⓪-8 アルビノの少年
引き金を引いた瞬間、ラーレは衝撃で壁まで吹き飛ばされた。
少年の前に突如、男が現れた。男は少年を庇い、ラーレの銃撃を受けた。
あまりの刹那であった。
蹴り飛ばされたラーレは吐き気、そして脇腹に激痛を感じた。男はラーレの左わき腹を撃ち抜き、壁際まで蹴り飛ばしていたのだ。
男は長身で、黒い眼帯をしていた。何故感知できなかったのだろうか。
庇われた少年は、酷く憤慨していた。
「ちょ、何やってるの! だから言ったのに、ボクは撃たれたって……」
「あなたが、撃たれるのだけは、容認、できない……」
男は少年を腕で庇いながら、再びラーレへ発砲した。先ほどの衝撃でも手放さなかった拳銃に、銃弾は命中した。
ラーレの拳銃は軽い音を立て、床に落下した。
「動くな、俺はまだ撃てる」
ラーレの銃弾は、確かに男に命中した。しかし、男には苦痛を感じる様子はなかった。
何かを見落としているのではないか。
ラーレがそう思った時だった。
「あなた……。そう、あんたがそうなのね」
ブツブツと言葉を発するラーレの目の前には、所長が襲撃される映像が流れていた。突然のことであり、ラーレは目を疑った。
無防備で笑みを浮かべた所長は、無言の眼帯男に撃たれ、その場に崩れ落ちた。
所長が撃たれた現場に、ラーレがいたわけではない。所長を撃ったのは眼帯の男だったと、そう噂で聞いていた。脳裏に広がる光景は、決して妄想などではない。
映像はそこで途切れ、目の前には眼帯の男が立っていた。
「お前が、所長を、撃った……」
痛みを忘れないようにと言わんばかりに、ラーレの脇腹に激痛が走った。熱ささえ感じる。
男は含み笑いを浮かべた。その笑みは、ラーレの感情を逆撫でした。ラーレとの間合いを一瞬で詰めることなど、男にとっては容易いだろう。
殺るしかない。
漠然とした考えだ。ラーレは、落ちている拳銃を男に向かって蹴り上げた。
そしてその反動のまま、ラーレは少年の額へ、仕込んでいたナイフを放った。レイスと紅茶を飲む前に、訓練として仕込んでいたナイフだ。
男は簡単に拳銃を避け、ナイフを叩き落とした。ラーレはすでに壁際であり、後退は出来ない。
男は間合いを一瞬で詰めると、拳銃をラーレへ向けた。
男は威嚇だけでラーレを殺す気などない。殺す気があれば、最初の段階で心臓を撃ち抜けたからだ。
ラーレはわき腹を抑えていた手を、男へ向かって振りかざした。ラーレの血液が、拳銃越しに男の顔面にかかった。
男は隻眼。一瞬怯んだのを、ラーレは見逃さなかった。
ラーレは胸ポケットにしまっていた銃弾を手に、男の眼帯で隠れていない、青い左眼目掛けて、飛び掛かった。不可能だった間合いは、男がわざわざ詰めてきたのだ。
殺れる。ラーレはそう確信した。




