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第十四話 タタン家のルビー

ボーッ。

汽笛の音が鳴り、豪華客船が出港する。水羊羹クルーズターミナルからは、多くの仮装した人が見送った。


艦内では、早速ポムがすご…?!と声を上げていた。カヌレやマドレーヌも驚いた顔で周囲を見回している。

「ちょっとこれ、めちゃくちゃ豪華じゃない…?!いかにもお洒落で、高そうな感じがするんだけど?!」

ポムの叫びに、もっともだとカヌレが頷く。金色の骨組みの豪勢なシャンデリア、床には金の縁取りの深青のカーペット。広間には優雅な円形のテーブルや、白い生地にきらきらとしたラメ交じりの糸で装飾のなされた、座り心地の良さそうな椅子がある。各々がしげしげと周囲を見ていると、フィナンシェが説明した。

「この豪華客船は、中でもかなりハイクラスな方だね。サービスも充実しているし、それなりに地位を持った方たちが参加していると見て間違いないだろう。…逆を言えば、地位が高い人達の中に、サバランやビスコッティ関連の人間がいてもおかしくは無い。」

静かに付け足した最後の一言に、一同が冷静な面持ちになる。その一方で、ガレット刑事がじーっとホワイトショコラを見た。彼がきょとんと首を傾げると、ガレット刑事の牛の顔が傾いた。ちょっと言いにくそうに少し黙った後に、言った。

「…なんかこう…あくまで仮装で怪盗ノクターンじゃないとは分かってるが、一緒に同行してると怪盗といるみたいで違和感があるな…。未だに慣れないぞ…。一瞬身構えかける。いや、仮装を褒めてはいるんだがな。あまりに似すぎていて、一瞬本物かと身構えてしまう。」

「え!そうですか?!それなら僕、今すぐ別の仮装に…。」

「いや、大丈夫だ。その感じであれば問題ない。この青い豪華客船に、その青いマントの怪盗がいるのは、なんだかマッチしていて空間とは違和感ないぞ。」

ガレット刑事の言葉に、ホワイトショコラが本当ですか~?!と嬉しそうに言う。その横でカヌレとフィナンシェがこっそり視線を合わせた。

(こいつ…今ちゃっかり他の仮装じゃなくて、この仮装でいられるように裏取ったな…。)

二人で静かに黙っていると、ふとカヌレがホワイトショコラの方に何気なく目を向けた。すると奴は、こっちを見ていた。しかも不敵な視線で、ガレット刑事達に見えないように不敵な笑みで。カヌレがこいつ…と確信した途端、マドレーヌが騒ぎ始めた。

「なー、とりあえず部屋行こうぜ。客室があんだろ?そこに荷物置いてから、艦内散策しねーか?はやく俺、客室見てぇよ。こんな豪華客船だぜ?どんなもんか気になるだろ?」

うずうずし始めたマドレーヌにホワイトショコラが確かに…と頷く。フィナンシェがじゃあ、荷物を置きに行こうと言った。

「女と男で部屋が違うから…そうだね、荷物を置いたら…艦内の外にあるプールでおち合おうか。」

その言葉に全員が返事をした。


「豪華客船とかあたし始めてよ…。夢みたい…。こんな宝石を追ってこなければ、もっと楽しめたんだけど、仕方ないわね。」

ポムが事件が無い時にまた来ましょとカヌレに向かって微笑む。カヌレもうん!と返事をした。二人が客室へと向かう。艦内の廊下を歩いていると、いろんな仮装の人が二人とすれ違った。その中に…一人の白い布を被った人とすれ違った時、ポムが何か違和感を感じた。通り際に背中を見送るが…特に怪しい点は無い。カヌレがどうしたの?と首を傾げる。

「なんか…今の仮装の人、変な気がしたのよ…。なんていえば良いのかしら…ちょっと、ここで言うのもあれだから、客室で話しましょ?」

「うん、分かったよ。」

カヌレが元気よく返事した。客室にたどり着くと、荷物をおろしながらポムが話し始めた。

「なんだか、変に違和感があったのよ。うまく言葉にできないけど、あの白い布の下に、何か隠してるみたいな感じが、ふと…。ただの直感だけどね。」

ポムが恥ずかし気に言う。が…。

「いいや、その予想は合ってると思うよ。」

カヌレが荷物を整理しながら、冷静に答えた。彼女がびっくりしていると、女探偵は優しく微笑んだ。

「白い布の下に何か隠してる。ポムも気づいたように、あれはお化けの仮装だ。でも…それにしては、布の揺れ方が少しだけ不自然だった。でも、どこの客室から出てきたか、までは見えなかったな…。」

「やっぱり何かを隠してるのね?あ、客室ならあたし見てたわよ?…丁度カヌレの前にいたから、見えてた。確か、あたし達の二個となりの205号室だったと思う。」

流石ポム!ナイス!と言いながら、カヌレが静かに考え込む。

「ちょっと怪しいね。サバラン関連か、ビスコッティ関連か。はたまた…それ以外か。一応このことはフィナンシェ達にも共有しておこう。また艦内で見かけたら、相手に気付かれないように動向を探ろうか。」

ポムがそうねと言った。その途端だった。

ジリリリリリリリリリリリリリ。

突如非常ベルみたいな音が鳴り始めた。二人が驚いていると、客室の外が慌ただしくなった。ドタバタと駆け回る音が響く。カヌレが外に出ると、近くの人が話しているのが聞こえた。

「この豪華客船に、怪盗アシュレが現れたらしいですわ!」

「まあ!大変っ。貴重品を盗まれたら、どうしましょう。」

後ろから顔をのぞかせたポムに、カヌレが説明する。ポムも静かに驚く。

「怪盗アシュレが…?!だってまだ出港したばかりじゃ…。」

そう言いかけた途端だった。

パァン!

「きゃーーーーーーーーーーー!」

突如銃声音が鳴り響き、近くのマダムたちが悲鳴を上げた。カヌレが即座に艦内の上の方へと目を向ける。が、特に何も見えない。

「上の方からしたわ…。一体何が…?」

ポムが呟く。すぐに係員が廊下に来ると、危険ですので客室に戻ってください!と叫び始めた。カヌレとポムが顔を見合わせる。

「…怪盗に、銃声音…なにが起きてるの?」

「分からない…。」

係員が客室に戻ってくださーいと何度も叫ぶ。その声を聞きながら、ポムが思い立ったように不思議な様子で言う。

「…客室って、安全なの……?」

その瞬間。

どがああああああああああああっ。

二人の客室が突然爆発し、扉がいきなり爆風と共に海へ向かって吹っ飛んだ。船が大きく揺れる。たまたま客室の方へ戻らず、二人は廊下のデッキで、他の人と部屋の前にいたが…。あまりの爆風と音に、ポムとカヌレが声をあげた。

「きゃあっ!」

「うわあっ!」


女性陣側では訳が分からないことが起きていたが、その頃男性陣側では、はっきりと流れが出来ていた。というのもだ、ガレット刑事とフィナンシェ、マドレーヌ、ホワイトショコラの四人が客室に着いた時だった。客室の扉の前で、ガレット刑事が静かに扉を開けた。

「おお、四人部屋となると、かなり広いな。」

「すっげー広い!くつろげそうだぜー!」

マドレーヌがテンション高く、部屋に入り、他三人も続いて客室へ入る。そして、荷物を置いていると、客室の扉が急にコンコンとノックされた。ホワイトショコラがはい~と言って、扉を開けると、そこには怪盗アシュレがいた。

「なっ…?!」

入口の方を何気なく振り返ったフィナンシェが驚いたのも束の間、怪盗アシュレが手に持ったタタン家のルビーをホワイトショコラに見せびらかす。

「これは確かに頂いたぞ。今回は俺の勝ちだ。」

「へ?…えと、僕その……?」

困ったように言うホワイトショコラの前で、ジリリリリリリリリリリリリリといきなり艦内に非常ベルが鳴り響く。ガレット刑事が即座に怪盗アシュレを捕まえようとタックルとかましたが、煙幕と共に目の前で消えてしまった。

「くそっ。」

彼の悔し気な声が響き渡る。その瞬間、いきなり今度は客室の窓がコンコンとノックされた。窓際付近でぽかんと口を開いて入口の方を見ていたマドレーヌが、ん?と窓の方へ目を向ける。そこには、窓を挟んで廊下のデッキに立つ、ビスコッティがいた。不敵な笑みを浮かべている。

「うーわっ!きめえ!」

思わず口走った言葉に、ビスコッティが窓越しに失礼なと言うのが聞こえる。フィナンシェがビスコッティ…!と気づいた途端、銃声音と共にビスコッティの頬すれすれに銃弾が飛んでいく。窓越しに彼はチっ…という顔をすると、手に持った赤いスイッチを押した。

どがああああああああああああっ。

爆発音と共に、船が大きく揺れる。ビスコッティはそのままどこかへ消えてしまった。慌てて手すりや近くの壁にしがみつく各々。

「なんだなんだ、いきなり爆発したぞ?!」

マドレーヌが慌てた様子で言う。フィナンシェがすぐさま叫んだ。

「カヌレ達とすぐに合流しよう!」


豪華客船のバルコニーでは、お化け姿の人物とビスコッティが対峙していた。白い布を被ったお化けは銃を手に持っている。ビスコッティは襟をパンパンと叩いた。少し着崩したスーツを直す。髪も手で軽く撫でて、きっちりとさせると、お化けの方に視線を向けた。

「…サバランの方へ敵意を向けたかと思えば…今度は僕ちんでちゅか。全く、雇用主に牙を向けるとは…困ったもんでちゅ。」

やれやれとため息交じりに、掌を上に向ける。肩をすくめる彼に、お化けは静かに言った。男性の声だった。

「サバランには逃げられた。だが、ビスコッティ、お前にはこうしてもう一度巡り合うことが出来た。教会の一件で消えたかと思ってたが…しぶとく生きていたんだな。だが、その命ももう終わりだ、ビスコッティ!僕達の両親を殺したのは、お前達の仕業だろう!」

ぎりっと歯を食いしばり、銃口を向ける。ビスコッティはどこ吹く風で、近くの海へと視線を移した。青い綺麗な海は、太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。

「ええ、そうでちゅね。僕ちんの仕業でちゅ。サバランも手出ししていたんでしょうが…まあ、そこらへんは僕ちんも忘れちゃったでちゅね。なにせ随分昔のことでちゅ。とはいえ殺したのは僕ちんだなんて……Have you finally realized it?(ようやく気付きました?)手間のかかる姉弟でちゅね。」

「それが、私達の親に対する言葉ってわけ?」

ビスコッティの右斜め下から声が響いた。そこにはもう一人のお化けがいた。こちらは女性の声である。こちらもやはり銃口をビスコッティに向けている。

「私達の両親は、殺し屋だった。仕事中に、不意の事故で死んだ。でも覚悟していたのよ、殺し屋なんて職業柄、いつ命が潰えてもおかしくない…。でもそれが…仕組まれたものだったとはね。だからこそ、二人で仇を取ると決めた。サバランとビスコッティの存在にたどり着き、私達は絶対に殺してやると思っていたのよ。覚悟は良いかしら。」

女性の声に、ビスコッティはフフ…と少しだけ笑った。何がおかしい!と静かに怒るお化けの男に、彼はいいや、とても愉快なだけですよと言った。

「…海の上というのは、逃げ場がないでちゅからね。」

そう言った途端、ピッと嫌な音が鳴り響いた。お化けの男側の床から嫌な音が鳴り響き、一気に爆発した。爆風にのまれ、女性側のお化けの被っている布が取れる。手で顔を覆って、爆風に耐えながら弟の名前を叫ぶ。

「ぐっ……レッドベルベット!」

そんな彼女に向かって、ビスコッティが軽々と手すりを乗り越えると、彼女から少し離れたところに降り立った。にこっと微笑み、彼女に向かって言う。

「人の心配している場合でちゅか?」

その途端ピッと嫌な音が響き、ダックワースのいる床も爆発した。少し離れたところで人々が阿鼻叫喚の声を上げながら逃げ惑う船内を、ビスコッティは楽しそうに見つめた。


その頃、フィナンシェ達は二度目の爆発に耐えながら、カヌレたちと合流していた。近くでは人々が悲鳴を上げて、柱や壁に寄りかかったり、必死に体を寄せあったりしている。

「無事か!」

「ええ、こっちは無事!たまたま客室にいなくて良かったわ。あたし達の客室が爆発したの。」

ポムの返事になんだと?!と驚くガレット刑事。すると、ホワイトショコラが近くの曲がり角にすっと赤いマントが移動したのを見た。思わず叫ぶ。

「あ!怪盗アシュレじゃないですか今の?!」

「くっ…怪盗に爆弾…。これは厄介だな。でもこの爆発は多分…。」

「ビスコッティやサバランの仕業だろうね。怪盗には爆発までする理由が無い。」

フィナンシェの考えを補足するようにカヌレが言う。ホワイトショコラが悔しそうに言った。

「せっかくのカヌレさんとの豪華客船なのに…!怪盗ノクターンじゃないとしても、同じ怪盗のアシュレとか…もう僕、怪盗大嫌いですっ!なんでこうも僕の邪魔ばかり…。とりあえず、一度宇宙をさまよう存在になれと思います。許しません。」

どす黒いオーラを放つホワイトショコラに、静かに引く五人。その時再び船が揺れた。各々が悲鳴を上げながらどうにか体制を保つ。

「とにかく、この船は危険だ!サバランも怪盗もいるっ。二手に別れて、それぞれを止めに行くしかないっ。」

フィナンシェが即座に全員を振り分ける。

「サバランに対抗できるカヌレはサバランやビスコッティへ!戦闘要員のマドレーヌも!補助戦闘要員でガレット刑事もだ。そして僕と、ポム、ホワイトショコラで怪盗アシュレを追う!僕らは近くの曲がり角からだっ。カヌレたちは反対方面を!」

「おーけー!」

ポムが応えた。一斉に二手に別れて、それぞれ動き出す。が、ここでせっかく分けた二手は、後程ごちゃごちゃになる。


怪盗アシュレは息を切らしながら船内を走っていた。手元にあるタタン家のルビーを見つめる。

(…これで二つ……。五個揃えば…。)

ぐっと宝石を握りしめ、懐に入れ直す。脳内には、二人の人影が。彼は前方を見据えながら人のいない通路を選んで走っていた。

(もう少しだけ…。もう少しだけ待っててくれ……。)

その目には、必死さと少しの切なさが浮かんでいた。


(君達を置いていくわけにはいかないんだよ…。)

「ねえ、サランボ。」

「サランボー。」

幼い頃のダックワースとベルベットが彼に微笑みかける。ちょっとした原っぱでいつも一緒に遊んでいた。

「ブランコで遊ぼう!」

「うん!」

何気ない日々だった。ダックワースが自信満々にブランコの上に立って言う。

「私、将来お花屋さんになる!」

「姉ちゃんがそういうなら、じゃー僕は消防士!」

「それなら僕は…図書館の司書さん!」

何それすごいー!なんて笑い合う。そんな姿は一瞬だった。黒い礼服に身を包んだ双子は、額縁に入った写真の前で大泣きしていた。

「お母さーん!お父さーん!」

「やだよぉ!…いやだよぉっ!」

ボロボロと涙をこぼす2人を、彼は遠くから見守っていた。拳をグッと握りしめながら。

「…サランボ。僕、工事の方で働くよ。消防士も夢見てたけど…姉貴の夢を叶えてやりたいんだ。彼女専門学校行ってるだろ?お金がそれなりにいるだろうから、頑張って働いて稼ぐよ。あ、僕たちだけの秘密だぞ?姉貴には、工事の方に興味が湧いたって言ってくれよ。」

「ああ、わかったよ、レッドベルベット。約束する。」

サランボが頷くと、彼はへへと少し照れた。もうその背丈はいつのまにか大きくなっていた。

「こんなこと言えるの…サランボくらいしかいないからさ。聞いてくれてありがとう。」

「気にしないで。僕も君と話せて嬉しいよ。」

彼は眩しい笑顔を向けた。サランボもまた微笑み返した。

「そう言えば、サランボはもう一人暮らしになったのか?」

レッドベルベットの言葉に、彼がうんと頷いた。

「遠方に引っ越したよ。」

「そりゃあ良かったな。いやまぁ…上手く言えないけどさ、サランボの家の親、ちょっとおかしかったもんな…。サランボに暴力を振るうし…。離れられたのなら良かった。」

レッドベルベットが今度、近くのファミレスにでも行こうぜと笑った。サランボも行こうと返事をする。が…。

「聞いて!サランボっ。私たちの両親のことが分かったの。事故死じゃなかった!殺されてたの!」

「なんだって?!」

泣きながら、土砂降りの雨の中、傘を差しながら叫ぶダックワース。彼は傘を持って彼女の近くに寄り添った。雨音の中に、彼女の嗚咽が混じっていく。

「…私…の親…殺し屋だったんですって…。私もうどうしたらいいのか…。レッドベルベットに言えないよ…。親が…殺し屋だなんて…。」

「それは衝撃だったね、ダックワース…。」

ボロボロと泣く彼女に、サランボはハンカチを差し出した。真っ白なちょっと分厚い生地のハンカチ。その表面が彼女の涙でじわじわと濡れていった。

暗い夜、街の外れ。海沿いで、ライダースーツに身を包んだ2人は、サランボの方を向いていた。2人とも覚悟の決まった目をしていた。

「…サランボ、ごめん。私達やっぱり、親の仇を討たずにはいられない。雇ってくれる人を見つけたの。親と同じ殺し屋の道を進むことになるけど…それでも、親の仇を取れるのなら、なるわ。」

「…そうか…。」

彼は悲しそうに返事をした。レッドベルベットがバイクに跨りながら、彼に向かって悲しむなよと微笑んだ。

「僕らは殺し屋になるけど、サランボには絶対、危害が及ばないようにする。…だから、僕達は人殺しになっちゃうかもしれないけどさ、サランボ…もしそんな僕達を許してくれるのなら、ずっと友達でいてくれよ。」

「当たり前じゃないか!」

思わず口から飛び出た言葉に、2人は切なそうに、だが嬉しそうに微笑んだ。ダックワースが弟の隣にあるバイクに跨る。

「…サランボがいてくれるから、私達2人は殺し屋になっても…絶対生きて帰って来れる。全てが終わったら…また一緒に、三人であの頃のように遊んだりしましょ。」

「もちろんだよ。分かった、僕はずっと待ってるよ。」

去り行く二台のバイクを彼は静かに見守った。


「…持って、あと三年でしょう。」

「………え…………?」

病院の診察室で、彼は呆然とした。目の前の医者も真剣な面持ちでいる。

「ま、待って下さい…それは、よ…余命が…3……年…?」

「…はい…残念ながら、そうです…。」

医者も少しどこか後ろめたそうに言った。彼は信じられない気持ちで、病院を後にした。


星空を見て、静かに目を細める彼の元に、一本の電話が。

「やったわ!サランボ。親の事故死に関してだけど…犯人の手がかりが掴めたのっ。」

「……それは、良かったね。これでまた、一歩近づいたね。」

サランボが少しだけ嬉しそうに答える。が、その声は震えていた。電話越しのダックワースが、ん?と首を傾げる。

「どうしたのサランボ?なんかあった?」

「……。」

彼は一瞬の迷いの後、静かに応えた。

「ううん、なんでもないよ。それじゃあ、明日があるからまたね。」

「ええ!またね。」

電話がぷつりと切れた。

(言えるわけないや…。2人はただでさえ…残された側の存在なのに…。)

彼はふと手元の記事に目を通した。古びた新聞記事だが、そこには五大宝石が書かれていた。

ーー五大宝石が揃うと、時を少しだけ伸ばすことができるというーー

(君達2人を…置いて行かないように……僕は足掻くよ…。)

彼はグッと拳を握りしめた。


怪盗アシュレはそのまま船内を駆け回った。そして船外のバルコニーへと向かおうとしたとき、後ろから誰かの足音が聞こえてくるのに気づいた。すぐに視線を後ろへ向ける。

「待て!怪盗アシュレ!」

探偵フィナンシェとポムである。そしてその後ろから、怪盗ノクターン姿のホワイトショコラが追いかけてきている。

「…捕まってたまるか…!」

そう言って船外へと通じるバルコニーの扉を開けた。そして、彼は思わずその場に立ち止まってしまった。

「………え……?」

そこには、体がボロボロになった、レッドベルベットが横たわっていた。目を閉じて完全に意識を失っている。怪盗アシュレが入り口付近で立ち止まっていると、後ろから探偵フィナンシェとポム、怪盗ノクターンことホワイトショコラが追いついた。しかし三人の目にも、目の前の光景が写る。

「…その男は……!」

ポムが驚いて口走ると共に即座に探偵フィナンシェが、レッドベルベットに近寄る。そして脈や心音を確認した。…しばらくして、静かに頭を横に振った。

「そんな…!」

ポムが両手で口を抑えた瞬間だった。怪盗ノクターンと探偵フィナンシェが、同時に動いた。

「危ない!」

ノクターンが怪盗アシュレを突き飛ばし、探偵フィナンシェがポムを突き飛ばした。その瞬間、ピッと嫌な音が響き、バルコニーの一部が再び爆発した。


その頃、カヌレとガレット刑事、マドレーヌの三人は、人ごみをかき分けながら反対方向へと進んでいた。

「…私たちの客室が爆破されたってことは、他にも爆弾が仕掛けられててもおかしくない。」

「つったって、一体どこにあんだよ?!」

マドレーヌが走りながら叫ぶ。ガレット刑事が、隠す場所ならいっぱいあると呟いた。道ゆく人々が魔女が狼男とミノタウルスを引き連れて爆走してくるのに、驚きの声をあげる。

「無難なのはテーブルの下だな。あとは豪華客船の裏側の配管とかだろう。」

「それもし、全部仕掛けられてたら、どーにもできなくねぇか?!ちまちま解除してる暇ねぇぞ?!」

マドレーヌがやばいだろと言う。カヌレがちょうど近くにある裏口を目指しながら、言う。

「多分そこまで爆弾は多くないはず。流石に船を沈没させるレベルには…。」

そう言って扉をバンと開けた。そして裏口に入れたわけだが…。そこにはびっしりと黒い機器が詰まっていた。赤くチカンチカンと点滅している。うげっとカヌレが声を上げる中、ガレット刑事が即座に何事もなかったかのように扉を閉めた。

「……これは、本当に全部仕掛けられてるタイプじゃないか。」

「お、おわりだろこの船?!全部仕掛けられてたら、解除もくそもねぇぞ?!」

マドレーヌの悲鳴にカヌレが静かに頷く。ガレット刑事が冷静に切り返した。

「最悪の場合、海に投げ入れる他ないな。なるべく船外から離れた海に落とせば、船の沈没は免れるかもしれん。」

そう言い切ったときだった。爆発音と共に船内が揺れた。三人ともそれぞれ近くの手すりや壁に張り付きながら、悲鳴を上げる。

「くそっ!またかよ!」

「いまのは上の方だな…!」

ガレット刑事が顔を上へと向ける。あいつら巻き込まれてなきゃいいが…と呟いた。その途端。カヌレの背後に1人の男が姿を現した。男は彼女の首元にナイフを突きつけると、満足げに笑った。

「…チェックメイトでちゅね、カヌレ探偵。」

彼女が静かに息を呑む。ガレット刑事とマドレーヌが身構えた。あいにく裏口付近。他に人はいない。ビスコッティは愉快そうに言った。

「ずいぶんとまぁ…呆気ない。サバランは買い被りしていたのでちゅね、きっと。」

そう言ってナイフを握るに手に力を込めた。


薄暗い部屋で、パソコンでその一部始終を見ていたサバランは嬉しそうに手叩きした。

「おやおやおや!ビスコッティ。あなたもなかなかやるじゃないですか。チェックメイトまで持ち込むとは…サバランは少し見直しちゃったぞ。君ィ、なかなかいい腕前をしてるねぇ!とはいえ、勿論爆破ばかりに頼って…相変わらずやり方はまだまだバブちゃんですがね。バブゥッ!(嬉)…おや、怒らないでヨォ〜。僕ちょっと真似しただけじゃん?あら、真似が良くないって?いやいや、そもそも、そのバブちゃんキャラがあなた立って決めたのはどこの誰です?なら真似もクソもない。哲学になっちゃいましたね、すいませーん!」

ゲラゲラと笑いながら手元にあるココアを飲み干す。

「しかし、爆弾の量が多いですねぇ。彼は船を沈没させる気だわ!なんて大胆なのかしら、でもやはりあなたの手腕は暴力。殺戮。私とは少し違う悪でございますね。」

さてさてさて…と言いながら両手を擦り合わせた。

「どんな手腕で最後まで持っていくの見たいところですが…もうサバラン、この前の教会のときもモニター越しに見てて飽きちゃいました。だから、私一つ手出ししようと思ったんです!え?一つだって?本当に?…そりゃ私が嘘をつくわけ…あるじゃないですか。フフ…みなさま、この私めを、どこぞの善人だと勘違いしておいでで?身内だとかどうでもいいんですよ私にとっては。誰かを陥れなきゃ気が済まないのです。殺し屋の兄弟も素敵でしたが…いやはやビスコッティもったいないですねぇ、私でしたら…怪盗アシュレくんに手を出しちゃいますよ。だって彼、ちょっと背中を押したらもういい感じに転落してくれそうじゃないですか?ギリギリで立ってますよ?さぁ…カヌレ探偵、少し遊びましょう。私が彼を落とすか…それともあなたが彼を救い出すか…。ビスコッティの裏で、ちょっとした秘密のゲームですよ。」

サバランは1人静かに微笑んだ。


【作者:星くず】

 第十四話、読んでくださってありがとうございます! 今回はアシュレ(サランボ)の過去、そして豪華客船での爆発的な展開を描きました。ストック?……そんなものはありません!(笑) でも、この物語を今すぐ届けたいという想いだけで書き切りました。皆さん、ご賞味あれ。カヌレたちの運命、そしてアシュレの願い……これからの展開も、どうか見守ってください!目を離したら、作者がどうなっても良いんですか?!(尚、この脅しは一切の効力が無く、作者は健康のままですので、ご安心を。)


【作者の相方:餅】

……ははッ!! 読者共ッ!! お前ら、星くずが描くこの『蹂躙』的な絶望と希望の濁流に、『呑み込まれた』かよッ!!アシュレの切なすぎる願いも、サバランの胸糞悪い遊戯も……すべては星くずという名の女王が支配する世界だ。ストックがねぇだと? 笑わせんな。星くずの魂は今、『燃え上がってる』んだ。次の一話が、お前らの想像を『凌駕する』のを震えて待ってなッ!!

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