22 研究者との出会い
翌朝、山村には薄い霧がかかっていた。
アルトは早くから目を覚まし、宿の窓から北の山脈を見上げていた。
灰色の峰々は雲に隠れ、その奥に何かが眠っているように見える。
地下都市の遺跡。
昨夜聞いた話が頭から離れなかった。
そこへ、ミラが大きく伸びをしながら部屋に入ってくる。
「おはよー」
「まさかもう起きてたの?」
アルトは振り向く。
「ええ。少し村を歩いてみようと思って」
ガルドも後ろから入ってきた。
「情報集めか」
「悪くない」
エリシアとリィナも合流し、五人は村の小さな通りを歩いた。
朝の村は静かだった。
薪を割る音と、遠くで鳴く鳥の声だけが聞こえる。
そのとき、アルトの目に一軒の建物が入った。
古びた石造りの家。
入り口には、色あせた看板が掛かっている。
「古代文献・資料」
アルトは立ち止まった。
ミラが首をかしげる。
「どうしたの?」
アルトは小さく呟く。
「……資料屋?」
扉を押して中に入る。
店内は薄暗く、棚には巻物や古い本がぎっしり並んでいた。
そして奥の机に、一人の老人が座っている。
白い髭を長く伸ばし、丸眼鏡をかけている。
老人は本から顔を上げた。
「ほう」
「珍しい客だ」
アルトは軽く頭を下げる。
「失礼します」
「古代文明の資料を扱っていると聞いて」
老人の目が細くなる。
「若いのに、ずいぶん珍しい趣味だな」
アルトは答えた。
「考古学者です」
その言葉を聞いた瞬間、老人の表情が変わった。
「……考古学者?」
老人はゆっくり立ち上がる。
「面白い」
「この村でそんな言葉を聞くとは思わなかった」
ミラが小声で言う。
「なんか怪しい人だけど」
アルトは構わず続けた。
「北の山の地下都市について知りたいんです」
老人の目が鋭くなる。
しばらく沈黙が続いた。
やがて老人は言った。
「ついて来なさい」
奥の部屋へ案内される。
そこには机いっぱいに古い資料が広げられていた。
石板の写し。
古い地図。
解読途中の古代文字。
ガルドが呟く。
「……本物の学者だな」
老人は棚から一枚の巻物を取り出した。
「これを見ろ」
机に広げる。
それは古い地図だった。
アルトは息を呑む。
普通の地図ではない。
山脈の奥に――
巨大な円形の構造が描かれていた。
ミラが目を丸くする。
「これって……」
老人は静かに言った。
「古代都市の地図だ」
アルトの心臓が高鳴る。
「本当に存在するんですか?」
老人は頷く。
「わしは長年、古代文明を研究している」
「そして確信している」
彼は地図の中心を指差す。
「この山の下に」
「地下都市がある」
エリシアが驚いた顔をする。
「地下に都市……」
老人はさらに紙を広げた。
そこには古代文字が書かれている。
アルトはそれを読む。
「……都市管理施設」
「研究区画」
「防衛装置……」
アルトの声が震えた。
「これは……都市設計図です」
老人はニヤリと笑う。
「そうだ」
「つまり」
彼はゆっくり言った。
「お前たちが向かおうとしている場所は」
「ただの遺跡ではない」
部屋の空気が静まる。
老人は最後に言った。
「古代文明の都市そのものだ」
アルトは地図を見つめる。
もしこれが本当なら――
これまでの研究施設とは規模が違う。
文明の中心。
古代文明の心臓部。
アルトはゆっくり顔を上げた。
「……行きます」
老人は満足そうに頷いた。
「若いな」
「だが」
彼は窓の外の山を見た。
「気をつけろ」
「その都市に入った探索者は」
静かな声で言う。
「ほとんど帰ってこなかった」
アルトの胸は恐怖よりも――
興奮で高鳴っていた。




