗作され、親友の作品として発表されてしまった。その上、周囲の反応も悪かったらしい。自分の作品だと主張しているのに、周囲はなぜか認めてくれず…その生徒は孤立したらしい。最初は戦っていたが、次第に戦う気力もなくなり、最後は一人で自室にこもってピアノを弾き続けたそうだ。その時のピアノが呪いのピアノと言われている代物だ。組織に殺された一人の生徒の呪いが詰まっているという噂で、このピアノを弾いたものは全員自殺してしまうのだとか。」

突然のホラー話に流石のマドレーヌも思わず声をあげる。

「ちょ、流石にいきなり怖い話すんなよ。」

「何を言う、本題はここからだぞ。」

ガレット刑事が記事を指差しながら、再び話し始めた。

「そのピアノは都市伝説や噂話とされていたんだが…最近になって、そのピアノと思われるものが出た。これがそのピアノだ。このピアノの購入者はもれなく全員、自殺している。そしてこのピアノはつい最近できたもので、最初の一人は都市伝説通りの末路を辿っている。…偶然にしてはできすぎて無いか?そんなことがあって…お前たち探偵の話を聞きにきたというわけだ。」

ガレット刑事の言葉に、全員が沈黙する。フィナンシェが考え込みながら呟いた。

「その自殺に関しては、誰かが関与した気配はあるのかい?」

「いいや、今のところない。完璧な自殺だ。だが連続していることから、サバランが関わっていないとも言いきれないと判断した。」

彼の受け答えに、フィナンシェもその可能性はあると静かに頷いた。ポムが新聞をじーっと見る。写真に写っているのはただのピアノのように見えるが…。

「このピアノは、今どこにあるの?」

「カプチーノ音楽学校だ。つい最近有名な音楽家によって学校に寄贈されたそうだが…万一生徒に支障が出れば問題になる。それで今警察に依頼が来たと言うわけだ。」

「なんでいちいちんなもんを寄贈したんだっつーの。」

マドレーヌがめんどくせぇとばかりに文句を垂れる。腕を頭の後ろで組んでいる彼に、ガレット刑事は大人の事情だと言った。

「仕方ない。いわゆる、その音楽学校にかなりの融資をしている投資家が、曰くつきのものばかり好んで集める収集家なんだ。学校も多大な融資をもらってるから、流石に断れなかったのだろう。ちなみにこの学校は区分的には、私立の専門学校だ。」

私立の音楽学校…しかも専門学校…とポムが驚いた様子で言う。専門学校であれば、それなりの年齢幅がある。カヌレも小さく頷いた。新聞紙をじーっと見つめる。その学校には聞き覚えがあった。

「カプチーノ音楽学校は結構有名校だよね。それこそプロの音楽家や、指揮者を輩出してる学校だ。とはいえ私立だし、年齢幅が大きい。…もしあれだったら潜入操作もできそうだね。」

カヌレの言葉に全員が頷く。

「うまく変装すれば、僕らだとはバレないだろう。もちろん、ガレット刑事、君も来てくれるんだろう?というか、凶悪犯がいた場合、僕らだけでは逮捕権はないからね。強制的に同行していただくよ。」

フィナンシェが言うと、彼は少し眉を顰めつつも渋々了承した。各々変装準備に取り掛かる。事務所にある女性用の変装服装はポムとカヌレが使うことになった。一方男性用の変装服装は事務所にないため、フィナンシェの事務所に男性陣は行き、そこで変装し再びカヌレ探偵事務所で落ち合うことになった。無論男性陣の送迎はタタンが担当する。

「それじゃあ変装後に落ち合おう。」

フィナンシェがタタンの車に乗りながらそう言うと、ポムとカヌレが頷いた。


タタンの車に乗り込み、事務所へと向かう道中で助手席にいるマドレーヌが不思議そうに言った。

「ところでよぉ、フィナンシェ。お前があんなに忠告するなんて、珍しいじゃねーか。カヌレ探偵が怪盗ノクターンにキスされたからって、支障でもあんのか?」

何気ない質問だったが、ガレット刑事が後部座席で思わず怪盗ノクターンが…またか!とつぶやく。その隣でフィナンシェは、冷静な面持ちで言った。

「ええ、たかだかキスだよ。しかし、僕は許せないんだ。彼女が探偵であるからには、その探偵が怪盗に侮辱されるようなことがあっては。」

言葉の端々に静かなる怒りを感じて、思わずマドレーヌも黙った。フィナンシェは小さく口角を上げながらも、冷静に話を続けた。

「僕は遊園地の一件で(※シーズン1、第11話参照)、あの時はカヌレ探偵と怪盗ノクターンに助けられたが…。怪盗はひとまず、カヌレ探偵の実力は認めている。運も踏まえて、彼女は確かに探偵だ。サバランが関わってくるのもわかる。だからこそ、僕も彼女に負けないと思っている。彼女には探偵としての誇りがあるべきだ。…それを、一介の怪盗が掻き乱し、彼女を探偵としてではなく接しているのは、どうも苦手でね。」

「いわゆるライバルに対する敬意というものか。」

ガレット刑事が理解した様子で顔を向けると、フィナンシェは少し自嘲しつつも、静かに頷いた。視線を斜め下に向けつつ、口を開く。

「…同じ探偵として、彼女に負けないつもりだ、僕は。」

「カヌレ様は、フィナンシェ様の実力も認めておりますよ。自分よりもかなり上だと仰っていました。そして…同時に負けたくないとも。」

タタンが何気なくサラッと言いながら、ハンドルを操作する。もうすぐで事務所に着きそうだった。彼の言葉にフィナンシェは少し驚きつつも、ふっと微笑んだ。

「…僕も同じ気持ちだよ。」


一方その頃カヌレ探偵事務所では、ポムとカヌレが大騒ぎをしていた。棚から色んな衣装を取り出して、二人でギャーギャー言いながら変装準備をする。

「カヌレ、これどう!」

そう言ってぽむがくるりと体を回転させる。青のロングスカート、茶髪の長髪ウィッグ、白のワイシャツ。そして黒のパンプスに丸メガネ。カヌレが思わず叫んだ。

「うわ最高!めちゃくちゃあり!音楽系の大学生みたいっ。すごいよポム!」

「ふふん、これであたしも音楽家よ。ラララ〜♪」

そう言って軽く歌う横で、カヌレが棚を引っ掻き回す。

「参ったなぁ!私どうしようっ。髪長いから意外とウィッグに困るッ。服も困った…!」

彼女がワタワタしていると、思わぬ服装が目に入った。

「待てよ…これじゃねぇか?!」

そう言って服を片手でグイッと掴んだ。ピンク色の生地だった。


その頃フィナンシェの事務所でも、変装騒ぎが起きていた。棚を引っ掻き回しながらマドレーヌが悲鳴を上げる。

「なぁいっそ、ストリート系とか…!」

「音楽大学にそんなやついないだろ。」

ガレット刑事がすぐさま突っ込む。帽子にネックレス、ジーンズにジャケット、シャツ…。いかにもなストリート系のラッパーっぽい格好だ。が、意外にもフィナンシェがいいんじゃないかな?と言った。思わぬ言葉にガレット刑事が驚きの声をあげる。マドレーヌを指差した。

「こいつが…こいつでいいのか?」

「うん。音楽大学なら、ラッパーがいてもおかしくない。そっち専門だと言えばおかしくないだろう。ちなみにマドレーヌ、ラップはできるのかい?」

その言葉にマドレーヌは目を輝かせると、歌い始めた。

「右手から始まる止まれ忠告。行き過ぎだBabyここ警告。いつも通り?sadly 、夢じゃないぜかませendless。」

「…これラップになってんのか?」

ガレット刑事が困惑しつつ言うと、フィナンシェもうーん…と首を傾げた。

「ラップは僕も専門外だからね…。タタンはわかるかい?」

「いえ、私もあまり…。」

三人がため息をつく中、かき消すようにマドレーヌはラップ(?)を放ちまくっていた。

「絶対零度から始まるバイブス、耳傾けたら地獄行き確定だ。妄想だ?banだ、止まらねぇこの世界にlock-on…して?飛び立つ、光捧ぐ、ぶちかます俺のライム!」


読んでいただきありがとうございます!

いつも通りの作者は、今回音楽に挑戦しましたが…ラップ(?)を爆誕させました。おめでとうマドレーヌ、君は勢いだけはあるラップを構築したよ、私のせいで。というわけでそんな元凶に等しい作者のXはこちら

→https://x.com/Ameme_H_Novel

今回は前編でしたが、後半もお楽しみに!

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