第十三話 宝石に仮装に
「怪盗ノクターン!そして怪盗アシュレ!覚悟しろっ。」
ガレット刑事の声が響き渡り、ホワイトショコラに扮した怪盗アシュレを、対面するフィナンシェごと警察が取り囲む。彼らのことなど眼中にない様子で、翡翠を持っている怪盗ノクターンをアシュレは物珍しそうに見た。
「エレガント!…旅行のついでに翡翠を盗もうと思っていたが、まさかこうも予想外の展開に見舞われるとは。」
ノクターンが不敵に微笑んだ。
「旅行がてら?何を言う…。お前が狙っているのは、五大秘宝だろう?」
フィナンシェが静かに首を傾げると共に、怪盗アシュレはご名答と静かに頷いた。懐から一つの箱を取り出す。そして蓋を開けると、真っ白なパールの首飾りが露になった。その輝きに怪盗ノクターンがやはりな…と目を細める。
「ムース家のパールは、既に盗んでいたか。だが、残念だったな。ワッフル家の翡翠は俺のものだ。」
怪盗アシュレは微笑みながらパールの蓋を閉じ、懐にしまった。
「確かに今回のワッフル家の翡翠は、お前にくれてやる。だが、残る三大秘宝は頂く。そして、その暁には…お前の持っている翡翠も頂くとしよう。」
そういうと、アシュレは急に右手を上げた。手首から何かが飛び出ると、水羊羹クルーズターミナルの屋根のふちに、がチンと金属音が響いた。アシュレはワイヤーを使って、一瞬のうちに屋根のヘリに移動すると、警察の囲いなど全く気にならない様子で言った。
「オルボワール、怪盗ノクターン。次こそは、お前の持つ翡翠を手に入れる。」
ボンっと音がして、白煙と共にアシュレは姿を消した。一部の警察が周囲を探す中、怪盗ノクターンは不敵に微笑んだ。
「受けて立つ、アシュレ。…海外の者らしいじゃないか。悪いがこちらも、諸事情により手抜きは出来ない。…全力でやらせてもらう。」
そう言い放つと、くるりとマントを翻し、音も無くその場から消えてしまった。残されたフィナンシェとガレット刑事が互いに顔を見合わせた。取り囲んでいた警察たちもどよめく。フィナンシェが静かに呟いた。
「五大秘宝…?」
フィナンシェとガレット刑事が、二人でカフェロイヤルに向かうと、いつも通りのカフェロイヤルにカヌレとポムとマドレーヌが呆然として座っていた。
「うっそ…アシュレいるって聞いたから…マジでいるんだと思って来たら、騙された…。」
カヌレが真っ白になりながら絶望した顔で椅子にもたれかかっている。ポムも静かに横で頭を抱えていた。
「まんまと騙されたわね…。ホワイトショコラ君に扮してるとは思わないじゃない…。」
「俺達が来たら、ホワイトショコラがいないって言うから、マジもんだと思ったら…アシュレすらもいないってマジかよ…。つーか、ホワイトショコラ買い出し中とか…。紛らわしいっての…。」
マドレーヌがぐでーっとカフェロイヤルの机に上半身をはりつけながら、ぶつくさ文句を言う。それを傍目に、ガレット刑事が言った。
「お前ら、五大秘宝って知ってるか?」
「ごはいひほう?なにほえ?」
カヌレが真っ白になったまま、血の気のない顔で聞く。店主バウムとクレールも店内の仕事をしつつ、ちょっと気になる様子でこちらを見ている。ガレット刑事が店内を見渡すが…自分たち以外に客はいなかった。特に問題ないだろうと判断し、先ほどの水羊羹クルーズターミナルでの出来事を説明する。カヌレたちの顔が驚きと興奮に変わっていくと、丁度入口からビニール袋を引っ提げたホワイトショコラが戻って来た。
「あれ?皆さん、お疲れ様ですー!」
ニコニコしている彼に、フィナンシェが意味ありげな視線を向ける。が…彼は何も気付かない様子で、カヌレ達の方に近寄った。
「なんの話をしてるんです?あ!カヌレさん!僕丁度、買い出しでちょっと材料勝って来たので、後で試作品のドリンクの試飲お願いしても良いですか?!僕の愛のドリンクをっ!」
カヌレが、え、あ…うん…?と混乱しつつ頷く。彼女もこいつ何か知ってるのでは?という視線を向けたが、ホワイトショコラはガン無視で嬉しそうにカヌレさん愛してます!と言いながらキッチンに戻って買い出しの品物を収納し始めた。そんな最中、話を聞いていたクレールが、声をあげた。
「…私…その、五大秘宝聞いたことあるかもしれないです。」
「本当かい?」
フィナンシェの言葉に、クレールが静かに頷く。
「父が記者だったので…。確か、二十年前くらいに一度話題になったやつじゃなかったでしたっけ?うろ覚えですけど…。確か五色の…。」
クレールが首を傾げると、隣でコーヒー豆を挽いていた店主バウムがああっ!そうよ!と思い出したように言った。
「あたしも知ってるわ!確かテレビで見たことあったわ…。あのっ…全部揃えると、なんかすごい奴よね?」
クレールがうろ覚えながらも、確か…とゆっくり頷く。フィナンシェがその話を詳しく聞いても?と聞くと、店主バウムが勿論よ!と頷いた。
「確か五大秘宝は、色が五つあるのよね?緑と、赤と、青と、白と、黒…。えーっと確か、緑はワッフル家の翡翠、赤はタルト家のルビー、青はマカロン家のサファイア、白はムース家のパール、黒はサバラン家のオニキス…。」
「サバラン?!?!?!」
思わぬ言葉に、カヌレが叫んだ。ポムも思わず口を覆っている。店主バウムがそうなのよ…と首をひねった。
「でも、当時有名になった時は、テレビにサバラン家の人が出てたけど…あのサバランじゃなかった気がするのよね?あたし以前一回だけ、カヌレちゃんたちの言うサバランに会ったけど…(※シーズン1、終盤)あいつだった気がしないのよ。」
「親戚か?」
ガレット刑事が不思議そうに言う。バウムがうーん?と静かに首を傾げた。その横で、クレールがでも…と声を上げる。
「タルト家だったら、カヌレさんのとこの執事さん、確かタルト・タタンさんでしたよね?ということは、彼なら知ってるのでは…?」
カヌレが確かに…?聞いたことない気がするけど…もしかしたら知ってるかも…と眉をひそめた。記憶を辿るような顔をする。一方でポムがあたし…と考え込むように言った。
「マカロン家って…あたしの屋敷にいた、あたしの同僚のマカロンかしら。ほら、カフェロイヤルに来た時、ここのトイレで倒れてたあの子…(※シーズン1、第一話と第二話)。もしあの子が関わってるのなら…あの時の事件も、もしかしてその宝石関連だった可能性も、否めないかしら?」
カヌレがうーんと言いながら頷く。その様子を見ていたマドレーヌがぽつりと呟いた。
「でも、んなのを怪盗らが狙ってるわけだろ?…いくら怪盗つってもよぉ…揃えんのは大変なんじゃねーか?サバランが一個持ってるかもしれねーんだろ?そう簡単に行くわけねぇと思うが…。」
「確かにその通りだ。けど、わざわざ海外の怪盗までそれを狙ってくるとなると…話しが変わる。それに…サバランたちが五個集めようとしている可能性もある。」
フィナンシェが冷静に分析した。問題点は三つだと彼は言った。指を三本立て、一本一本説明する。
「まず、宝石が五つあつまると何が起こるのか。次に、その宝石はそれぞれ、どこにあるのか。これは一部怪盗が盗んでいるから、残る三つだね。そして最後に…よく考えてみて欲しい。僕達はこの前のスタジアムで、サバランと対峙した。その時、奴はワッフル家の翡翠をスタジアムまで移動させたが…あの時、銃で破壊しようとした(※第十一話)。となると、奴らがどう宝石に関わってくるか…が問題になる。」
「…サバラン達の関連の仕方は難しそうだから、一番手っ取り早いのは、宝石が五つ集まると何が起こるかと、宝石の場所だね。」
カヌレが返事をするように補足する。こっちにはポムとタタンがいるから、宝石の在り処には、一歩近づいているかもしれないと言った。フィナンシェがゆっくりと頷きつつ、後は怪盗達を警戒すれば良いかなと呟く。マドレーヌがソファにもたれかかりながら、けどよー?と不思議そうに言った。
「ほら、あのこないだの…あのスタジアムで、サバラン達に銃を向けてた、男女二人がいたよな?あいつら、どーすんだ?ただの人間ってわけでもなさそうだよな。なんかサバランの話的には、殺し屋っぽかったじゃんかよ?…ってェことは、あいつらも邪魔しに来るんじゃねーの?」
「君なら銃を防げるだろう?」
マドレーヌが、うーんと首を捻る。考え込む様に空中を見つめた。
「まー…お安い御用だけどよー。でも俺とて万能じゃねえーし、全員を確実に守れるかとなると…。刑事は身を守れるとして、そこの女2人とうちの探偵を守るとなると結構厳しいぞ?それに万が一戦闘になったら、スナイパーが確実に2人…そしてあの時、サバランが優秀なスナイパーが手駒にいると言ってたから、下手すりゃ少なくとも三人のスナイパーがいるよな。うちの探偵を入れても男三人と、女二人はスナイパー相手に武が悪くねぇか?」
その瞬間に、キッチンにいたホワイトショコラが声をあげた。キラキラと目を輝かせる。
「あ、じゃあ、あれな時は僕も一緒に行きますよ!スタントマンの僕であれば、カヌレさんをお守りできます!良いですよね店長っ?!」
店主バウムが羨ましいと言わんばかりに新しいコーヒーを入れながら、叫んだ。
「キィ〜っ!推しのためなら仕方ないじゃないっ。あたしだってフィナンシェ様をお守りしたいのに…店長の分も推しを守ってきなさい、命最優先よ。五体満足は絶対。守れなかったら…(ドスの聞いた声で)クビで済ますと思うな。(何事もなかったかの様に金髪団子髪を揺らしながら)…明日のハロウィンイベントのことは、あたしら二人でどーにかしてやるわよ!せいぜい特別休暇楽しみなさいっ。そして爆散しろっ。なんかの風邪でもひいて、推し眺めて寝込めっ!」
「本当よ!羨ましすぎるわっ。私も怪盗ノクターン様をお守りする特別休暇とか、欲しい〜!あ、でもノクターン様だったら逆に私のことを守ってくれるかも…っ!きゃーそれはそれで守りたいのに守られるなんて…なんて逞しくて…ロマンの塊なのっ。本当羨ましいから、後で翌日風邪でもひけ黒メガネ!」
クレールも便乗して叫ぶ。何も聞こえなかった様子でホワイトショコラがニッコニコでカヌレたちの方を見た。
「というわけで、僕も行きます!」
即座にその場で即決。ポムとマドレーヌが心強い!と目を輝かせる一方で、カヌレとフィナンシェが静かに目をあわせた。互いの言いたいことは全く同じであった。
(いや…怪盗ノクターンが同行するって……。)
二人が彼を見やると、とてつもなくホワイトショコラはにっこにこして、すぐにカヌレの傍に来ると両手を取った。
「カヌレさん!僕がお守りいたしますっ!どんな銃弾も寄せ付けませんっ。こんな可憐で可愛らしくて、美しいカヌレさんに銃口を向ける奴は全員、埋めてやります!撃とうものなら、マントルまで埋めて、一生出てこれないように上に有刺鉄線でも頑丈に張り巡らしてやりますよ!カヌレさんのその綺麗な肌に傷を付けようとする輩は、許しません。元スタントマンのプライドにかけて、我が愛で全てを地に伏せさせます。大体こんな夜明けの前の光のような目を見て…銃口を向けられる男など、馬鹿です。正気の沙汰じゃないです。ああ、本当に綺麗です!もう僕には眩しすぎるくらいです!本当に大好きです!愛してます!」
二人の探偵は、目の前の店員(怪盗)が平常運転だなと静かに理解した。フィナンシェがとりあえず…と呟いた。
「まずは執事のタタンに話を聞いてみようか。」
カヌレ一向がカヌレ探偵事務所で留守を守っている執事タタンの元へ行くと、彼は話を聞いて首を傾げた。
「タルト家のルビーですか…。確かに私はタルト・タタンですが…私の家にはその様なものは無かったと思います…。ただ、昔祖母から聞いた話では、タルト家の職人が掘り当てたルビーを加工したらしく、それでタルト家のルビーというものが出来たそうなんですが…確か、何代めかの時にそれを売ってしまったらしくて…。今はどなたかは存じませんが、別の方が持っているのではないかと思いますよ?」
「なるほど…。タルト家のルビーは今は別の人が持ってるのか…。」
こりゃ探すの大変だぜとマドレーヌが、めんどくさそうな顔をする。が、タタンはそーいえば…と思い出した様に言った。
「確か、戦争の直前に…豪華客船に宝石が飾られてるのが話題になってましたが…確か赤かった様な…?」
すぐにポムが手元のスマホで調べる。そして、驚きの声を上げた。一同にとあるニュース記事を見せる。そこにはガラスのショーケースに入った、赤い宝石が飾られていた。
「タルト家のルビーです!」
ホワイトショコラが記事の見出しを指さして言う。全員が驚きの顔を浮かべる中、フィナンシェが自分のスマホを取り出しながら、すぐさまポムに確認した。
「その豪華客船の名前は?」
「ピスタチオ豪華客船!」
彼がすぐに運行状況や船の詳細を調べる。そして、ラッキーだと声をあげた。スマホ画面を見せながら、全員に説明する。
「ピスタチオ豪華客船なら、明日出港する!しかも、さっき行った水羊羹クルーズターミナルだ。水羊羹クルーズターミナルではハロウィンイベントをやってるが…この豪華客船でもハロウィンイベントをやってるね。参加者は仮装してくるよう書いてある。」
「仮装だと…?」
ガレット刑事が眉を顰める中、ポムが即座に水羊羹クルーズターミナルのところてんに連絡をする。その間に、カヌレが仮装かぁ…と呟いた。
「あの以前使ったレンジャースーツでも着てく?(※第ニ話)レンジャーならまあ…仮装かな?」
「あの時の生徒たちが豪華客船にいるとは思えないが…音楽関係の人たちがいて、変に繋がりを勘ぐられてもまずい。ここはハロウィンっぽく無難に仮装した方がいいだろう。」
フィナンシェが仮装衣装なら、いまなら時期が時期だから、お店で買えるし、僕の事務所にも一部あるだろうと呟く。ハロウィン仮装なんてしたことないや…とカヌレが言うと、ホワイトショコラが僕はカヌレさんの仮装が楽しみです!カヌレさんならどんな衣装でも似合います!とニッコニコで答えた。カヌレがあ、ありがとね…とちょっぴり照れる中、ポムが電話を終えて戻ってきた。
「特別に豪華客船に明日乗せてくれるみたいよ!」
「なら後は仮装だな…。とりあえず男女それぞれ仮装して、明日現地合流するか?」
ガレット刑事が腕を組みながら提案すると、全員が頷いた。カヌレはポムの方を向く。
「事務所に使えそうな衣装があれば使って…無ければ多少買おうか。」
「そうね、ハロウィンなんて仮装するの初めてだわ…。まさか大人になって仮装するとはね。でも少しワクワクしちゃうわね。どんな衣装にしようかしら。」
「わかるー!私も初めてだからちょっと悩んじゃう…!」
2人でキャッキャしてる横で男性陣は、冷静に話をしていた。
「とりあえず、衣装がなくて困る人は僕の事務所に来てくれ。僕の事務所には多少の衣装はある。」
「なら俺は一度事務所に寄らせてもらうか。…ホワイトショコラはどうする?」
ガレット刑事が彼に声をかけると、彼はニコニコしながら答えた。
「あ!僕は大丈夫です。ハロウィン仮装はカフェロイヤルのイベント用のを、つい最近準備してたので…。」
「そうか、なら俺だけか。すまないが借りさせてもらうぞ。」
ガレット刑事の言葉にフィナンシェが、ニコッとして頷いた。
翌日。
水羊羹クルーズターミナルでは、仮装した多くの人でにぎわっていた。白い布を被った幽霊に、女海賊、悪魔やドラキュラ、フランケンシュタインから有名な芸能人の衣装まで…。いろんな仮装をした人で溢れかえっている。誰もが楽しそうにワイワイと話していた。中には見た目では性別の分からないほど、仮装をした人もいる。その入口の隅では、黒いワンピースに黒い尻尾、首には鈴のついた首輪…そして頭に猫耳を付けた、黒猫仮装のポムが時計を見ていた。
「みんなそろそろ来る頃だけど…。大体仮装して、全員が分かると良いんだけど、あまりに違う見た目だったら、あたしだって見破れる自信ないわよ?」
一人ぼやいていると、ターミナルの中央にいた、牛の被り物をしたガタイの良い人物が来た。なんか斧を持って、腰巻を巻いてるが…一応上に肌色のなんか服を来ているが…。筋肉質ではある。ポムがうわなんか近寄って来たと思い、静かに警戒していると、その牛から声が聞こえて来た。
「……俺だ。」
聞きなれた声に、思わずあんぐりと口を開ける。ポムは上から下まで眺めたが…未だにピンと来ない。が、間違いなくあの声だ。
「嘘でしょ?…あんたまさか………ガレット刑事…?!」
「ああ、そうだ。…本当にこの恰好は不服だがな。」
いやいやいや…ちょ…と思わずじろじろ見るポム。ハロウィンにミノタウロスって…それ…?という考えが頭から離れない。牛の被り物をしているせいか、全く刑事感は無くなっているとはいえ…。いや、牛…という考えが頭を支配する。あっけに取られているポムの前で、ガレット刑事が不満げに言う。
「俺とて、反対したんだぞ。だが、刑事だから顔見知りがいるとマズイとなってな…フィナンシェ達に押し切られた。」
「いやそれ半分悪ノリでされたでしょ。」
ポムが突っ込んだ時、おーい!という声が遠くから聞こえて来た。二人が視線を向けると、そこには狼男のマドレーヌがいた。ところどころ体の節々にペイントの傷がある。二人の方へ来ると、ポムを見て嬉しそうに声を上げる。
「猫か!可愛いじゃん。えなに、お酒ついでくれるの?!サンキューなァ!」
唐突な言葉に二人があっけに取られていると、狼男の後ろから、一人の医者が近づいてきた。白衣が血にまみれ、白衣の内側にはいかにも怪しい上にこちらも血にまみれた医療機器みたいなもの。手には怪しげな注射器。いかにもなマッドドクターである。
「すまないね。マドレーヌ、昨日キャバクラを梯子しようとしたから、僕が止めたんだ。今日の為に戦闘要員が消えずにはすんだが…見ての通り反動でね。仮装してる女性が全部キャバクラの仮装してる女性に見えている。」
「流石に手遅れ過ぎるでしょ…。」
ポムが身を少し後ろに引き、マドレーヌから少し離れる。狼男は完全に妄想の中なのか、手には何も無いのに、虚空を掴んでいる。どうやら酒瓶を持っているつもりらしい。その様子を見たミノタウロスが黒猫と狼男の間に割って入る。
「おい、人様に迷惑をかけるな狼男。フィナンシェ、お前医者だろう。この狼男をどうにか出来ないのか。」
「無理だね。時間の流れで彼が目覚めるのを待つしかないよ。僕はやぶ医者だから。」
フィナンシェが手に持った注射器をくるくると回す。ガレット刑事がため息交じりにマドレーヌの肩を掴む。ぐっと目を見つめた。
「何をしている、マドレーヌ。お前、戦闘要員だろう?」
酒に酔ってキャバクラ気分の狼男が、目の前のケンタウロスの圧倒的な怖いツラに、小さく悲鳴を上げた。キャバクラにいたと思ったら、いきなり視界を埋め尽くす牛の顔。流石に怯えざる終えなかった。
「う、牛……牛の黒服…?!ミノタウロスの黒服…?!やばいしごかれる…。」
「黒服じゃない、刑事だ。」
「刑事…?!俺、なんも悪いことしてねーっての……?!」
未知の恐怖にマドレーヌが震えていると、今度は一人の女性が来た。血まみれのドレスに身を包んだ、魔女帽子を被ったカヌレである。狼男が再び酒をついで貰おうとしたが、ミノタウロスに阻まれ、やっと現実を受け入れたのかその場に膝から崩れ落ちた。震える声が飛ぶ。
「日付回ってんじゃん……。もう、日付回ってんじゃん……。俺のキャバクラが…。」
「ようやく目が覚めたかい、マドレーヌ。」
ミノタウロスの横でにっこりと微笑む、マッドドクター。
「お!もう大分揃ってるね。みんな仮装がおもし………ミノタウロス……??」
いつもの笑顔が静かに驚きと困惑に変化する。フィナンシェが即座に説明に回った。わざわざガレット刑事達から少し離れて、カヌレに説明をする。
「彼は刑事だからね。顔見知りがいれはまずいし…。それに、いつもコートに身を包んで、きちんとしているだろう?だから、ドラキュラとかのあの服装では、仕事服を想起して、気付いてしまう人がいるかもしれない。そこで、いつも隠している刑事特有の筋肉を敢えて露出させれば、彼だとバレにくいと考えたんだ。特に、人の筋肉具合やいつも服で覆っている上半身とかは、肌色の服で素肌感を出せば…猶更ただの裸体ではないが、服と来ているとはいえ、裸体にも見えるという二重錯覚を生むことができる。それで彼はミノタウロスとなったわけだ。」
その説明を聞き終えると、カヌレが静かに納得した顔でミノタウロスの方を見た。
「なるほど、顔を隠したりとか、そういうことなら納得だわ。」
「おい、理解するな。俺がミノタウロスになって、誰が嬉しいんだ。」
彼が冷静な突っ込みをした途端、なんか入口の方が少しざわつき始めた。その様子に気付いたポムが、何かしら?と首を傾げる。
「宝石関連かしら?なんか少しざわついてるわよ?」
全員が入口方面に目を向ける。カヌレが驚いたように言う。
「本当だね。なんかざわざわしてるね。」
「…近くの人の声に耳をすましても…なにでざわついているのか、全く分からないね。」
フィナンシェが冷静に言うと、マドレーヌが少し背伸びをした。が…なにせ人でごった返している。流石に高身長とはいえ、見えなかった。
「なんだろうな。ところでホワイトショコラはまだか?」
ガレット刑事がポムに聞くと、彼女は静かに顔を横に振った。
「少なくともあたしが一番にここに来たと思うけど…見てないわよ?」
「俺も見ていない。他は?」
全員が顔を横に振る。すると、ざわつきが近くなってきたと思ったら、人ごみの合間をすり抜けて一人の男が、カヌレたちの前に姿を現した。見覚えのある銀髪、しゃれた仮面、青いマント…。言わずもがな、見慣れたそいつに周囲の人が驚きと賞賛の視線を送る。カヌレ達の前で、その男は意気揚々とポーズを決めた。
「怪盗ノクターン、参上!…なんちゃって☆」
すぐに聞きなれた声がして、思わずポムとガレット刑事、マドレーヌの三人が驚きの声をあげる。
「ホワイトショコラ?!」
「そうです!僕ですっ。あの忌まわしい怪盗に仮装するのは、正直不満だらけでしたが…ですが、あの遊園地の恨みを忘れていないです(※シーズン1、第十一話)。あの怪盗ノクターンにカヌレさんとの遊園地を横取りされた恨み…本当に許しません。こいつなんて海底の底に鎮めてやりたいところですが、僕にあの時あいつが変装したのであれば!今度は僕があいつに仮装してやろうという魂胆です!そしてカヌレさんをお守りします。奴よりも完璧に守り抜いて、アイツに指一本触れさせません。少なくとも、豪華客船の中で素の僕を見たら、そいつは怪盗というわけです!そして、本物の怪盗ノクターンであれば、カヌレさんにこんな熱い思いを語れるはずがない!といういわけで、区別もつきます。ああ!カヌレさん、そんな魔女姿で…。とっても美しくて可愛いです!眼福過ぎます。なんて可憐で、素敵なんだ…。そんな魔女姿のカヌレさんに、魔法をかけられたら僕もう一生魔法解けないですよ!ああ、でも魔法にかかりたい!カヌレさん、愛してます!」
そう言って、目の前で嬉しそうに愛を叫びまくる怪盗。周囲が少しだけ仮装した人だとわかり、少しざわつきが落ち着き、苦笑が走る。ポムとガレット刑事とマドレーヌの三人はすごいと絶賛した。
「すごいわね?!本当に本物みたいよ?!見た目は。」
「よくあの黒いうねうねした髪を隠せたな。」
「すっげー!まじの怪盗に見えるぜ?!お前仮装のセンス良いじゃねーか!」
三人の前でありがとうございます!と嬉しそうに言うホワイトショコラ。そして、その三人の後ろで二人の探偵は静かにこっそり頭を抱えていた。二人が目をこっそり合わせる。互いに思っていることは同じだった。
(ご本人が……ご本人の仮装してきやがった…………。)
二人で重苦しいため息を吐いた。
【星くずの後書き】
「読んでいただきありがとうございます!皆様お久しぶりです。作者です。第十三話、いよいよ物語は大きく動き出します! 五大秘宝、そして豪華客船でのハロウィンイベント……。本人が本人の仮装をするという、ノクターンらしい(?)展開を楽しんでいただけたら嬉しいです! シーズン2完結に向けて、一気に加速していきます!行くぜオラァ!ちなみに最近は相方が告知担当してくれてます。ありがとう相方、マジ助かってるぜ。」
【作者の相方:餅からの追伸】
「……おい、読者共。この女王の紡ぐ『至高の仮装劇』に、蹂虙される準備はできてるか? 特に『全話に愛(❤)』を刻んでるアイツ……お前のことだぜ。この先の展開、一瞬たりとも目を離すなよ。俺とお前の女王が、お前の想像を超えてやるからな。」




