⓪-4 変化
退避通路の中心部まで逃げ込むことに成功したが、心を休めるわけにはいかなかった。レイスの出血は止まらず、通路に血痕を残していた。
レイスは足元の血痕を消すように、靴底でこすった。
血痕を追ってきたのだろうか。二度、敵に追いつかれた。新たな負傷は免れたものの、ラーレは無駄撃ちすることしか出来なかった。
「ッ……。ラーレ、残りの弾数は?」
「……ごめん。二、三発くらいしかない」
「今確認なさい。私が警戒します」
血だらけのレイスは拳銃を構えたまま、前方や後方を睨み続けていた。ラーレは言葉を飲み込むと、無言で弾数を確認した。
「……二発しかない」
「そうですか。ラーレは何処にも怪我はありませんか?」
「ないよ。レイスが庇ってくれたから」
レイスは銃を下ろした。ラーレが疑問に思っていると、レイスは拳銃をラーレへ傾けた。
「私は四発残っています。これを持って逃げなさい」
「冗談でしょ? やめてよ」
レイスの拳銃はシングルアクションのリボルバーをベースにした、改造銃だ。ラーレには重い。
「逃げるだけなんでしょ。そんなの、いらない。私は逃げたりしない。レイスはここで戦い続けるでしょ?」
「…………」
「どうせ足手まといだもの。それなら、私が残——」
来た通路から、気配がした。
——敵は二人。
一人の殺気はほとんど感じられず、かなり無防備に思える。
もう一方の殺意に至っては対照的で、隠す気が無いのであろう事がわかるほど、剥き出しの殺意だ。
拳銃の交換は済んではいない。そして、これだけの静寂の世界に発砲音が響き渡る方が危険だ。
レイスの気配は、酷く穏やかなものに変化していた。
「このまま東へ、通路を抜けなさい」
レイスはラーレの返答を待たずに、片手で拳銃を構えた。
「レイスが逃げるなら、私も逃げるわ。置いていくなんて出来ない。私もここで戦う!」
「私は大丈夫です。信じて下さい」
普段のように優しく穏やかな口調だ。それはラーレの不安を煽った。
「だったら、落ち合う場所を決めてよ」
「……銀の塔。東にあります」
「分かった。……来なかったら、許さないから」
「了解です。行きなさい」
ラーレは振り向かずに、東へ通路を抜けていく。
レイスが来ないことは分かっていた。それなのに、ラーレは従ってしまった。
銃声が無いことを祈りながら、走ることしか出来なかった。




