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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode41「遅れたフーガ」
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㊶-3 朱の福音はどんな音か

 ラウルの表情は微動だにしなかった。


「迷いのない眼だ」


 ラウルの声が、至近距離から発せられた。

 マリアはラウルの右眼にある金色の瞳ではなく、ラウル本来の青い瞳を見ていた。


 ラウルは、ゆっくりと顔を離した。ラウルにとって、距離感や間合いは存在していないのかもしれない。


「……だが、普通の銃弾で、我ら機械人形を壊すことなど出来ない」

「やっぱりね。そうだと思ってた。じゃなきゃ、覚醒する意味がないものね」


 マリアは微笑みかけたが、ラウルだけではなく、アルベルトも視線を落としたままだった。


「で、覚醒するとどうなるの? 凄い力でも得られるの?」

「……対象物の価値を高める力を得られる」

「価値を高める……?」

「機械や道具が持つ力を、最大限まで引き出すことが出来る。魔法で物を強化する、と考えればいい」


 もっと悍ましい力を想像していたマリアは、首を傾げた。

 アルベルトはラウルを見つめたまま、何かをじっと考えているようだった。


「この拳銃でも、コアを撃ち抜けるように出来るのね?」


 マリアは、拳銃をくるくると回し出した。

 そして、拳銃の回転を止めると、ラウルを見上げた。ラウルは何も答えなかった。

 言葉にすることを避けたのだろうか、マリアはそう思うことにした。


「……増幅出来るっていうのは、例えば機械人形のあんたの力を強化することも出来るの?」

「出来るだろうな」

「そうなのね。ああ、心配しないで。あんたを強化しても、レンを壊せないことは知っているから」


 ラウルはコートのポケットに手を突っ込んだ。

 ヴェルローラの残党を殺すことは出来ても、レンだけは殺せないのだろう。マリアは、彼なりの愛情を感じた。


「……ねえ、その魔法をレンに掛けたらどうなるの?」

「機械人形としての力を増幅させるだけだ。壊れている上にウイルスの命令もある。単に暴走の力を強めるだけだろうな」

「レンの力を増幅させるんじゃなくて、あくまでティニア化してる部分を増幅させるってことなのね」

「……暴走を助長する事になるだろう」

「なんだ、そうなのねえ」


 自分は拳銃などでは死なない、そう言っているように聞こえた。

 ラウルは、セシュールの里に到着してすぐに、コアは額にあると言っていた。拳銃で壊せないのだとしたら、あれはただの方便だったのかもしれない。

 本当に、抜け目のない男だ。マリアは改めてラウルを見直した。


「……じゃあ、覚醒するにはどうすればいいの?」

「ッ……! 本当に……、今ここで、あいつを撃つのか……?」


 言葉を遮ったのは、アルベルトだった。アルベルトは、まだ躊躇しているのだろう。


「……ここに来たのは、彼女を撃つ覚悟を決めることだった。でも、レンに会って分かったの。こんな身になっても、彼女はずっと苦しみ続けていたんだって。……さっきも言ったでしょう。早く壊してあげなきゃ。楽にしてあげたいのよ」


 マリアはスカートを捲ると、拳銃を足へ戻した。


「まずは無事に覚醒しないとね」

「……もう分かっているだろうが、お前は黒龍の母になるべくして作られた存在だ」


 やはりそうか。マリアは心の中がカミソリで切り刻まれるような感覚に陥った。

 心が痛い。血が滲み、溢れ出てきそうだ。


「……黒龍とは、レスティン・フェレスにおける月の幻影そのもの。ヴェルローラは、そう言っていた」

「月、そのもの……」


 マリアは窓の向こうを見つめた。カーテンの掛かった窓から、空は確認できない。


「お前が黒龍という存在を認め、求めることで、母として覚醒する。黒龍の存在そのものを明かさなかったのは、レンの指示があったからだ」

「そうなのね。知らなければ、関わることもないと思ったのかな……」


 ティニアとして過ごしていた彼女のことは、今でもはっきりと思い出せる。


「私が覚醒してレンを撃ったら、アパートにいるリェイラとメイを保護して欲しいの」

「分かった」

「リェイラにも伝えてあげて。ヴェルローラはもう壊滅したんだって。もう利用なんてされないんだって」

「分かった」


 マリアは振り返り、眠るレンを見つめた。

 ティニアとして存在しているレン。

 本当の姿は、アルビノの君。

 いつかまた、会えるだろうか——。


 マリアは笑みを浮かべた。


「私がレンを壊す。殺すわ。それでいいわね」

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