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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode40「響き合う、クラヴィーアの旋律」
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㊵-4 貴女の眠る森へ

 サーチを始めたマリアを、ラウルは見つめていた。見守っているというよりも、見張りに近い。


「結界も、あいつの魔法か?」


 アルベルトはラウルに声を掛けた。ラウルはマリアから視線を外すことなく、軽く頷いた。


「はい。その結界内——屋敷の中で、レンは眠っています。……アルベルト様」

「なんだ、ラウル」

「……懐中時計をお持ちですか」

「ああ。二つとも、俺が持っている」


 アルベルトは、ズボンのポケットを軽く叩いた。


「あんたの懐中時計を回収したのは、……俺ですから」

「じゃあ、俺の遺体は……」

「遺言通り、誰も遺体を利用できないように、処分しました」

「そうか。悪かった」


 ラウルは首を横に振った。


「……それからずっと、懐中時計は俺が持っていました。ですが、俺は敵の罠にかかり、狂わされた。その時、当時のバレンシュテット伯だったエジコ様に、懐中時計を託したのです。レンが地球へ来るとは思いもしませんでしたが、懐中時計がなければ、レンと再会することも無かったと」


 アルベルトは、ポケットから懐中時計を取り出した。

 傷跡が一つある、前世のアルブレヒトが持っていた懐中時計だ。

 ラウルは懐かしそうに懐中時計を見つめた。


「壊れなくて良かったです。あんた、自決のために思いっきり魔法弾を撃ったから……」

「そうだな。……よく壊れなかったよ」

「もう自決は辞めて下さいよ。レンだけじゃありません。あんたも死に過ぎだ」

「……悪かった」


 アルベルトはもう一つの懐中時計をポケットから取り出した。二つの懐中時計には、同じ模様が描かれていた。


 ——グリフォン。

 意思を伝達するもの。

 想いを届けるもの。

 彼の雄姿を讃え、懐中時計に描いた。


 アルベルトが懐中時計を握りしめた時、マリアが顔を上げた。


「見えたわ。ハルツって、とっても広いのね……」

「ブロッケン山が有名だな」


 アルベルトの言葉に、ラウルも頷いた。


「ゼルケ川の近くなら飛べそうよ」

「成るべくバレンシュテットに近い方へ降りろ。歩いていくことになるからな」

「分かったわ。それじゃあ、早速行きましょう。フリージアたちには、ティナたちに説明してもらうとして——」


 マリアが腰に手を当てた時だった。


「待って下さい」


 後ろで控えていたティナは、不安そうにマリアを覗き込んでいた。


 ティナは、マリアの腕を優しく握りしめた。


「私も行きます。……危険です。それに——」

「姉さんはここに居てくれ」

「何故ですか、ラウル……」

「足に怪我をしただろ。……足手まといだ」

「足なら、アドニスさんに治して頂きました。何の問題もありません」


 ラウルは首を横に振った。

 ティナはマリアの腕から手を離すと、スカートをたくし上げた。ティナの足には、拳銃が括りつけてあった。


「残党がいるかもしれません。私はまだ戦えます」


 ティナにとっては、守るべき相手であるマリアと、弟であるラウルと、主人であったアルベルトがいる。共に現地へ赴き、守ろうとするのは自然なことだ。

 ティナは足から拳銃を抜いた。マリアは、拳銃ごとティナの手を優しく包み込んだ。


「……ありがとう、ティナ。心配してくれてるのね」

「…………」

「ティナは、私の気持ちをよく理解してくれているわ。私が行動しそうなことを予測して、私を導いてくれる。とても感謝しているのよ」


 マリアはクスリと笑った。


「でもね、たまには私にも質問してよ。どう思ってるの? とか、何がしたいの? って……」

「……どうしても、三人で行きたいのですか?」

「うん」


 拳銃を握るティナの指に、一瞬だけ力が込められたようだった。

 ティナは目を閉じると、観念したように笑みを浮かべた。


「……分かりました」

「大丈夫よ。ラウルも、アルベルトもついているんだから」

「……気を付けて下さいね。ヴェルローラの残党が、どこに潜むのか、分からないのですから」

「うん。でも、ラウルも素直に言ったらどうなの? 危険だから、ティナを連れて行きたくないんでしょう?」

「黙れ、ラーレ」

「……有難う御座います。ラウル……」

「フン」


 マリアが頷くと、ティナはレオンに抱きかかえられる形で、後方へと後退りした。

 腕を組んだままのアドニスは、何かを考えているようだった。


 マリアは目を閉じた。


「サーチ開始。……ゲートを確認」


 ゲートと唱えた瞬間、マリアはアルベルトの言っていたゲートのことを思い浮かべた。

 まさかとは思うが、自分の使っているゲートとは何だろうか。

 ラウルも話していないことが、多くありそうだった。


 マリアは雑念を払うと、集中した。


「……ゲート、開放を指示。直ちに我の命に従え。我、汝の地に降り立つ。許可を受諾せよ——」


 マリアだけではなく、アルベルトとラウルの身体が朱色に光り出した。

 ティナは息を飲むと、祈るように手を握りしめた。そんなティナの肩を、レオンは優しく抱き寄せた。


『実体を基に、汝の地に降りたつ……。我が名はマリア』


 次の瞬間、マリア達三人は、薄暗い亜空間へと入り込んだ。


「実体転送!」


 マリアは目を開けた。そこが亜空間でないことは分かっていた。

 地に足がついているからだ。


 鬱蒼とした森。川のせせらぎ。

 まるで死地を思わせる空気。


 紛れもなく、ドイツのバレンシュテット南方、ゼルケ川近くの森に、三人は降り立っていた。

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