⑫-7 突然の告白
マリアは落ち着きを取り戻し、ティニアとベッドの脇に座り直した。窓は締め切ってはいるものの、穏やかな空気が流れている。
「ボクはね、人を、……信じないんだ」
「…………」
「人を信じるということは、責任を負う事だと思っているからなんだ。期待を抱いてはいけないと……」
涙を服の袖で拭うと、マリアは視線を逸らさぬように、目の前にある瞳を見つめた。
「ティニアは全然頼らないし、踏み込ませてくれなかった。でも、色々話してくれては居たのよね」
「うん。……ボクも、寂しかったからね」
「そんなに良い人達と出会っていたら、そうよね」
ティニアが、故郷で出くわした勇敢な兵たち。その冒険譚を語るティニアは、どこか楽しそうだった。作り話であるといいながらも、大切な思い出を語るように。
「でも私、婚約破棄された令嬢に、プロポーズに行く話が一番好きかな。戦いなんかより」
「そっか。いい人たちだったよ。でもボク、もうほとんど覚えていないんだ……」
「きっと思い出せるよ。……会いたくない? その友人たちと」
長い間を置き、ティニアは目を閉じた。彼女の答えはわかっている。それでも、マリアはティニアの答えを待った。
「……もう、随分前にお別れをしてしまったの。だから、もう会えないんだ」
ティニアは壁に貼られた、円に形どられた井戸のような絵を見つめた。
「でも、もしいつか会えたなら、そうだなあ」
ティニアはゆっくりと立ち上がると、窓に歩み寄った。カーテンを右へ開くと、ゆっくりと窓を開けた。柔らかな、湿り気のある冷たくも清々しい風が部屋に立ち込める。
「約束は果たせたのか、微妙だけど、でも……」
ティニアはそのまま俯き、マリアへ振り返ると悲しそうに微笑んだ。
「もっとボクに力があれば、こんな不完全な約束を果たすなんてことにはならなかった。でも、やれるだけ、ボクは抗ってみせるんだ」
そのまま口を閉ざし、ニイッと笑うように耐えてみせると、ティニアはまた窓の外を見つめた。
「ここ、地球で。彼等の愛した、この星で」
ティニアはゆっくりと空を見つめた。其の青々と澄み切った空と、彼女との心は真逆だろう。
「ボクは物理法則を超えるからね」
決め台詞は、彼女の決め台詞。そんなことを語る人は、他には居ない。
「今度だって、超えてみせる。だから」
ゆっくりと歩み寄り、マリアの前にひざまずいたティニアはマリアの手を取った。
「だから……」
「言葉にするのよね。為せば成るのよ」
「……そうだね。そうなるといいな」
「違うわ。成すのよ、貴女が」
マリアはティニアの手を取ると、裏返し手の甲にキスをした。
「私もやるべきことを、やるわ。絶対に」
「マリア……」
「お互い、頑張りましょう」
「……うん」
ティニアはマリアを逃がすまいと、両手でマリアの手を握った。
「ところでマリア、お願いがあるのだけど」
嫌な予感がする。
「一応聞くけど、何?」
「お、怒らない?」
「内容によるかな」
マリアはニコニコしながらじりじりと顔を寄せると、ティニアは視線を泳がせた。
「あの……」
「なぁに?」
「あ、アルベルト。いるじゃない」
「うん、いるわね」
「うちで一緒に住まないか聞いちゃったんだけど、ダメかな?」
マリアは自分が石のように固まるのを感じた――。




