⓪-6 不協和音
視界は一瞬で足元から揺らいだ。
退避通路の最深部には、座り込んで動かない男が血だまりを作っている。見覚えのある男は、既に絶命していた。
「工作員のマイク・レイリー……」
ここに至るという事は、襲撃者の一人として待ち伏せをしていたということを指すのか、それとも逃げ込んできたのか。
ならば、彼を撃った者はどこに行ったのか。襲撃者の一員なら、何故ここで息絶えているのか。
マイクの左手の中には、ひしゃげた紙が握られていた。手はまだ完全に固まっておらず、紙を取り出すことが出来た。血液が乾いていないことからも、まだ死んで時間が経っていないのがわかる。
紙は写真だ。マイクの妻が出産してすぐ撮った、赤ん坊の写真。
そして、マイクの右手にはラーレと同じ拳銃が握られていた。力の入らぬ手から拳銃を拾い上げると、シリンダーを覗いた。銃弾は一発だけ使用されている。
「……助かった」
残った一発を胸ポケットに入れたことで、気持ちは安定した。
背後からの銃声音、戦闘音は聞こえない。
「皆やレイスが居ない世界で、ひとり生きて、どうなるっていうの」
ラーレにとって、今の家族はレイスだけだ。
突然耳鳴りのような、つんとした頭痛が頭を襲う。
青空はどこか紫がかった色合いで、島には草花が咲き誇っていた。一瞬見えた情景によって、思考が途切れてしまった。
「まただわ……。こんな時に」
ラーレにとっては度々起こる、怪現象だ。やがて鳴り止んだ耳鳴りにより、進んできた通路のコンクリートが、白く輝いているように見えた。
憧れ、愛する家族が、その先に居る――。
「私だって逃げられない。物分かりの良いラーレはもういない……!」
朱色の髪を靡かせ、少女は通路を戻っていった。




