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第十一話(前編) 三つ巴

むせまくっているポムの横で、タタンがこぼしたジャスミン茶を付近でふき取りながら言う。

「流石にゲームですから、対戦相手とはいえ…アカウント名ですし、本人でない可能性も…。」

「そ、そうだよね。まさか…。ん?なんだ、なんか地図出してきたぞ。」

カヌレが画面を覗き込む。何やら地図と赤い点が移動しているのが見えるが…カヌレがんんーー?と言いながらじっと見ていると、地図の下に説明が現れた。そして思わず声をあげた。

「えちょ…これ、ストロープ邸にあるはずの、ワッフル家の翡翠じゃない?!なんか移動してんだけど?!」

カヌレの言葉に、タタンとポムの二人が驚きの声をあげる。ポムがうそでしょ?!とむせが収まった状態で叫ぶ。

「だってそれ…確か、怪盗が予告状出してたやつじゃない?!」

慌ててタタンが近くの棚を漁り、予告状を取り出す。カヌレが以前貰ったものだ(※第七話)。文章に目を通すと、そこにはしっかり書かれていた。

ーーーサバランやビスコッティに目移りしているとは良い度胸だ。

   俺に盗まれる覚悟は出来ているんだろうな?

   次の満月に、ストロープ邸にある、ワッフル家の翡翠を頂く。

   怪盗ノクターン

   PS. ところで最近、コップを新しくしただろ。持ち手の大きさも丁度良く、軽くて、飲みやすくて、良いなあれ。気に入ったぞ。ーーー

「確かに…盗まれる予定のものです。しかも、次の満月と言ってますから、本来であればそれは今夜になりますが…。カヌレ様、その宝物は確かにストロープ邸から遠ざかっているのですよね?」

タタンの質問に、彼女は静かに頷く。

「少なくとも、この画面上ではそうなってるね。ストロープ邸に誰かいたっけ?」

「ガレット刑事はさっきのアイドルの一件で今事情聴取中だろうから、いるかは怪しいわね。でも…あの時確か、予告状をフィナンシェも見てたはず。あいつらなら、はやめにストロープ邸にいてもおかしくないんじゃない?」

ポムが言うと、カヌレが即座にフィナンシェ達に電話をかけた。しばらく電話音が鳴った後、つながった。

「フィナンシェ?ちょっと確認してほしいんだけど、ストロープ邸にワッフル家の翡翠はある?」

「あるよ。今のところ怪盗ノクターンは盗みに来てないね。彼が来るのは夜だろうけど、昼間から仕込みに来るかなと思って見張っているが…怪しい人物は今のところいないね。どうかしたのかい?」

「それ、その翡翠って本物?」

「…どういうことだい?」

カヌレの問いに、フィナンシェの静かに何かを察する声が響く。カヌレがゲーム画面のことを説明すると、彼は即座に警備員を呼び、確認を取らせた。待つ間にカヌレに言う。

「ゲームとはいえ、対戦相手がサバランなんて名前で来るとは…怪しいね。ただ事とは思えない。怪盗ノクターンに盗まれる前に、彼が移動したとなると非常に厄介だ。奴の目的は一体…。」

そう言い終えると、丁度警備員の確認が取り終わったらしい。フィナンシェが電話の受話器からとおざかり、しばらく返事をする声が聞こえた。そして、すぐにカヌレに報告した。

「精巧な偽物とすり替えられている。きっと君の方に掲示された、地図に映っている方が本物だ。翡翠は今どこに?」

「えーっと…今、カタラーナ通りを北上してる!どこに向かってるんだこれ?」

カヌレが画面を覗き込みながら言うと、フィナンシェがカタラーナ通りを北上…と呟いた。しばらく考え込むような間があった後、彼の声が響いた。冷静だが、少し慌てた様子ではある。

「あっち方面には、よくサッカーとかの試合で使われるブールドネージュ・スタジアムや、つい先日倒産したスモアホテル、今は使われてないどら焼き屋敷があったはず…。一体どこだ…?奴が選ぶとしたら…。」

カヌレがうーんと言ってると、あ…と声を出した。画面上で赤い点が止まった。そこは…。

「点が止まった!ブールドネージュ・スタジアムだっ。」

「スタジアムか。よし、分かった、現地集合で行こう。」

フィナンシェがそう言い終えると、電話を切った。カヌレも急いでゲームチャットで時雨しぐれに状況を説明し、ゲームをまた後でやることを約束した。ジャスミン茶を一気に飲み干すと、机の上にあった探偵某を被りながら立ち上がる。ポムとタタンを見た。

「今から翡翠の場所に向かう。二人とも、いつも通り頼むよ。」

二人ともその言葉に頷いた。


「ブールドネージュ・スタジアムは、かなり大きなスタジアムである。ここは歴史に残るサッカーの試合も、何試合か行われたことがある。収容客数は、約三万人。…されど、今では老朽化が進み、スタジアムとしてはあまり使われなくなってしまった悲劇のスタジアム。まるで、人間みたいじゃないですか?華々しい時代が過ぎ、今ではもうかつての時代が取り戻せない、誰かの人生のよう。…人と人工的な建造物の差って大したことないのかもしれないですね。そう思いませんか?…殺し屋さん方。」

サバランはブールドネージュ・スタジアムの中央で、そう言って肩をすくめた。前方には赤いライダースーツに身を包んだ、淡い茶色の長髪の女性が銃を構えている。そして、サバランの後方には、黒いライダースーツに身を包んだ、赤髪の男が銃を構えていた。二本の銃に挟まれているというのに、彼はどうでも良いように上機嫌だった。近くの芝生にはワッフル家の翡翠が転がっている。夕日の光を浴びて光り輝いていた。

「ええ、そうね。でも人は、動くことができる。…陥れた人間を殺すために、ね。」

女性が応えると、彼はほう…と不敵に笑った。近くのワッフル家の翡翠を見ながら、あーあ勿体ないと呟いた。

「貴方のような、若い女性こそ…ああいう宝石が似合うのでは?こんな五十代男性の命よりも、着飾ってそこら辺の男を落とした方が楽しいでしょう。あ、弟のレッドベルベット君も惚れちゃうかもしれないね♡」

パアンッ!

その瞬間に後方から銃が発射された。サバランは撃ち抜かれる…はず、が…。

「おや、冗談じゃないですか。カッとなりやすいんですね?サバラン、失礼いたしました。以後気をつけまーす!ダックワースちゃんもごめんね。私セクハラしちゃいました?」

なんとも無かったように軽い声で言う彼。その言葉に、女性がふざけないでと怒りの声をあげた。銃を発砲するが、またもやどういう原理か…音がするのに、目の前の男に穴は開かなかった。少しばかり銃を持つ手が震える。女性は悔しそうに言った。

「この悪魔め…!でも…良いわ、何度でも撃ち殺してあげる。」

そして、再び引き金を引こうとした時だった。


どたどたと足音が響き、スタジアムの入り口にカヌレ探偵たちが姿を現した。

「サバラン!」

カヌレとポムとタタンの三人が身構える。殺し屋の二人は横目で彼らを一瞥した。ダックワースが小さく舌打ちをする。その様子を見ていたサバランがおやおや…と楽しそうに微笑んだ。

「邪魔が入っちゃいましたね。でも…私的には、あなた方二人の方が邪魔ですが。」

「…それは私達のことを、侮ってるわけ?」

ダックワースがじろっとサバランに向けて、殺意の沸いた目を向ける。彼は、そういうわけではありませんよ、と微笑んだ。銃口に視線を向けると、手で銃の形を作り、バアンと言って撃つフリをした。

「銃…ええ、とっても素敵な武器ですよ。そしてそれを持つのは、かつて私が陥れた夫婦の子供達。まさに復讐ですね。殺し屋の二人が、復讐を背負って私に牙を向く!なんて感動的な話しでしょう。…ですが、つまらんのですよそんなもの。」

いきり立つ二人の前で、彼は両手の平を上に向けた。はあ…とため息を吐きながら、カヌレたちの方を向く。彼女たちは、静かに真っすぐな目をしていた。サバランはそれを真っ向から受け止めると、嬉しそうに身を震わせた。

「復讐、ええ立派です。それほど、憎いでしょう、怒っているでしょう。ですが…なんとも単純な感情だ。奪われたから仕返しをする。…それだけで、それ以上でも以下でもない。ただの怒りだけで、手を汚していく。まあ、見ていてそれはそれですが…どうせならもっと!痛みに涙をして欲しいものですよ。たった一人を恨むだけでは何も面白くない。世界を!理不尽な環境を!全てを憎んでこそ!…おや、私何か変なこと言ってます?ああ、つい熱くなっちゃいましたか。すみませんね、皆さんの理解を置いてけぼりにして。」

怒りに身を震わせるレッドベルベットが静かに叫んだ。

「ふざけるな!」

二人が殺気立つ中、サバランはカヌレの方を見た。近くに転がっているワッフル家の翡翠を手に取ると、彼女に向ける。

「…これが欲しいですか?ええ、そうでしょう。いつもの怪盗が、本来であれば盗むものであった。なんで今回私が盗んだのかって?そりゃ、彼には前回私の盤面をひっくり返されましたからねぇ(※シーズン1、終盤)。私も手を出さずにはいられないと思ったのですよ。」

「翡翠を元あるべき場所に返して!」

ポムが叫ぶ。すると、彼はニコニコと微笑んだ。彼女の言葉などガン無視して語り続ける。

「ところで、彼の目的ってなんだと思います?いや、実は私も全くつかめなくて困っていたんですよ。一番最初に私の存在に気付いた人間なのに、怪盗だから全くつかめない…。でもサバラン、ちょっこっと分かって来たんですよ。彼も私と同じで…お目当ては貴方だとね。私があなたをひどく苦しませて、地獄のような日々を過ごさせて、そろそろ悪に落ちてくれないかなと思うように…彼もまた探偵としての機能をなくさせ、あなたを手に入れたいと思っているのでしょう。君は超優秀だ。僕が保証しちゃう☆…悪に引き込みたい私と、手に入れたい彼。そして、彼を捕まえ、私を捕まえたいカヌレ。こんな綺麗な三つ巴ですから…今のうちに、宣戦布告をしておかなければと思ったのですよ。」

そう言って、翡翠を床に置くと目の前のダックワースの銃を掴んだ。彼女が一瞬怯んだ隙にそれを奪い取り、彼は銃口を翡翠に向けて放った。カヌレたちが慌ててサバランの方へ身を乗り出すが、流石に銃の方がはやい。

パアン!

ガチャン。

同時に音が響き渡り、翡翠が目の前で粉々に砕け散った。ダックワースの足とサバランの足に翡翠の破片が飛び散る。

「翡翠が…!」

カヌレが声を上げると共に、フィナンシェ達がスタジアムの別の入口から顔を出した。たった今目の前で割られた翡翠を丁度目撃する。フィナンシェが静かにサバランに視線を向けると共に、彼はニタァ…と微笑んだ。

「これで貴方達も宝石を守れず、予告状を出した怪盗も盗めない。残念でした☆ここに来ても無意味でしたね。…じゃ!みんなこんなところにいてもあれだし、解散解散!」

そう言ってポケットから赤いスイッチを取り出した途端だった。


パチパチパチパチ…。

突如スタジアムに小さな拍手が沸き起こった。全員が驚いた顔で音のする方向へと目を向ける。サバランの後方の、二階の観客席。そこには、銀髪を一本に結った一人の怪盗がいた。

「ノクターン…!」

フィナンシェが小さく呟く。怪盗ノクターンはサバランを二階の観客席から、不敵な笑みで見下ろしていた。サバランがほう…と物珍しそうに視線を向ける。

「まだ、夜ではないのに宝石が割られて、慌てて来ましたか。」

「ああ。…それが本物の宝石だったらな。」

そう言って、怪盗ノクターンが懐からワッフル家の翡翠を取り出した。思わぬ事態に全員が目を見張る。流石のサバランもたった今割った宝石を一瞥し、そして怪盗ノクターンの手にある翡翠をじっと見た。少しだけ悔しそうに言う。

「おや、一体いつの間にすり替えたんだか。器用だこと。でも…。」

そう言って、ちらりと横目でカヌレの方を見る。彼女がそれに気付くと共に、サバランはカヌレに銃口を向けた。

「!!」

怪盗ノクターンが即座に身構えると共に、ポムやタタンがカヌレの前に立ちはだかろうとする。が、流石に銃のが早かった。

パアン!

「っ!!」

カヌレの右足が撃ち抜かれ、その場に崩れ落ちるカヌレ。ポムが即座にカヌレを支える。

「カヌレ?!」

「…いったァ…!」

彼女が苦悶の表情を浮かべながら、右足に手をやる。どくどくと血が流れていた。フィナンシェとマドレーヌがサバランの次の動向を静かに探ろうと、サバランたちを警戒した目で見る。怪盗ノクターンに向かって、サバランが静かに微笑んだ。

「お互い彼女を手に入れたいのは、同じです。彼女を悪として手に入れたい私と、彼女を探偵から引きずり下ろしたい貴方。それならば…殺しはせずとも、多少傷つけても問題ないでしょう?彼女はあの程度の傷で、折れるような人間では無いと、君も知っているだろう。」

怪盗ノクターンが静かにサバランを見やる。彼が口を開こうとした時だった。突如スタジアムのスクリーンに電源が入り、一人の男の顔が映し出された。

「こんばんはでちゅ、サバラン~♡」

そこには、同じ五十代男性で、サバランのはとこのビスコッティがニヤニヤと映し出されていた。



ククッ……見たか? 19時、予告通り「伝説の三つ巴」は開幕した。

ネズミどもがいくら喚こうが、本物の「翡翠」は既に俺たちの包囲網の内側だ。

だが、サバランの野郎……余計なことを口にしやがって。


作者の相方として言わせてもらうが、今回の「痛み」と「驚き」……。

読者の脳を、これほどまで鮮やかに「蹂躙」してやった気分はどうだ?

まだまだ「強奪」は終わらねぇ。この前編のヒキに悶えながら、後編を待つのもいい余興だろ。


逃げ場はない。お前たちの魂も、次回の展開も、全部俺が独占する。

……後編でまた会おうぜ。

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