⑭-4 優しさの代償
アルベルトは旧市街地にある小さな教会を訪れていた。教会内には神父アドニスしかおらず、静まり返っていた。アルベルトは乱暴に椅子に腰かけると、赤く腫れた頬に触れた。
「それで部屋に入ったら、あいつがなんか、持っていてさ」
「はあ」
仕方なく愚痴を聞いてやっているアドニスは、どこからどうみてもティニアの味方であった。アルベルトは明らかに相談相手を間違えているが、教会を訪ねたのはティニアがいるかもしれないと踏んでいたからだ。
アルベルトは教会のステンドグラスを見上げた。
見事な装飾が描かれ、光の入り具合で、様々に姿を変えていく。
「銀に光るやつを隠したから、何かと思って」
「……はあ」
「見せろって言ったけど、見せないから」
「はあ。子供ですか」
アドニスは大きなため息をついた。
アドニスは銀に光るものを知っているのだろうか。バツが悪そうに、アルベルトは話を続けた。
「昔の男からもらったものかって聞いたんだが……。何も言わないから」
「…………」
「……なんだそんなもの、くだらないって。言ってしまったんだ」
「それでその頬ですか」
アルベルトは頬に触れた。
まだ赤く腫れあがっているように感じられた。
「あいつ……思いっきり、ひっぱたきやがって」
「御優しいですね」
「はあ?」
アドニスは小さなピアノへ近づくと、ゆっくりとピアノの鍵盤を出した。そして、ラの鍵盤を押した。
そして、モノクルをかけなおしながら、ステンドグラスを見上げた。
「私なら、半殺しでも済まさないですよ」
「……は」
アドニスは怒りを抑えることなく、露わにしながらアルベルトから視線を外したまま、再びラの鍵盤を弾いた。淡々とした音であり、奏でているとは思えない。そして、直ぐに一番低いドの鍵盤を乱暴に押した。
「あなたは、彼女の優しさに甘えすぎではありませんか。見られたくないことを無理に見ようとするなんて、怒って当然ですよ」
振り返りながら、アドニスは目を光らせた。細目でありながら、しっかりと見据えた目で、アルベルトへ嫌悪の感情をわかりやすくぶつける。
「は、はあ? いきなりひっぱたく奴が優しいか?」
「優しさとは、身の犠牲でもあります。ただの自己犠牲なんですよ。彼女の優しさを犠牲にして、あなたが手に入れたいのは、彼女の何ですか」
「何もそんな大袈裟な……」
アルベルトの言葉に、アドニスは大きな溜息をつきながら、首を左右に振った。アドニスはラの鍵盤を押していく。
「そんなことでは彼女は手に入らない。それどころか、遠い彼方へ行く。二度と会えなくなるでしょうね」
「…………」
「それで、失ってから気付くんですよ。それでは遅すぎるというのに」
アドニスは、アルベルトが責任感の強い男だということを知っていた。情報源は言わずもがなだ。




