表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の芽吹 ―レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
episode13「甘い誘惑」
87/111

⑬-1 噂の正体

 その日は、五月も末の出来事だった。

 ここは、永世中立国スイスのシャフハウゼンがシュタイン・アム・ラインの小さな診療所だ。


 町の喧騒をもろともせず、その絶叫はこだました。

 人伝に聞いてみると、偶然目の前を通過していた貴婦人はこう語る。


「聞こえたんですよ、まさに大絶叫!」


 新聞を抱える画家はこう語る。


「何か悪い診断でも受けたんじゃないかね。しかし、それにしても診療所から、まさかあんな大絶叫が聞こえるとはね。ちょっと芸術味を感じたよ」


 腕の太い大男が現れた。男は肩を震わせて大笑いした。


「当たり前でしょ!! バカなのおおおお⁉ って聞こえたんですよ、あっちの路地からですよ! こりゃ、旧市街地全体に聞こえただろう!」


 数日間も噂された、この大絶叫が町にとって、語り草となるかはまたの機会に。



 ◇◇◇


「そんなのありえないでしょ? 嘘だよね? ティニア、どうしちゃったの?」

「いや、えっと……」

「一緒に住むですって⁉ そんなに心が弱くなっているの?」

「その……」


 あのティニアが、モジモジとしている。

 頬を赤らめて――。


「まさか何かされたの? 許さないわよ、アルベルト!」

「お、落ち着いて。マリア……」

「落ち着いてるわよ〜。ティニアちゃん、本当にどうしたの? 疲れているの? もう少し入院しておく?」


 そういうと、マリアは壁にティニアの落書きを張り出した。


「ちょ、やめて! 貼り付けるのも辞めてよ!」


 足音が聞こえ、息を切らした白衣の丸眼鏡医師は、勢いよくドアを開けたのだが。

 次の瞬間、大きな衝突音と振動が、病室に伝わってきた。

 医師レオンはいつものように、頭を天井にぶつけてしまった。


「先生……、その。怒ってもいいのよ」

「せ、先生。怒ってもいいけど、痛くない? その、ホ、ほどほどに……」

「……元気そうですね」


 レオンは震えながら、涙を流しつつオデコに手を当てた。先ほどの大絶叫は、レオン医師だけではなく患者全員に轟いただろう。


「……もう、退院して下さい。はやく。今すぐです」

「……は、はい」

「……荷物持つわよ」

「あ、……うん」


 逃げるように荷物を持つと、壁に貼られた落書きを剥がしていくティニアだった。そのまま二人とも、お互いを笑いしながら診療所を後にした。足取りは軽く、どこまでも続いていけるようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ