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第9話 バニラアイスを一つ

「…敵国に撃たれたと言われてたが…。おめぇ…タタンの妻を撃ったのか…?」

ゆべしの驚きに満ちた声が響き渡る。サンマルクは体を震わせつつ、全員から向けられる痛い視線に怯えていた。ボソボソとつぶやく。

「違う…あれはたまたまで…。意図したわけでは…。」

「…確かに意図した通りじゃない。」

カヌレがキッパリと言った。その言葉に彼はそうだ…その通りだと頷く。が、彼女はまっすぐな目をしていた。

「そう…後ろから来ていた敵兵と間違えて撃ってしまった、と。しかし実際は、タタンの奥さんの後ろには誰もいなかったはずですよ。」

その言葉にサンマルクが静かに黙る。彼女は淡々と述べた。

「あなたは、意図的に撃った。戦争の英雄であるタタンに嫉妬し、自らの出世を手に入れるために。敵国に撃たれたことにして、タタンのその後を奪い取り、一緒に悲しむふりをしてあなたは出世した。」

その言葉にポムがなんて酷いことを…と呟いた。錦玉羹も冷徹な目でじっと見つめる。そんな二人の横でゆべしが信じられねぇよ…と呆然としていた。

「あの時…おれたちゃ、戦友だったじゃねぇか…!」

その声はかなり震えていた。


六十年前、ゆべしは一人瓦礫の上で項垂れているタタンのそばに駆け寄った。その時すでに、タタンのそばに寄り添っているサンマルクがいた。

「おめぇら二人とも、んなところでどしたんだよ?」

「…あっち行ってろよ、ゆべし。今タタンは…。」

サンマルクがそう言った時、タタンがすっと腕を掴んで顔を横に振った。止めなくて良いという雰囲気を出しながら、ゆべしの方を向く。彼の目からは涙が溢れていた。

「パルフェが……撃たれたんだ…。」

「はぁ?!」

どーゆことだよ、そりゃ?!と言うゆべしに、サンマルクが説明する。

「敵兵に撃たれたって一報が入ったんだよ。」

タタンが静かに涙をこぼす中、ゆべしの目もうるみ始めた。なんだよそりゃ…そんなこっちゃねーだろ…?と震える声でつぶやく。拳をギュッと握りしめた。

「なんで…なんでだよ…!婚約してたじゃねぇか…!!ふざけんなよ…ふざけんなよぉっ。」

うっ…と泣き始めるゆべしは、悔しそうに兵士服の袖で目元をゴシゴシと拭った。


「サンマルクが敵将を撃ったってよ、タタン。計画が上手く行ったんだとよ。もうじき、戦争も終わる。俺たちゃ、後少しで用無しだ。戦争が終わったらどーすんだ、タタン。」

彼は近くの堀の中でぼーっと周囲を見ているタタンに声をかけた。彼は少し悲しそうに笑いながら言った。

「…店でも、開こうかな。」

「店?」

良いじゃねぇかと褒めるゆべしに、彼はうん…と頷いた。暗闇の中、たった一つの星を見出した目をしていた。

「…カフェでも開こうと思うんだ。もう自分には、戦える気力はない。パルフェと生きるために戦っていたけど、パルフェが亡くなったと聞いてから…以前のようには戦えなくなった。サンマルクがいてくれたから、この軍隊はどうにか自分がいなくても大丈夫そうで…本当に助かってる。仲間にはいきなり戦闘力が落ちて申し訳ないと思うが…店を開きたいんだ。パルフェは料理をするのが好きだったから。」

泣きそうに笑う彼を見て、ゆべしは静かに頷いた。瞳が揺れないように気をつけながら頷く。

「良いと思うぜ、開店したら連絡しろよ。オラァ、顔出しに行ってやるからさ。」

そう言ってゆべしも泣きそうに笑った。


結婚式で二人は隣に座っていた。

「サンマルクが結婚かぁ…。あんにゃろ、出世してお相手まで見つけちまって…。良い笑顔してるぜホント。」

にやにやとするゆべしに、タタンも微笑む。

「幸せそうで良いね。…本当、戦争が終わって良かった。」

「だな。」

そういやお前さんだってよぉ、店開いたんだって?立派な出世じゃねーかとゆべしが笑う。タタンもあなただって、理髪店開いたんじゃないかと笑った。


タタンの店のカウンター席にゆべしがうん!と元気よく言った。店内はお客で賑わっている。ワンオペのタタンは器用に仕事をこなしながら、次から次へと料理を提供していた。

「タタン、やっぱこのオムライス美味しいぜ。オリジナルレシピなんだってな?これタタンが考えたんだろ?」

「ええ、そうですよ。」

彼がにっこりと微笑んで頷くと、ゆべしはこれ、お店の1番人気なの頷けるぜと笑った。オムライスを口に頬張り、その一口一口を堪能する。

「そういや、サンマルクんところの息子さん、商店やるんだってな。ここら辺はまだ開発途中だから、割と悪くねぇんじゃねーかね。」

「おや商店ですか。良いですね。ここは交通の便も不便ですし、お店も少ないですから…きっと利用なさる方は多いでしょう。」

「客取られねぇように気をつけろよ?ま、オラァいつでもここに来てやるけどな。」

左様ですか、さすが常連客様ですねと笑い声を上げるタタン。ゆべしも笑っていた。


そして時が流れると、近くにできたマルジョレーヌ商店の方に、人が流れるようになった。ゆべしの忠告通り、客が減り、タタンも年齢を重ねていった。

「…もうすぐここは店じまいするようですかね…。」

そんなことを呟いていたある日、店に一人の男性客が来た。それはシュトーレンだったのだが…当時のタタンは、彼がサバランの手先であることを知らない。

「…あの、タタンさんですよね。実は亡くなられた奥さんのことで…。」

「はい?」

そこで彼が聞かされたのは、サンマルクが妻を撃っていたという事実だった。

「そんな…まさか……!」

信じられない思いでいっぱいだが、目の前の突きつけられた証拠が間違いないと言っている。銃弾と彼の持っていた銃の一致。彼が持っていた銃は、確かにそばでよく見ていた。その上…確かに自分は活躍していた。妬み嫉みを飼っていてもおかしくはない。奴の息子は近くの商店を経営している。そして自分の店からは客が奪われた。…一体どれだけ自分から搾取すれば気が済むのかと、彼は静かに怒りを感じた。シュトーレンは、戦後の調査をしているが流れ弾と言われてしまい、逃れられる可能性がある、立件は難しいが、真実を伝えずにはいられなかったもので…それでは仕事があるのでと言って、タタンに別れを告げてどこかへいってしまった。


…絶対に許さない。一族全員根絶やしにしてやる…と、タタンは静かに殺意を膨らませていた。もうすぐこの店を閉める。そしたら、パルフェの責任を、自分の人生を狂わせた奴らに取ってもらおう。そうひそかに思っていた。


店じまいの前日、ここ最近になってよく店に来るようになった女性が来店した。

「いらっしゃいませ。…すみませんが、明日にはここは店じまいします。」

穏やかに言うタタンの目の前で、人が少なくなってきてからよく来ていた女探偵は驚いた声を上げた。

「え?閉めちゃうんですか?」

女性の小さな探偵に、彼は優しく微笑んだ。

「私も年齢ですからね。…しかし、人が少なくなってからいらしていただけるとは…どうしてこの店に?」

タタンがコップを拭きながら言うと、彼女はちょっと困ったように笑った。

「人が多いところは、どーも気が抜けなくて…。人が少ない方がまったりできて、好みなんです。」

カウンター席に座りながら、バニラアイスを一つと彼女が注文する。彼はすぐに注文を受けると、冷蔵庫を開けてアイスを取り出した。透明なグラスにバニラアイスをそっと添える。注文の品を差し出しながら、彼は不思議そうに聞いた。

「どうして…バニラアイスを?」

その商品は1番頼まれることが少ない商品だった。いわば不人気ランキング一位である。彼女はきょとんとしつつも微笑んだ。

「バニラアイスが1番好きなんですよ。この素朴な味が…。」

「他の店や、自販機にもあるでしょう?」

訝しげに聞く彼の言葉に、カヌレはバニラアイスを見つめながら微笑んだ。

「…他の店のものも美味しいですけれど…やはりこのバニラアイスが好きなんです。素朴で…あまり複雑な味のしない、このほんのりと甘いバニラアイスが。」

そう言って彼女はにっこりと微笑んで、スプーンで掬い上げると一口食べた。美味しそうに顔を綻ばせる。

「んー!美味しい〜。」

あまりの無邪気さにタタンは驚きつつも、左様ですかと微笑んだ。ニコニコと微笑む彼女は、すぐに思い出したように寂しそうな顔をした。

「あでも、店じまいするんですよね…。もう食べられなくなると思うと残念です…。」

しょぼんとした目でアイスを見つめるが、意を決したようにスプーンでもう一口食べた。相変わらずんー!と顔を綻ばせながら、決意に満ちた目でいう。

「…思い出に残しておきます!この味をっ。最後のアイスですから、味わって食べます。一口一口を…記憶にっ!」

そう言って女探偵は味わい続けて、食べ終えると少し寂しそうにごちそうさまでしたーと、店から去っていった。タタンは優しく微笑みながら、彼女を見送った。その後日はどんどんと落ちていき…。客は来ず、彼女が最後の客となった。タタンはテーブルを片付けると、テキパキと店を片付け始めた。食器を片付けて、箒で床をはく。その間にも脳内には、一族をどうやって根絶やしにするかの計画が蠢いていた。


その日の夜には店じまいをした。翌日に店じまいをすると逆に言っていたが、もういてもいられなくなってきたのだ。暗い路地の中を歩き、ヤツの家へと向かう。年老いたとはいえ、元兵士。その上ワンオペ経営をしていたのだ。体はそこまで鈍っていない。

(許さない…サンマルク。お前の家を…お前の家族を根絶やしにしてやる…。)

脳裏に蘇るヤツの結婚式。家族。そのどれもが自分が手に入れられなかったものゆえに、許せなく感じた。羨ましいわけじゃない、元々は自分もそうなるはずだったから、疎ましく思うのだ。

(…パルフェを……パルフェを殺した責任を取れ…!)

人通りの全くない暗い路地の中を歩きながら、上着に隠すようにして手に持ったバールを握りしめた。

(パルフェの命と…人の人生を狂わせた…責任を…!責任を……!)

タタンがキッと前方の闇を見据えた時だった。


「責任を取りなさいよ。」


懐かしい声がフラッシュバックした。タタンは思わずその場に立ち止まった。


「…タタン、あなた責任はちゃんと取る大人でしょ?」

戦争の前だ。まだ恋人だった時のタタンに、パルフェは詰め寄っていた。

「いやしかし…責任って…。」

「私に、こんな美味しいバニラアイスを食べさせた責任よ!」

彼女は淡い栗色の髪を揺らしながら、少しだけ頬を赤らめて言った。タタンに詰め寄りながら、もう!と少し怒ったように言う。

「卵だって、牛乳だって、砂糖だって貴重で高価なのに…わざわざ遠出してまで買いに行ってると思ったら…こんな美味しいバニラアイスを作るためだなんて!ちょっと責任取りなさいよっ。」

「責任だなんて…ただ、君のために作っただけじゃないか。大したことないよ、砂糖高くて少ししか買えなかったし…レシピなんて適当だから、バニラアイスまがいのものだよ。責任も何も…。」

タタンが困ったように言うと、彼女はぷくーっと頬を膨らませた。彼にしがみつきながら、騒ぎ始める。

「責任は責任よッ!美味しいもの提供したなら、この味を教えちゃった責任取りなさいよっ!高価なものだとは知ってるけど、約束っ。また作るのよ。絶対!あなた子供じゃないでしょ?!小さい責任かもしれないけど…ちゃんと無視せず果たすのよっ。」

「わ、わかったよパルフェ。また作るよ。」

彼が困ったようにそう言うと、彼女はにっこりと微笑んだ。


彼は静かにバールを再び握り直した。残像を振り払うように、一歩踏み出す。どんなに思い出があっても彼女はもういないのだ。自分ももう年老いた。誰もいない路地の中を歩きながら、一人呟く。

「…もうすぐ、全てを終えたらそっちに向かいますよ。そしたら、君に…いくらでも…。まがいものでいいのなら…。」

パルフェの嬉しそうな笑顔を抱えたまま、彼は前方の暗闇にそれでも進もうとした。悲しそうに笑う。どうせもう…戻れない。

「私にはもう、奴に責任を取らせることと、死んだ後にやることしか、残っていませんよ。…もう良いのです…。そっちで、君の好きなバニラアイスを……。」

そう呟いた時だった。


「バニラアイスが1番好きなんですよ。この素朴な味が…。」


彼はぴたりと立ち止まった。信じられない思いで目を見開いた。先ほどのパルフェの責任を取れと言う言葉が蘇る。彼は呆然としつつも、振り払うように顔を横に振った。

「違う……違う…!彼女は君じゃないじゃないか…!」

そう声をあげるタタンだったが、反抗すれば反抗するほど、思い出の中のパルフェは彼に話しかけた。

「ねぇ、タタン。私いつか店を開こうと思うの。そしたら、あなたのバニラアイスをメニューに出してよ?私がいつも注文するわ。」

「いつか、私達の子供や孫が…お店に来てくれるかしらね。その時は、あなたのバニラアイスをいっぱい食べさせてあげてね。」

違う…違う……血縁でもなんでもない…と声をあげ、彼はその場に膝をついた。思い出の中のパルフェは、いつも通り優しく、ぷくっと不満気に顔を膨らませていた。

「惚れた理由…?もう!赤の他人だった私に、優しく声をかけたのは誰よっ。」

彼は大きく目を見開いた。そして、彼女の言葉を反芻した。深い深い深呼吸をする。ゆっくりと起き上がると、どこか寂しいような悲しいような…されど、愛おしそうな目をすると、優しく微笑んだ。今はもうシワだらけの手でバールを掴みなおした。そして……。


「…良いんですよ、ゆべし。」

ブルブルと体を震わせるゆべしに、タタンは優しく言った。彼はいつもの穏やかな微笑みを浮かべていた。カヌレ探偵の方を見る。

「私は、今はもう執事です。どんなに人生を狂わされても、今はカヌレ探偵事務所で働くことができている。それだけで、これ以上ないくらい、幸せですよ。」

それに証拠ももう…私に一線を越えさせるために、サバランが処理していることでしょうと彼は肩をすくめた。

「…つっても…お前……。」

ゆべしがタタンとサンマルクを交互に見ながら、動揺しつつ言う。サンマルクが黙ってやり過ごそうとしたが、タタンの穏やかだが圧のある声が響いた。

「…ただし、勘違いしないでくださいね?」

思わぬ声に全員の動きがぴたりと止まる。彼は、静かに怒りの満ちた目をしていた。いつもの敬語口調の外れた、低い声が響く。

「許すわけじゃない。お前達一族など、根絶やしにいつでもできる。せいぜいありがたく思って、余生で、私を踏み台にして得たあらゆる責任や、家庭問題を背負うことだ。」

その言葉にサンマルクは震えた後、観念したように静かに下を向いた。孫のシブーストが咽び泣いた。

「…こんな家に…生まれてくるんじゃなかった……!他の家に生まれて来れば…!」

うっうっ…と嗚咽を漏らす彼。その言葉に錦玉羹が言った。

「残念だけど、世界は自分のために笑ってはくれない。起こったことは変えられない。」

だからこそと彼女はつぶやいた。

「起こったことから学ぶ。世界が笑ってくれるまで、動き続ける。血塗られた歴史を繰り返さないのは、あなたの代。先代でも後代でもない。」

シブーストがゆっくりと顔を上げ、涙目で彼女の方を見た。目の前の錦玉羹は、いつも通り変わらない様子で、そこに立っていた。

「あなたの世界を変えられるのは、あなただけ。」

彼はぐっと唾を飲み込むと、体を震わせ、言葉を反芻するように下を向いた。その様子をカヌレ達は厳しくも優しく見守った。


カヌレ探偵事務所に戻ってくると、タタンが申し訳なさそうに言った。

「すみません、錦玉羹様。先ほどは、シブースト様にお言葉を…。」

「大丈夫。逆に黙ってられなかった私のも私。ごめんなさい。」

ぺこりと謝る錦玉羹に彼は慌てて手をブンブンと横に振った。

「いやいや、謝らないでください。私がいたらぬばかりに…。」

そんな二人を見ながら、ポムが小さく微笑んだ。事務所のソファに座り、コーヒーを飲みながら呟く。

「でもシブースト、心に響いたような顔してたわね。」

カヌレも事務所の椅子に座りながら、うんうんと頷く。

「彼も親の責任を押し付けられたと言う点では、被害者の一人だ。しかし、タタンも被害を受けていた事実は変わらない。…血縁に犯罪者がいるなんて、歴史ではよくあること。すでに昔から、生き抜く術を授業で学んでいるんだ。…きっと彼なら、今は大変かもしれないけど、ゆっくりと自分の人生を歩んでいけるよ。」

彼女の言葉に、タタンも微笑む。客用ソファに座ってる錦玉羹にコーヒーを出す。

「問題ないでしょう。ゆべしが面倒を多少見てやると言ってました。ゆべしが導いてくれるでしょう。」

その言葉に全員が頷く。先ほどの一件の重さを拭う様に、コーヒーの香りが漂う。

「サンマルクも何も言えないでしょうね。シブーストの父がシブーストに介入してきても、もう止める他ないわよ。だって…カマかけてきたもの。」

そう言ってポムがニコニコと笑った。カヌレが静かに微笑む。

「これから立ち直るかもしれないシブーストに、道を整えて上げたからね。何より一番のタタンがね。」

「ええ、いつでも一家を根絶やしにできると言ってきましたから。私は戦争の英雄ですので、造作もないですよ。」

そう言って執事はにっこりと微笑んだ。

「ところでタタン、バニラアイスを一つ。」

カヌレが静かに微笑見ながら言うと、彼も優しく微笑んだ。ポムと錦玉羹が訳がわからない様子でいる。

「バニラアイス?」

「タタンのバニラアイスは、私が一番好きなんだ。」

「まがいものですがね。」

そう遠慮するタタンに、ポムと錦玉羹が顔を見合わせて、二人とも同時に私もと声を上げた。執事はかしこまりましたと、嬉しそうに微笑んだ。


その頃、1位のバイクが国道を走っていた。黒いライダースーツに赤いヘルメット、黒のバイクにまたがった男性が、背中に荷物を背負いながら運転している。その時ツーツーと通信機器から音がなった。

「レッドベルベット、そっちはどう?」

「…最悪だ。サバランを撃てなかった。ビスコッティの安否は不明。…そして、サバランに関しては、姉貴の名前を知っていた。僕らの存在、多分バレてる。」

通信機器の向こう側は一瞬しん…となった。まぁ仕方ないわねとしばらくして、女性の声が響いた。

「あのドリップ教の信者達が、刑事を撃った時に、次弾を私たちが防いだものね(※第5話)教団の信者達は逃げたけど、奴らがビスコッティあたりに話していてもおかしくはないわ。ビスコッティからサバランに話をしたのかもしれないけど…奴の場合は独自ルートで私たちを知ってる可能性が高いわね。」

打ち損じるのも計算済みよと彼女は笑った。通信機器の向こうでピンッとコインを弾く音が響く。

「どうせ、私たちがビスコッティの下で働いてるのはバレてる。その上で働きながらサバランを殺そうとしてるのもね。あわよくばビスコッティもと思ってるけど…彼もまたそれに気づいてる上に隙がない。」

そう言い終えた途端、パァん!と銃声音が通信機器の向こうで響いた。彼が静かに驚く中、女性の落ち着いた声が響く。

「無事よ。バイクのハンドルを誤らないようにね、レッドベルベット。…あら、ずいぶんと息のいい獲物ね。私達…殺し屋の本質を見せてあげましょう。サバランとビスコッティにもそのうち…牙を剥いてあげましょ?」

挑発的な言葉の裏で、銃声音が鳴り響く。その途端、レッドベルベットは何かを察知してハンドルを少し傾けた。直後、どこからか銃弾が飛んできた。後輪の数センチ横に火花が散る。もし避けていなければ…。彼はヘルメットの下でニタリと微笑みながら、バイクのアクセルを踏み、速度を上げていった。蛇行運転をしながら器用に銃弾を避け続ける。運転しながら背中の銃ケースを片手で開け、中のライフルを手に持つ。片手で運転しつつ、右斜め前あたりに銃を構えた。スコープは使わない。

パァン!

音と共に球が発射される。反動で片手がブレるが…無論、このブレも計算済み。彼は片手でライフルを器用にしまうと、バイクのハンドルを握り直し、蛇行運転をやめた。アクセルをさらに上げ、国道を走っていった。それ以降の銃弾は、もちろん飛んでこない。バイクのバックライトが赤く残像を描いた。


「美味しいーー!」

バニラアイスを頬張りながらカヌレの嬉しそうな笑顔と、歓喜の声が事務所内に輝く。その目の前でタタンと錦玉羹も目を輝かせてアイスを頬張っていた。

「なにこれ?!めっちゃ美味しいじゃない。ただの紛い物とは言っても…確かに本当のアイスからは程遠いかもだけど…これはこれで最高よ?」

「コーヒーとも合う。素朴な味で…それでいて病みつきになる…。」

ニコニコと微笑むタタン。錦玉羹がすっと立ち上がると彼に近づいた。手を取り、じっと動揺する執事を見る。

「私の屋敷で働いて、タタン。」

「ちょっと待ったァーーーーー!?!」

カヌレが即座にストップをかける。食べかけのバニラアイスを一旦食べるのをやめる。慌てて立ち上がり、執事は渡さないぞ?!と必死に焦った顔で止める。ポムも立ち上がり、そうよ!と言った。バニラアイスを大きく一口頬張る。そして堪能してから口を開く。

「こんな美味しいバニラアイスを作れるタタンを、渡さないわ!」

「なら奪うまで。」

そう言ってくるりとその場で一回転。一瞬で女怪盗ソルベになる。あまりの本気度に流石の三人も動揺する。

「ちょお?!」

カヌレが思わず悲鳴を上げる。執事のタタンも、錦玉羹様?!と目をまん丸にした。ポムは開いた口が塞がらなかった。そんな三人の動揺ぶりに、錦玉羹はくすりと小さく微笑んだ。

「…冗談。」

そしてそのまま近くの窓に歩み寄ると、彼女はガラリと窓を開けた。カヌレたちの方を振り返りながら言う。

「依頼は達成された。後は自分でどうにかする。ありがとう。また何かあったら頼む。」

一瞬で窓の外に出ると姿を綺麗にくらました。ポムが窓に駆け寄って彼女を探すが、どこにも見当たらなかった。カヌレがほっと息をつく。

「良かったぁ。タタン奪われるかと思ったよ。」

「私も流石に焦りました…。」

執事のタタンもホッとしたように胸を撫で下ろしつつ、少しだけにっこりと微笑んだ。

「バニラアイスはまだおかわりありますので、遠慮なく好きなだけお召しになってください。」

その言葉に二人ともキラキラと目を輝かせる。

「本当?!」

「ありがとう!」

「美味しい!おかわり!」

なんか別の、ものすっごい明るい、無邪気な声が飛んだ。即座に三人が…え?と固まる。カヌレとポムが振り返り、タタンも声のした方へ目を向ける。そこには美味しそうにバニラアイスをソファで堪能し終えた、怪盗ノクターンがいた。スプーンを口に頬張りながら、タタンに向けてグラスを差し出している。ニッコニコ。

「ちょ…怪盗……?!」

ポムが呆然として口を開ける。カヌレも衝撃を受けているとタタンが、畏まりましたと穏やかに微笑んだ。グラスを受け取り、追加のバニラアイスを入れる。

「いいの…あれ?!探偵事務所に怪盗がアイス食べにきてんだけど?!」

ポムが動揺しつつカヌレに言う。カヌレも困り果てながらまぁ…と頷いた。

「タタンのバニラアイス食べたかったんだろ…美味しいのは認めるからまぁ…少しくらいは…。それに捕まえようったって間違いなく逃げられるし…。」

「うん…美味しいな。流石執事だ。」

怪盗ノクターンが静かにバニラアイスを堪能する。ポムが呆れつつ近くのソファに座り、どうなってんのよこの事務所…と頭を抱えた。仕方なく彼女も、自分のグラスにバニラアイス追加注文する。カヌレも怪盗ノクターンを見つつ、自分の席に戻った。

「いや本当…どうなってんのかねこの事務所…私が聞きたいよ…。」

ため息を吐きつつ、タタンにバニラアイスを注文しようとして、硬直した。

「ん?」

妙に自分の机がひどくこざっぱりして…。その瞬間、すぐに分かった。ばっと怪盗の方へ顔を向ける。ノクターンはカヌレの視線がかち合うと、ん?と声を出した。スプーンでバニラアイスを食べている。

「ちょ、おまっ…!それ私のグラス!!」

その瞬間にノクターンが煽るようにもう一口食べる。途端にポムも気づく。

「ちょっと待って?!確かカヌレ食べかけじゃなかった?!錦玉羹が去る前!」

「変態!!変態怪盗ッ!返せヨォグラス!スプーンも!てか新しいのを使えよ!」

ギャーギャー騒ぐカヌレとポムにノクターンは不敵に微笑むと、その場から姿を消した。ちなみに、残されたグラスには食べかけのバニラアイス。カヌレがそれを見ながら静かに呟いた。

「いや全部食ってけよ。中途半端に残すなよ。」


読んでいただきありがとうございます!

投稿した時間帯が今という…木曜のド深夜に失礼するぜぇーーーー!とばかりのハイテンションな作者。というのも、この前二話連続投稿して、後書きで毎日七時を目指しますとか言っておきながら、現実に足を引っ張られ、プロット立ってんのに…!もう時間さえあれば一話分書けるのに…書きたいのに書けない!アアアアーーーーーーッ!(発狂)という時間を経ての今日の投稿ですから…そりゃもう飢えに飢えまくってやっと書き終えたやっと投稿できる!の歓喜であふれかえってます→https://x.com/Ameme_H_Novel

ちなみに後投稿が遅れた理由に関しては、パルフェに脳が焼かれました。どこに脳が焼かれたんだって?そりゃもう、あれですよ、検索かけて、デザートの方の画像で、美味しそうな見た目に……(ニッコリ)一度食べてみたいと思う食いしん坊です私は(⌒∇⌒)

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