⑭-1 祈るように
この日は珍しく晴れ渡っており、青空が広がる。
六月を迎えたシュタイン・アム・ラインの旧市街地にある、小さな教会。
その教会では早朝から、女性が祈りを捧げていた。
「理不尽、道理。……正義って何だろう」
そう呟きながら、彼女は置かれている十字架を見つめた。その手は光を反射し、銀色に淡く煌めいている。
「……懐かしいですね。対の懐中時計は、どうされたのですか?」
教会で佇む金髪碧眼の女性へ、教会の神父アドニスは問いかけた。
女性は愁いを帯びた表情で、手に持つ白銀の懐中時計を見つめる。再び懐中時計は、外からの光を反射させた。
「あの子達に預けているよ。暫く行けていないからね」
女性はアドニスを見つめると、感傷に浸るように、目を細めて微笑んだ。アドニスも同じように目を細める。
「そうですか。そちらは貴女ので?」
「ボクのじゃないよ。あの子たちがそう言っていたからね」
「そのうち思い出せますよ。……その懐中時計には、小さなものが入れられるのですよね」
「そうだっけ」
女性はとぼけるように、肩を揺らした。アドニスは気にしていないかのように、言葉を続けた。
「中身は、そのままなのですか」
「そうなんじゃないかな。人の物を勝手に開けるようなこと、ボクがするとでも?」
「そうですよね」
朝焼けの光が教会のステンドグラスに注ぎ込むと、その青と緑とが交錯、屈折する。そのまま不思議な黄色い光を、彼女へ差し込んでいった。
佇む女性――ティニアは潤んだ瞳で懐中時計を見つめると、寂しそうに微笑んだ。寂しさを噛みしめた表情であり、その感情を向ける相手を、神父は理解しているようだった。
「さすがに、ずっと会えていないから、寂しがってくれているかな」
「……あの子達がですか? いや、何でもありませんよ」
「ふふふ、ボクは寂しいよ。でもお兄ちゃんの方は、素直じゃないからなあ」
「仕方ありませんよ。思春期なのです。それで、そちらは御開けにはならないのですか」
アドニスは細目を更に細めると、ティニアに語りかけた。否、諭しているのだ。
ティニアは少し間隔を置くと、首を横に振った。
「やだよ。開ける意味なんてないでしょ」
「もう、いいではありませんか。何年経ったのです。開けてしまいなさい。もしかしたら、手紙が入っているかも」
「なんでだよ。そんなこと言って、ただ中身が気になっているだけでしょ? これは、ボクのじゃないんだから、開けるわけにはいかないんだ」
「無事に戻ってきたら、話があるから聞いて欲しいと言われたのでしょう?」
「そう言って、誰も帰って来なかった」
ティニアは吐き捨てるように、話しながら自虐的に微笑んだ。




