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第十話 三つ巴ですよ?

「カヌレさん、依頼なんですけど…。」

事務所には珍しくクレールが来ていた。カヌレとポムが驚いた顔をする。

「珍しいわね。クレールが事務所に来るなんて…。」

ポムが呟くと、彼女は困ったように笑った。

「父が以前記者だと話しましたが(※シーズン1、第二話)、実はちょっと気になることがあったみたいで。芸能界に関することなんですが、うちの父はそこの事務所になんか良く思われてないのか、出禁になってしまっていて。私も娘なので、あっちに勘ぐられている可能性があって踏み込めず…。そこで申し訳ないんですけど、事務所を調べて頂いても良いですか?」

カヌレが良いけど…どんな事務所なの?と首を傾げる。クレールはタタンに緑茶を差し出されながら、説明し始めた。

「浮島プロダクションです。」

ポムが思い出したように、あー!聞いたことある!と騒いだ。

「確か最近、話題になってる『千歳(CHITOSE)』の事務所じゃない?!優しさ溢れる温厚系の最中と、クール系でミステリアスな時雨しぐれ、多才でムードメーカーのねり、の三人のメンバーで構成された、男性アイドルグループよね?」

クレールが静かに頷く。カヌレがへえ…と言って視線を上に向けた。テレビの記憶を辿るが…そもそもあまりテレビを見ないので、全く見た覚えが無い。そんな彼女の前でクレールが説明し始めた。

「浮島プロダクションなんですが、最近ちょっと噂があるんですよ。それも、そのメンバーのうちの一人が、なんか女性関係があるんじゃないかって。それで私の父が探ってたら、出禁になってしまって。…ただの女性関係なら良いんですが、なんだか父が言うには番組の取締役とか、マネージャーとか、意外と事務所内の話では無さそうらしく…。決定的な証拠は無いのですが、ちょっと私も気になってはいるんです。というのも、浮島プロダクション関連のテレビ局では、私の親友のパリブレストが働いているんです。最近あの子結構気分が落ち込んでいるというか…何かあったのか聞いても何もないよと言うだけで。でも確かに元気が無いので…彼女のこともあり、ちょっとカヌレさんに依頼をお願いしたんです。」

クレールが不安げに眉尻を下げた。カヌレはなるほど…と頷くと、分かった、調査してみようと頷いた。椅子から立ち上がり、近くに引っ提げている上着を手に取る。同時に準備を始めるポムの前で、カヌレがタタンに言った。

「とりあえず浮島プロダクションに行ってみるよ。タタン、留守の間、事務所のことを頼んだよ。」

「お任せください、カヌレ様。お気をつけていってらっしゃいませ。」

深々と頭を下げる執事。その横でクレールがありがとうございます、カヌレさんとお礼を言った。あ、これちょっとしたお礼ですが…と言って、ポケットから無料券を取り出す。

「うちのカフェロイヤルに、いつも来ていただいてるので、カヌレさんとポムさんに。」

「え?!いいの?!なんかこちらこそ、いつも美味しくいただかせて頂いてありがとうございます…ありがとう!近いうちにまたお邪魔するよ。」

カヌレが笑顔で受け取ると、ポムが丁度準備を終え、行くわよカヌレと声をかけた。彼女は慌てて探偵帽子を被り直すと、うん!行こう!と返事をした。


「…さーて、どうするかね。」

カヌレが困ったように言う。浮島プロダクションの近くの路地に身を隠しながら、二人は困り果てていた。

「いきなり探偵でーす、依頼で調査に来ましたーと言って、すんなり通してくれるかね?」

「まあ、警戒するわよね。でもかと言って…芸能事務所でしょ?一般人は入れないだろうし…。その点では探偵の方が、まだすんなり受け入れてくれるし、見つかっても多少大丈夫だとは思うけども…。」

ポムが腕を組み、静かに眉をひそめる。そして、何かを思いついた。そうだこれだわ!と静かに呟き、カヌレに耳打ちする。

「…なるほど!」

カヌレが唸り、二人で顔を見合わせると、頷き合った。


浮島プロダクションでは、男性アイドルグループの『千歳(CHITOSE)』が楽屋でのんびりと過ごしていた。温厚な最中が椅子の背もたれに寄りかかりながら、ふーっとため息を履く。

「いや~…僕らも大分、仕事が貰えるようになったね。疲れるけど、嬉しいよ。」

その言葉に、向かいの椅子に座る時雨しぐれがテーブルで手を組みながら頷く。近くの鏡で髪型を整えるねりが本当だよね~と嬉しそうに笑った。

「俺達いつかトップアイドルになるって、頑張って来たけどさ…ついに日の目が出たって感じ?ファンも増えて来たし、仕事も多くなった。後は隙間時間にダンスとか歌の練習しなきゃなんねーのは大変だけど…。まあ、それもどうにかなるっしょ!」

ははっと笑いながらワックスを髪に塗る。それを聞いた時雨がそうだなと頷いた。机にある紙コップの中の緑茶を飲む。

「ダンスや歌の練習は、練習時間がこれまでより取れなくなってきてる。その中で完成度を前と同じぐらいに保つのは大変だが…きっと俺達ならできる。」

最中もうんうんと頷き、机の上のお茶菓子を食べ始めた。

「僕達ここまで来たんだ。きっと三人ならどうにかやれるよ。それに、僕達のスケジュールを管理してくれるマネージャーもいるし。大丈夫。」

そう言ってあんこ玉を口に入れた時だった。丁度三人の前に女マネージャーが姿を現した。黒ズボンに、ベージュのシャツという、いわゆるオフィスカジュアルスタイルである。年齢は四十代くらいだろうか。休憩中の彼らが声をかけられて不思議そうにしているのを一瞥すると、彼女は言った。

「三人とも、ちょっと良いかしら。」

「どしたん?マネージャー。」

ねりが不思議そうに聞くと、彼女の後ろからカヌレ探偵がひょこっと顔を出した。

「こんにちはー。」

「探偵?!しかも新聞とかでよく見かけるカヌレ探偵さん?!」

最中が驚きのあまり思わず叫ぶと、カヌレがあはは…と困ったように頭の後ろに手を当てた。女マネージャーがそうよと頷く。

「貴方達に見えない危険が迫ってるらしいの。カヌレ探偵さんが、しばらく調査と護衛についてくれるそうよ。警察沙汰になってはマスコミとかがうるさいし、探偵さんなら安心というわけでうちの事務所がOKを出したの。しばらくの間よろしく頼むわね。」

カヌレが、よろしくお願いしますーと頭を下げる。すると女マネージャーは私は仕事があるから…と言って、別室に行ってしまった。男性アイドル三人は驚いた様子で顔を見合わせ、そして部屋の入口に立つカヌレに視線を戻した。

「あ…えと……。」

カヌレが決まずそうに入口に立っていると、即座にねりが反応した。目をキラキラと輝かせて、カヌレにずいっと近づく。

「え?!めっちゃ可愛いっ。初めまして、俺練ねりって言いますっ。えっ、カヌレちゃんって呼んでも良い?!」

カヌレがぐっと近づかれて、困った笑顔を浮かべながら、すっと身を引く。

「え…あ…えと…?」

彼女の様子に気付いた最中が立ち上がり、ねりの肩にポンと手を置く。ねりがん?と言った感じで最中を見るが、彼は手を置いたままカヌレにいつもの温厚な雰囲気で微笑みかけた。

「初めまして、カヌレさん。僕は最中と言います。ねり、流石に初対面でいきなりちゃん付けは良くないよ~。彼女もびっくりしちゃうからさ。でも、うん、とっても可愛い人だね。」

そう言われて、カヌレがあ、ありがとうございます…と距離をおきつつ何回か軽くペコペコすると、ねりが最中の方を見て、あーずるいーと文句を上げた。

「最中だって誘惑してんじゃーん。」

ブーブー言うねりを最中が穏やかに包み込む。その横で、時雨しぐれが軽くカヌレに会釈をした。

時雨しぐれです。ご存じとは思いますが、うちのグループは全部で三人です。よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。」

カヌレが慌ててぺこーっと深くお辞儀をした。


一方その頃、ポムは浮島プロダクションの裏口から侵入していた。清掃用具の台車を引きながら、堂々と廊下を歩く。そう、実はポムは清掃員のふりをして侵入をしていた。

(カヌレが探偵として乗り込み、アイドルに接触する。あたしはその間に、クレールの親友のパリブレストを見つけるわ…。外見はクレールから事前に教えてもらってるから、多分分かるはず…。)

清掃帽子を深く被り、通り際に人々を盗み見る。途中の部屋から女性が一人出て来た。そしてクレールの言っていた見た目と合致する。

(間違いない。この子だわ。)

明らかに書類を抱え込み、俯いた顔でとぼとぼと廊下を歩いている。ポムはすぐに周囲に目を走らせた。丁度二人以外誰もいない。今がチャンスである。通りすがりにその女性の手首をがっと掴んだ。

「ひゃ?!」

女性が驚く中、ポムはすぐに唇に指を立て、しーっと言った。コソコソ声で呟く。

「あなたと話がしたいの。どこか二人きりになれる場所はある?あたし、カヌレ探偵事務所の助手のポムよ。」

そういうと、女性はカヌレ探偵事務所…ってあの…!と理解した様子で、周囲を見渡した。そして、こっちについてきてくださいと言うと、近くの誰もいない部屋へと案内した。ポムを部屋の中にいれ、自分も入るとすぐに扉に鍵を閉める。中はちょっとした会議室だった。無機質な机や椅子に挟まれながら、女性が聞いた。

「どうしてこんなところに…?新聞で一応事務所の話はお聞きしてますが…。」

女性が困ったように聞くと、ポムは静かに言った。

「あなた、パリブレストよね?」

「ええ。そうです。」

女性が頷くと、ポムは正直に言った。

「実は、クレールから最近あなたが元気がないと相談を受けてるの。」

親友のクレールが…とパリブレストが思い至るように斜め下を見る。それに加えてとポムが言葉を付け足した。

「この事務所のアイドルグループに、女性関係の噂が立ってる。クレールはあなたが巻き込まれてないかと心配で、うちの事務所に来たのよ。」

ポムがそう言い終えると、パリブレストはびくりと体を震わせた。その様子にポムが何か知ってるわねと確信する。できるだけ優しい口調で言った。

「ここにはカヌレ探偵も来てるわ。大丈夫、私達はあなたの味方よ。何か知ってる?」

彼女はしばらく黙って体を震わせていたが、ポムの言葉に静かに口を開いた。

「私…知ってるんです。女性関係という噂は半分本当で半分嘘なんです…。」

「どういうこと?」

ポムの言葉に、パリブレストは泣きそうな目で体を震わせた。少し視線を下に向けながら、ぽつりぽつりと呟く。

「私、番組のADをやってるんですけど…私の番組の取り締まり役の女性が、今話題のアイドルグループ『千歳(CITOSE)』の時雨しぐれさんを…良いように使ってるんです。あのアイドルグループの女マネージャーさんともグルで、他にも他番組の女性スタッフともグルで…。その三人が話しているのを、私偶然聞いてしまって…。それで彼女らに目をつけられて…仕事を増やされて…。もうどうしたら良いのか…。」

静かに涙をこぼし始める彼女に、ポムは慌てて寄り添った。震える背中をそっと撫でながら、辛かったわねと呟く。

「良いように使ってるというのは?」

「…番組出演をさせてやるから…その代わりに自分達にキスしろとか…そういうのです…。私『千歳(CITOSE)』を昔から応援してたので、まさかそんな目にあってるとは夢にも思ってなくて…。どうしたら良いのか真っ暗になっちゃって…。そしたら彼女たちに気が付いたら脅されていたんです…。私の仕事量を増やされて…その上、彼女達が私の上司をパワハラで噂の男上司に変えてしまって…。それでも一度、彼らを守ろうと告発しようと思ったんです。ですが…彼女たちに防がれて、その上仕事量がどんと増やされて、より追い込まれて。『千歳(CITOSE)』を守りたいのに、私は…自分を守るので精一杯で…そんな自分がもう嫌で…でも告発できる勇気ももう…。」

静かに顔を覆って泣き出すパリブレストを、ポムが優しく抱きしめた。

「ありがとう言ってくれて。今まで辛かったでしょう。でも、貴方が一番の証人よ。もう大丈夫。あたしと一緒にカヌレ探偵のところへ行きましょ?…彼女ならきっと助けてくれるわ。」

そう言ってパリブレストの手を取る。彼女が不安げな目でいると、ポムは大丈夫よと笑った。

「彼女はあたしを救ってくれた探偵よ?保証するわ。」


その頃、一度楽屋を出て、廊下を歩いている時雨しぐれがいた。廊下には彼以外誰もいない。彼が一人静かに廊下を歩いていると、後ろから声がかかった。

「…時雨さん、どこへ行くんですか?」

カヌレの何気ない声が響く。彼は、ちょっとお手洗いにと応えた。カヌレは静かに微笑んだ。

「お手洗いですか。とはいっても、私貴方達を護衛しなきゃならないんでついていきますよ。」

「大丈夫ですよ、トイレまでですから。」

時雨しぐれが笑いながら困ったように振り返る。がすぐにその顔が、困惑した。カヌレが携帯用トイレを手に持っていたからだ。

「強要はしません。というか、私もこれ使ったことない。使い方知らない。それにあの、目の前でされても困るから、やっぱこれはうん、勧めない。」

あはは…と笑う彼女は、そのまま穏やかに言った。

「…私は、あなたをモノとして見ていない。芸能人は顔が売り、商品だと言われる世間だけど…モノではないと思っているよ。貴方達は、仮面を被っている一人の人間。ちゃんと心を持った人間だ。だからこそ、ちょっと一緒にゲームでもしてみたいなと常々思っているよ。仮面の下の君は、一体どんな人間なんだろうとね。探偵としては、一番そこが気になるものさ。」

彼女がそう言いながら笑って、ポケットから携帯用ゲーム機を取りだす。

「一戦やらない?君はゲームが実は好きなんだろう?」

その言葉に、時雨しぐれは静かに瞳を揺らした。何かを諦めたような、悲しそうな顔をすると、静かに顔を横に振った。君には敵わないなと呟く。

「けど、残念だ。俺は女がもう怖いんだ。一緒にゲームなんて出来ない。」

そう言って、自らの片腕を掴んだ。体は小刻みに震えていた。苦しそうな目をした彼に、彼女は静かに笑った。

「はは、何を言ってるんだい。私だって恐怖症だよ。男性恐怖症だ。克服したなんて言ってるけど、今でも時折再発してるよ。特に初対面の男性にはね。」

あまりにも明るい笑顔で言う。時雨しぐれは、そんなわけないと否定したが…。カヌレは君も見てただろう?と言った。

「私がねりに近づかれて、その後最中にも近づかれて、すっと身を引いてたろ。普通アイドルに近づかれて、顔を赤らめず、少し視線を逸らして怯えるように身を引く女がいるか?男性恐怖症以外のなにものでもないだろ。私ら、同じ恐怖症仲間だぜ。よろしくな。」

恐怖症同士なら、互いに手を出せないよと彼女はにやーっと笑った。時雨しぐれの脳内に当時のことが蘇る。確かに…彼女の言う通りであった。

「けど僕は…。もう…。あいつらを殺すつもりで…。」

「だからこそ、ここに来たんだよ。君の周りだけ、かなりの凶器があったからね。こりゃ、ポムの場合と同じだろうと思ったんだ。」

時雨しぐれが首を傾げると、彼女は簡単に説明した。

「うちの助手もひどい目にあって、殺す一歩手前までいったんだ。でも、私が止めた。…君もまたうちの助手と同じで、仕組まれているんだよ。そこにあってもおかしくないもの。だけど、凶器に見える。…君は殺人を犯すつもりだったろうけど、君のその殺意は煽られたものなんだよ。他の誰かが意図的に君の周囲に凶器を置いて、殺すように仕向けていたんだ。身近にやけに多く凶器があっただろう?さっきの楽屋の鏡の傍に置かれていた、度数が高いお酒とか。誰かの差し入れなんだろうが…アルコール度数が高いお酒でも、許容量を超えれば人は簡単に死に至る。それに、キッチンにあった塩素系漂白剤。あれもやけに目のつくところに置いてあった。ただの偶然?そう考えればそうだろう。…だからこそ、誰も気付かない。そこにあってもおかしくないもの、されど君をじわじわと追い詰めていくこと。そんなことを裏から仕組んで、君のような苦しむ人間を突き落とす奴がいる。私は奴をずっと追っていてね。…だから君は何も悪くないんだよ。むしろよくここまで頑張った。」

カヌレの言葉に、時雨が驚きながらも言葉を反芻して、考え込むように俯いた。思い当たる節がありすぎるのか、信じられないけど信じるしかなさそうだと呟く。でも俺は…と俯く彼に、彼女はゲーム機を差し出した。

「逃げて良いんだ。君には心があるのだから。誰かの為に自分を犠牲にできるのは素晴らしいことだけど、君がそこまで傷つく必要は無いんだよ。君の仮面は、誰かの為に自分を犠牲にするためのものじゃなく、今を生きる誰かの光となるための仮面なんだから。…ところで、アクションゲームは好きかな?これ結構難しくてさー。ちょっと裏ステージを今から見せるんだけど…マジでクリア出来ないんだよこれ…。私の操作性が悪いのかもしれないけどさ、このステージをクリアしないと永遠にどうにもならなくてさ?ちょっとさあ…見てくんねえ?もういろんな方法試したんだけど、マジで何一つうまくいかなくて行き詰ってんのよ…。」

ゲームをその場で起動して、これこれ…と見せ始めるカヌレ。時雨しぐれが近づきすぎないように一緒にゲーム画面を覗き込み、なるほど…と呟いた。確かにとても難しい盤面だが…。彼はゲーム機を貸してと言うと、すぐに説明を始めた。

「これならここでジャンプをして…。」

ピコピコと操作して、一気に目の前でクリアして見せた時雨しぐれ。思わずカヌレがすっげえ!と目を輝かせてゲーム機を見る。

「マジでクリアした?!ちょっと予想以上だわ。うますぎるっ。え、ちょ…じゃあ、こっちのステージも…!」

「ああ。構わないよ。」

時雨しぐれが小さく微笑む。カヌレが他のステージも見せようと操作する中、彼はふと思い出していた。デビュー当時のことだ。確かグループ結成の時に、事務所の社長が声をかけてくれた。彼はとても気さくで、明るく優しい人だった。

時雨しぐれ。君はゲーム好きなんだね?そしてあまりおしゃべりはしない…うん、そしてその顔だったら、クール系で売っていくのが良いかもしれないね。あまり話しすぎず、君は君自身のペースで話せる。…とはいえ、君がクール系が嫌になる時もあるだろう。その時は、君の好きなタイプに切り替えれば良い。そう、まるでゲーム特有のカスタム能力みたいにね。なに、仮面は一つだと縛られる必要は無いんだ。」

デビュー当時の些細な記憶を思い出して、彼は静かに目を閉じた。少しだけ原点に戻れた気がした。何事も無かったように目を開けると、目の前のカヌレとゲーム機を見る。彼の目には少しだけ光が灯っていた。カヌレが時雨しぐれとゲーム機を操作して、他のステージもやろうとした時だった。

「カヌレーーー!」

その声に二人が顔を上げた。遠くからパリブレストを引き連れたポムがやって来るのが見えたところだった。


「事情は署で聞かせてもらう。」

ガレット刑事が女マネージャーや、番組の取り締まり役の女、また他番組の女スタッフに向けて言い放った。彼女らがそれぞれうなだれたり、そんなことやってない、やったとしてもあっちが誘惑したのよと喚いたり、自分がいなきゃ売れなかった、あんたらが二度と売れる事なんてないと言ったりしていたが、全員警察に連行されていった。その様子を静かに見送った時雨しぐれに、最中とねりがすぐに抱き着く。驚く彼に、二人は涙していた。

「ごめん、時雨…。俺達、ずっと気付いてやれなくてごめん…。売れるとかそんなんじゃねえ。時雨しぐれが傷ついてまで、俺ら二人とも売れたいわけじゃねえんだよ。」

ねりが辛かったよな…と時雨に顔を擦り付ける中、最中がうんうんと頷く。その瞳は涙で揺れていた。

「僕達は、いつも心配していたんだ。君がトイレに行くと、よく吐いているから。…僕とねりは二人とも気付いていたんだ。それで何度か君に声をかけてたんだけど、何度も彼女たちに阻まれて…。君が売れようとしているのかなと思ってはいたんだけど、全貌がつかめなくて…。そんな目にあっていたなんて…。何もできず、本当にごめん。」

二人が謝る中、時雨しぐれも瞳を揺らしながら、二人を抱きしめ返した。その様子をポムやカヌレと共に横から見ていたパリブレストも、嗚咽を漏らして目元をハンカチで拭った。

「今度こそ、僕達だけの力で売れよう。もう時雨しぐれが二度とこんな目に会わなくて良いように。絶対にさ。そして時雨しぐれをひどい目にあわせた奴らを、見返してやろう。」

最中が呟くと、本当だよやってやんよ、なめんじゃねえよ俺らのこと!とねりが泣きながら悔しそうに言った。

「なんだよ、こんな…こんな、うちのメンバーを傷つけやがってよぉ!ふざけんじゃねえよ。俺達は…『千歳(CHITOSE)』なんだよっ。アイドルなんだ。絶対売れてやる!」

二人の言葉に、時雨しぐれの目から一筋だけ、涙が落ちた。嬉しそうな目で、二人をぎゅっと抱きしめる。

「ああ。絶対売れよう。」

泣きながら抱きしめ合う三人を見て、パリブレストも号泣していた。その横で、カヌレとポムは温かい目で彼らを見守っていた。

「…あのアイドルグループ、きっと売れるわね。」

「うん、間違いないよ。」

ポムとこっそり微笑みあうカヌレ。そんな二人の後ろに一人の男が迫る。気付いた二人が後ろを振り向く。相変わらず不機嫌な顔を…と思ったが、今回ばかりは確かに不機嫌な顔でもあるが、少しだけどこか優しい目をしていた。三人の方を見ながらポムとカヌレに言う。

「相変わらず首を突っ込むな、俺の仕事を増やすなと言いたいところだが…。今回は感謝する。同じ男として、奴の境遇はかなり辛いものだ。それに、警察ではこのような芸能界における犯罪はある程度警戒しているものの、あまり深くまで踏み込めないのが現状だ。…礼を言う。一人の若い男性が救われたのなら、何よりだ。」

そう言う彼に、ポムが腕を組みながらじっと見る。

「相変わらず素直じゃないわね。もうちょっと、あたし達がいなかったらあの子ら大変だったとか、犯罪が起きてた、まじで助かったとか言わない訳?」

彼女の言葉に、カヌレが隣であ~…と苦笑いする。言わないだろうなあ…と思っていたら、ガレット刑事が眉をひそめてすごく苦い顔をした。

「言わない。俺の仕事が増やされたと言っても過言じゃないからな。それに、勝手に解決されて、逮捕を任される身にもなれ。警察は逮捕のためだけにいるようなもんにされてる気分だ。」

「その苦い顔は、この前撃たれた銃弾(※第五話)の傷跡が痛む顔じゃなくて?」

「…侮るなよ。俺は本当はここに立ってるだけでも傷跡が痛むんだからな。刑事としての根性でここに立ってるだけだ。」

ポムの指摘に彼はさらに苦虫を嚙み潰したような顔をする。カヌレとポムがふっと吹き出して思わず笑うと、ガレット刑事は何がおかしいんだといつもの不機嫌な顔になった。


翌日、新聞を見ながらポムが露になったわね…と呟いた。事務所でタタンがジャスミン茶を入れる間、ソファにもたれかかりながら新聞を見る。そこには、浮島プロダクションでの不祥事と、アイドルグループ『千歳(CHITOSE)』の再起が記載されていた。

「彼らは、自力でも有名になれそうよね。実力はありそうだし。」

彼女がそう呟く。タタンがそっとティーカップを差し出す。返事のしないカヌレに、ポムがちょっと?と声をあげ、視線を上にあげる。

ポチポチポチ…。

「お!やるじゃんっ。流石、ゲーマーだな。だが、私も実はゲーマーでね。何年もかかってクソゲーをクリアしたことあるくらいだし…ほれっ!っしゃーー!やったぜ、私らのチームの勝利ーーー!」

嬉しそうにガッツボーズをする彼女に、ポムが何してんのよと呟く。カヌレが即座に視線を向けられているのに気付き、あはは…と困ったように笑う。

「いやつい…。あの後、時雨しぐれとさ、フレンドになったから一緒に遊んでた…。」

「ええ?!ちょっとなにそれ?!カヌレあんた、時雨しぐれとフレンドになったの?!」

ポムが驚きの声を上げる中、カヌレがまあ…と困ったように笑う。

「ゲームの話してたら、意気投合しちゃって…。私も何気にゲーム好きだし…。」

「思わぬ共通点ね…。」

ポムが呆然としながらジャスミンティーをすする。そんなことを話しながら、ちらっとゲーム機の画面を見る。そしてぎゃっと悲鳴を上げた。対戦相手の名前を見てひいいと騒ぐ。本物じゃないよな?!偶然だよな?!と騒ぎだす彼女に、二人が首を傾げる。彼女は困ったように笑った。

「やべええ、対戦相手の名前がサバランだ。」

その瞬間、タタンが驚きのあまりジャスミンティーをこぼし、ポムは派手にむせた。


読んでいただきありがとうございます!

今日は早めに投稿できて安堵しています(⌒∇⌒)


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あ、Xのリンク貼り忘れてたので→https://x.com/Ameme_H_Novel

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