⑮-2 恩人とは
「恩人って、誰なんだ?」
アルベルトと視線の合ったマリアは、口をへの字にすると一呼吸おいてから答えた。当然と言えば、当然の疑問だろう。
「本人が話していないなら、私が話すことじゃないわね。嫌われたくないしね」
「それは……」
「とにかく。ちゃんと謝って、誠意を見せたほうがいいわ」
「そうね。そういう小細工なんて、ティニアには通用しないぞ」
ミランダは珍しく言葉を荒げた。ミランダの言葉に、メアリーも頷く。
マリアはアルベルトを見上げると、人差し指を前に迫った。
「そもそも、付き合っても居ないのに同棲を始めたりするからよ」
「ぐうの音も出ないよ」
マリアはそういうと、店の奥へ下がってしまった。
ミランダは腕を組みながら助言を述べる。
「そうね。どうしても物で釣りたいのであれば、植木鉢の方が喜ばれるぞ」
ミランダの言葉に、メアリーも頷いた。
「ティニアは優しすぎるんじゃよ。その心を正しく理解してやらんとね」
アルベルトは無言で頷いた。
「でも、贈ったのは植木鉢だったんだ」
「ねえ、ちょっと」
マリアはアルベルトの腕を掴み、店先まで連れだした。
「なんだ」
「この喧嘩を、もっと仲良くなる礎にしたらいいと思うの」
「どういうことだ」
マリアはそういうと、図鑑に挟まれた栞を見せた。栞に入れられた花について、ガーベラのような花があるとしか、アルベルトには分からなかった。
「押し花よ。ティニアはよく花をこうやって押し花にしてね、栞にしているの。これはティニアから貰ったものなの」
「押し花……」
「あの子は、どんなものでも、命を大切にする子なの。もっと、ティニアの事を知ったほうがいいと思う。知った気になんて、ならないで」
「……そうだな」
アルベルトは思い悩みながら、ティニアの行動を回想していった。
「誠意を持って、ちゃんと謝罪した方が伝わると思うわ」
「でも、あいつは物で釣られたりしないのだろう」
「わかってるじゃない」
マリアは呆れながら、ペラルゴのドアに手を掛けた。
「ま、まってくれ!」
「もう帰ってよ。営業の邪魔よ」
アルベルトはマリアの腕にすがった。店内からは心配そうにしている夫人の姿が二人見て取れる。
「もうちょっと、あの、詳しく教えていただけませんか。マリア嬢」
「え~。どうしようかな。私も仕事中なのよ?」
「それは、まあ。そうなんだが」
「そうね。うーん、だったら……」
マリアは手に持っていた図鑑を適当に捲り、広げると、そのままアルベルトへ差し出した。
「花でも摘んでいったら? はい、図鑑」
「は、花を、摘む?」
「そうね。道端に生えてる花を、一生懸命摘んでいったらいいわ。そして、そのまま怒られてるといいのよ」
「ちょ、マリア嬢。そうじゃなくてな」
「あんたねえ……。現状、分かってる?」
マリアが悪態をついた時、アルベルトは図鑑を見入っていた。気味悪がっていると、アルベルトはそのまま駆け出して行ってしまった。その様子に一抹の不安を感じつつ、マリアは首を横に振ると、ペラルゴの店内へ戻っていった。




