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第6話 かりそめ

「……数の暴力で、チュロス刑事を連れ出すのはともかく…俺は尻が痛いんだが。患者を連れ出しすとは良い度胸だな。医療従事者の一部と、配送業者が。」

床に横たわったまま、手足を拘束されたガレット刑事が不服そうに言う。側では同じく手足を拘束されたチュロス刑事が沢山の銃を突きつけられていた。薄暗い境界の一室で、十人ほどの黒ずくめの人間たちがマスクを一斉に取った。二人の目の前にいる一人の男が話し始める。

「勘違いしないで下さい。あそこは大きな病院です。医療従事者は医師である僕と、そこにいる彼女だけですよ。配送業者もそこの金髪の男だけです。他の七人は全部あの病院にいた、一般の方々ですよ。」

「…どこが一般だ。一般人のふりをして、俺を連れ出そうとあそこにいたんだろう。チュロス刑事も一緒に捕まえるために、診察中に俺たち二人に麻酔を打ち、何気ない荷物を装って無理やり運び出すとはな。」

ガレット刑事が不服そうに言う。

「麻酔を打つなら俺の尻に打てばよかったものを…。そうすれば少しは痛みから解放されるんだがな。全身麻酔には少し耐性があったらしい。喋ることはできるがまだ体は動かん。それなのに喋るよりも早く尻が痛かった。ヤブ医者め。」

「わざわざ銃弾を撃ち込まれた尻に麻酔を打つ医者がどこにいるんです?」

自称医者だと言った男は、ニタリと笑った。ガレット刑事とチュロス刑事をじっくりと眺める。その目は獲物を見るような目だった。

「ご安心を。僕は医者です。そこにいる彼女は看護師です。あなたがたがどんなに傷ついても、僕たち二人がいる限り再生して差し上げますよ。」

とりあえずまずは、入信なさるか決めてもらいましょうと言った。二人の目の前に白い紙が一枚置かれる。口で咥えて書くことができるように、ペン先が出たボールペンも一緒に置かれた。ガレット刑事がその髪を静かに見やると、それはドリップ教への入信契約書だった。

「…俺が入信するとでも?」

「時間はありますよ。今こちらに教祖様が向かってきています。もし入信しなければ…あなたはゴミとして、今空いている家族の父親として写真撮影してもらいますよ。ああ、勿論その家族は、見た目だけの家族ですが。」

そう言うと男はそれじゃあ、あとは他の人に頼みます、僕は教祖様と連絡を取らないといけないので…と言ってどこかへ行ってしまった。取り残された九人に銃を突きつけられているチュロス刑事が悔しそうに言う。男として、守れなかったのが相当心にきてるらしい。

「…すまないガレット刑事、私がいながら…。」

「気にするな。全く…なんで毎度毎度…あの画家と言い…(※シーズン1、第五話)、俺を誰かとくっつけようとする悪い奴が多いんだ。前回は夫婦だったが、今回は父親とは…全く呆れて何も言えないぞ。」

ガレット刑事が深々とため息を吐く。手足の拘束を少しでも解こうとするが、がっちりと縛り上げられており、全く取れる気配が無い。手の方は見えないが、おそらく結束バンドあたりだろう。細くて硬い独特の感触がある。銃口を突きつけられながら、チュロス刑事が悲しそうに言った。

「しかし参ったね…。こんな教会に連れてこられちゃ…。ガレット刑事は、ここに来る前にカヌレ探偵たちに連絡はしたのかい?」

「そんな暇は無かった。奴らでさえ、ここに俺達がいるのを突き止められるかどうか…。」

悔し気に周囲を見渡す。どうも古ぼけた教会の一室とはいえ、窓も少ない。その上扉は一つだけ…。室内には九人もの銃を持った人間がいる。彼がどうしようかと考えていると、チュロス刑事が困っちゃうねと呟いた。

「私達のことを見つけるくらい、他の警官や刑事たちが有能であれば良かったんだが…。彼らは今頃、何をしているんだろうね。皮肉なもんだよ、刑事としての立ち回りを知っている私達が数の暴力に負けて捕まるとは。警察側にとって痛手に間違いない。ああでも…もしかすると、彼女が来るかもしれないね。」

「…あいつか。」

ガレット刑事が嫌そうに眉をひそめる。さっきまで黒ずくめだった人物の一人が、チュロス刑事にぐっと銃口を近づける。彼は、それに全くひるまずに、銃口を真っすぐと見つめると言った。

「事実だよ。あなた方がドリップ教に入信しているように、人は何かに執着せずにはいられない。私の知り合いにちょっとした、素敵な女性がいるだけのことだ。彼女は私達のことをよく分かってくれている。」

「あれのどこが、素敵なんだ。厄介以外の何者でもないだろ。」

ガレット刑事のぼやきに、チュロス刑事が嫉妬の目を向ける。明らかに一人の男としての悔しさが滲み出ていた。

「…彼女のどこが厄介なんですか。いつも彼女は貴方ばかり…本当に悔しいですよ。私のことを分かってくれるのは彼女だけ…。他の奴らなど、知識も無い奴ばかりで話にならない。それなのに…邪魔なんですよ、あなた。同じ刑事だからって…。」

めんどくさい事案に、ガレット刑事が冷静に切り返す。

「馬鹿を言うな。奴は俺とお前を公平に見てるだろ。公平に見ている上で、とんでもなく重いだけだろ。」

「公平に見られてるのが嫌なんですよ。私だけを特別に見て欲しい…。大体、貴方の目は節穴ですか?彼女とても可愛いじゃないですか。愛されたいと思ってるんですよ、彼女は。私がいつか彼女の傍で、沢山尽くして差し上げたいですね。」

「勝手にやってろ。俺は知らん。」

うっとりとするチュロスの前で、ガレット刑事が深い溜息と共に、ぷいっとそっぽを向いた。


その頃カヌレ達は、ガレット刑事がいた病院に来ていた。空になったベットを見て、思わずマドレーヌが小さく呻き声をあげる。

「…マジで連れ去られたな、こりゃ。どーする?」

「参ったね。防犯カメラを確認しても良いけど、正直その確認にかかる時間が惜しい。かと言って、彼がどこに連れ去られたのかの見当もつかない。」

フィナンシェがそう言いつつ、静かに考え込む。カヌレとポムの二人も顔を見合わせると、困ったように眉尻を下げた。カヌレの脳内に、一人の人物が浮かぶ。カフェロイヤルの一人の男性店員。

(彼なら…怪盗ノクターンだし…。居場所を知ってるかもだけど…。でも…。)

静かに心の中で葛藤する。ポムはガレット刑事の寝ていたベットに何か無いかと調べ始めた。

「…何も無いわ。…あいつ、刑事だから多分無事だと思うんだけど…。」

そうは言いつつも、やはり少し心配である一同。間違いなくドリップ教の奴らの仕業である可能性は高いが…とフィナンシェが言った時だった。

コツコツコツ…。

廊下の方からハイヒールの音が聞こえて来た。全員が振り返ると共に、一人の女性が現れた。年齢は三十代後半あたりだろうか。スタイルも抜群で、綺麗に結った黒色の髪が特徴的である。かなり高身長だが、垂れ目と涙ぼくろが可愛らしい。そして…思わずカヌレとポムが静かに驚く。あれは間違いなく、いわゆる巨乳レベルの大きさだと思い、静かに自分の胸と比較し、少し視線を下げる。そんな二人のことなど視界に入らない様子で、女性は誰もいないベットを見ると、泣きそうな顔になった。

「何度も連絡したのに…!どうして出てくれないのよっ…。フォンダンを見捨てるの…?見捨てるつもりなの…?ねえっ…ひどいわっ…。」

思わぬ言葉に全員が一度、硬直する。そんな様子など気にならない感じで、女性はふええ…とその場にぺたんと座り込んだ。ハンカチを取り出し、メイクが落ちないように目元を拭きながら、静かに声を震わせる。

「頑張って来たのにぃ…。ガレットったらいつもそう…チュロスはちゃんと連絡返してくれるのに、ガレットは全然連絡返してくれないんだもん…。絶対私のこと嫌いなんでしょ…きっと自分の上司がめんどくさい女だとか思ってるんだわ、それを周囲に言いふらしてるんだわ…。ひどい、私もう三十八で仕事ばっか頑張ってたら、婚期いつの間にか逃しちゃって…。あんまりな仕打ちよ。ハァ…警部になんてならなきゃ良かった…。身投げしようかな…どうせ私のこと見捨てる人達ばかりだし…。」

一瞬で、きのこが生えるくらいじめじめし始める女性。フィナンシェが思わずあの…と声をかけた。彼女は彼を見ると、少し目をキラキラとさせた。さっきまでと打って変わり、少しだけ嬉しそうに言う。

「は、はい…!フォンダンに何かようでしょうか…?」

「僕は探偵のフィナンシェと言いますが…ガレット刑事を僕達も探してまして。失礼ですが、貴方は?」

彼の言葉に我に返ったのか、女性は慌てて立ち上がった。即座にびしっと服を整え、さっきまでのじめじめはどこかへ行ったのか、可愛らしい声を出す。

「あ、えと始めまして!私、フォンダン警部と言いますっ。ガレットの上司です。その、先ほどはお見苦しいところを…ガレットがいつも連絡をよこさないものですから…つい心配になっちゃって。」

「フォンダン警部ですか。探偵のフィナンシェです。よろしくお願いします。ところで、どれくらい連絡をなさったんですか?」

「ついどうしても気になっちゃって…一分おきに一件です。本当にどこに行ったのか、気が気じゃなくて…。いつも彼、早くても三十分くらいかかるんですが…今日は一時間経っても既読がつかないもんですから…。もう私のこと、見放したんじゃないかと…。」

本当に悲しくて…と瞳を潤ませるフォンダン警部。カヌレとポムはこっそり顔を見合わせた。先ほどまでの自信喪失がどこかへいき、目の前の女性がいかにやばい奴かを確信する。

(メンヘラだ…。)

(メンヘラね…。)

マドレーヌは巨乳を食い入るように見つめている。流石キャバクラ狂いと言ったところか。

「いつになったら返って来るのかしら…。もう部下にも見捨てられちゃうなんて、フォンダン…やってけないよォ…。ただでさえ、女警部とかフォンダン大変だったのに…なったらなったでさらに大変だから…フォンダンのこと、誰も助けてくれないからさぁ…。まだまだ未熟なのにぃ。…もう消えちゃいたい…。」

重苦しいため息と共に、すぐに周辺にきのこを発生させる。だが、しばらくすると、フォンダン警部は思い出したように言った。ガサゴソとポケットを漁り、スマホを取り出す。

「あ!そういえば、こんな時の為にガレットに発信機つけてたんだった。もう…!既読無視してるなんて本当に許さない。私を置いて、一人で楽しんでるんだわきっと。そこに乱入してやるんだから…!」

そう言って病院を後にしようとする彼女の腕を、慌ててマドレーヌが掴んだ。

「ちょ、ちょっと待った!」

いきなり腕を掴まれて、フォンダン警部は驚いて振り替えつつも、少し頬を赤らめた。嬉しそうにマドレーヌの方を見る。

「え…なにちょっと…!私そんなに必要とされ…。」

「いや、まじで必要なんだって。」

マドレーヌの真剣な声に、さらに彼女は顔を赤らめて照れた。掴まれた腕を引っ張って、少し離れようとする。

「やだ、私そんな…こんな私なんて…。」

そう言って、照れているとマドレーヌの後ろにいるフィナンシェと、カヌレとポムの三人に気付いた。三人とも真っすぐな目で彼女を見ている。その時ようやく彼女は気付いた。

「え…?本当に私が必要なの…?」

その言葉に全員がこくりと頷いた。


「教祖様が到着なされた。」

ガレット刑事の目の前に、先ほど紙を差し出した男が戻って来た。未だに入信の可否を書いていない二枚の紙を見て、重い溜息を吐く。

「自分の死より、入信が嫌なのですか?」

「…入信した先のことを伝えられてないのに、そう簡単に入信すると思うか?死より残酷な生存であれば入信しない方が良い。こういうのはそうやって慎重になるのが、一般人だと思うが?」

ガレット刑事が静かに言い返す。あまりの正論。だが、相手が狂っていては全く通じるわけが無かった。相手の男は、顔を横に振った。ありえない、理解できないという言葉が口から飛び出る。

「死より残酷?貴方は一体何をおっしゃっているんですか。ドリップ教がそんなわけないでしょう。教祖様は、皆様に等しく平等に接します。そうして、善い人間と悪い人間を選別してくださるのです。」

「では悪い人間はどうなるんだ?」

ガレット刑事の問いに、彼は満面の笑顔で答えた。その目には狂信的な神以外何も映っていなかった。

「簡単なことですよ。元々人が悪人になるのは、理由があります。自らの幼少期に親からの教育が無かったことや、友達が出来なかったことなど…。その本人がどれだけ悪人であろうと、防ぐ手立てもあったはずなのに、防がれなかったという事例が多々です。つまり、それって、産まれてくる時の家族構成が良くなかったんじゃないですかね?どんなに悪人でも、善人だらけの家族の元に生まれてくれば、悪事は出来なくなる。それに、例え喧嘩や暴力が大好きで、手に負えない息子でも、もし家族にもっと強い選手レベルの強い男がいれば、彼を抑えることが出来、正しい道に進ませることが出来る。…だから、悪い人間には、悪い人間同士や、悲惨な死を遂げた善人をまぜたりして、こちらで家族を作るんですよ。そうすれば次に生まれてくる時に、その家族の一員として生まれて来て、悪人も善人になることがきっとできるでしょう。」

男の言葉に、ガレット刑事が静かに顔を背ける。男はガレット刑事をしげしげと見ながら、教祖様もあなたを気に入ることでしょうと笑った。

「あなたは、刑事であり、ガタイが良い。それなりに悪人にも対抗できる。家族の一員になるというのは、名誉ある死なんですよ。善人でも限られた善人しかなることが出来ないんですから。」

男の言葉に、チュロス刑事が静かに顔をしかめた。イライラした様子で、自身の拘束具をどうにか外せないかともがく。

「無駄ですよ。」

急に後ろから響いた声に、二人の刑事が静かに硬直する。恐る恐る振り返ると、そこには老人が一人、椅子に座っていた。悪趣味な笑顔を浮かべながら、まるで神々しい存在であるかのように、きらびやかな装飾を付けている。…が、顔はどうみても一般人の老人だ。金歯をちらつかせながら、老人は笑った。

「初めまして、私がドリップ教の教祖です。偉大なる、紙のお導きに寄れば…そこに刑事は家族として名誉ある死を遂げ、来世で悪を善に変えることが出来ます。そしてもう一人の刑事は、ドリップ教の幹部として世界を渡り歩き、人々を大いなる神の元へ連れて来ることになるだろうと言っております。」

いかにも恭しく、銃をチュロス刑事に突きつけたままの九人が、教祖に向かって頭を下げる。それについでガレット刑事に話しかけていた男も頭を下げた。ガレット刑事が小さく眉を顰める。チュロス刑事は、イライラした様子で言った。

「…拘束具はいつ取れるんです?」

「そう慌てなさるな。あなた方二人には、まずドリップ教に入信していただく必要がある。その後、清めの儀式を行い、何週間かの実技を踏まえて、ようやく神のおひざ元にまで顔を出すことが許され…。」

教祖がそう言いかけた時だった。


グワシャアアアアアアアッ。

いきなり教祖の真後ろの壁の一部が破壊され、瓦礫がその場にいた全員に降り注ぐ。砂埃が舞う中、チュロス刑事に突きつけていた銃を持った九人が、慌てて銃を構え始めた。

「撃てー!撃て!」

ガレット刑事に話しかけていた男が慌てて叫ぶが、銃声の代わりに聞こえたのは、銃が床に落ちると音と、人がぐあっとか、がはっとか言う声だった。あまりの惨状に静かに震えあがる男の前に、フィナンシェが姿を現した。

「…お、お前…!一体何を…!」

「神の使いとか、そういうものですよ。」

男の返事も聞かずに、フィナンシェがすっと下にしゃがむ。その瞬間、フィナンシェの頭の上から、マドレーヌの足蹴りが炸裂した。男の顔面にクリーンヒットし、男はそのまま床に倒れ込んだ。

「おいおい、探偵が話しかけてるからって安心しちゃいけねーぞ?俺は助手とはいえ…さっきの九人を一度に仕留めた男だからな。」

足蹴りを終えたマドレーヌがニタニタ微笑む。フィナンシェも不敵に微笑み、すっと立ち上がった。その間に、ガレット刑事の元にポムが辿り着き、はさみで拘束具を切る。

「お前ら、一体どうしてここに…。」

「あんたが病室からいなくなったからよ。慌てて探そうとしたら、あんたの上司の警部に出会ったって訳。ほら、拘束具はもうこれで大丈夫よ。相変わらず無茶して…尻の痛みは平気なの?」

ポムの不満げな声に、彼は礼を言いつつ、手足を伸ばした。感触を確かめるように手足をにぎにぎする。

「…まだ、多少麻酔が残ってるな。いまいち力が入らん…。尻も痛い。だが、まあ、警部が来たなら話は早い…急いで状況を…。」

そう言って、自力で立ち上がろうとして、よろけた。即座にポムが片腕を肩に回し、支えに入る。

「ちょっと危ないでしょ!何してんのよ。ほら、しばらく支えてあげるからっ。」

「…。悪いな。クソ…麻酔さえ打たれていなければ、こんなことにはならなかったんだがな…。」

悔しそうにつぶやくガレット刑事。一方その頃、チュロス刑事の拘束具をカヌレがハサミで切っていた。

「はい、大丈夫ですよ。」

「おお、ありがとう。」

チュロス刑事が手首をさすりながら、すっと立ち上がる。周囲の状況を見ながら、カヌレの方を見る。

「巷で有名なカヌレ探偵か。」

「?…はい。…?」

カヌレがいきなり言われて、戸惑いつつも返事をすると、チュロス刑事は静かにカヌレをじっと見た。そして不機嫌そうな声を出した。

「貴方のような探偵は確かに世論的には必要かもしれませんがね…。刑事の仕事をあまり取らないでいただきたいものですね。いえ、別に探偵が悪いと言ってるわけじゃないですよ?ただ、私達の仕事がなくなるのは困るというわけです。」

「は、はぃ…。」

カヌレが歯切れ悪く、なんか変なこと言われたな~…多分声のトーン的に嫌味かな~…と思いつつ返事をする。ぽやーっとしている彼女に、チュロス刑事は少し苛立ったように、足をトントンした。

「だから、あまり警察関係のことに首を突っ込まないでいただけますかね。貴方達が首を突っ込まれると、私達としては後処理が大変なんですよ。誰がどうしただのの聞き取りする人数が少し増えるわけで…そうなると書類がかさばるでしょ?」

分かるよね?と言った調子で問いかけてくるので、カヌレがはい…(まあ、分かるけど…?)と頷く。相変わらずぽやーっとしてる彼女にチュロス刑事がさらにとやかく言おうとした時だった。

「え~…。教祖とか…フォンダン知らないんだけどォ。なにこのおじさん…神だったら、フォンダンのこと見離さないとか、そういうわけなの?」

フォンダン警部がグスグスしながら、壁にめり込ませた自身の車の上で言う。実はこの教会に入ってくる時、探偵フィナンシェとか探偵カヌレが隠密に入り込もうとしてるとき、フォンダン警部が自分の車にカヌレたちを無理やり乗せて言ったのだ。

「そんな隠密とかめんどくさーぃ…。真正面から行った方が速いって~。フォンダン警部の言うこと、聞いてくれないの?貴方達なら分かってくれるでしょ?…それとも、フォンダン警部のこと見捨てるつもりなの?ねえ。」」

フィナンシェが流石に断り、理詰めで説得させようとしたが、流石のメンヘラ。話が全くかみ合わなかった。このままでは時間が無駄になると悟った彼は、即座に車で強行突破という手段を了承したのだ。そして現在に至るわけだが…。フォンダン警部を見た教祖が、あまりに体をわなわなと震わせて、呆然とする。

「なんと…!そんな見た目など、神への冒涜に等しいっ。体つきが良いのは、美味しいものを食べているという証です。禁欲なさい。食欲はいけません。そんな体系では、家族にも入れませんよ。…ですがご安心ください。しっかりと生活を見直し、禁欲なされば結果はおのずとやってきます。そうすれば、神の前に立つことができましょう。神はいつでもあなたを見守っています。だから見離すことなど絶対にありませんよ。」

その言葉にフォンダン警部がえ~?と言いながら、少しだけ瞳を潤ませる。

「やだ、フォンダン…見放されないの?神なら見守り続けてくれるの?入信したい~。こんなフォンダンでも受け入れてくれるのなら、入信する~。」

「いけませんよ、フォンダン警部。こんな危ないドリップ教に入信しては。」

チュロス刑事が慌てて彼女の傍に駆け寄り、腕を握る。彼女はふああ…とあくびをかましながら、それでもいいの~とゴネ始めた。

「だって、フォンダンのことずーっと見ててくれるんでしょ…?一分に一件連絡したって、別に神なら怒らないでしょ?案外悪くないよね、別に人じゃなくたっていいし…。ちょっとくらい危ういドリップ教に入信したって…。はあ…入りたい。」

重苦しい溜息を吐き、じめじめとキノコをはやし始める彼女。しかし流石に職務を忘れてはいないようだった。きのこをはやしつつも、教祖の手を取り、手錠をかちゃりとかける。

「…え?」

驚く教祖の前で、腕時計を確認してフォンダン警部はめんどくさそうな声で言った。

「十時えーっと…めんどくさいから、まあ、時計見て。はい、逮捕。」

その後、この教会に警察の応援が来て、全員の事情聴取が入った。


数日後、いつものカフェロイヤルでは、相変わらずの三人がポムやカヌレの目の前で騒いでいた。カヌレたちから事情を聴き、そして各々幸せに浸っていた。

「やあーーーーん♡素敵ーーー!そうやってフィナンシェ様がすっとかがんで、助手のマドレーヌさんと連携を取るなんて…。そんなの、傍から見たら超絶かっこよすぎて、宇宙の真理が壊れちゃうくらいじゃない?!やだ…あたし、脳がマヒしちゃいそう…。ちょっとカフェロイヤルのメニュー表が記憶から抜けちゃいそうだわ…。だめよ、店主なのに。でも、脳のキャパがもうパンパンなのよーーっ!怪盗より、時代は探偵一択よ!」

そう言って、ゴリゴリゴリとコーヒー豆を削る店主バウム。いつになく頬が赤くなっていた。話を聞いただけでも今日はご飯がいっぱい元気よく食べれるそうだ。その横で、クレールが静かに頬を赤く染める。ドリップコーヒーをマドレーヌに提供しながら、うっとりとする。

「怪盗ノクターン様は、連携プレーなんてせずに一人で全てを解決してくから、かっこいいのよねーー!でもそんな危ないドリップ教から、私を盗み出してくれたら…。教祖様の手を逃れて、鮮やかに、月下の元で…。きゃーーー!もう紳士すぎっ。やっぱり探偵より怪盗だわ。あんな認知症のクソ店主の言葉なんて、怪盗ノクターン様の前じゃ塵も同然よ!ああ、もうそんな目で見ないでノクターン様…っ!ドリップ教から連れ出してくれだだけでも、私幸せなのに…。やだまともに見られない、眼球があまりのイケメン度に蒸発しちゃう…!」

惚気まくっているクレールの言葉が探偵推しの二人に突き刺さる。店主バウムとホワイトショコラがあ゛?!と同時に声を上げ、ホワイトショコラがすぐに惚気始めた。夢見るように手を合わせ、嬉しそうに言う。

「怪盗なんかより、探偵なのはもちろんのこと…やはり時代は女探偵ですよ!可愛らしいカヌレさんが、ドリップ教なんてところに自ら足を踏み入れて、奴らのことを暴き出す…。その凛々しくも可愛らしい表情を一度見てしまったら…もう僕は、カヌレさんを推さずにはいられませんっ。唯一の推しです!僕の生涯でたった一人の推しですっ。彼女以上の女性探偵が他にいるわけないです。そのチュロス刑事とか言うのは、本当に一度墓石に埋め込んでやりたいと思いますけどね…。カヌレさんに対してそんなことを言うなんて、僕的には許しがたいので、一生歯の間にポップコーンの殻でも詰まっておけと思いますが…。そんなことより、カヌレさんです!ああ、本当に可憐!僕はいつでも貴方の見方で、一番のファンですからねカヌレさん。愛してます!」

そう言って、ゴトンと大きなカップを彼女の目の前に置く。今回の注文はカフェラテだが…。ハートマシュマロが入ってないが、今度はラテアートでハートを作ってある。カヌレが目の前に突き出されたドリンクを見て、こっそりとホワイトショコラの方に視線をやる。彼はすがすがしい程に満面の笑みを浮かべていた。その横にきた店主バウムがポムの前にブレンドコーヒーを差し出す。

「はい、ご注文のブレンドコーヒーよ♡」

「すごい良い香り!美味しそう!」

ポムが嬉しそうな声をあげる。フィナンシェがその声を聞きながら優雅に紅茶を飲んでいると、カフェの入り口のベルがカランコロンと鳴った。ガレット刑事だった。

「先日は感謝する。お前達にちょっとした差し入れだ。」

そう言って、店主バウムに白い箱を手渡した。ガレット刑事はふう…と息を吐きながら、カウンター席に近づき、ポムの隣に座った。クレールがすぐにコーヒーを出す。ポムが怪訝そうに聞いた。

「尻は大丈夫なの?」

「もうあらかた治った。」

店主バウムが近くのテーブルに白い箱を置き、ぱかっと箱を開ける。そして嬉しそうに言った。

「あら!これ有名店のロールケーキじゃない?!今切り分けるから、ガレット刑事も食べていって♡」

「俺は仕事が…。」

「少しくらいなら時間があるんじゃねーか?」

マドレーヌがにやっとしながら、静かに言う。フィナンシェもええ、そうですねと便乗した。ガレット刑事は、少し不服そうにしつつも、カウンター席に座り直した。

「ちょっとだけだからな。」


読んでいただきありがとうございます!

2日ぶりですねみなさん、Xでお知らせした通りビスコッティやサバランにストックを無くされたもんですから…まぁ、とはいえ2日後に投稿する作者だぜ!見やがれサバラン!ふはは!その程度じゃこの作者をッ…待て!何する気だ?!と焦りまくってる作者はこちら→https://x.com/Ameme_H_Novel

そういえば最近花粉が消えてきたとか…?甘いぜ!作者はまだ花粉を感じてるぞ!PCの眼精疲労なのか花粉なのかわからねぇけどなぁッ!

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