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第七話 爆破ァ!

「……なんて、車で教会に突っ込んだ後はそうなったのでしょう。貴方達はいつものカフェで、まったりとする。刑事の尻は治り、次の事件が舞い込むまで一息…。とても穏やかで…つまらない結末です。ある意味それでも良かったんですがね。しかし…あなたがたなら何も知らないより、現実を受け入れられるだろうと思いまして。何が起きたのかって?ええ…とても容易なことですよ。あなた方はいつも通りの日常に戻るはずだった…。」

男はパチパチと手を叩いた。

「この教会に僕がいなければ…ですが。バブ(笑)。」

ビスコッティはカヌレたちの目の前で不気味な笑顔を浮かべた。床には血を流した教祖と銃を持っていた九人、チュロス刑事が転がっていた。二人ともそれぞれ腹部が赤く染まっている。刑事のそばにはフォンダン警部が泣きそうな目で寄り添っていた。ガレット刑事も足を撃たれて床に座り込みつつ、ポムに支えられながら悔しげにビスコッティの方を見ていた。カヌレとフィナンシェ、マドレーヌの三人がビスコッティの前で警戒体制に入っている。マドレーヌが動揺しつつ呟いた。

「何が…起きたんだ……?」

その言葉にビスコッティが教えて差し上げましょうと手を挙げた。


「カヌレ探偵を除いて、お初にお目にかかります。ビスコッティと申します。サバランのはとこです。…まず僕は元より、あなた方にこちらにきてもらおうと思っていました。そのためこの教会のパイプオルガンを演奏して待っていたのです(※第四話 ビスコッティのパイプオルガン演奏&英語の弾き語り)。ですが残念ながらあの無能な教祖は、捕虜をあなた方に取り返されてはまずいと思ったのか、教会の別室に置いたのです。そしてあなた方が教会に車で突っ込んできた(※第六話)ので、こうして僕がお迎えにあがったのですよ。そして、フォンダン警部が教祖に手錠をかける寸前に、銃による選別を行わさせていただきました。どうでした?いろんな方向から飛んでくる銃弾は。直前に気づいて自ら避けた者避けれなかった者、幸運にも気づかなかったが避けれた者避けれなかった者、誰かを庇って撃たれた者…。そして、撃たれた場所の箇所。ふむ、最初の選定はこれで終わりですが…あなた方はなかなか優秀なようで。」

ビスコッティの言葉にふざけないで!と悲痛な声が上がる。ポムがガレット刑事を支えながら、ブルブルと体を震わせていた。

「何が選定よッ!」

「選定は選定です。結果を発表しますか?」

ビスコッティが何事もなかったかのように、事務口調で穏やかに言う。説明しながら各々の顔を見る。

「まず初めに気づいたのが探偵フィナンシェ。即座に射程外に移動すると共に全員に向かって危ないと声をあげました。次に動いたのがマドレーヌ、射程外に避難しました。そしてガレット刑事が射程内にいるポムを突き飛ばし、片足を撃たれます。チュロス刑事もフォンダン警部を突き飛ばしますが…こちらは僅かに遅かった様子、チュロス刑事の腹部に被弾。そして最後にカヌレ探偵、あなたは少しでも動けば射程内でしたが…とてもとても幸運なことに、危ないのみではよくわからなくて動けず、射程外のまま撃たれずに済みました。他は…まぁ良いでしょう。とにかくあなた方は選ばれたのです!」

ビスコッティがパチパチと手を叩いた。ニコニコと微笑んでいる。ああ、勘違いしないでくださいよと言った。

「もちろん、銃口はランダムですよ。この教会には僕が少々細工をいたしましたから。そうですねぇ…バブ…差し詰め、乱数表とでも言いましょうか。これで伝わります?」

「外道が……。」

マドレーヌがぎりっと歯を食いしばった。その言葉にビスコッティはずっと目を細めた。静かに顔を横に振る。両手のヒラを上に向ける。

「…まぁとにかく、せっかくの教会なんです。こんな一室にいてはあれでしょう。中心にあるパイプオルガンの講堂に、来てください。」

そう言って、勝手に背中を向け、その場を去ろうとする。が、その瞬間フォンダン警部が泣きそうな声を上げた。

「そんなとこまでフォンダンいけない!チュロスどうするの?!移動したら腹部に力が入って、危ないのよ?!」

彼は静かに振り返ると、冷めた視線を向けた。腹から血を流すチュロス刑事を上から下までじっと見つめる。

「どのみち助かりませんよ。…すぐに終わってしまうのが人間です。選ばれなかっただけですが、後で家族として来世を祈れば良いだけでしょう。」

一切の反論を許さない声色だった。


その頃、サバランはパソコンで一部始終を見聞きしていた。足元に銃弾が飛んでくるのをタップダンスをしながら華麗に回避する。

「いいですよぉっ!素晴らしいですねぇっ。俺、あんたのこと見直したよ。ちょっと今度ランチでも行かない?…え?やだ?五十代男性はキツいって?!…もぉ〜このわがままさんっ♡」

ドパラタタタタタタタタッ。床に銃弾がいくつもめり込んでいく。

「しかし、少々長いのでは?ドリップ教を裏で操り、カヌレ探偵を追い詰める…。悪くはないよ?ただまぁ…時間をかけて豪華な懐石料理を出すあなたと、短時間のラーメンで勝負する私。やはり同じ悪でも多少異なりますねぇ!現場からは以上です!」

銃弾を器用に避けるが…小さく眉間に皺がよった。タップダンスをしながら、気に食わない目になる。

「はぁい、ありがとうございましたー。現場のサバランさん、大変そうでしたね。ええ。しかし、あのサバランに銃弾を放ってくるってちょっと酷すぎやしないか?それに私が邪魔するのを牽制するみたいに…。最初から問題視されてたのは良いとして、もしあの時カヌレ探偵が動いてたら撃たれてたわけで…パァン!…銃ごときで瞬殺。なんの面白みもないね。美学に反してますね…わしの美学である、そこらへんにあってもおかしくないもので、犯行してない!…これではただの武器による殺害だ。よって、判決を言い渡す。」

ピタッと彼はタップダンスをやめると、ニッコニコで右手を掲げた。

「爆破♡」

パソコンのエンターキーを威勢よく指で押す。

「盤面の支配者は、私ですよビスコッティ。アディオース!」


カヌレがビスコッティに対して、口を開こうとした途端だった。

バゴオオオオオガシャァァァァァァァッ!

ものすごい爆破音が響くと共に、建物全体が揺れた。一気に周囲に火がつき、壁が吹き飛びガラスが割れる。全員がそれぞれ自分や近くの人を守った。フォンダン警部やポムの悲鳴が上がる中、流石のビスコッティも動揺していた。

「な…一体何が?!これから講堂に行って、パイプオルガンの中にある、彼女の遺体を…彼らに示…?!」

彼がわなわなと口を震わせる中、どこからかノイズがかった機械越しの声が響く。

「やっほービスコッティ!パイプオルガンは爆破しちゃったよ。サバラン投手は、パイプオルガン内にある、元スケート選手のトライフル(※第5話、受話器の向こうの相手)の遺体ごと…爆破ァ!!彼女もパイプオルガンの中にいるより、盛大な爆心地にいたほうが、良いでしょう。痛みもなく、一瞬です!サバランってなんて優しんでしょう!フッ…まんざらでもねぇぜっ。」

「……僕ちんの計画を…!挙げ句の果てに冒涜まで…!許さんでちゅ!バブゥ!!(怒)」

即座に体を震わせながら、ビスコッティがキレた。が、サバランの笑い声が響いた。タップダンスの音と銃声音がどこからか響く。

「大体、ドリップ教だなんて…そんなのやって楽しいですか?人が何を信じようが、最終的には私の手駒になれば、それだけで十分ッ。来世で良い家族になって矯正?ふふ!来世なんてそんなことをおっしゃて…来世も私の手駒ですよ♡逃しませんっ♡」

そう言ってきゃー指でハート作っちゃったー!とか騒ぎ始めるサバラン。ビスコッティがぶるぶると体を震わせる。眉間には皺がよっていた。ふざけるなでちゅ…と呟き、すっと胸元に手を入れると、銃を取り出した。目の前にいるカヌレに銃口を向ける。

「サバランの遊び相手に1発お見舞いでちゅ!」

その瞬間に、フィナンシェが即座にカヌレを突き飛ばそうとしたが…。それより早くカヌレを保守した人物がいた。どこからかすっと現れた、マントに白髪、仮面の男である。彼がカヌレを抱えて離れるともに銃声音がなった。

「ちょ、ノクター…っ?!ありが…」

カヌレが驚きつつもお礼を言いながら抱えられていると、怪盗はそのまま近くの窓枠をひょいと乗り越えた。途端にビスコッティの銃声が響くが、またもや惜しくも本人たちに当たらず。銃弾が近くの壁に減り込む。流石のカヌレもポカンと口を開ける。え…窓枠……?今乗り越えたの窓枠だよな?…ガレット刑事に瓦礫から守られていたポムが思わず叫ぶ。

「カヌレ?!」

その言葉にはっと我に返ったカヌレが、グングンと教会から離れ始め、怪盗にどこかへ連れ去られながら大声を上げる。

「ちょ、ちょ待てっ待って?!私このままどこへぇーーー!?!?!」

その叫びがだんだんと遠ざかっていき、怪盗に連れ去られた女探偵の姿は見えなくなった。ポムが困ったように言う。

「カヌレが…またノクターンに!」

「まぁ逆を言えば、せいぜいキスされる程度なので、悔しいが彼女は安全だろう。それより残された僕らと、ビスコッティ…そして、この倒壊しかけている建物の方が問題だ。」

フィナンシェが周囲の状況を見やる。チュロス刑事やガレット刑事という怪我人。目の前の銃を持つビスコッティ。車のめり込んだ倒壊しかけている教会…。乗ってきた車は協会の倒壊に巻き込まれて、車の一部がひしゃげており、とても乗れそうにない。ビスコッティも静かにフィナンシェの方に銃口を向けた。即座にマドレーヌがフィナンシェの前に出て、盾になるようにする。そんな緊張感の中、通信機器を通したサバランの楽しげな声が響いた。

「あ!そうそう…ビスコッティ、あなたが操っていたドリップ教ですが…さっきの爆破と共に、他の拠点も一気に爆破しましたよ!信者?知らないねぇ、まぁ拠点にいても爆破に飲まれても、私ナーンにも責任取りませーんっ☆だって、悪のカリスマですから!じゃ、倒壊しかけてる教会から頑張って逃げてね。ちなみに君の脱出手段の、自転車はネット通販で今朝売れました!おめでとう。梱包して配送しちゃったから、そこに自転車はなく、私の収入源になりました♡10000円ありがとうね〜。」

そう言ってぷつりと通信機器が切れた音がした。ビスコッティが悔しげにつぶやく。

「外道でちゅ…。本当にムカつくでちゅ…。僕ちんが一歩一歩積み重ねてきた計画も、ドリップ教も全て破壊するなんて…バッブバブ…(怒)(呪)。」

そんな最中、フィナンシェ一向とビスコッティの間に天井の一部が落ちた。流石のビスコッティも銃を胸元にしまい、くるりと踵を返して部屋から出る。その背中に向かってフィナンシェがどこへ行くつもりだい?と言った。彼は振り返りもせず、嘲笑うように言った。

「勘違いするなでちゅ。今回は運が良かったと思えでちゅ。僕ちんはサバランより優位に立ちたいだけ…今ここであなたたちを撃てたとしても、カヌレ探偵は生きてる上に、倒壊に巻き込まれる可能性があるでちゅ。人間は体が資本でちゅからね。…せいぜい延命したと思って、余生で足掻いてくださいね。」

彼はそのまま、扉を開けて教会の中へと姿を消した。フィナンシェが黙って彼の消えた扉を見つめる。ふぅ…とため息を吐くと、マドレーヌを呼んだ。

「僕たちもノクターンが飛び越えていった窓枠から逃げよう。怪我人を頼む。」

そう言い終えた途端、教会の外からプープーと音がなった。即座に窓枠に近づいたフォンダン警部が声をあげる。

「外に取材用の車が止まってるけど…。運転席に執事みたいな人が乗ってるよ?えーん、チュロス…死ぬなんて嫌ぁ…。死ぬとかよして…フォンダン耐えられない…身投げする…っ…。」

「執事のタタンか!ありがたい。よし、みんな急いで乗り込もう!」

フィナンシェの言葉に従い、教会から脱出するために各々動き始めた。


その頃、怪盗ノクターンは隠れ家の一つに着いていた。抱えていたカヌレをすっとおろす。

「なんで連れ去ったんだよ。またキスか?…しないからな、絶対。」 

カヌレが不貞腐れたように呟く。彼は、いつになく真剣な目で言った。

「お前に一つ、忠告しておこうと思ってな。」

思わぬ言葉に、彼女がへ?と首を傾げる。彼は彼女の目をじっと見つめた。仮面越しのその目は、まっすぐだった。

「…サバランに加え、ビスコッティが増えた。俺はいつでもお前を助けられる。が…奴らに構っていて良いのか?」

「…それはどういう……?」

カヌレが思考を巡らせる。あっちこっち目をきょろきょろさせながら、言われた言葉を考えていると、彼は不敵に微笑んだ。

「俺はお前のヒーローじゃない。探偵の協力者でも無い。……怪盗だ。」

その言葉に彼女はハッとした。…が、しばらくしてきょとんとした。首を傾げながら彼を見る。

「…でも、危ない時は助けてくれるし…優しいよ…?」

彼女の純粋な目を見つめると、彼は静かに目を閉じた。不敵に微笑みながら言う。

「ならば、俺が盗みを働いても、お前は何もしないのか?」

カヌレの目が静かに真剣な目になる。探偵としての真意が垣間見えた瞬間だった。目を開いて彼女のその様子を見ると、彼は静かに頷いた。カヌレが口を開く。

「どうして、貴方は怪盗に?」

「謎を明かすのが探偵の役割だろう?…それに、お前はまだ、俺の素ですら突き止められていないだろう?」

にやっと笑う怪盗に、カヌレがは…?!と思わず声をあげる。思わず怪盗ノクターンに迫る。

「待て待て待て!?ホワイトショコラだろっ?!だって、あの時仮面割れた時、どーみても地肌だったし…!?いつものカフェでさらっと強気な目でいたじゃんっ。僕はとか、愛してますとか、いつも言ってるホワイトショコラで…。黒メガネの礼儀正しい、ファンの…。」

彼は不敵な笑みを浮かべて、くるりと背を向けた。隠れ家の窓に近づきながら言う。

「…お前の推理の結論は、それで良いのか?」

ぐっ…と言って悔し気に黙る彼女。怪盗ノクターンは手を横に振り、一枚の紙をびっと投げた。彼女が片手で受け止めると、一枚の予告状だった。紺色の紙に、銀の装飾が入っている。

「次の満月に、ストロープ邸にある、ワッフル家の翡翠を頂く。」

彼はそう宣言すると、マントをはためかせ、窓からすっと外に出てしまった。カヌレが慌てて後を追いかける。窓に即座にへばりつき、周囲を見やるが…どこにも見当たらない。彼女は予告状を見つめると、静かに微笑んだ。

「要は、まだ謎があるから遠慮せず来いってことね…。よし、全ての謎を暴き出してやる!受けて立つ、怪盗ノクターン!」

そう言って、嬉しそうに彼女は目を輝かせた。…そして満足げに窓枠から離れた後…部屋の入口の方へ向かって気付いた。

「…ん?」

なんだか嫌な予感がして、即座に窓にへばりつく。周囲の景色を見て、静かに困惑する。嫌な予感が的中して、一人青ざめた。見慣れない景色に向かって呟く。

「ここ……どこだよ……?」

え、私どうやって…帰…と呟いた時、彼女のスマホから通知音が鳴り響いた。ポムからの、チュロス刑事を病院に連れていったら、手術してギリギリ助かったという連絡だった。返事をせずに、即座に電話をかける。すぐにいつもの聞きなれた声が聞こえた。

「カヌレ!良かったわ。チュロス刑事はね…。」

と言いかける、ポムをよそに、カヌレはスマホに向かって悲痛な声をあげた。

「それは良かった!ところで、私のこと助けてくんない?ここどこォーーーーーーー!?」

涙交じりの声が隠れ家の中に響き渡った。


一方その頃、サバランはタップダンスをしながら、相変わらず銃弾を避けていた。PCを見ながら、嬉しそうに言う。

「ついに私のカメラの前から、ビスコッティが消えましたか。消息なんてどうでもいい。生命力がゴキブリ並みか否かの程度のことっ。さあ、生き残れるのか、生き残れないのかー!現実はなかなかに非情である。ま、私がそこにゴキブリホイホイ置いちゃうんですけどね☆まさに外道ーーーッ!いやあ、悪のカリスマですね。客観的にみてもそうですね。ところで、もういい加減銃を避けるのも面倒なので、そろそろ落としますか。はい!分かりました先輩っ。良い子だねぇ後輩ちゃん…。」

独り言を言いまくったのち、PCのキーボードをたたく。

ーーーダックワースーーー

途端に銃声がぴたりとやんだ。サバランがお…?と面白げに言う。タップダンスをピタリと止めて、ニタニタと笑う声をあげる。

「おやおやおや、お姉ちゃん大好きっ子には……姉の名前は流石に響きましたか。」

PCをぱたんと閉じると、すぐに支度を始まった。

「さて、私はそろそろお暇しますよ。あんまりここに長居をしていて、あなたの相手をしているほど、私は時間があるわけではないので。サバラン、実はとっても忙しいのっ。え?逆にそんだけ忙しいのに、ここまでやってるって?すごい?…いや~それほどでも!誠にありがとうございまーす。またのご来店お待ちしております。はい!バイバイ~。」

一方的に呟くと片手をひらひら振って、その場を去っていった。銃声音はそれ以上鳴らなかった。


一方病棟では、フォンダン警部が静かに寝ているチュロス刑事のベットの横でグスグス泣いていた。

「え~ん…チュロス助かって良かった本当にぃ…。チュロスがいなくなったら、フォンダン警部生きていけないところだった~っ。もう心配させないでよぉっ。フォンダン警部だから、ちゃんと責任取らなきゃいけないんだからぁ…。庇って死ぬなんて絶対やめてよぉ。うう…。わーん。フォンダンは毎日見舞いに来るからね…。夜中も電話するからね…。メールもするから、寂しくないように!」

体を震わせてベットにへばりつく彼女を身ながら、ポムが聞こえないように呟く。

「連絡頻度、大変なことになりそうね…。」

「チュロスはフォンダン警部が好きだし、まあ……多分、耐えられるだろう。」

隣のベットに寝ているガレット刑事が静かに小さく指の端をあわせる。それを見て、マドレーヌも両手をあわせた。その横でフィナンシェがカヌレにところで…と聞く。

「怪盗ノクターンにキスでもされたのかい?」

「いいや、今回はされなかった!やってやったぜ、多分拒否すれば、あいつしてこないよ。」

カヌレがどや顔で腕を組む。その彼女の様子に、フィナンシェが信じがたいな…と静かに微笑む。あ、でも…とカヌレはゴソゴソとポケットを漁り、怪盗ノクターンの予告状を取り出した。

ーーーサバランやビスコッティに目移りしているとは良い度胸だ。

   俺に盗まれる覚悟は出来ているんだろうな?

   次の満月に、ストロープ邸にある、ワッフル家の翡翠を頂く。

   怪盗ノクターン

   PS. ところで最近、コップを新しくしただろ。持ち手の大きさも丁度良く、軽くて、飲みやすくて、良いなあれ。気に入ったぞ。ーーー

「ちょっと待ってくれ。これは…この追伸はなんだ?」

フィナンシェが困惑した顔でカヌレの方を見る。彼女は渋々頷いた。

「いや…そうなんだよね、私も困惑したよ…。なんで私が事務所のコップ新調したの知ってるの…?その上、なんでコップの良さも知ってるんだよ…。」

「…とりあえず、奴が君のコップを使ったことは間違いない。盗まれないように南京錠でもかけて置いた方が良さそうだね。」

フィナンシェが呆れつつもアドバイスした。彼女も静かに頷く。その二人の会話を聞いていたタタンが、そういえば…と思い出したように言った。

「次の満月は一週間後でございますね。」

「盗みにくるまで意外と時間はありそうだな。」

マドレーヌがのんびりと言うと、ガレット刑事がその間になるべく警戒態勢を…と独り言を呟き始めた。そして執事のタタンが、あと…皆様を迎えに行く前にですね…と話し始めた。

「事務所に錦玉羹様がいらして、カヌレ様達に依頼があると相談に来ていらしたのですが…カヌレ様がいなかったので、一応明日でも大丈夫とのことでしたので、明日また事務所にいらっしゃると思います。」

「錦玉羹が…?」

カヌレとポムの二人が顔を見合わせる。タタンはなにやら忙しいみたいで、時間がないため用件は言われなかったのですが…と困ったように言った。

「いや大丈夫だよ、多分明日になれば、彼女の方から用件を話してくれるだろう。」

カヌレがそう言った時、病室のドアが開いた。弟のフロランタンが息を切らしながら、ベットに横たわる兄を発見した。

「兄さん!無事で良かった!」

フロランタンが全員に挨拶をしながら、ガレット刑事の傍に行く。

「良かったよ兄さん…僕があの時少しでも傍にいれば…。事情はここに来るまでに、フィナンシェさんから電話で聞いてたよ。ドリップ教に連れ去られたんだって?大変だったね。」

「ああ。心配ありがとうな。でも、お前がいなくて良かった。あんな物騒なところに、弟を連れていける訳が無い。お前も無事で何よりだ、フロランタン。」

ガレット刑事が目を少しだけ細めて、いつもより少しだけ優しく言う。その声のトーンに弟のフロランタンが少しだけ目を潤ませた。彼の手を取りながら、じっと見つめる。

「兄さん…。そんなこと言ってくれるのは嬉しいけど……尻は、痛くないのか?」

「いや猛烈に痛いぞ。その上、足も撃たれてるから足も痛い。」

「兄さん?!」

感動の雰囲気が一転して、驚く弟に、ポムが多少申し訳なさそうに言う。

「あたしを庇って、そいつ撃たれたのよ…。悪かったわね、あたしのせいで兄を。…ごめんなさい。」

彼女が頭を下げようとすると、ガレット刑事がすぐに止めた。

「やめろ、頭なんて下げなくて良い。刑事としての責務を果たしたまでだ。もとより、刑事という職業柄、体が無事な方が珍しいと思っている。」

彼の言葉に、フロランタンがポムさん謝らなくて良いですよと静かに微笑む。僕も分かっていますと言う横で、マドレーヌがうんうんと何度も頷いた。分かるぜ~と言いながら腕を組み、背中をのけぞらせる。

「男は体が無事な時の方が少ないからな。大抵体を動かさずにはいられない。」

「お前は喧嘩好きの中高生かなんかか?」

ガレット刑事が突っ込んだ時、丁度看護師が入って来た。ガレット刑事の横に来て、お静かにお願いしますねーと言いつつ、体調はどうですかーと聞かれる。

「問題ない。」

ガレット刑事は静かに頷いた。流石に尻なので、ガレット刑事が少し言いにくそうに全員に向かって言う。

「とりあえず、お前達は帰れ。どうせ数日で退院する。チュロスのことはフォンダン警部がちゃんと見るだろ。心配ない。日常に戻れ。」

その言葉に、全員が静かに頷いた。


フィナンシェ達はカフェロイヤルの三人にも事情を共有してくる、ガレット刑事のこととか気にしてるだろうから…というわけで、カフェロイヤルに向かった。フロランタンは仕事があるので、鑑識の仕事の方に戻り、カヌレとポムとタタンの三人は事務所へと戻って来た。いつもの定位置に着くと、カヌレが椅子にもたれかかりながら言う。

「いや~疲れたね。」

「しかし、ドリップ教とかやばいわ…。悔しいけど、今回はサバランに少し助けられたわね…。まあ、手段は悪そのものだけど。ドリップ教とかちょっとやばすぎるわ。それにトライフル…遺体は見れなかったけど…。」

ポムが悲しそうに言う。タタンがすっと二人にお茶菓子を出した。緑茶の準備をしながら、穏やかに言う。

「お二人とも、大変でしたね。…ですが、私としては遺体など、ポム様やカヌレ様が目にしなくて良かったと思っておりますよ。あれは…どんな状態であれ、良いものではありませんから。」

そう言う彼に、ポムがそうかしら…と考え込むように言う。タタンはほっほと笑った。どこか少し影を帯びた声で言う。

「…私は、戦場で沢山の遺体を目にしました。やはり良いものではありませんよ。人とは、ただの肉と骨だったんだと実感させられました。私はもう老いぼれで、そういうものに見慣れてしまったからあれですが、戦争を経験したものとしてはやはり…若い方々にはどんなものであれ、遺体はあまり見て欲しくないと思いますよ。自然死でないものを除いて。」

「タタン…ありがとう。そういえば、タタンはどうして、ここで執事を…?」

ポムの言葉に、執事のタタンはおや…と目を開くと、二人に紅茶を差し出しながら、照れくさそうにカヌレ探偵を見た。

「こんな老いぼれがここで働く理由を聞かれると…少し恥ずかしいものですね。」

「ふふ…タタンがいてくれるから、私としてはお茶も飲めるし、お茶菓子も食べれるし、事務所に不在の時も任せられるから助かってるよ。」

カヌレが少しニヤニヤしつつ、紅茶を飲む。ポムが二人の様子に、訝し気に首を傾げた。口を尖らせて、言う。

「ちょっと、あたしにも教えなさいよ。」

その言葉にタタンは少しだけ恥ずかしがりつつも、穏やかに笑った。

「ポム様と変わりません。…私も、カヌレ探偵に助けられた身ですよ。」



読んでいただきありがとうございます!

お久しぶりですね皆さん。作者が失踪したと思われてもおかしくないほどに、四日後に投稿するとか舐めてんのかとクレームあってもおかしくありません。とりあえず、この作者ふざけてんだろと叫んで大丈夫です。夜遅いので、作者は近所迷惑の責任を取りませんが、多少は反省はします。

というのもですね…実を言いますと、現実と疲労に足を引っ張られておりまして、疲労の最中でも筆は進んでいたのですが…翌日になって、なんか…八割は良いとして、残り二割はこれで本当に良いのか?と自問自答が始まりまして。いや、流石に筆が進んで根性で書いたとはいえ…やはり作者としては、質の低いものを皆様に読ませるわけにはいかないと思い、この四日で完成させてきたわけです!しかも二話も!!そう!やはり作者はプライドがありますからね、ただでさえ、ここ最近前半後半とか前編後編とかに分けて投稿してたせいで、見づらくなったんですよぉ!!自分の執筆フォルダが!!毎日投稿を目指しますが、前半後半に分けまくりすぎると読みにくい!となり、もういっそ毎日投稿ずれても良いから、質の良いものを!そして前半後半に分けてない物を!という次第です。

というわけで、今夜は皆様にお待たせいたしました、大変待たせてすみません!とばかりに二話を投稿いたします。そんなふざけつつも、現実と戦う作者はこちら→https://x.com/Ameme_H_Novel

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