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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode0「その名で呼ばれるまで」
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⓪-3 日常の崩壊

 警報は尚もけたたましく、ラーレたちを逆撫でした。

 訓練時にしか聞いたことのないようなサイレンは、不安や焦りを掻き立てていく。とても冷静に動けそうにない。しかし、ラーレの側にはレイスがいる。その存在の大きさを、ラーレは改めて嚙み締めた。


「この警報……。奇襲ってこと?」

「ええ。間違いないでしょう。警戒を怠らないで下さい」


 厳重なアウローラの拠点が、簡単に奇襲されるはずがない。相手は相当腕の立つ組織だろう。

 レイスは机の引き出しから一丁の拳銃を取り出すと、ラーレに手渡した。ラーレが射撃練習で使っていたものだ。

 ラーレは黙って頷くと、弾数を確認する。全部で六発入っている。ラーレにとって、初めての実戦となる。

 ラーレが拳銃を構えたその時だった。警報が鳴りやみ、辺りは静寂に包まれた。


 制御室に敵が押し寄せたということだろう。自然と拳銃を握る手に力が入り、じんわりと汗が込み上げた。

 

「少し離れたところで、殺気が幾つもあるよ……。これ皆敵なの?」

「そうです。扉を開けますので、油断しないで下さい。出来ることなら、此処から脱出を」


 レイスの声色は、非常に重く冷たかった。レイスはドアの施錠を外した。静かな空間に、小さな開錠の音が響いた。


 恐る恐る顔を出したラーレを、レイスは押し退けた。


 パシュン。


「ッ……!」


 消音器付きの拳銃から発砲音が響き、レイスは左肩から血が溢れ出した。庇われたラーレは拳銃を落としたが、レイスは怯むことなく引き金を引いた。

 黒い服の人物が、その場に崩れ落ちた。


 顔を上げたラーレの目の前で、レイスの白い服が赤く染まっていった。


「レイス! 腕が、肩が!」


 ラーレは慌てて部屋へ戻り、引き出しからガーゼを取り出すと、彼女の肩に巻き付けた。震える手では、思うように巻くことが出来ない。真新しいはずのガーゼは、直ぐに色を変えていった。

 その間も、レイスは片手で拳銃を向け続けていた。


 ラーレは何とか巻き付けると、出来るだけ硬く縛りつけた。

 レイスは奥歯を噛み締めると、拳銃を構えたまま襲撃者へと近づいた。そして襲撃者を蹴り上げ、仰向けにした。初めて見る男だった。レイスは目を細めると、周囲へと視線だけを動かした。


「敵は幸い、一人だったようですね」

「レイス、腕……、肩は大丈夫なの!?」

「問題ありません。動かすことが出来ますので」


 ラーレは落ちていた拳銃を拾い上げた。何も出来なかった。手はまだ震えていた。


「……私のせいで、怪我を——」


 レイスから何を学んできたのだろうか。ラーレは目を閉じた。

 戦いが怖いわけでも、拳銃に驚いているわけでもない。油断すれば、またレイスが怪我を負ってしまう。

 ラーレは言葉を飲み込むと、レイスを見上げた。レイスは静かに頷くと、拳銃を通路へ向けた。


「……行きましょう。此処はもう駄目です。脱出をしなければ」

「ダメって、他の皆は……」

「静かすぎます。もう、皆生きていないのでしょう」

「そんな……」


 レイスは怪我のない方の手で、肩を掴んだ。そしてそのまま、歯を食いしばると、両手で銃を握りなおした。

 レイスの左肩が無事ではないことは、ラーレでも分かることだった。

 

「退避通路を使いましょう。ここから出なければ」


 レイスの呼びかけに、ラーレは黙って頷いた。細い通路を進み、隠し扉から退避通路へと入った。足の遅いラーレを、レイスが気遣っているのは明白であった。


「遅くてごめん……」

「大丈夫です。拳銃は直ぐに撃てるように、構えたままで」


 黙って頷いたラーレは、拳銃を構え直した。

 頭の中で描いていた銃撃戦ではなかった。実戦では、姿の見えない襲撃者に怯えることしか出来ないのだろうか。


 動ける者はラーレと、負傷したレイスだけなのだろうか。

 何の気配もしなかった。もう皆死んでしまったのだろうか。


「まだ油断しないでください。いいですね」

「……分かったわ」


 二人は、薄暗い退避通路を進んでいった。

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