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第一話 絶対王者

暗い牢屋の中。サバランは鉄格子を静かに見ていた。体を小さく横に揺らしながら、牢屋の中で小さく呟く。

「…明日もカヌレ探偵とボードゲームですか〜。超ワクワクウキウキ☆面会室という狭い部屋で、彼女を追い詰め、盤上は全て私で塗り潰し…。」

急に揺れをぴたりと止まると、じっと鉄格子を見つめた。彼の目は一瞬で狂気に満ちた。近くに近寄ると、指で鉄格子をなぞる。自分を捉える硬い棒。一気に心の中に生理的嫌悪感が満ちた。鉄格子に足の裏をぴたりと当てる。

「気に食わない。ほんっとうに、嫌ですね、コレ。私の足の下に、本来はあるべき代物。それがこの悪の極みである私を捉えるなんて、図々しいにも程があるぞッ!貴様どの面で私を捉えようというのかね?!詳しくお話聞きたいんだけど?」

鉄格子に向かって唾を吐いたのち、自分を取り囲む牢屋内を見渡す。殺風景な風景。彼の目はやはり生理的嫌悪感に苛まれていた。頭を掻きむしりながら地面にひれ伏す。

「…牢屋にいるのが嫌だ。カヌレ探偵とのボードゲームが楽しくないわけじゃない。だが、サバラン選手は、牢屋の中にいるのが耐えられない様子ーっ。解説どう思います?そうですね、彼は自分を捉えるもの、それ自体が大嫌いなんだと思います。世界を自分の色に染め上げないと納得いかないんですよ、だからこそここまで悪の頂点でいられたんでしょう。なるほどぉ。悪の素養が決してここにいることを、認めてはくれない。サバラン選手にとっては二重苦!カヌレ探偵とのボードゲームは楽しいと認め、現実を受け入れようとする自分と!悪のカリスマである自分が牢屋なんかに囚われて、本当に嫌だと拒絶反応を起こす自分の葛藤っ。これは解決策など見つからない。サバラン選手、カヌレ探偵に追い詰められるより1番今が辛そうに見えますーーっ。それはそうでしょうね、彼としてはカヌレ探偵に追い詰められるのはそこまで苦ではないし、むしろ彼女との攻防を楽しむタイプでしょう。なので今、カヌレ探偵とボードゲームしてるのは楽しいが、心のどこかで満足してないんだと思います。やはり彼としては、牢屋から出て、カヌレ探偵とボードゲームなんぞではなくもっと大きな盤面で戦いたいという魂からの叫びが拒めきれないのでしょう。」

ゴロゴロと床にのたうち周り出すサバラン。ハァハァと息を吐きながら、静かに目を開けたり閉じたりする。彼は苦しそうに自分で自分の体を抱きしめ始めた。ついにお腹が少し痛くなり、内臓が少し痛み出す。

「もう嫌ッ。寝ても覚めても、どんなに人を陥れて幸福を感じる夢を見ても、現実は牢屋の中。認められるわけねぇだろ〜。僕を支配するというのなら支配される覚悟もあるんだろうね、牢屋くん?」

急に恐ろしい笑みでニコニコと牢屋を見やるサバラン。すると彼は、牢屋の角に違和感を感じた。すぐに静かに歩み寄って探る。すぐに牢屋の床の一部が抜けた。

「ほう?面白いですね。」

抜けた床の一部はサイズ的にカードくらいのサイズだが…。裏をチラリと見るサバラン。一瞬の驚きの後、彼はフフフ…と不敵に笑った。

「おや、この私になんて…見る目があるじゃない。」

そう言って彼は床の一部を元に戻すと、手をパンパンと叩いた。先ほどの嫌悪感はまだ目に満ちているが、同時に反抗心といつもの余裕が少し戻ってきつつあった。すっくと牢屋内に立ち上がり、じっと鉄格子を見つめる。不敵に笑った。

「良いでしょう。蹴落としてさしあげますよ。この悪の頂点と言っても過言じゃない、サバランという男がね。」

今はもう元に戻された床の一部。そこに書かれた、サバランだけが見た文章。

ーーー捕まるとか滑稽でちゅ。

   マジおもろい、ばぶぅ♡ーーーー


とある廃ビルの廊下で、かなり良い年をした男は満足げに踊り狂っていた。ピシッとした黒スーツをきて、仕事用の靴でタラタタタとリズムを刻んでいる。口には、赤ちゃん用のミルクサブレが加えられていた。

「オーブン街に初めて来まちたが、悪くない街でちゅ。はとこのサバランが、こーんな楽しい街に居たなんて…ずるい。バブゥ…(怒)。同い年の、50代の僕ちんを差し置いて、何一人で楽しんでるんでちゅか。でも牢屋内にいるとか馬鹿面白いことになってるから、めちゃくちゃ愉悦でちゅ。」

すぐにスマホを取り出し、赤い点のある場所を見つめる。ここからそう遠くない。彼はにっこり微笑んだ。

「さーて、牢屋にいるサバランを煽りにいくでちゅ。自転車で訪問して面会室でクソほど煽り散らかして、楽しんでやるでちゅ。そしてカヌレ探偵たんにも、手を出しちゃうことで牢屋に永遠にお前閉じこもってろとクソほど煽り散らかせるでちゅ。サバラン、今すぐ会いにいくでちゅよ。」

近くに置いてあった自転車に跨ると、スマホを自転車のハンドルに取り付けた。そして男はそのままサバランのいる牢屋に向かおうとしたが…その瞬間地図上の赤い点が動き出した。なんと近くの建物に向かっている。男は面白そうにそれを眺めると、ニタニタと笑った。

「おや、脱走したんでちゅか。じゃあそっちに向かいまちゅかね。」

ゲラゲラ笑いながら自転車の向きを変え、漕ぎ出した。


一方サバランは牢屋から誰にもバレずに、警察内に残っていた自分の駒を使ってこっそり出ることに成功していた。近くの誰も住んでいない民家に入ると、ふぅ…と息を吐いた。

「いやはや、やはり牢屋なんてものは嫌ですねぇ…。一度サバラン入ってみたかった気持ちもあったから、カヌレ探偵にぶちこめられても良いと思って牢屋に入ってみたけど…やっぱあそこイヤダァ。僕には似合わないところさ!やっぱり悪のカリスマたら私は、閉じ込められるなんてことはないんですよ。」

その瞬間に、後ろの扉がガチャリと鍵の閉められた音がした。すぐにサバランが振り返り、鍵をガチャガチャやるが、全く開かない。途端に扉の向こうから、男の声が聞こえた。

「お久しぶりでちゅね、サバラン。覚えてまちゅか?はとこのビスコッティでちゅよ〜。サバランのいる部屋に鍵かけといたでちゅ♡これで君は出られずある意味牢屋行きでちゅ。マジで間抜けで愉悦すぎるでちゅ、バブバブバブ(笑)」

あまりに特徴的な口調に、サバランは全く動じず、悲しそうな声を出した。

「酷いことしますねぇ?ぐっすーん、私をいじめるなんて…ひどぉい♡泣いちゃうにゃんっ♡」

五十代男性の精一杯の可愛い声。だがビスコッティには全く響かないどころか、嘲笑う対象だった。扉をコンコン爪先で突きながら、ケラケラ笑う。

「五十代の良い大人が、壊れてて笑うでちゅ。ついにボケちゃってるんじゃないでちゅか〜?」

煽りまくる声に、サバランの声が響く。

「ふぇ〜〜ん(泣)…じゃ、サバラン選手がチャリ貰いまーす☆」

途端に視界の隅に何かが動いた気がして、ビスコッティが視線を横に向ける。するといつのまにか、停めているチャリの横にサバランがニコニコして立っていた。あまりの展開に動揺すると、サバランがきゅっ♡とチャリのハンドルを握った。その瞬間にビスコッティの動揺と怒りが爆発した。

「…ちょ…どこから出…?!バブゥ!!(怒)僕ちんのチャリをッ!!」

ビスコッティの声に反応するように、サバランが意気揚々とチャリに跨る。さきほどの泣き真似は一体どこへ行ったのかと言うほどに元気な声をだす。顔は清々しいほどに笑顔だった。

「この自転車はサバランさんのような素敵な大人が良いらしいですよ?いやはや!かーわいそうに☆ふふ…名前つけちゃお♡行こうか、私のチャリオット♡フハハハッ!」

チャリの向きを変え、勢いよく漕ぎ出し始めるサバラン。普通の自転車を器用に扱いながら、玄関先の階段を降りながら走り去っていく。ビスコッティが後を全力ダッシュで追いかけながら叫び声を上げた。

「ふざけるなでちゅ!それは僕ちんのもっと凛々しい名前で…ま、待っ…僕ちんの『飛車』ーーー!!!サバラン許さないでちゅ!!」


そんな50代の男どものことなどいざ知らず…カヌレは隠れ家で呆然としていた。目の前には、仮面が少し割れて、眉間の隙間から血を流してる怪盗ノクターン。銀髪に割れた仮面、そしてマント…。だがしかし、割れた仮面から覗く優しい目に、どうしても驚きが隠せなかった。いまだに信じられない顔で、震える声を出す。

「ホワイトショコラ……君…だったの…?」

どう見ても、変装などしていない。眉間の隙間から流れる血が本物であることを証明していた。彼はゴシゴシと袖で拭おうとした。が、即座にカヌレがその腕を掴んだ。不思議そうな目で彼女を見る彼に、慌てた様子でポケットをガサゴソする。すぐに一枚の絆創膏を取り出した。

「ちょっと待って、ちょっと待って。流石に袖は良くないよ、私絆創膏持ってる。これ使って良いよ。」

そう言って絆創膏を差し出すと、彼はじーっとそれを見つめた。そして、再びカヌレの方を見た。優しい目だが…口角が少し上がってて、なにか言いたげである。カヌレも何かあんのか?と同じような表情をして見つめ返す。

「貼ってくれないのか?」

思わぬ言葉にカヌレが静かに察した。眉を顰めつつ、困ったように口角を上げる。

「自分で貼れ。というか、逆に…私に貼られたいのか?自分で貼る方が圧倒的に楽だろ?」

その言葉を聞くと、怪盗ノクターンはすぐにニコニコと微笑んだ。すぐにいつものカフェロイヤルの店員になる。

「貼ってください!カヌレさん!」

「お、おぅ…いやまぁ…そこまで言わんでも良いけどさ…分かったよ、貼るよ…。なんかごめんね…そこまで言わせて…。」

多少の申し訳なささを感じつつ、絆創膏をぺちっと眉間に貼る。とりあえず貼ったが…。少し近づいて、剥がれないか確認する。じーっと眉間を見つつ、彼に恐る恐る言う。

「…とりあえず貼ったけど、剥がれないかな?大丈夫?」

心配な顔をしている彼女に、彼は返事をせずニコ…としていた。何考えてんだかわからない表情に彼女が視線を合わせた途端、スッと顔を近づけてキスをした。

「……!」

彼女が驚きに固まってるのを見て、彼は不敵に微笑むとバッとマントを翻した。すると次の瞬間、元々そこにいなかった様に、綺麗に消えてしまった。口を手で押さえつつ、怪盗がいた場所を呆然と見つめるカヌレ。

「……。」

不満気に床を見た。セクハラ野郎。自分以外、誰一人いなくなった隠れ家はやけに静かだ。

ほんの…めちゃくちゃ…ほんーのッ少しだけ、頬を赤らめた。そりゃ…ちょっぴりでも照れないわけがない。何気ないそぶりをしつつ、ついーっと視線を斜め下に向ける。

(いきなり…なんで…。口…。)

…が、流石カヌレ探偵。ぽやーっとしてたのが急に脳裏に蘇る、結局正体アイツじゃねぇかという記憶。すぐにむかつき始めた。頭に両手を当てながら、膝を折り曲げ体を震わせる。

「…クッソォ…人に勝手にキスしやがって…!ムカつく!いつもカフェロイヤルで、飲食提供してるからって、許されると思うなよ…ッ。」

そして正体がホワイトショコラということから繋がる遊園地での記憶(シーズン1、第11話参照)。頭を掻きむしりながら、悔しそうにうめく。怒りと共に消えた床に向かって叫んだ。

「なんだよあれ!別人のフリしながら、結局遊園地の最初から最後まで全部本人じゃねーか!!なにが俺が日中堂々と出てきただよ!お前、元からカフェにいるじゃねぇかッ。」

くっそームカつくと叫びながら、足をドタバタさせ、背中をのけぞらせる。思いっきり腹の底から叫ぶ。

「絶対負けねぇからなぁ!私は探偵なんだよぉっ。怪盗なんぞに落ちる探偵じゃねぇんだよっ。女だからって舐めんじゃねー!サバランを追い詰めるのは私だァ!!」


バリィィィィィィィッ!

その瞬間、隠れ家の窓が突然割れ、自転車に乗った鯖欄が突っ込んできた。ガラスを撒き散らしつつ、呆然としてるカヌレに気づくと、彼女の周囲を自転車に乗りながらぐるぐると回り始めた。

「やぁカヌレ探偵じゃないですか〜☆見てください、私の自転車、名前はチャリオットです!かっこいいでしょ?乗りたいでしょ?乗せてあげなーい♡ふふふー、サバランは悪魔ですからぁ!」

ニッコニコで25歳の女探偵の周りを、チャリに乗りつつ何度も周回する五十代男性悪。困惑するカヌレにさらにもう一人、彼女の周囲を周回する五十代男性悪が追加される。割れた窓からスーツの五十代男性が飛び込んできて、自転車を追いかけまわし始める。

「サバラン!それは僕ちんのチャリでしゅ!名前も『飛車』でしゅ!あ、カヌレ探偵、バブ……あ、失礼。」

カヌレ探偵を一瞥し、ネクタイをサッと直すビスコッティ。が、すぐにサバランの後を追いかけ始めた。強烈な悪の五十代男性二人に周囲をぐるぐると動かれ、カヌレ探偵は流石に悪夢かと思い始めた。思わず深いため息をつく。呆れた瞳を浮かべた。

「…牢屋に帰れ。」


その頃、マドレーヌはフィナンシェと共に探偵事務所にいた。何もない、特に依頼もないつまらない日常。新築の事務所の床にゴロンと寝そべりつつ、机の上で読書をしているフィナンシェに言う。

「なぁー…。結局ヨォ、カッサータとシュトーレンはなんだったんだ?」

読んでいた本からふっと顔をあげ、フィナンシェがため息混じりに視線を向ける。机に肘をつきつつ、本をぱたんと閉じた。読んでいた本は、薬草学の本だった。マドレーヌは不満げに彼を見つめ返す。

「シュトーレンの方がやばいとか言われてたけど、当日行ってみりゃあ、力技で倒して終わりだったじゃねーか。どこがヤバかったんだよ。」

「…知らぬが花ということもあるよ。それほどまでに残酷な真実だ。例え…言動や行動、性格から推測したものだとしても、ね。」

フィナンシェは机の上にあるティーカップに手を伸ばした。紅茶を一口飲む。そして一息つくと、ゆっくりと言った。

「それでも知りたいのなら、僕の推理を教えよう。」

「知りてぇ。」

食い気味にいうマドレーヌに、フィナンシェは静かに微笑んだ。机の上の本を片付けると、マドレーヌの方をしっかりと見た。

「まず、君はキャバクラ通いだから、カッサータの方が馴染み深いかもしれない。彼女は、おそらく盲目だ。カヌレたちが体験した話からして、おそらく…盲目ゆえに、音や気配に対する感度が高い。」

「目が見えねぇのか。」

マドレーヌの呟きに、彼は真剣な顔で頷いた。

「…そして、おそらくあれは生まれつきじゃない。長年の盲目に見えるが、彼女の家族をチラッと調べたところ…彼女は昔はちゃんと見えていた。」

フィナンシェは少しだけ冷静な目をすると、驚くマドレーヌに言った。

「親は低収入。そして彼女の戸籍は途中から消えている。親が登録し忘れたのか…登録しなかったのか…。彼女は家庭内暴力に見舞われていた。その際に盲目になったのだろう。そして、彼女の父には借金があり、返済期間に追われていた。」

「最悪だな…。」

マドレーヌが静かに呟く。フィナンシェは静かに頷いた。手元の紅茶から立つ湯気がゆらめいた。

「そんな大人が頼るのは、あまり良いところでない。お金を貸してくれる場所…だったが、借りても返せない彼らは、ある日社会の裏の組織に銃殺された。盲目の彼女だけ、運良く生き残ったのだろう。とても彼女の両親が逃したとは思えないから、本当に運だろうね。…だから、彼女はシュトーレンに発砲されても、びくともしないわけだ。彼女にとって、それは自分を暴力から救った音だからね。」

ここまでは推理もあるが、大半の情報が調べたことだと彼は言った。手元の紅茶を飲みながら、静かに目を細める。

「後は大体想像できるだろう?盲目の見た目が綺麗な女性に、男性が手を出さないわけがない。その上、彼女は元より親からの暴力を受けていた。…それでも人は、真実の愛を見つけて幸せになるかもしれない。ただ彼女は、人を陥れたり、掻き回したりする方に幸せを見出してしまった。」

あまりの運命。マドレーヌが流石にいつもより元気がない目になると、フィナンシェは小さく咳払いした。いつもの探偵特有の冷静な視線を向ける。

「同情は不要だよ、マドレーヌ。どんなに過酷な運命でも、そこを闇に思おうが、光に思おうが…最終的に、その人物が選んだ道はなにか。何を大切に思い、何を守ろうとしたのか。…過程も結果も、僕たちは俯瞰して見なければならない。それが過酷な運命にあった彼らに対する、一種の敬意というものだよ。人の痛みはどれだけ想っても、全ては分からない…そんな僕らが出来るのは、物事を俯瞰して見て、2度とこのような事態を起こらないようにすることだよ。」

フィナンシェが少しだけ口角を上げて優しく微笑む。彼の言葉にマドレーヌがそうだなと頷いた。ちょっとだけ事務所の雰囲気が明るくなる。フィナンシェが紅茶を再び飲んだ。

「まぁ、シュトーレンはもっとあれなんだけどね。彼、人身売買組織のボスの息子だったから。」

「うわぁぁぁぁぁぁッ!後に嫌なのサラッと持ってくるなよフィナンシェ!」

悲鳴と共に流石に後ずさるマドレーヌ。もうその情報だけで、嫌な予感しかしない。特にカッサータの話聞いた後では特に。そんな彼の様子を見ながら、フィナンシェが笑う。

「調べた限りでは、自宅の壁に恋人の体が埋め込まれてたんだとか。しかも中途半端にコンクリートで固められたせいで、死因が窒息死とかではなく、コンクリートで体を固められて何も飲み食いできなかったので餓死だとか。」

あまりの事実に悲鳴をあげて、床をのたうち回るマドレーヌ。その彼を笑いながらフィナンシェは見つつ、煽るように言う。

「元々人身売買組織の息子だから、感情なんて壊れてたんだろう。そんな恋人の凄惨な死体に向かって、彼は爆笑したらしいよ。ま、その後実の親を殺して、人身売買にかけて彼がボスになったんだとか。」

さらに悲鳴をあげて激しく床に転げ回るマドレーヌ。聞きたくなかったとはがりの視線を向ける。フィナンシェはそれを真っ向から受け止めながら、だから知らぬが花と言ったろう?と優しく微笑んでいた。その時、コンコンと事務所にノック音が響いた。

「はい?」

フィナンシェが声を上げると、ポムが慌てた様子で駆け込んできた。息を荒げながら、驚く二人に向かって言う。

「カヌレが!レーザーポインターで狙われて…怪盗ノクターンに……。」

事情を話し始めるポム。彼女の言葉に二人は顔を見合わせた。フィナンシェが探偵帽子を被り直しながら、ポムの方へ向かう。

「分かった、とにかく事務所に向かおう。そしてポム、悪いけどガレット刑事に連絡を。レーザーポインターで狙ってきたやつは、サバランの駒とも考えられる。となるとサバランが牢屋から出ている可能性も高い。至急、彼に確認をとってくれるかい?」

「分かったわ。」

即座にスマホを取り出し、ガレット刑事に連絡する。彼はすぐにスマホに出た。

「おいこんな忙しい時に…。」

ポムが事情を簡潔に説明すると、ガレット刑事も電話の向こう側で慌てた声を出した。

「なに…?待て、すぐに確認する。」

しばらく保留音が鳴り響く。三人が様子を見てると、再びガレット刑事が電話に出た。

「…やつがいないらしい!逃げられた。なにか情報があったら至急教えてくれ。奴を探す。」

「分かったわ。」

ポムが電話を切ると、フィナンシェが静かに頷いた。

「やはり牢屋から出ていたか、とにかくカヌレの事務所に行こう。そこで何か分かるかもしれない。」

その言葉にマドレーヌとポムの二人が頷いた。


そのころ、五十代の悪の男たちは25歳のカヌレの周りを相変わらず楽しそうにぐるぐるしてた。カヌレにとっては大迷惑である。なにせ一人はチャリだし、抜けでようにも抜け出れない。

「いい加減どっか行けよぉっ!」

カヌレのブチギレだ声に、サバランが笑い声を上げる。チャリを悠々と漕ぎながらカヌレの周囲を周回する。

「そんなに跳ね除けて〜、サバランが泣いちゃうぞっ♡せっかく再会できたのに、一体全体なんでどうして私を嫌がるんです?あなたにとっての存在意義と言っても過言じゃない私が…あんな牢屋に囚われてるわけないでしょう?人を陥れ!全世界を私の盤面で塗りつぶす!そうじゃないと気が済まないんですよ。痛みで苦しみ悲しみ、壊れてしまう人間がたまらない。突き落とさせてくれ!フフ…私の生きがいなんです。」

チャリのサドルの上に寝そべったり、チャリの車輪の間に足をかけたりして、危ない乗り方を余裕の表情でしている。良い子は真似しちゃダメである。そんなサバランを追いかけるスーツのビスコッティが声を上げる。

「カヌレ探偵、初めまして。サバランのはとこのビスコッティと申します。以後お見知り置きを。…バブ……んっ失礼。僕もあなたを陥れたくて仕方なくてですね、いえ、ひとえにサバランに勝ちたいだけでですが。サバランからあなたという至高の遊び相手を叩き潰し、今僕のチャリをパクって悠々と楽しんでいる彼を苦しませたいだけです。」

思わぬ宣戦布告。その言葉にカヌレが絶句していると、ついに隠れ家の割れた窓から一人の男が顔を出した。白いシャツに黒ズボン。そしておでこに絆創膏。うねうねした黒髪に黒眼鏡で…。カヌレがお前かよという顔をすると共に、男性は騒ぎ始めた。

「ああッ!カヌレさんが、中年男性に囲まれてるなんて…しかも一人はサバランじゃないですか!許さない…カヌレさんがカフェに来ないから、一体何事かと探し回っていたら、こんなところでこんな目に遭ってるなんて…なんてかわいそう!そんな困ってる顔のカヌレさんも可愛いですが、いや本当に可愛すぎてちょっと写真に保存したいところですが…許しません!怪盗ノクターンのみならず、中年男性にまで取り囲まれるなんて…老害が!僕はあの時の、カヌレさんが追い詰められた時のこと、いまだに忘れてませんからねっ。覚悟してくださいサバラン!一度地上に出れないほどに沈めてやりますよ!」

そう言って、ホワイトショコラが懐からロケットランチャーをいきなり取り出した。思わぬ事態に彼以外の全員が呆然とする。流石のサバランもすぐにチャリの向きを変え、カヌレから一気に距離を置いた。

「いやちょ…流石に…!」

カヌレが慌ててホワイトショコラを止めに行こうとする。一方でサバランが必死に隠れ家の外に漕ぎ出すのを見たビスコッティが、慌てて後を追う。

「待つでしゅ!僕ちんのチャリで逃げるなんてずるい!バブゥ!!(怒)」

突然聞こえてきたバブゥ!!(怒)に流石のカヌレも、思わず視線を向ける。そのことなどなりふり構わずに、サバランが自転車を漕ぎながら笑う。

「へへへ、私がそんなずる賢くないとでも思ってたのかビスコッティ!甘い考えだよ。サバラン選手はこのまま競輪競技場まで走り抜けて、君を犠牲にロケットランチャーを掻い潜り、カヌレ探偵とさらにまだ遊ぶ予定なんだからねッ☆」

そう言っていきなり進行方向に向かって、ハンドルを左右に振り蛇行運転をし始めた。ホワイトショコラがロケットランチャーを構えるが、悔しそうにうめく。

「クソっ…ロケットランチャーの照準にうまく当たらないように蛇行運転をッ…おのれサバラン!」

そう言って仕方なくビスコッティに照準を合わせるが、こちらも走りながら蛇行運転。彼が照準を合わせてる間に二人は隠れ家から出て行ってしまった。呆然とその背中を見るカヌレに、ホワイトショコラがすぐにロケットランチャーを手放し、カヌレの手を取る。悔しそうな目で言う。

「…すみませんカヌレさん、あんな高齢ジジイどもを僕が追い払おうとしたのですが…力不足だったみたいで…。ロケットランチャーを持ってきたんですが照準が合わず…。でもカヌレさんを結果的に守れて本当に良かったです。いつでも困った時は、呼んで下さいね。僕があらゆる男さえも蹴散らしますので!もちろん怪盗ノクターンとかいうキザ怪盗も嫌でしたら、蹴散らしますよ。任せてください。僕は元スタントマンですし、カヌレさんが嫌がることは致しませんっ。カヌレさん、あなたが世界で1番です!愛してます!」

そう言ってニコニコと微笑んだ。流石のカヌレも開いた口が塞がらなかった。


読んでいただきありがとうございます!

シーズン2いよいよ始動ッ!!

お待ちかねの皆様、こんばんは!!星くず餅です!まさかこんなに早くシーズン2始まると思ってませんでした?私も思ってませんでした。でも執筆欲が抑えきれなかったんです。

見てください私のXを。この前ついに執筆欲が暴走しかけてました→ https://x.com/Ameme_H_Novel

引き続き本作品をよろしくお願いします!以前と同じ、毎日19時投稿です!!

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