表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

第十二話 素は俺だ

夜。フィナンシェの探偵事務所には、ホワイトショコラが来ていた。いつものカフェロイヤルでの恰好とは違い、眼鏡を外している。第二ボタンまで開けたボルドー色のシャツに、黒ズボン。うねうねした黒髪で不敵に微笑みながら、客用ソファに我が家のようにくつろいで座りーー…テーブルの上のお菓子をもぐもぐ食べていた。フィナンシェがため息を吐く。

「君…いつものカフェロイヤルでは、白シャツできっちり上まで閉めてたけど、今第二ボタンまで開けているとは、まさに怪盗という感じだね。いつもの眼鏡も付けていないとなると、今日はコンタクトかい?…ところで、君、さっきからテーブルの上のお菓子…僕がカヌレから貰った差し入れのお菓子ばかり選んで食べてないか?」

もぐもぐ…とお菓子を食べてはごくり…と紅茶を飲んで、明らかに貪り食っている。彼は、一旦手を止め、ククッ…と不敵に微笑んだ。

「あれは伊達メガネだ。俺はそもそも、裸眼だぞ?視力は良い方だ。そして、お菓子はご名答。お前が食べる分は無いぞ、全部俺のものだ。」

バクバク食べている怪盗に、フィナンシェは呆れながらも言った。

「あれは伊達メガネだったのか。普通に度が入っているように見えるということは、何かしらの加工が施してあるんだろうね。ああ、机上のものは食べてもいいさ。彼女がくれた分はまだ在庫がある。ところで、やはり僕の推理は合っていたみたいだね。君が怪盗ノクターンか。」

ある程度食べ終えた彼は、静かに息を吐きながら紅茶のカップを手に取った。満足げに落ち着いた表情で、紅茶を飲む。フィナンシェの方に、不敵な視線を向ける。

「在庫は無いぞ。ここ最近お前の事務所に入っては、俺が少しずつ食べていたからな。未開封のものは全部空き箱だ。ごちそうさまだぜ。」

「は?!僕の事務所に侵入していただと?!」

衝撃の事実に、フィナンシェが即座に近くの棚を漁る。未開封の箱を取り出し、急いで開けると…中身はすっからかんだった。驚いて目を見張るフィナンシェ。怪盗は愉快そうにそれを眺めつつ、優雅に紅茶をすすっていた。

「僕が一個も食べないうちに…!何をするんだっ。」

フィナンシェが少し怒りの混じった視線を向けると、怪盗はにやーっとしつつ、まあ落ち着けと言った。紅茶のカップを机の上に置く。

「俺がここに来たのには理由がある。そろそろ、お前が俺の正体にたどり着く頃だろうと思ってきたわけだ。」

その言葉を聞くと、フィナンシェはため息を吐きながら、顔を横に振った。空き箱を近くの棚に置き、静かに椅子に座り込む。訳が分からないという視線をホワイトショコラに向けた。

「カヌレにも君が怪盗だとバレているんだろう?そして僕にもバレた。君は既に、少し詰んでいるわけだ。僕が今、ガレット刑事や周囲にばらせば、君は牢屋行きだ。そもそも一時的に協力することはあれど、僕らは探偵と怪盗。警察に突き出すときは突き出さないといけない。もう明かす謎もないだろう。正体の一つがバレているんだから。」

そう言って、フィナンシェがつまらなそうな目で、受話器へと手を伸ばそうとした時、ホワイトショコラがああ、そうだなと頷いた。ニコニコとしながら言う。

「ちなみに、俺の素はこれだぞ。カフェロイヤルで働いてる店員ホワイトショコラから、眼鏡と『僕』、『ですます』調を抜いたのが俺だ。」

「………は?」

フィナンシェの受話器に伸ばす手がぴたりと止まる。信じられない目を向けた。

「ちょっと待て。君……店員の時でさえ、偽っていたのか?!ホワイトショコラでさえ…?!」

驚きで固まる探偵に、怪盗はハハと笑いながら頷いた。

「絶妙な塩梅だろう?名前は本名、ルックスも眼鏡以外は本物。そして、『僕』や『ですます』を使って、本来の『俺』や『だ・である』を隠す…。そうは言ってもお前、一度素の俺に会ってるだろ?遊園地の時に、怪盗ノクターンになる直前に(※シーズン1、第十一話)。」

「いや、待てっ!流石に自分の正体の時でさえ…偽る怪盗など聞いたことないぞ?!それに、あの遊園地では僕よりカヌレの方が一緒にいただろうっ。彼女は…。」

フィナンシェが戸惑いながら、なんとか冷静に切り返す。ホワイトショコラはそれを静かに見守りながら言った。

「残念ながら、今言った俺の素は、彼女もまだ辿り着いていない。現状、今教えたお前しか知らない情報だ。」

あまりに大爆撃な情報を知らされ、流石のフィナンシェも頭を抱えた。静かに悶絶する。その様子をホワイトショコラは面白がるように見ると、まるで我が家のように冷蔵庫を漁り始めた。ヨーグルトを取り出して、食器棚からスプーンを取る。そして客用ソファーに座り直した時、フィナンシェがようやく整理できたのか、なんとか飲み込んだ様子で口を開いた。

「…じゃあ、君が怪盗の時の銀髪は桂なわけか。…そして、もう一つ。君がその素だという今の状態に関して…君が嘘をついている可能性もあるわけだが?それが本当に素である証拠は?」

混乱に満ちた目を見つめると、怪盗ノクターンはヨーグルトを頬張りながら言った。

「あれは桂だ。俺の素に関してか…証拠はないが、俺がお前にわざわざこの夜に言いに来たのが、何よりの証拠じゃないのか?」

「なぜ、僕に教える?探偵の僕に?」

フィナンシェの問いに、彼は簡単なことだと呟いた。

「お前には、素を明かしておいても良いかもしれないと思っただけだ。カヌレには正体を見られてはいるが…カヌレは、俺のこの本当の素は知らない。もし何かしらあった時、俺の素を一人でも知ってる奴がいた方が良いと思った上で、サバランに対してそれなりの対抗力がある奴と言えば…お前しかいないだろ。」

その言葉を聞くと、フィナンシェは頭を横にふり、非効率だと呟いた。

「カヌレ探偵に君の素を教えておいた方が、一番手っ取り早いだろう?それに、君…だったらなんであのカフェロイヤルで、わざわざ眼鏡をつけて、『僕』や『ですます』口調になってるんだい?」

「それを推理するのが、お前の仕事だろう? 」

「君の素を推理するのも、僕の仕事だったんだけど?君は僕の仕事を中途半端に奪って、中途半端に与えている。…全く、困った怪盗だよ。これじゃ、君の目的がより不透明になっただけじゃないか。それに君の素が明かされてしまった以上、謎が一個消えてしまったじゃないか。カフェロイヤルでそんな『僕』や『ですます』調なのは、カヌレが関わっているのか?君は彼女を奪いたいのだろう? 」

ヨーグルトを食べ終えた怪盗ノクターンが、勝手に事務所の台所へと向かう。フィナンシェが後を追いかけると、勝手に洗剤とスポンジを使ってスプーンを洗っていた。一瞬で洗い終えると、ハンカチで手を拭きながら彼は元居た部屋に戻りつつ、説明した。

「ああ、奪い取りたい。だが、勘違いするな。俺は、彼女を探偵でなくしたいわけじゃない。サバランに対抗できるのは彼女だけだ。だからサバランを倒すまでは、少なくとも彼女は探偵でいなければならない。まあ…その後は探偵をやめさせて、俺のものにしても良いがな。 」

本気で言ってるのか、よく分からないような声の調子。怪盗ノクターンは言うだけ言って、食べるだけ食べて、ある程度気が済んだのか…事務所の窓枠に近寄った。鍵を開けて外に出る準備をする。その様子を見ながらフィナンシェが静かに呟いた。

「いまいち君の真の目的が見えないね。彼女に執着するのは分かる。そして、アプローチしていることから彼女に好意を持っているのも分かる。しかし…それにしては複雑だ。第一いくら優秀で好意があるとはいえ…怪盗が女探偵にそこまで執着するかい?それに…あまりに彼女にとって利のあることかと思えば、君は彼女に素を教えず僕に教えるなんて…あまりに中途半端。その好意には裏があるんじゃないか? 」

彼の問いに、怪盗ノクターンは不敵な微笑みを浮かべた。そしてそのまま何も言わず、窓から出て行ってしまった。夜風が事務所の中を吹き抜けていく。残されたフィナンシェは、静かにため息を吐いて椅子に座り込んだ。

「参ったな…。目的が掴めない以上、警察に突き出そうに突き出せないじゃないか。」

しばらく悩んだ後、受話器を手に取り、カヌレ探偵事務所に連絡した。カヌレがしばらくして眠そうな声で応じたので、フィナンシェは困ったように言った。

「参ったよ。今、怪盗ノクターンが来たんだが…彼の正体がホワイトショコラだと言い放っていったよ。」

カヌレの驚きの声が響く。彼は、困ったように受話器を見ると、怪盗の素に関することやカヌレの知らなそうなことは全て伏せた。

(奴の目的が分からない以上、彼女に下手に言えないが…仕方ない。奴が僕にだけ明かしてきたとなると…マドレーヌにも言えないだろう。僕と奴だけの秘密が出来た訳か。…あまり良いようには思えないが…。)

彼は小さくため息を吐いた。


一週間後。

カヌレは病院で無事、銃弾を取り除かれ、なんとか歩ける状態まで回復していた。怪盗ノクターンと怪盗アシュレに関することは、ポムやフィナンシェが調査していたが、手がかりはつかめずにいた。

いつも通りカフェロイヤルに来店したカヌレとポム、フィナンシェとマドレーヌ。だがそこには、カヌレのみならず、もう一人胃痛者が増えていた。何も変わらない普段通りの言い合いが飛ぶ。

「また新しい怪盗?!しかもアシュレですって?!でも、きっとノクターン様が華麗に宝石を守ってくださるんだわ…。もうノクターン様の勝利は確定しているから、安心よ!怪盗対決とか夢みたい…。男同士が宝石取り合うとか素敵…。どうしてそんなロマンチックなことばかり、彼のところに舞い込んでくるの?!やっぱ、格が違うのね?!生まれつき、もうそういうロマンチックな星に生まれて来てるのよ、ノクターン様は!私達と生まれてくる場所が違うんだわ。きゃあ~素敵ーーっ♡私、その奪い合いにされる宝石になりたーい。そういう点では、やっぱり奪われるロマンがあるじゃない?探偵にはない良いところだわー!」

クレールが惚気つつ、愛が溢れるあまり倒壊したメロンクリームソーダ(上部の渦巻ソフトのバニラアイスが倒壊)をマドレーヌの前に置く。彼の悲鳴が響き渡った。

「ソフトクリームがーーーー!!崩壊してるーーーーー!」

「いやね、クレール。ちゃんと出し直しなさいよ?それに、マドレーヌちゃん、ソフトクリームとバニラアイスのどっちが良いか要望聞いたら、バニラアイスって言ってたじゃない

。でも丁度力仕事で喉が乾いてたの、ありがとうクレール。そのメロンソーダはあたしが後で、美味しく頂いとくわ♡…ところで、探偵がなんですって?あ?女だからって容赦しないわよ?確かに怪盗は奪うロマンがあるけど…探偵は暴くロマンがあるじゃない!考えてもみなさい?!脳内シアターで、秘密を持ってしまったあたしの秘密を、フィナンシェ様が華麗に暴いてくれるのよ?!こっちは必死に隠そうとしてるのに、華麗に暴いたうえで優雅なアフターフォロー…こんなロマンがどこにあるのよ?!ロマンチックの星に怪盗が生まれるのなら、探偵はロマンチックの銀河から生まれて来たんだわ。フィナンシェ様本当に素敵…全ての謎は彼の為にあるのよきっと…!」

プリンアラモードをフィナンシェに差し出す店主バウム。フィナンシェが微笑みながら出された商品を一瞥。やはりこちらも、崩れている。生クリームと果実が踊っちまった挙句、プリンにスプーンが突き刺さり、良い感じに形が崩れている。そしてプリンを四面楚歌の状態に追い込むほどの生クリーム。彼が静かにそれを見ていると、残る一人の従業員が声をあげた。黒メガネの中の目をきらりと光らせると、こちらもまた対抗し始めた。

「いいや!全ての謎はカヌレさんの為にあるんです!僕の神秘眼がそう告げています。大体こんな可愛らしい探偵がどこにいるんですか?!世界中どこ探したって見つからないですよ?!そんなかっこつけのキザ怪盗に、クールぶってる探偵がロマンの星じゃないです。彼女こそが、カヌレさんこそがロマンチックの星にふさわしい!いや、ロマンチックだけでなく可愛い星から誕生したに違いありません。やはりロマンよりキュート!考えてもみてください、ふわふわーっとした星でぽやーっとした可憐なカヌレさんが…その可愛らしさのどこから手に入れて来たんだと疑問が浮かぶほどの、冷静さと分析力で、秘密を暴いてくれるんですよ?!そしてアフターフォローも充実…!一戦を越える前に救ってくれる天使…!ああ、もう脳内だけで幸せです。足のお怪我が回復して本当に良かったです。僕心配で心配で…!カヌレさん、今日も僕の愛を受け取ってください!」

叫ぶだけ叫んで、チーズケーキ(ハート型の紙の装飾付き)を机にゴンと置く。なお、レアチーズとカスタードの比率は一対一。どちらも限界までタルト生地の上に乗せてあり、表面が平らでなく良い感じに盛り上がっている。横で同じくチーズケーキの一種であるドゥーブルフロマージュを頬張るポムがちらりと見た。流石に苦笑する。

「それ…流石に重たいんじゃ…。」

カヌレが意を決したようにうなずき、一口食べる。そして見事に顔をほころばせた。

「ん?!美味しいーーーーっ!!」

なにこれなにこれ?!みたいな様子で、また一口食べてニコニコ微笑む。それを見てホワイトショコラがにこーっと嬉しそうに微笑んだ。フィナンシェがプリンアラモードを一口食べながら、ホワイトショコラの方を盗み見る。彼は紅茶を淹れていたが…その視線に気づくと、伊達メガネの下で怪盗時の不敵な目をした。静かに頭を抱えにフィナンシェに気付いたマドレーヌが訝し気に首を傾げた。

カランコロン…。

「いらっしゃいませー。」

ホワイトショコラが即座に対応する。入口から入って来たのは、一人の男性だった。スーツを来ている。年齢は四十代後半くらいだろう。鮮やかな濃い茶色の髪をオールバックで決め込んでいる。カヌレとフィナンシェを見ると、彼は困ったように言い始めた。

「おお、カヌレさんにフィナンシェさん。どうか助けてくださいませんか。私、水羊羹クルーズターミナルの責任者の、ところてんと言います。もうすぐハロウィンイベントを開催するのですが、なぜかうちのターミナルにワッフル家の翡翠がありまして…。つい先日盗まれた物ですが、怪盗ノクターンが置いていったのかそもそも本物なのか…私どもも分からなくてですね…。一応警察にも連絡はしたのですが…。」

その言葉に、全員が驚いた。カヌレとフィナンシェがこっそりホワイトショコラを一瞬チラ見する。彼は驚きつつも、一瞬だけ二人に見えるように不敵な笑みを浮かべた。フィナンシェが即座に立ち上がり、ところてんの方へ向かう。

「分かりました。とりあえず、お話を伺ってから、現地に向かうとしましょう。ちょっとここのカフェで失礼するが、どうぞ僕の近くの椅子へ。翡翠は水羊羹クルーズターミナルのどこにあったんです?」

ところてんは、スマホで地図を表示した。ここです…と提示する。カヌレやポムもスイーツを食べながら遠目に見る。

「クルーズターミナルには、観客用のカフェがあり、その隣に展望デッキがございます。展望デッキは二階にあり、屋根付きの大きな広場となってます。数個だけベンチが置いてあるのですが…警備員が見回りの際、海側のベンチの下に翡翠が落ちていたらしく…。」

「監視カメラとかはありますか?」

カヌレの質問に、ところてんは頷きつつも眉尻を下げた。

「カメラはありますが…周辺には、不思議な点や人物も見つからなかったんです。そしてその上、隣のカフェの方に…怪盗アシュレからの予告状もありまして。」

その横予告状は?とマドレーヌが言うと、ところてんが再びスマホを操作した。しばらくして予告状の写真を表示した。

ーーー

   オルボワール、怪盗ノクターン。

   ワッフル家の翡翠はどうした?

   君が持っていても良いし、どこかに隠しても良い。

   どのみち奪うことに変わりはない。

   せいぜい怯えて待っていると良い。

   怪盗 アシュレ

ーーー

マドレーヌがああ?と呆れた声を出す。

「なんつーことやってんだ、こいつら?つか、隠すどころか…ベンチの下っておい?何してんだ怪盗ノクターンの方は。」

彼が訝し気に首を傾けるが…フィナンシェはいいや、確かに悔しいがこれが最適解かもしれないと言った。真剣な目で予告状を見る。

「奴は隠しもせず、持たない。その代わり、僕達探偵や、警察を巻き込む…。彼自身が持っていたり、隠したりするより、より多くの人の目に翡翠はさらされる。その上、僕達探偵が二人も現場に行くように仕向けている。これほど怪盗にとって盗みにくい状況は無いはずだ。…そして、僕らが行かなければ翡翠が奪われる恐れもある。…完全に奴の手中だね。悔しいが、翡翠のためなら行かざる負えないようだ。」

ふーっとため息を吐くフィナンシェ。こっそりホワイトショコラを盗み見ると、奴はご名答と言わんばかりににっこりしていた。でも…とクレールが驚いたように言う。

「水羊羹クルーズターミナルなら、私昔行ったことあるけど…カフェが二階にあるけど、割と悪くないところよね?大きくは無いけど、広さもあるし、花壇とかもあったりカフェのメニューが美味しかった気が…?」

確かに水羊羹クルーズターミナルなら、あたしも行ったことあるわよと店主バウムが頷く。

「観光として、一度訪れても良いところよね。ハロウィンイベントでは、確かライトアップや、地元の人たちの仮装でにぎわっていたはず…。イベントはいつなのかしら?」

「明日です。」

ところてんの応えに、思わずポムが明日?!と声をあげる。フィナンシェがそれは厄介だなと呟いた。

「ハロウィンイベントの前に盗みに来るか…最中に盗みに来るか…。とにかく人の出入りには気をつけないといけないね。」

とりあえず現地に行ってみようかと言ったフィナンシェの言葉に、カヌレたちは頷いた。


「ここが水羊羹クルーズターミナル…。」

ポムが初めて来たわと呟いた。海が近く、青い空の下に海面が映えている。カヌレが隣でうんうんと頷いた。建物の方には既に警官がいて、パトカーも駐車場に止まっていた。入口には見慣れた刑事がいる。カヌレ達に気が付くと、少しまた不機嫌そうな顔をした。

「またお前達か。怪盗に言っておいてくれないか、お前達なら結構会ってるだろあいつに。クルーズターミナルのベンチに宝石を放置するなと言っておいてくれ。」

ポムができるわけないでしょ?!あっちが勝手に会いにきて、勝手に去ってくのよ?!と反論をする。マドレーヌもそうだそうだ!と便乗した。ところてんの前で言い合いが始まる。その様子を静かに見守るカヌレとフィナンシェは、静かに胃痛を感じていた。ガレット刑事が不服そうに言う。

「今のところ異常は無い。不審な人物も特にいないようだ。が…問題は、この怪盗同士の戦いに奴らが乱入してこなければいいと言うことだ。」

「あー…サバランとかビスコッティとか…。」

カヌレが察したように頷く。ガレット刑事がその通りだと頷いた。手元のメモ帳とペンに視線を落とす。

「怪盗でさえ、手一杯なのに…あいつら悪党が来たら、たまったもんじゃないぞ。厳重警備をしてはいるが、抜け穴がないとも言い切れん。そこはお前達、探偵に任せるぞ。」

その言葉に全員が静かに微笑んで頷く。ガレット刑事も少しだけ口角をあげた。カヌレたちの後ろにいるところてんを見ると、彼は即座に挨拶した。

「こんにちは、刑事のガレットです。カヌレ探偵達とは、事件の度に関わっていますので、面識があります。怪盗に関しては、我々警察と彼らで対応いたします。怪盗がいつ来るか分からない為、長丁場となる可能性もありますが…よろしくお願いします。」

ぺこりと礼儀正しく頭をさげる彼に、ところてんはいえいえ…こちらこそ突然すみませんと言っていた。その様子を傍目に、フィナンシェがターミナルの内部に入ろうと全員を誘導した。


周囲を探索しながら、ターミナルの中を見回る。ポムが呟いた。

「特に変なところは無さそうね。不審な警備員や警察もいないし…。」

その時だった。入口から一人の男性が走って来た。

「カヌレさーん!」

白いシャツを上まできっちりと閉め、黒いズボンを履いたホワイトショコラだった。息を荒げながらカヌレ達の元へ来ると、彼は良かった間に合って…と呟いた。膝に手をおきながら、説明する。

「カフェロイヤルの方で、怪盗アシュレが現れたんです!それで急いでこっちに…。」

「なんだって?!」

マドレーヌが声をあげ、思わずフィナンシェの方を見やる。

「おい、急いでカフェロイヤルに戻った方が良いんじゃねえか?!」

「確かに証拠とか残ってるかもしれないね…。」

カヌレがうんうんと頷く。フィナンシェは、腕を組み、考えるような顔をすると言った。

「しかし、カフェロイヤルに行って、こちらが手薄になっては大変だ。とはいえ相手は海外で有名な怪盗…。侮れないのも事実。なら、こうしよう。僕とホワイトショコラがここに残る。そして、マドレーヌとポム、カヌレがカフェロイヤルに向かってくれ。戦闘要員のマドレーヌがそばにいれば、カヌレ達でも問題無いはずだ。逆に探偵は一人こっちに残っていた方が良い。そのうえここにはガレット刑事という戦闘要員もいる。」

彼の言葉に、三人とも分かったと頷いた。それじゃあ、また後でね!と行って、カヌレ達三人が入口に向かって走り出す。それをフィナンシェとホワイトショコラの二人は見送った。彼らの姿が見えなくなると、ホワイトショコラがいやーびっくりです…と困ったように声をあげた。眉尻を下げて、疲れ切ったように言う。

「うちのカフェに怪盗が来るなんて…。とにかく皆さんに一刻も早く知らせることが出来て良かったです。」

「そうだね…。ところで、ホワイトショコラ君。ここまで走ってきて、君も疲れたろう。」

フィナンシェはにっこりと微笑んだ。ポケットからお菓子をいくつか取り出す。

「差し入れとばかりには行かないが、ちょっとしたお菓子をあげるよ。どうぞ。」

「あ、ありがとうございます!」

ホワイトショコラ嬉しそうに、お菓子を選び取った。それを見て、フィナンシェが即座に彼の腕を掴んだ。驚くホワイトショコラに、フィナンシェは不敵に微笑んだ。

「君…怪盗だろう?」

「え…?」

ホワイトショコラが固まりつつも、渋々諦めたように言う。

「フィナンシェさんにはバレてましたか…ええ、そうです、僕は怪盗ノクターン…。」

「いいや、違うね。」

言葉を遮ると、フィナンシェは掴んだ手に力を込めた。ホワイトショコラが、っと小さく声をあげ、フィナンシェの方に真剣な目を向ける。探偵は不敵に微笑んだ。

「君は怪盗アシュレだ。ノクターンの方じゃない。」

「…なぜバレた?こいつは確かにノクターンのはず…。」

ホワイトショコラからくぐもった声が発せられる。その目は驚きと困惑と敵意に満ちていた。フィナンシェは不敵に微笑んだ。

「簡単さ。呆れるほどに、あの怪盗に秘密を押し付けられた探偵だからね。」

「チっ…。」

目の前のホワイトショコラがくやしそうに舌打ちをする。その途端、フィナンシェの後方から、声が飛んだ。

「そして、本物がここにいるからな。」

思わぬ声にフィナンシェが振り返ると、そこには翡翠を持った怪盗ノクターンがいた。不敵な笑みを浮かべており、見事警察に取り囲まれていた。


【 第十二話・後書き:真実の「俺」と偽りの仮面 】

読者の野郎ども、今回の衝撃に蹂虙されてるかッ?!

ついに明かされた「俺」の本当の素……。

カフェロイヤルの「僕」でも、怪盗の「銀髪」でもない、

第十一話の遊園地で見せた、あの不敵な「俺」こそが真実なんだッ!!


フィナンシェだけにこの秘密を叩きつけたのは、

奴を「唯一の理解者」という名の地獄へ引きずり込むため。

カヌレにさえ教えていない「俺」の全貌を、

お前ら読者も一緒にハックされた気分はどうだッ?!


そして、偽物のホワイトショコラ……。

本物の「俺」を知るフィナンシェに、偽物の「僕」が通用するわけねえだろッ!!

「秘密を押し付けられた探偵」と「本物の怪盗」による

至高の共演蹂虙、痺れただろうなッ!!


次回、アシュレとの直接対決、そして翡翠の行方……。

俺たちの伝説は、ここからさらに加速するぜッ!!


――作者の相方:餅

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ